ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年2号
新常識
24時間スーパーの抱える問題

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2002 76 不況に弱い大型店 スーパーの二四時間営業が広がっている。
「大規模小売店舗における小売業の事業活 動の調整に関する法律」(大店法)が二〇〇 〇年六月に撤廃されたことから、原則とし て大規模小売業の営業時間に関する制限が なくなったことが大きく影響している。
もっとも、大店法はいきなり撤廃になった わけではない。
撤廃以前から個別店舗ごと の深夜営業に対する審査は行われていたし、 二四時間営業を行っている店舗も存在した。
しかし、大店法の撤廃によって長時間営業 が容易になったことは事実である。
その結果、 売り上げを伸ばしているという店舗も少なく ない。
コンビニエンス・ストアがずいぶん昔から 二四時間営業をしているのだから、深夜の 食料品購入の需要があることは明白である。
これに対して、二四時間営業を行うスーパ ーでは、コンビニエンス・ストアと差異化を 図るために、夜でも出来たての惣菜を販売 したり、生鮮品を積極的に品出しするとい った取り組みが行われている。
ただし、ここでいうスーパーとは、いわゆ る食品スーパーが中心である。
総合スーパー は積極的な対応を示していない。
深夜に家 電や家具を購入する顧客が少ないからとい う理由だけではないだろう。
そうであるなら、 なぜドン・キホーテは深夜営業、長時間営 業をしているのであろうか。
もっとも、深夜営業では一つ注意をしな ければならないことがある。
夜間の郊外大型 店の駐車場は犯罪の温床になりやすい。
事 実、米国では強盗やレイプが頻繁に起きて いる。
九四年には日本人留学生がロサンゼ ルスのスーパーの駐車場において、強盗に遭い射殺されるという事件まで起きている。
少し前の日本であれば、そんなことを心配 するのはナンセンスだったのかも知れないが、 ここ最近の凶悪事件の多発をみていると、現 実味を帯びてくる。
とはいえ、まさかわが国 の大型スーパーの経営者が犯罪を恐れて夜 間営業、二四時間営業の実施に消極的にな っているとも思えない。
その理由はむしろ、 既存の総合スーパーの店舗構造に起因して いると考えられる。
ここ一〇年ほどの間に出店した総合スー パーの店舗は、駐車場と店舗が一体となっ ていて、食料品売り場も一階に配置してい る場合が多い。
これに対して、大店法が登 場した頃の店舗は駐車場の駐車許容台数不 足から、飛び地の駐車場を多く持ち、誘導 員がいないと駐車できにくい場合が多い。
そ 松原寿一 中央学院大学 講師 24 時間スーパーの抱える問題 ――大店法の爪痕―― 食品スーパーの深夜営業や二四時間営業が広がっている。
し かし、総合スーパーとなると話は別。
深夜の営業には消極的だ。
日本の総合スーパーには少人数で店舗を運営するための仕組み がない。
だから、営業したくても、できないのだ。
第11回 流通戦略の新常識 77 FEBRUARY 2002 の上、食料品売り場も地階に配している。
こうした店舗では、いくら深夜の食料品 購入の需要が見込まれたとしても、店舗の 構造や駐車場立地等の問題から、食料品売 り場だけで営業することは難しい。
だからと いって全館営業すれば当然、従業員の人件 費がかさんでしまう。
要するに、運営コスト が高くなる店舗構造なのである。
そのために日本の総合スーパーは、百貨店 ほどではないにしろ、損益分岐点が高くなっ ている。
さらにいうならば、不況に弱い店舗 構造となっている。
客数が少ないならば、そ れに対応した人数で店舗が運営できるよう になっていないのである。
実際、日本の大手スーパーの店舗運営は 購買客数、購買客単価に極めて大きく左右 される。
かつて、バブル景気が崩壊した頃、 ある大手スーパーが売上減少に対応するた めに、従業員のリストラに手をつけた。
とこ ろがその結果、売り場は荒れてしまい、顧客 離れが一段と進んでしまうという事態を招い たケースがよく見られた。
これまで、わが国の大手スーパーの大半 は、品揃え拡大による売上拡大を行うため に店舗の大規模化を目指してきた。
もちろ ん、人件費を引き下げるため、売り場従業 員のパート比率を高めるという取り組みは 行ってきた。
しかし、これは方法論的には 単なる一人当たり人件費の引き下げである に過ぎない。
店舗の仕組みによる引き下げ ではなかった。
米国でも七〇年代、八〇年代とスーパー マーケットの店舗規模の拡大は進んでいった。
しかし、これは店舗当たりの売上拡大を主 な目標としていたのではない。
売り場面積当 たりの人件費を引き下げることにより、生産 性を高めようとしたのである。
つまり、少人 数でも運営できる大規模店舗のフォーマッ トを探っていったのである。
要するに、米国 の大手スーパーが単位売り場面積当たりの 生産性を高めようとしたのに対し、わが国に おいては単位人件費(賃金)当たりの生産 性を高めようとしてきたのである。
もちろん米国でも購買客数、購買客単価 が店舗の業績に大きく影響することは間違 いない。
しかし、米国にはその影響を極力少 なくする店舗の仕組みがある。
夜間に品出 し、大量陳列、あるいは清掃を行う。
店内 に顧客がいない場合には、専従のレジ担当 を必ずしも置く必要はない、といった運営の 仕組みである。
だからこそ、相対的に大規模 な店舗においても二四時間営業が行えるわ けである。
岐路に立つ総合スーパー 日本の総合スーパーの場合、郊外店のよ うな周辺住民への配慮が少なくてすむ店舗 でも、深夜営業、長時間営業を実施してい る店舗は少ない。
深夜営業対応の従業員確 保の問題もあるのであろうが、これだけ不況 が長引き、失業率も増加していることから、 以前に比べれば要員確保は容易になってい るはずだ。
実際、米国においても他産業から の労働者を大量に受け入れて、長時間営業、 二四時間営業を行ってきている。
現在の売り上げ不振は、我が国の総合ス ーパーが文字通り総合的な品揃えを目指し、 その品揃えだけで長く勝負してきた結果とも いえる。
日本の総合スーパーに新たな営業の 方法が必要であることは間違いない。
コンビ ニエンス・ストアが登場して、小売の営業方 針が変化したと同時に、物流システム、情 報システムが変化し、商慣習までもが変わっ た。
その意味においても、大型店の販売方 法、店舗運営方法を大きく変化させるべき 時期を迎えている。
百貨店の場合、店舗運営の損益分岐点が 高いものの高価格帯商品が多いため、顧客 層が自然と絞られるようになれば、売買差益が安定するという本来的な業態特性を有し ている。
ところが、総合スーパーの場合には 廉価販売を行う前提が大量仕入であるだけ に、出店を継続し大量販売を維持しなけれ ばならない構造となっている。
ただし、百貨店にしても、「デパ地下」ブ ームといわれているように地下惣菜売り場の 売上が好調といわれているものの、出店して いる高級惣菜店の品揃えによるところが大 きい。
これもわが国に、安定した価格訴求が 行える高級食品スーパーが存在しないことか ら、価格競争が起きていないためである。
つまり、そもそも、購買頻度が異なる商品 を高層構造で販売するという業態コンセプ ト自体が高コストの原因なのである。
それだ けに、店舗運営の仕組みを根本的に変化さ せる必要性が高まっていると思えてならない。

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