ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年1号
物流再入門
物流アウトソーシングへの誤解

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

61 JANUARY 2002 言葉だけが一人歩きする 物流アウトソーシング 「物流アウトソーシングの時代」ということが よく言われる。
物流をアウトソーシングするとい う考え方は、これまでは存在しなかった選択肢で あり、その意味では新しい方向性であることは間 違いない。
しかし、方向性としては正しいが、こ れほど言葉だけが一人歩きしている例もめずらし い。
多くの方々にとって、実感が湧かないという のが率直なところではなかろうか。
今回は、この アウトソーシングをテーマに私見を述べてみたい。
これからの物流を語るとき、その方向性の一つ として必ず指摘されるのがアウトソーシングであ る。
もちろん、私もそう言っている。
ついでに私 は、「企業の物流部というアマチュアが物流を担 う時代から、物流専業者というプロが物流を担 う時代への転換」などという余計なことまで言っ ている。
それはともかく、物流のアウトソーシングを語 るには、まずアウトソーシングの中身をはっきり させる必要がある。
さらにアウトソーシングした 後で、荷主企業と、アウトソーシングを受託する 事業者との役割分担をどうするかも明確にしなけ ればいけない。
この点を曖昧にしたままでアウト ソーシングについて話し合っても、議論は収束し ない。
論者によって異なることを言うだけで、本 来あるべき姿を見失ってしまう恐れがある。
もっとも、これらの答はすでに出ているのであ る。
そう、物流アウトソーシングであるのだから、 外部の専門業者に委託する中味とは「物流」にほ かならない。
それだけの話である。
物流とは何なのか。
これもまた明らかだ。
物流 は在庫を保管し、移動させる活動を指している。
メ ーカーで言えば、製品が生産ラインを出て在庫と して倉庫に入れられる段階から、顧客に納品され るまでの保管と移動にかかわる活動を言う。
つま り、物流と言ったときにみんながイメージすること すべてを外部の専門業者に委託するのが、物流ア ウトソーシングとみてよい。
物流事業者が担うべき 当然の仕事とは 言い方を換えれば、「顧客への納品条件を前提に 物流センターを必要な数だけ配置し、センター内 のレイアウトを考え、作業システムを導入し、配 送システムを構築する。
さらに、必要な在庫を配 置し、適量をタイミングよく補充する」という物 流活動すべてを委託するということである。
そし て、委託された事業者はその活動に責任を持つ。
そ れゆえ、荷主企業の指示で物流を行うのでなく、事 業者みずからの管理のもとにそれを行うわけであ る。
ただ、この場合、顧客への納品条件は、もちろん 荷主の物流部の管理下にある。
それをどう設定す るかは物流部の責任で行われる。
事業者は、その条 件を前提に物流センターの配置を行うわけだが、配 置の適正さや、センター内作業や配送の効率性は すべて事業者の責任となる。
ここで、まず物流のア ウトソーシングを受託する事業者の能力が問われる。
また、物流センターからの出荷動向を踏まえて 「物流アウトソーシングへの誤解」 湯浅和夫 日通総合研究所 常務取締役 第10回 メーカーの物流担当者の過半数は物流を自分の会社のユ ア・コンピタンスではないと考えている。
それだけ物流アウ トソーシングの潜在的ニーズは大きい。
しかし、実際に彼ら がアウトソーシングするかどうかは、それを受託する物流事 業者のビジョンにかかっている。
JANUARY 2002 62 何をいくつ在庫するかを決め、タイミングよく補 充する在庫移動業務を誰が担うか、という点でも 答は明らかである。
当然、物流に責任を負う事業 者がやるべき仕事である。
荷主企業側ではこの在 庫移動に関する情報を事業者から提供を受け、そ れをもとに生産計画を策定すればよい。
これがロ ジスティクスとなる。
物流アウトソーシングにおける荷主企業と委託 を受ける事業者との業務分担は、こういう線引き になる。
さて、以上の説明で物流アウトソーシン グのイメージがある程度固まったと思われるが、い かがであろうか。
コア業務かどうかを 決めるのは荷主自身 アウトソーシングが語られるとき、必ず指摘さ れるのが「コア・コンピタンス経営」である。
これ について詳しい説明は必要ないと思われるが、要 するに、投下できる経営資源が限られる中では、い ろんな業務に中途半端に経営資源を投下すること はせず、自社の核となり、競争力たり得る業務に 集中的に投下するという経営方針である。
これを実践すれば、必然的に経営資源を投下し ない業務というのが出てくる。
しかし、それらの業 務がコア・コンピタンスではないとしても、企業にと って必要な業務である限り、弱体化するのは困る。
そこで、経営資源を投下できない業務は、外部の 専門業者に委託するという方向性が出てくる。
そこで、物流をアウトソーシングするという話が 出てくるということは、物流は企業にとってコア・ コンピタンスではないことが前提になっている。
こ う言うと当然、反論も出るだろうが、反論があっても一向に構わない。
コア・コンピタンスかどうかは 各企業自身が決めればよいことだからである。
昨年の夏、日通総合研究所で「物流はコア・コ ンピタンスかどうか?」という調査を行った。
調 査票では、まずコア・コンピタンスについて説明 し、物流がそれにあたるかどうかを聞いた。
回答 したのは上場メーカーの物流責任者であったが、回 答者二六〇人のうち約六割強の人が「コア・コン ピタンスたりえない」と答えていた。
そして、「そ う回答した人のうち九割が、物流のアウトソーシ ングに興味や関心があると答えていた。
アウトソ ーシングに関心があるというのは回答として論理 的な必然性を持っているが、六割強の人がコア・ コンピタンスではないと言っているのは興味深い。
アウトソーシングについて潜在的なニーズが高いと いう証だからである。
ただし、だからアウトソーシングが急速に進むと いうわけではない。
コア・コンピタンスではないか らといって、これらの企業の物流担当者が自らア ウトソーシングを推進する計画を立てるというこ とにはならない。
アウトソーシングを実施するにあ たっては、それを受託する業者の存在が不可欠で ある。
アウトソーシングしたいというニーズがあっ て、それを受託できる事業者が出てきて、初めて アウトソーシングは顕在化し始める。
つまり、物流のアウトソーシングは、それを受 託するという「市場」が生まれることによって、初 めて現実の選択肢として認知されることになる。
こ こで市場と言っているのは、複数の事業者が出て、 競争が行われる状態を言う。
競争があってこそ、初 63 JANUARY 2002 めてアウトソーシング受託という商品が誕生する のである。
荷主企業が自分で物流を行うか、アウ トソーシングしてしまうかという選択がここで可能 となる。
その意味で、アウトソーシングの行く末は、 それを受託する事業者側の手の中にあるといえる。
ビジョンの提示能力が 3PL業者のポイント これまでアウトソーシングを受託する事業者と いう言い方をしてきたが、この事業者こそが「サ ードパーティー・ロジスティクス(3PL)事業 者」と呼ばれる存在であると言ってよい。
それゆ え、これ以降はアウトソーシング受託事業者を「3 PL業者」と略称で呼ぶことにする。
先に述べたように、物流をアウトソーシングす るかどうかを判断するのは、もちろん荷主企業側 だが、そのきっかけを作るのは3PL業者の提案 である。
3PL業者から提案があって初めて、ア ウトソーシングが荷主企業における現実的な選択 肢となるのである。
それを選択するかどうかは、言うまでもなく提案 を受けた荷主企業側が決めるしかない。
その提案に メリットがあると判断すればアウトソーシングに向 けた準備をすればいいし、メリットがないと思えばア ウトソーシングなどしなければいい。
ビジネスライク に判断すればよいのである。
何がなんでも、アウトソ ーシングしなければならないというものではない。
当然、アウトソーシングするといっても多くの課 題が出てくるはずだ。
自社保有の施設をどうするの か、物流業務に携わっている社員はどうなるのかな ど、課題は少なからずあると思われる。
しかし、そ れは3PL業者と相談して答を出せばよい。
それで 合意に至らなければやめればいいだけのことだ。
アウトソーシングが盛んになるというのは、要す るに、これまでは輸送、保管という単機能しか外 部の専門業者に任せることができなかったのが、そ れらを含む物流すべてを外部に委託できるという 選択肢が増えるということである。
さて、アウトソーシングはまさに3PL業者の成 長にかかっていると言えるのだが、それでは、アウト ソーシングを現実のものにする3PL業者にはどの ような課題が課せられているのであろうか。
これは 3PL業者に問われる能力と言ってもよい。
実はそれもすでに明らかである。
「企業の物流か くあるべし」という明確な考えを持っていることが 絶対条件になる。
自社の物流をすべて任せる荷主 企業としては、委託先が自社の物流をどういう方 向に持って行こうと考えているのかを明確に提示 され、それに納得がいかない限り、アウトソーシン グのための意思決定はできない。
この物流の?ビ ジョン〞を明確に示せる能力こそが3PL業者に とっての生命線である。
物流センターの構築、運営に優れているなどと いうのは当たり前である。
物流コストを明確に算 定できることも当然、技法として身に付けていな ければならない。
ただ、これら技術的な能力は副 次的なものに過ぎないのである。
3PL業者に求 められているのは、物流を効率的に行うための提 案ではなく、物流をやらないための提案である。
こ の提案なくして3PL業者など存在する余地はな いし、物流のアウトソーシングも実現するはずがな い。
私はそう思うのだが、いかがであろうか。
湯浅和夫(ゆあさ・かずお) 1971年早稲田大学大学院修士課程修 了。
同年、日通総合研究所入社。
現在、 同社常務取締役。
著書に『手にとるよう にIT物流がわかる本』(かんき出版)、 『Eビジネス時代のロジスティクス戦略』 (日刊工業新聞社)、『物流マネジメント 革命』(ビジネス社)ほか多数。

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