ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年2号
特集
在庫は減ったか (乳業)輸入自由化で横並び崩れるか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2002 18 乳業業界は政府の価格安定政策下にある。
牛乳、 加工乳、乳飲料など飲用牛乳の原料価格は政府の 指導の下、乳業メーカーと酪農団体の交渉で決定 する。
バターなど乳製品に使用される加工用原料 乳では、酪農家を保護するための補給金交付制度 が設けられている。
その結果、業績面での企業差 が出にくい業界となっている。
実際、明治乳業と森永乳業の棚卸資産回転期間 と棚卸資産額のグラフは同じような動きを示して いる。
両社はともに牛乳など市乳部門の事業構成 比率が四割を占めるなど業態も似ている。
一方、業界最大手の雪印乳業も九五年三月期ま では二社と同じような動きだった。
ところが、棚 卸資産回転期間、棚卸資産額ともにこの年を境に 上昇し続けた。
「市乳から乳製品重視へと方向転 換した結果、乳製品の在庫が膨らんだ」(大手格付 機関の食品担当アナリスト)ことが主な要因だと いう。
例えば牛乳は原料価格が固定されているため、 一本当たりの利益は各社ほぼ同じ。
これに対して、 乳製品はブランド力のある商品として育成できれ ば、利幅もそれなりに期待できる。
そう判断して、 経営の舵を大きく切ったのが雪印だった。
九〇年 代後半に巻き起こったワインブームで、乳製品の 中でもとりわけチーズの需要が膨らむと予想して いた。
だが蓋を開けてみると、海外からの輸入品に押 される格好で、国内産チーズの販売は思うように 伸びなかった。
小売りからの値下げ要請による同 業他社との価格競争にも晒され、利幅は薄くなっ た。
結局、乳製品の在庫を大量に抱えたことが業 績にも影響し、それまで約三%台で推移してきた 雪印の経常利益率は九六年三月期、二%に落ち込 んだ。
「明治、森永の二社は小売店に商品を納めるまで 自社の在庫として計上している。
これに対して、雪 印の製品は製造後すぐに子会社卸の雪印アクセス に所有権が移る。
二社と雪印の在庫の持ち方の違 いを勘案すると、雪印にはグラフには表れない在 庫が当時、結構あったのではないか」と大手格付 機関の食品担当アナリストは分析する。
明治、森永の二社が緩やかに棚卸資産回転期間 を縮めていったのとは対照的に、雪印の回転期間 は九九年三月期まで伸び続けた。
二〇〇〇年三月 期には改善の兆しが見られたものの、二〇〇〇年 夏に集団食中毒事件を起こして、翌二〇〇一年三月期の業績は赤字に転落した。
経営危機は現在も 続いている。
米国、豪州をはじめとする諸外国は乳製品の完 全輸入自由化を求めており、いずれはこれが認め られることが予想される。
加えて、少子高齢化で 乳飲料および乳製品の国内需要は縮小する傾向に ある。
乳業業界を取り巻く環境は今後一段と厳し くなるという見方が一般的だ。
「現在は輸入品の数量制限によって業界が守られ ている。
しかし、自由化されれば輸入品とのコス ト競争が本格化する。
その際、国内の乳業メーカ ーが現在の在庫水準を維持できるかどうかは疑問」 (大手格付機関の食品担当アナリスト)という指摘 も出ている。
1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 乳業3社(棚卸資産回転期間) 単位:カ月 乳業3社(棚卸資産額) 単位:百万円 雪印乳業 明治乳業 森永乳業 雪印乳業 明治乳業 森永乳業 91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 (乳 業)輸入自由化で横並び崩れるか 19 FEBRUARY 2002 特集 九〇年代の一〇年間を通じてソニーは在庫回転 期間をほぼ一貫して短縮し続けてきた。
その結果、 九一年時点で一・五二カ月あった在庫が二〇〇〇 年には〇・七三カ月分と半減している。
しかし、従 来から〇・五〜〇・六カ月程度で回してきた松下 電器産業と比べると在庫水準にはまだ差がある。
両社の商品構成や流通チャネルの違いを考慮に入 れる必要はあるものの、有価証券報告書の数字を 見る限り、ソニーの在庫削減はそれまで持ちすぎ ていた在庫を業界他社のレベルまで絞ったという 段階に過ぎないことになる。
実際、家電業界でSCMの導入に本格的に動い たのは、ソニーよりもむしろ松下のほうが先だっ った。
松下は九一年に「MTM(松下マーケッ ト・オリエンテッド・トータル・マネジメント・ システム)」と銘打ってビジネスモデルの抜本的な 改革に動いている。
市場動向に柔軟に対応するマ ーケットイン型のビジネスモデルへの転換を狙っ たもので、実質的には創業者・松下幸之助の提唱 した「水道哲学」に象徴される大量生産・大量販 売方式の見直しだった。
MTMでは生産リードタイムの短縮による在庫 削減と平行して流通チャネルの見直しにも手を付 けた。
メーカー〜販社間の在庫所有権の移動を、 販社に納入する時点ではなく、販社から出荷する 時点で計上する形に切り替えることで押し込み販 売をなくす。
同時に市場動向をダイレクトに生産 計画に反映させるという改革が実施された。
今日 のSCMの手法だといっていい。
しかし、MTM は結局、目立った成果を上げられないまま収束し てしまった。
現在、松下は「破壊と創造」を訴える中村邦夫 社長の下、MTMと同じ狙いのビジネスモデルの 刷新に改めて挑んでいる。
二〇〇一年度から始ま った新三カ年計画「創生 21 計画」では二〇〇三年 度をメドとして、在庫を二〇〇〇年の水準から半 減させる目標を掲げている。
そのために総額一四 〇〇億円にも上るIT投資も進めている。
とくに「在庫面では工場の資材管理がボトルネ ックとなっている。
しかし、自分で自分の首を絞 めるような改革を、工場に任せても効果は期待で きない。
しがらみのない中立的な組織でないと改 革は断行できない。
そのためのプロジェクトに当 社も遅ればせながら着手したところだ」と、同社 のSCM担当は説明する。
同様にソニーも現在、大幅な在庫削減にトップ ダウンで取り組んでいる。
SCMの専門会社とし てソニーEMCSを設置。
「従来、各カンパニーと 工場の生産管理部門による製販会議で調整してい た需給計画機能をEMCSに集約した。
現在、納 品リードタイムの短縮、在庫の削減を進めている」 (同社)ところだという。
生産部門からロジスティクス部門に需給機能を 移している日雑業界やビール業界とは異なり、家 電業界ではこれまで発言力の強い生産部門が需給 機能を手放そうとしない傾向が強かった。
しかし 今日、日本の家電メーカーはもはや待ったなしの 改革を迫られている。
聖域だった雇用にも既にメ スが入った。
家電業界のSCMはこれから本番を 迎える。
91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 1.80 1.60 1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 家電3社(棚卸資産回転期間) 単位:カ月 家電3社(棚卸資産額) 単位:百万円 松下電器産業 ソニー シャープ 松下電器産業 ソニー シャープ (家 電)工場から需給機能を剥奪 FEBRUARY 2002 20 日本の自動車メーカーにとって九〇年代は試練 の一〇年間だった。
戦後、ほぼ一貫して伸び続け てきた四輪乗用車の国内生産台数が、九〇年の九 九五万台をピークに反転。
その後は五年間にわた って前年割れを続け、九五年には七六一万台まで 落ち込んだ。
九〇年代後半は多少上向いたかに見 えたが、二〇〇〇年になっても八三六万台とピー ク時の台数を大幅に割り込んだままだ。
それでも世界に冠たる在庫管理術を誇るトヨタ は九〇年代を通じて、他社に比べて低い在庫水準 を維持した。
九二年に稼働した九州工場で、従来 の中部地区でのカンバン方式とは異質のオペレー ションを開始しても、在庫が増えなかったのはト ヨタの底力といえるだろう。
ただし九六年、九七 年に二年連続してシェア四〇%を割り込むと、九 八年からはシェア回復を目指して猛烈な新車攻勢 をかけた。
その結果、九〇年代後半のトヨタの在 庫水準は増加している。
日産とホンダは、九〇年代前半の販売台数の落 ち込みが在庫増に直結してしまった。
その後、両 社とも順調に在庫を減らしたかに見えるが、二社 の経営実態には大きな差がある。
ホンダは「オデ ッセイ」の好調な販売などによって業績が上向い たことで在庫を減らした。
これに対して日産は、九 三年から三期連続の営業赤字を記録。
業績の悪化 が続くなかでの在庫削減だった。
業界内では「業 績が悪くなると直営の販売会社に在庫を押しつけ る日産の悪い癖が出た」とも囁かれた。
自動車業界に詳しい三菱総合研究所の土屋勉男 監査役は、「九〇年代は企業間格差の時代だった。
勝ち組と業績悪化に悩む企業に二極分化した」と 指摘する。
実際、旧い経営体質を引きずった日産 に対し、ホンダは大胆な変身を図った。
従来のホ ンダは、新車を出す際には車台などを全て新たに 開発していた。
ところが九〇年代半ばからは、ほ とんど既存の車台しか使わずに新車を出すように なった。
ちなみに九八年度の一車台当たりの生産 台数をメーカー別にみると、ホンダの九三・一万 台は、トヨタの九二・三万台を凌いで日本企業の トップ。
日産は五四・四万台、三菱の三〇・三万 台だった。
さらにホンダは、九八年の中期経営計画でサプ ライチェーン・マネジメントの導入を全社的に打 ち出した。
その柱の一つとして「柔軟な生産体制 の構築」を掲げ、すでに現在では全世界の主要な 生産ラインの更新を済ませた。
また最近では調達先の部品メーカーとの情報共有にも力を注いでお り、体質強化を取引先ベンダーにも波及させよう としている。
トヨタや日産のように強固な企業系 列を持たないホンダは、部品メーカーとの取り引 きの自由度が比較的高い。
結果としてこのことが 海外生産をする際に日本国内で培った生産手法を 持ち込みやすいという強みにもなっている。
日産も九九年にルノーと資本提携して「リバイ バルプラン」に踏み切ったことで、ようやく旧弊 にメスを入れた。
その後は調達業務の見直しなど を強力に進めており、収益力の改善を急いでいる。
今後はルノーとの車台の共通化などが計画されて いる。
ホンダのようにヒット車を出せるかどうか は未知数だが、ゴーン改革は確実に進んでいる。
91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 1.00 0.90 0.80 0.70 0.60 0.50 0.40 0.30 0.20 0.10 0 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 自動車3社(棚卸資産回転期間) 単位:カ月 自動車3社(棚卸資産額) 単位:百万円 トヨタ自動車 日産自動車 本田技研工業 トヨタ自動車 日産自動車 本田技研工業 (自動車)系列取引からSCMへ ※トヨタの95年3月期は9カ月決算 21 FEBRUARY 2002 「小売業の場合、基本的に決算書にある棚卸資 産には店舗とバックヤードにある在庫しか含まれ ていない。
物流センターの商品はベンダーの委託 在庫になっているケースが多く、棚卸資産に入っ ているかどうかは当事者にしか分からない」。
流通 分野に詳しいカート・サーモン・アソシエイツの 大橋進ディレクターはそう指摘する。
確かに小売業者の有価証券報告書に記載されて いる棚卸資産に含まれる情報には限りがある。
そ れでも棚卸資産の推移と業績をつぶさに検証して いくことで、各社の実態をそれなりに伺うことは できる。
九〇年代の大手量販チェーンの在庫は全般的に 増加傾向にあった。
なかでもジャスコ(現イオン) の在庫増が目立っている。
売上高が伸びているた め在庫の絶対額の増加は良しとしても、九七年か ら九八年にかけて回転率まで悪化している点は気 にかかる。
新たな物流センターの稼働と同時にプ ライベートブランドの商品を中心とした自社在庫 が積み上がった。
この状況に危機感を抱いたジャスコは、従来の 非効率な物流システムを見直す狙いもあって九七 年から大がかりな物流改革プロジェクトに着手し ている。
現在も二〇〇四年までの三カ年計画で全 国の物流インフラの再構築を進めているところだ (本誌二〇〇一年七月号参照)。
ジャスコ以上に深刻な状況に陥っているのがヨ ーカ堂だ。
厳密な在庫管理に定評のある同社は、 独自の指定問屋制度によって九〇年代を通じて流 通大手四社のなかでは在庫水準を最も低く抑えて きた。
しかし九四年以降、同社の在庫水準はじわ じわと上がっている。
日本のGMSとしてはヨー カ堂の物流管理レベルが相対的に優れていること に疑う余地はない。
にもかかわらず在庫が増えて いるのは、販売不振による影響が大きいと思われ る。
現在、経営再建の正念場を迎えているダイエー も、九八年までは在庫水準を一方的に悪化させ続 けた。
「ハイパーマート」など新業態への進出の失 敗が、ダイエー本体の業績不振に追いうちをかけ た格好だ。
不採算店舗の閉鎖など、リストラを加 速させると共に、九九年三月からは物流子会社の ダイエー・ロジスティクス・システムズがトヨタ 自動車のコンサルティングを仰ぐなどして物流改 善を進めている。
九〇年代末には在庫を急減させ ることにも成功しているが、依然として物流面で 抱える課題が大きいことは明らかだ。
本稿では九〇年代の大手小売業の在庫状況を一 覧するため、昨年経営破綻に陥ったマイカルのデ ータもあえて掲載した。
上図ではマイカルの棚卸 資産は九四年を境に急速に低下している。
しかし これは経営実態を反映したものとはいえない。
当時、分社化を進めていたマイカルは、グルー プ会社への商品供給を本体の売り上げに計上する ように会計方法を変更している。
そのために本業 の売上高が横這いであるにもかかわらず、みかけ の収入だけが急伸した。
計算上、棚卸資産の回転 期間も急速に改善した形になる。
同時に専門店の 別会社化などを進めたことによって棚卸資産の絶 対額も減っている。
特集 91/2 92/2 93/2 94/2 95/2 96/2 97/2 98/2 99/2 00/2 91/2 92/2 93/2 94/2 95/2 96/2 97/2 98/2 99/2 00/2 1.00 0.90 0.80 0.70 0.60 0.50 0.40 0.30 0.20 0.10 0 160,000 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 小売り大手4社(棚卸資産回転期間) 単位:カ月 小売り大手4社(棚卸資産額) 単位:百万円 ダイエー イトーヨーカ堂 ジャスコ マイカル ダイエー イトーヨーカ堂 ジャスコ マイカル (小売り)勝ち組さえ岐路に立つ

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