ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年1号
新常識
残る外資・消える外資

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2002 68 二〇世紀末から二一世紀の初めにかけて、 数多くの流通外資が日本に上陸した。
あた かも、江戸時代の黒船騒ぎのようであった。
しかし、その騒動も静まらぬうちに、早くも 日本から撤退する外資が相次いでいる。
昨年だけでも、オフィスマックス(米国、 文具店チェーン)、ブーツ(英国、ドラッグ ストアチェーン)、セフォラ(仏国、化粧品 チェーン)などの有名企業が撤退を行ったか、 あるいは撤退を決めている。
一体、あの騒ぎ は何だったのかと思わずにはいられない。
その一方で、コストコ(米国、ホールセー ルクラブ)、カルフール(仏国、ハイパーマ ート)など、日本市場における店舗展開を 加速させようとしている上陸外資もある。
た だし、こうして積極策に出ている外資が、必 ずしも日本の消費者に圧倒的な支持を得て いるというわけではない。
この違いは、どこ から来ているのだろうか。
撤退した企業の要因をみると、ブーツの場 合、主力商品となるはずだった英国製の化 粧品・医薬品・健康食品などのプライベー ト・ブランド製品が、法規制のため思うよう に輸入できず、商品の差異化が困難になっ たことが理由と言われている。
セフォラも国 内の商慣行の壁に阻まれ有名ブランド商品 を品揃えできなかった。
つまり、わが国の固 有な環境により当初想定した品揃えができ なかったことが敗因といえるだろう。
しかし、わが国の場合、このようなことは 今に始まった話ではない。
米国系のAVソ フト・チェーンのタワーレコードは、日本市 場に八〇年代から参入しているが、初めの 一〇年程度は商慣行に阻まれ、想定した品 揃えができなかったといわれている。
国内業者は強気だが… いまだに国内資本の大型店経営者の一部 は、「流通外資の業態や品揃えではわが国の 消費者のニーズに対応することは難しい」と 強気の姿勢を崩していない。
確かに、品揃 えが小売業の生命線であることは理解でき る。
しかし、根本的な疑問は残る。
流通外 資に課題があるのは事実だとしても、それで は国内資本の小売業が今の消費者のニーズ に充分対応しているといえるのか、という疑問である。
国内の大手流通業者の多くは現在、複数 の業態を展開し、単店舗の実験店舗の出店 を繰り返すといった模索を続けている。
こう した展開を見る限り、国内資本の小売業と いえども、品揃え面において必ずしも外資系 に対して優位に立っているわけではないと推 察されるのである。
実際、日本の百貨店や総合スーパーなど の業態に代表される総合的な品揃えには首 を傾げざるを得ない。
商品のバラエティには 富んでいても、売り場単位で見ると、大型 専門店に比べて品揃えの幅や深みに欠ける。
そう指摘されるようになっているのに工夫し ている小売業は少ない。
百貨店や総合スーパーの当事者に言わせ ると、総合的な品揃えは、ワンストップ・シ 松原寿一 中央学院大学 講師 残る外資・消える外資 流通外資の日本上陸が本格化する一方で、早々と日本から撤 退する外資も目立ち始めている。
一体、何が両者の判断を分け ているのか。
プライベート・ブランド商品の展開から、それを 読みとることができる。
第10回 流通戦略の新常識 69 JANUARY 2002 ョッピングの利便性提供が目的だという。
し かし、そこには単に商品をたくさん並べれば、 購買機会が増え、一人当たりの購買総額も 引き上げられるという単純な発想しかない。
一方、長引く不況下にあって、ダイソー やユニクロのように、購買年齢層が広く、相 対的に低価格・高品質な商品を扱う小売業 は好調と伝えられて久しい。
しかし、そのユ ニクロにしても昨年後半はかげりが見え始め た。
いろいろな解釈はあるが、商品に飽きが 感じられるようになったのかもしれない。
ダ イソーもそのことを意識してか、定期的に新 製品を店内に導入している。
つまり、永遠 不滅な品揃えなどはないのである。
もちろん、日本の消費者の商品に対する 嗜好性は大事な要因だ。
流通外資に従事す る人は、こぞって日本人はブランド志向が強 いという。
しかも高級ブランド品についてだ けではなく、日常生活に用いる商品全般に 国内有名メーカーの商品でなければならない と考える人の割合が多い。
品質が同等であ って安くても、海外製品を敬遠する日本人 が多いのだという。
要するに、知名度に弱いのである。
このこ とは、実はわが国の小売業の品揃えに重要 な影響を与えている。
つまり、日本の小売業 は知名度のある商品を取り揃えることが重 要であると同時に、差異化も図らなければな らないという矛盾した課題を抱えざるを得な いのである。
本連載の二〇〇一年六月号でも触れた通 り、日本にはプライベート・ブランドの商品 イメージのポジショニングを重視しない小売 業が多い。
つまり大型小売業といえども多 くはメーカー・ブランド(ナショナル・ブラ ンド)に全てを依存しながら品揃えを行って いるのである。
結果として、差別化ができな い総合的な売り場が溢れることになる。
一部 の実験店舗に高級業態があるが、こちらは 高級=高価格帯商品という単純な図式に陥 ってしまっている。
品揃えは高価格帯商品でも店舗オペレー ションによって価格訴求を行う――そんな店 舗が日本にはなかなかあらわれない。
あった としても、特売を行うだけである。
定番価格 を店舗のオペレーションによって引き下げる。
つまり仕組みで安く売る店は、ほとんどない といえる状況である。
なぜ、そうなのかは明らかである。
わが国 の小売業の多くは、仕入れ価格交渉に依存 する低価格販売を行っているためであり、仕 入先の(積極的か消極的かは別にして)の 同意のない価格訴求は事実上できないこと が要因である。
アメリカの場合は、高級食材を多く取り 扱うスーパーマーケットでも価格訴求を行う 店舗があるし、高級百貨店においても戦略 的な価格訴求を行っている。
高級品を取り 扱い、高所得者をメーンのターゲットとする 高級業態とでも呼ぶべき小売業は、プライ ベート・ブランドのイメージを高め、高級品 のナショナル・ブランドと遜色の無い商品に 育てている。
さらに、こうしたプライベート・ブランド 商品を計画的に特売することにより、高級 イメージを損なわないで、なおかつ価格訴求 も行っている。
百貨店のアウトレットもこの 戦略の一環とみなすことができる。
プライベ ート・ブランドを業態の構成要素として位 置付けると同時に、価格戦略を主体的に行 う手段にもなっているのだ。
成否を分けるPB商品 そう考えると、このところの流通外資の素 早い撤退は、自社の業態が日本の消費者の ニーズに必ずしも合致しなかったというだけ でなく、日本では重要な戦略手段に制限を 受けることが明らかになったと判断したとも 読み取れるのである。
逆に、撤退せずに積極的な店舗展開を行 おうとしている流通外資の店内をみると少な からずプライベート・ブランドが陳列されて いる。
こうした流通外資がわが国の消費者 に確固たるストア・ロイヤルティを形成させ た場合、プライベート・ブランドに対するロ イヤルティも今よりも強くなることは充分に 予想される。
国内資本の大型店をみると、ダイソーに しても、ユニクロにしても、一時の勢いはう せたものの、やはりその品揃え=プライベー ト・ブランド(この場合は商品ともいえる) に対するロイヤルティが形成されたことが、 彼らがここまで成長した要因になっているの ではないだろうか。
翻って、総合化した大型 店をみると、そのプライベート商品。
魅力は どの程度のものであろうか。

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