ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年11号
特集
流通問題の解答 新しい中間流通が市場を生み出す

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2003 10 小さくても元気な地方小売店 青森県三戸郡五戸町。
人口二万人に満たないこの 町の人影もまばらな商店街に二年前、洋品店「セミコ ロン」が開店した。
売り場面積は約一〇坪。
地元客 を対象に子供服から高齢者向けの婦人服までを扱っ ている。
一点モノ中心の品揃えと割安な価格設定が 好評で、売り上げは順調だ。
昨年は八戸市にも二店舗を出店。
今年に入って三 戸郡の田子町にも店舗を開いた。
田子町の人口はわ ずか八〇〇〇人。
それでも「田舎のほうが実は売れ る」と店長の前田千春さんは強気だ。
スタッフは六人 まで増えた。
事業規模が拡大したため、一〇月中にも 個人事業を改め、会社法人として登記する計画だ。
セミコロンは全ての商品を「オンライン激安問屋」 と「スーパーデリバリー(SD)」で調達している。
い ずれもベンチャー企業のラクーンが運営するインター ネット卸だ。
「そもそもウチは激安問屋とSDがなか ったら、この商売を始められなかっただろう」と前田 店長はいう。
これまでセミコロンのような地方の小規模洋品店は シーズンごとに都市部のアパレル卸を訪問し、一定量 をまとめて仕入れるしかなかった。
決済は基本的に現 金。
しかも返品は認めてもらえない。
調達した商品が 売れ残れば販売価格を下げても売り切るしかない。
在 庫リスクと資金繰りに追われるのが常だった。
これに対して、ラクーンが運営する二つのネット卸 は、ホームページに掲載された数多くの商品を一点か ら買い付けることができる。
在庫リスクが最小で済む うえ、支払いサイトが最長九〇日の信販・クレジット を利用できる。
地方の小規模洋品店の経営リスクは 大幅に下がる。
新しい中間流通が市場を生み出す 既にチェーンストアの中間流通モデルは決着した。
今後、 焦点となるのは組織化されていない一般小売店向けの中間流 通だ。
日本市場では小規模小売店が今後もメーンの販売チャ ネルとして存続する。
これまでになかったタイプの中間流通 業者が登場し、そこに新しいマーケットを創造する。
(大矢昌浩) 「当社のシステムを利用している会員の特徴は三つ ある。
一つは地方。
もう一つが中小。
そして三つめが 開業して間もない小売店や若手の後継者が多いことだ。
既存の卸が敬遠している小売店たちだといえる」と、 ラクーンの小方功社長は解説する。
小規模単独店は今日の流通市場では?負け組〞と される業態だ。
統計では八二年以降、日本の小売業 の廃業率は一貫して開業率を上回っている。
従業員 五人以上の規模では開業率のほうが高い。
ところが、 四人以下の小売店の廃業が新規開業を大幅に上回っ ていることから全体の事業者数が減少している。
事業 を継続中の小規模小売店も約七〇%が赤字だ(国民 生活金融公庫調べ)。
「それでも小規模小売店の開業率は年間で四%を超え る。
全国で考えれば莫大な数だ。
しかも新規開業者は 半数以上が黒字。
そのうちオーナーの年齢が四四歳以 下の層では六〇%以上が黒字という調査結果が出て いる。
またネットを利用している小売店は今のところ 全体の一五%程度に過ぎないが、利用していない小売 店より黒字の率が七〜八ポイントも高い」と小方社長。
小規模小売店は業態としては負け組でも、個別の 企業を見れば優良企業が少なくない。
しかし既存の中 間流通は、規模が小さく実績もない新規開業者との 取引には積極的にはなれない。
ましてや彼らを育てる 機能などない。
そこにラクーンは新たなビジネスチャ ンスを見出そうとしている。
同社が九八年に運営を開始したオンライン激安問 屋は、メーカーの抱える過剰在庫の解消を狙ったもの だ。
過剰在庫は捌きたいが、普段の取引先卸に格安 で流せば、その後の商売に響く。
そんな悩みを抱える メーカーの在庫商品を激安問屋がアウトレットとして 全国の小規模店に販売している。
第1部 11 NOVEMBER 2003 ラクーンが予めメーカーから在庫を買い取ることは しない。
会員から注文が入った時点で初めて所有権が メーカーからラクーンに移る。
その後はラクーンが検 品から発送、決済まで処理する。
商品の提供元は非 公開。
激安問屋の会員は実店舗を持った小売店に限 定しているため、卸した商品がバッタ屋に流れてメー カーのブランドを損なうリスクも少ない。
この仕組みで現在までにメーカー約五〇〇社。
小売 店約一万三〇〇〇社の会員を獲得した。
さらに同社 は二〇〇二年二月にスーパーデリバリーを開設。
新商 品や定番品など通常商品の扱いも開始した。
ネットを 介してメーカーと全国の小規模小売店の実質的な直 接取引を可能にするものだ。
ラクーンの売上高は昨年度で約六億円。
今期は一 〇億円を見込んでいるものの、規模的にはまだ小さい。
しかし、その将来性は高く評価されている。
事実、I Tバブルの崩壊後も国内外の有力投資会社から次々 に資本が集まっている。
度重なる増資によって現在、 資本金は六億八〇〇〇万円まで膨らんだ。
それでも体力に劣るベンチャー企業が成熟した既存 の卸からシェアを奪うのは難しい。
ラクーンと同じB to Bの中間流通ビジネスで、金型部品商社のミスミ は成熟市場に通販という新しいモデルを導入すること で、大きな飛躍を遂げた。
その後、同社は金型部品で 成功したB to Bのモデルを、全く畑の違う医療用具 や飲食店向け商材にも適用しようとしている。
しかし現状では金型部品以外のビジネスは伸び悩ん でいる。
同社が金型部品で成功したのは、単に通販と いうモデルを導入しただけではなく、従来は顧客が社 内で加工していた部品や工具を標準化することで、外 部から調達できるようにしたことが大きい。
つまり新 しいアウトソーシングの市場を作ったのだ。
物流市場を見ても、宅配便はそれまでの郵便小包 の荷物を奪うだけではなく、その十倍にも上る新しい 需要を作り出している。
ラクーンの今後の規模拡大も どれだけ新しい市場を生み出すことができるか、つま り同社の仕組みを活用して起業する五戸町のセミコロ ンのような新しい小売店が、どれだけ全国に登場する かにかかっている。
このように「誰もが明確な条件で提供を受けられる 商品やサービスの供給を通じて、第三者間の取引を活 性化させたり、新しいビジネスを起こす基盤を提供す る役割を私的ビジネスとしておこなっている存在」(慶 応大学・國領二郎教授)をプラットフォーム・ビジネ スと呼ぶ。
そのコンセプトを突破口とすることで、既 存チャネルからシェアを奪うのとは違った新しい中間 流通の道が開ける。
ただし、チェーンストア向けの中間流通モデルは既 に決着している。
工場から出荷した製品を地域販社あ るいは系列卸の倉庫で保管。
そこから最前線の店舗に供給する――メーカー主導で作り上げられた日本市場 特有のサプライチェーンはもはや立ち行かなくなった。
組織化によって力を付けたチェーンストアは、それぞ れ自社の店舗運営に沿った納品方法を調達先に強い ている。
業態別ロジスティクスのモデル イオングループに代表される全国スーパーや大手流 通外資はメーカーとの直接取引を指向している。
各メ ーカーの工場から直接調達した商品を自社専用の一 括物流センターに集約。
そこで店舗別かつ陳列レイア ウト順に仕分けて各店舗に納品する。
卸は完全に中 抜きされる。
食品スーパーをメーンとするローカルチェーンや、 特集 ラクーンの小方功社長 図1 業態別ロジスティクスの概念図 百貨店 全国スーパー 工 場 専用センター 店舗 地域スーパー 工 場 大手卸 店舗 コンビニ 工 場 専用センター 店舗 メーカーの 守備範囲 中間流通業の 守備範囲 小売りの 守備範囲 工 場 販社/卸 納品代行 店 舗 NOVEMBER 2003 12 中堅以下の総合スーパー向け中間流通では大手卸が 主導権を握っている。
食品卸の国分、菱食。
日用雑 貨卸のパルタック、「あらた」などがその代表選手だ。
フルラインの商品ラインナップと全国規模の物流ネッ トワークを備え、チェーンストアのバックヤード機能 を丸ごと代行することを基本戦略に据えている。
自社センターを持ち、リテールサポートも必要とし ない全国チェーン、そして小規模な単独店は大手卸の メーンターゲットから外れる。
実際、大手卸は取引先 の小規模小売店の数を減らす傾向にある。
一方の全 国チェーン向け取引では、帳合いこそ残っているもの の価格交渉が厳しく、卸側の利益はほとんど出ていな い状況だといわれる。
それでも大手卸の業績は、低迷する景気をよそに堅 調に推移している。
メーン販売先の食品スーパーが市 場シェアを拡大していること加え、予想されたほど大 手チェーンと大手メーカーの直接取引が進んでいない ことが大きい。
脅威となるはずの大手流通外資の日本 参入も現状では本格的に多店舗展開するには至って いない。
卸の中抜きが進んでいないのだ。
その間に卸の再編は進んだ。
すでに加工食品と日雑 では大手卸の具体的な顔ぶれも固まった。
勝ち組の卸 を軸とした合従連衡は今後も続くが、全く新たなプレ ーヤーが登場する可能性は低い。
一方、定温食品や 生鮮品は大手総合商社の陣取り合戦の様相を呈して いる。
伊藤忠商事とドール、そして住友商事などが出資す る青果卸のケーアイフレッシュアクセス(KIFA) は九八年の会社設立以来、順調に事業規模を拡大さ せている。
今期は前年比約二〇%増の五三五億円の 売り上げを見込む。
取扱高は単独で一〇〇〇億円弱。
グループ全体では二〇〇〇億円を超える。
青果卸とし ては実質的な国内最大手だ。
長年にわたり生鮮品のメーンのチャネルだった卸売 市場は地方自治体によって地域別に運営されている。
そのため複数の都道府県に店舗を展開するチェーンス トアのニーズには対応できない。
そこにKIFAは切 り込んだ。
卸売市場とは別に青果物専用の全国物流 インフラを構築。
生産地から店頭まで途切れのないコ ールドチェーンを実現した。
同時に商品価格と物流費 を完全に分離し、物流サービスを含めた中間流通加 工機能を詳細な要素レベルにまで落とし込んだ。
KIFAは自らのマージンを含めた全てのコストを チェーンストアに開示している。
青果物を調達するチ ェーンストアは商品価格と、必要な流通加工を豊富な メニューの中から選択し、そこにKIFAのマージン を乗せた額で購入価格を検討する。
同様に生産者に対 しても出荷価格と卸価格、コストを開示する。
自分の 生産した青果物が市場からどのような評価を受けたの か。
生産者が明確に分かる仕組みだ。
KIFAの堀内伸介副社長は「青果物は一般の商 品とは異なり、生産活動が自然環境によって左右され る。
これまでは、そのリスクを全て消費者と生産者が 被っていた。
この体制を改めることが当社の狙いだ。
すなわち消費者には安くて美味しい青果物を提供する。
そして生産者にはもっと儲けてもらう。
そして事業を 成長させてもらう。
そこから逆算して現在のビジネス モデルを作り上げた」と説明する。
一方、既存の中間流通には事実上、全く依存せず、 小売り業態のなかでも最も強烈に垂直統合を進めてい るのがコンビニエンスストアだ。
コンビニのチェーン本 部はFC店に商品を供給する卸のポジションにある。
ただし単なる卸売りだけでなく、店舗の運営を完全に コントロールしていることに加え、生産の統合も進め 13 NOVEMBER 2003 ている。
既に大手コンビニではPB商品の比率が五 〇%を超えている。
つまりコンビニの店舗で売られて いる過半数の商品はコンビニ本部がメーカー機能を兼 ねている。
ロジスティクスも工場から店頭の棚に至る 全ての領域をコンビニ本部が厳密な管理下に置いてい る。
3PLとして現場運営を担う以外、第三者の手 出しする余地は残っていない。
このようにチェーンストアの中間流通では、メーカ ー販社やメーカー系列の地域卸など、これまで長年に わたり中間流通を支えてきたプレーヤーにはポジショ ンが与えられていない。
フルラインかつ全国規模の大 手卸、そして物流現場のオペレーションに長けた3P Lだけがそこで生き残る。
決済機能強化に動く物流会社 ただし、小売市場全体に占めるチェーンストアの販 売額はいまだ四〇%に満たない(図2)。
減少傾向に あるとはいえ六〇%は町の一般小売店が占めている。
今後も日本では一般小売店がメーンのチャネルの一つ として残る。
そこに中間流通の大きなチャンスが眠っ ている。
実際、コンビニ本部は従来、一般小売店に分 類されていた酒販店や雑貨店などの小規模単独店を 組織化することで強力な業態を築き上げた。
今後の小規模小売店向けの中間流通では、ラクーン のようなベンチャー企業と並んで物流業者が有力なプ レーヤーになり得る。
全国ネットワークを持つ宅配会 社は既にプラットフォーム・ビジネスの一つとして機 能している。
そこに金融機能が加わることで、物流と 商流を兼ね備えた新たな中間流通モデルができあがる。
配達された商品と引き替えに受取人が代金を支払 う佐川急便の「e ―コレクトサービス」は昨年度、前 年比で六割増という伸びを見せた。
取扱高は四五〇 〇億円に達した。
「今期に入っても前年比四〇%増で 推移している。
年間取扱高は六〇〇〇億円を超える 見込みだ」と同社の大西雅春執行役員本社営業本部 統括部長はいう。
B to Bの小口貨物をメーンとする同社は従来から 卸と小規模小売店間の取引手段として代金引換サー ビスを提供してきた。
その後、クレジットカードの普 及と、eコマースの本格化にあわせて決済方法を現金 からカードに拡大。
現在はクレジットカードに加えデ ビットカード決済までをカバーしている。
ただし現在のe ―コレクトの利用は大部分を通販会 社などのB to C取引が占めている。
その数十倍もの マーケットを持つB to Bの分野で、宅配会社の決済 機能が本格的に利用されることになれば飛躍的な取扱 規模の拡大が期待できる。
「既に策は練っている。
来 年度からの中期経営計画に、それを盛り込みたい」と 大西執行役員は明かす。
佐川と同様に国際宅配便のUPSも決済機能の強化を急いでいる。
同社は九七年にUPSキャピタルコ ープを設立したのに続き、二〇〇一年一月には米国の ファースト・インターナショナル・バンクを買収。
こ れを受けて今年三月から国際宅配と銀行決済を組み 合わせた新サービス「UPSエクスチェンジ・コレク ト」の運用を開始した。
UPSのライバルのドイツポストもグループ内に強 力な金融機能を備えている。
郵便貯金を擁する日本 郵政公社も郵便事業建て直しの切り札として、決済 サービスに意欲を見せる。
金融機能を持った物流業者 が新しいタイプの中間流通業者として、これまで不可 能だったサプライチェーンを可能にする。
彼らのイン フラをプラットフォームとして?死に体〞と目されて いる小規模小売店が活性化する。
特集 1988 1994 1997 1999 8.0 5.1 68.9 図2 小売り業態別販売価格構成比の推移 (経済産業省資料より本誌作成) 6.0 9.9 7.4 6.5 12.0 2.2 5.8 2.8 7.2 6.7 13.8 6.8 3.5 6.7 6.2 16.5 4.3 5.9 65.5 61.9 60.5 一般小売店  総合スーパー 百貨店 専門スーパー コンビニ その他のスーパー

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