ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年10号
ケース
トラボックス―― 情報システム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2003 50 九九年以降、トラックの空車情報と運び手 の見つからない荷物情報をインターネットを 使ってマッチングする求車求貨サービスを事 業化する動きが日本国内で活発になった。
I Tベンダー、総合商社、そして物流企業が相 次いで求車求貨ベンチャーを設立。
一時期、 彼らが運営する求車求貨サイトの数は五〇近 くにまで膨れ上がった。
しかし現在、その多くは店じまいを余儀な くされている。
物流コンサルティングのグロ ーバルロジスティクス総合研究所、特積み大 手のフットワークエクスプレスや第一貨物ら が共同出資して設立した大型ベンチャー、イ ー・トレックスは二〇〇二年に早々と事業を 閉鎖。
石川島播磨工業と中小トラック事業者 協同組合「ネットワークなにわ」が立ち上げた 「アイ・エル・ネット(ILNet )」も今年に入 ってサービスの提供を打ち切った。
このほか にも大小さまざまな求車求貨サイトがサービ スの休止もしくは停止に追い込まれている。
もともとトラック運送業界では空きトラッ クと荷物を仲介するブローカーとして?水 屋〞が活躍してきた。
彼らは電話を使ってト ラックと荷物をマッチング。
成約した際に運 賃の数%を手数料として徴収するビジネスを 展開している。
従来は水屋を通じて行われてきた取引をネ ットに置き換えていこうというのが求車求貨 ベンチャーたちの狙いだった。
空トラック情 報と荷物情報をインターネット上に集め、取 ITバブルを乗り越えた求車求貨サイト 有料化スタート後も会員数の拡大続く 運送屋の二代目が立ち上げた求車求貨サイ ト。
事業の縮小・撤退を余儀なくされている ライバルたちを尻目に、順調に会員数を伸ば している。
「運送業界の特性を知り尽くし、痒 いところに手が届くサービス」の提供でユー ザーたちのハートをがっちり掴んでいる。
トラボックス ―― 情報システム 51 OCTOBER 2003 引が自由に行われるオープンなマーケットを 作り出し、トラック運送業者や荷主企業に提 供する。
その見返りとしてサイトの利用料や 仲介手数料などを得るというものだ。
ところが、求車求貨ベンチャーたちのビジ ネスモデルは絵に描いた餅で終わってしまっ た。
サイトを開設したものの、思うように利 用者が集まらない。
収入が伸びない。
運賃の 未払いや貨物事故といったトラブルが絶えな い、という事態に見舞われた。
結局、求車求 貨ベンチャーは新しいマーケットを創造する どころか、むしろトラック運送業界の特性を 熟知した水屋の優位性を際立たせてしまった。
そんな中、着実に事業規模を拡大させている求車求貨サイトがある。
九九年十一月にサ ービスを開始した「Tr@Box (トラボックス)」 だ。
サイトの登録会員数は三三〇〇社。
会員 の保有トラック台数は一〇万台を超える。
売 り上げも倍々ゲームで伸ばしており、二〇〇 三年三月期には前年比三倍増の七〇〇〇万円 (収入は会費が中心)を達成したという。
現在、相次ぐ求車求貨サイトの閉鎖を受け て、物流業界では「トラック輸送にはネット 取引は馴染まない。
求車求貨サイトをビジネ スとして成り立たせるのは難しい。
今後も事 業の縮小・撤退は続くだろう」という見方が 支配している。
しかし、これとは対照的にト ラボックスが求車求貨サービスで成功を収め ているのは何故か。
同社のこれまでの歴史を 振り返りながら、成功の秘訣を探っていこう。
無料スタートが呼び水に 現在社長を務めている藤倉泰徳氏と副社長 の田代正氏の二人によってトラボックスは設 立された。
両氏の実家は共に東京・足立区で トラック運送業を営んでおり、二人はそれぞ れの会社の二代目経営者にあたる。
藤倉社長 の実家は保有トラック一〇台規模の「藤倉運 輸」。
一方、田代副社長のほうは六〇台規模 の「埼北自動車」。
二人は年が近かったこと もあり、昔から親交が深かったという。
そんな二人には共通の悩みがあった。
それ は仕事を持っていても運び手が見つからなか ったり、逆にトラックは余っているのに荷物 が見つからず、商機を失っているということ だった。
他の仲間の運送会社に電話で問い合 わせてトラックや荷物を探すものの、内輪で の情報のやり取りにはどうしても情報量に限 界があり、泣く泣く断りを入れていた。
もっと効率よく、しかもコストを掛けずに たくさんの情報を収集できる手段はないだろ うか。
そこで目を付けたのがインターネット だった。
荷主企業やトラック業者が気軽に情 報交換できるコミュニティーの場をインター ネット上に設ける。
そこに空トラック情報や 荷物情報を提供してもらう。
そうやって情報 のパイを拡げれば、仕事の取りこぼしが減っ ていくだろうと考えた。
早速、知人の学生にプログラミングを依頼 し、?トラック版出会い系〞サイトというイメ ージでシステムを構築してもらった。
そして 前述した通り、九九年十一月に求車求貨サイ ト「トラボックス」を立ち上げた。
「トラボッ クスは半分、二人の趣味みたいなものだった。
『全国のトラック業者と活発に情報交換でき れば、きっと楽しいだろうな』と考えたよう だ」と吉岡泰一郎取締役は説明する。
トラボックスがサイト内に用意したのはい わゆる?掲示板〞だった。
そこに荷主企業は 「荷物の種類や重さ、輸送区間」など運んで もらいたい荷物情報を、トラック業者は「ト ラックの大きさ、希望する輸送区間」といっ た空トラック情報をそれぞれ書き込む。
そし 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 1999年 11月 2000年 5月 2000年 11月 2001年 5月 2001年 11月 2002年 5月 2002年 11月 2003年 5月 トラボックスの情報累計数・会員数の推移 情報累計数(単位:件) 会員数(単位:社数) (情報累計数) (会員数) OCTOBER 2003 52 て、条件の合うトラックや荷物があれば、荷 主とトラック業者が互いに電話で連絡を取り 合って交渉してもらう。
トラボックス自身は 取引には直接関与しないルールだった。
一般の求車求貨サイトは利用者から会費や マッチング手数料などを徴収し、それをサイ トの運営費などに充てている。
これに対して、 トラボックスは敷居を低くして中小零細のト ラック業者でも気軽に情報交換に参加できる ようにするため、料金の無料を打ち出した。
運営費用は当面、二人のポケットマネーで賄 うことにした。
結果として、この?無料〞戦略が利用者た ちの支持を集めることにつながった。
スター ト当初、トラボックスを利用してくれたのは 仲間のトラック業者が中心だったが、徐々に 「無料で荷物を提供してくれるインターネット サイトがあるらしい」という噂を聞きつけた トラック業者がサイトにアクセスして情報を 提供してくれるようになったのだ。
サービス開始の一年後には早くも登録会員 数が一一〇〇社を突破。
さらに翌二〇〇一年 八月には二〇〇〇社に到達した。
ライバルの 求車求貨サイトが会員数の伸び悩みで苦戦を 強いられているのを尻目に、あっという間に 国内屈指の規模を誇る求車求貨サイトに成長 した。
もっとも、支持を集める要素になったのは ?無料〞だけではなかった。
トラボックスに は他の求車求貨サイトには見られない細部へ のこだわりがあった。
例えば、サイトの使いやすさ。
トラック業者の多くがパソコンに不 慣れであることを想定して、キーボードではな く、マウスでボタンをクリックしていけば簡単 に情報を入力できるような仕組みを提供した。
ユーザーに敬遠され姿を消していった求車 求貨サイトに欠けていたのはこうしたユーザ ー側の視点だった。
取引の際に発生するトラ ブルを回避するためユーザーに詳細な情報を 入力させたり、ある程度パソコンの知識があ ることを前提に複雑なシステムを構築して、 それを利用することを強要するといった傾向 が強かった。
これに対して、生き残っている求 車求貨サイトに共通しているのはシンプルな システム構成だ。
実際、トラボックスもその 点を強く意識してサイトを作り込んでいった。
「創業者の二人はトラック業者出身という こともあって、サービスを利用する側の?痒 い部分〞が手に取るように分かる。
それがI T系の求車求貨ベンチャーとの違いで、当社 の強み。
利用者のニーズに合ったシステムを 提供できたため、会員数が伸びていったので はないか」と吉岡取締役は分析する。
有料化という大きな賭け こうして順調に規模を拡大させていったも のの、実はトラボックスは大きな問題を抱え ていた。
サイトの運営費用などを賄うための 収入源をどうやって確保していくか、だ。
前 述した通り、藤倉社長以下、社員の多くは手 弁当でサイトの運営に当たっていたが、決し て資金的な余裕があるわけではなかった。
運営費用を捻出するため、トラボックスで はサイトへのバナー広告を募集したり、求車 求貨システムをASP方式でレンタルして収 入を得るといった事業を始めた。
しかし実際 にはそれだけでは不十分だった。
ほとんど趣 味として始めたボランティア事業を、きちん と収益が上がる事業へ見直す必要があった。
最も手っ取り早いのは会員から利用料を徴 収することだ。
しかし、これまで無料を売り 物にしてきただけに、有料化にした途端、ト ラボックス離れが進み、他のサイトのように 閉鎖に追い込まれてしまうのではないかとい う不安もあり、なかなか踏み出せずにいた。
そこでトラボックスは既存の会員に対して アンケート調査を実施することにした。
質問 内容は「サービスの有料化には賛成か反対か」、 「仮に有料化した場合、月にいくらまでなら 料金を支払ってもいいか」など。
この調査結 果を踏まえたうえで、有料化するかどうかを 判断しようとしたのだ。
トラボックスの吉岡泰一郎取締役 53 OCTOBER 2003 会員から寄せられた回答は比較的温かい内 容だった。
有料化に反対する声は少なく、む しろ有料でもいいからサイトを継続させても らいたいという声が多かった。
「こんな有益な サイトがなくなってしまうのは困る。
何とか 頑張ってほしい」という激励文まで届いたと いう。
ただし、肝心の金額に関して会員たち の反応はシビアで、利用料として一カ月当た りに支払える金額は一〇〇〇〜五〇〇〇円の 範囲という回答だった。
結局、トラボックスはこのアンケート結果 を受けて二〇〇一年十一月にサービスの有料 化に踏み切った。
料金体系として月額三〇〇 〇円の固定制と、情報一件の閲覧につき課金 する従量制の二種類を用意。
利用者が用途に 合わせてこの二つを自由に選択できるように した。
「固定制の三〇〇〇円という金額は一 〇〇〇〜五〇〇〇円の 中間、一日一〇〇円とい う目安で決めた」(吉岡 取締役)という。
泥臭い努力を 惜しまない 有料化実施後もトラボ ックスの会員数は無料だ った時代とほとんど変わ らないペースで伸び続け ている。
有料化によって 会員離れが進むのではな いかというのは杞憂に終わった。
途中、事務処理コストを抑えるため従量制を廃止し、料 金体系を固定制に一本化するといった小さな 混乱はあったものの、引き続きトラボックス が多くの支持を集めているのは、サービスを 有料化する一方で、利用者の声に耳を傾けサ ービスの中身の拡充をきちんと進めてきたか らだ。
例えば、二〇〇二年一月には信販会社のア プラスと提携して決済サービスを開始した。
このサービスは実運送を手掛けたトラック業 者に代わって、荷主から運賃を回収するとい うもの。
これによってトラック業者は運賃未 収のリスクを回避できるようになった。
さらに今年四月からは東京商工リサーチが 持つ企業情報を閲覧できるサービスも始めた。
こちらは与信管理に役立つ。
荷主(トラック業 者)の仕事を引き受けて運賃が未収にならない だろうか。
本当に支払い能力はあるのか、など 取引を決める際の判断材料として活用できる。
ある会員は「誰でも情報のやり取りに参加 できた無料サービスの時代は取引相手がどん な企業なのか正直言って不安な面もあった。
しかし有料化後に提供されるようになったサ ービスのおかげで安心して取引に参加できる ようになった。
サイトの信頼性は有料化した ことによって高まった。
今のサービスは会費 の金額に十分見合うものだ」と評価する。
トラボックスは泥臭い会員フォローも忘れ ていない。
東京、大阪で定期的に「会員交流 会」という会合を開くようになった。
酒を酌 み交わしながら自己紹介や名刺交換を行うこ の会合は、普段は電話などを通じてでしか接 点のない会員同士の顔合わせが目的だ。
求車求貨に限らず、ネット取引には相手の 顔が見えないことへの不安感がつきまとう。
トラボックスではこうしてリアルの世界で親 睦を深めることで、ネットというバーチャル な世界、つまりトラボックスの求車求貨サイ トでの情報交換がより活発になることを期待 して、交流会というイベントを用意した。
吉岡取締役は「トラック業者はとりわけ横 の連携というものを大切にする。
当社の藤倉 と田代がそうしていたように、互いに仕事を 融通し合うなど非常に仲間意識が強い。
スマ ートなイメージがあるITの世界には不釣り 合いかもしれないが、こうした会合を開くこ とが利用者の拡大につながる」と力説する。
もともとトラボックスにはかつてのITベ ンチャーたちが抱いていたような株式公開に 漕ぎ着けてキャピタルゲインを得るという野 心はなかった。
トラボックスが求車求貨サー ビスを提供し続けるのは、儲けるためではな く、トラック運送業界の発展に貢献するため だという。
目先の収益を追い求めるのではな く、今どき業界団体でも口にしないような ?業界発展〞を目的とする姿勢を貫き通すこ とができれば、近いうちに「会員数五〇〇〇 社」という目標も達成できるはずだ。
(刈屋大輔) 東京、大阪で開かれる 『会員交流会』

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