ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年7号
ケース
カンダコーポレーション――現場改善

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

発表会は爆笑の渦 中島みゆきが歌うNHKの人気ドキュメン タリー番組「プロジェクトX」のテーマ曲 「地上の星」が流れ出した。
会場からは一斉 に拍手が沸き起こる。
扉の向こうから出てき たのは男性二人組。
どうやら熱狂的な阪神タ イガースファンのようだ。
猛虎マークがプリ ントされた手拭いを頭に巻き、上半身はユニ フォームで身を包んでいる。
流暢な関西弁を操るこの二人組は普段トラ ックドライバーとしてハンドルを握っている という。
交通事故ゼロをどうやって実現した のか。
そのノウハウを紹介するためにライバ ルである読売巨人軍の本拠地・東京に乗り込 んできた。
彼らが実践したのは各ドライバーが運転中 に「ひやり、ハッとした」体験を朝礼で発表 し、それをドライバー同士で共有するという もの。
また、事故の発生原因を細かく分析し、 その結果をドライバーたちに伝えることで、 安全運転に役立ててもらっているという。
続いて登場したのは揃いの黄色いエプロン 姿の女性たち。
全員手に団扇(うちわ)を持 ち、胸にはひまわりのバッジをつけている。
現在、彼女たちは千葉県内の食品スーパー向 け物流センターで活躍中。
顧客の店舗からの オーダーに応じて冷凍食品などを荷揃えする ピッカーとして働いている。
彼女たちが挑戦したのは出荷作業の「ミス JULY 2003 36 パートが自主的にQC活動を展開 現場の知恵でサービスレベルを向上 1943年創業の老舗特積み業者。
物流センタ ー事業を始めた20年程前から小集団活動に力 を入れてきた。
パートタイマーが活動に熱心 で、それが物流品質の向上につながっている。
大きな成果を求めない。
楽しみながら継続し て活動を展開できる環境を提供してきたこと が奏功した。
カンダコーポレーション ――現場改善 ゼロ」化。
ピッカー同士が互いに声を掛け合 うことで作業への集中力を高めたり、ライン での立ち位置を見直すなどの改善策を講じた。
残念ながら今回は目標を達成することはでき なかったものの、将来「ミスゼロ」化を実現 するためのヒントをいくつか拾えたことが大 きな収穫だったと報告した。
発表を終えて最後に一言。
「もう少し時給 をアップして頂けたら、もっと頑張ることが できると思います」――。
場内は大爆笑。
ス ーツ姿の役員たちは苦笑い。
会場は一気に盛 り上がった。
五月最後の日曜日。
東京・千代田区のト ラック健保会館で開かれたカンダコーポレー ションの「第八回ダッシュ 21 ! 中央発表会」 での一コマだ。
全国各地の営業所で働く社員 やパートタイマーがおのおのの現場で一年間 37 JULY 2003 どのようなQCサークル活動を展開し、具体的にどのような成果を上げたのか。
大会はそ れを発表する場だ。
この日、会場には全国一 〇ブロックの予選会を勝ち抜いた一五サーク ル、約一五〇人が集まった。
事前に相当リハーサルを積んできたのだろ う。
どのサークルも持ち時間の十二分間ちょ うどで発表を終えていく。
笑いを誘う箇所を はさむなど各サークルともプレゼンが上手だ。
QCのマニュアル本に書かれているような定 型的な発表はほとんどなく、聞く側を飽きさ せない。
審査員や会社の経営陣たちも発表内容に満 足している様子で、腕を組みながら頷いてい る。
さすがに予選を突破してきただけのこと もあってどの事例もハイレベル。
甲乙つけ難 い、といった表情を浮かべている。
今大会で見事最優秀賞に輝いたのは東京・ 有明CS(キャッシュサービス)センターの 「油断大敵 ! ! いざ鎌倉 ! ! 」サークルだった。
テーマは「襲撃防止の対策」。
近年多発する 現金輸送車襲撃事件をどうやって未然に防ぐ か。
そのための対策を練り、実際に警備警戒 訓練を積んできた、という一連の取り組みが 高く評価された。
副賞として賞金七万円を手 に入れた。
実は東京・有明CSセンターは二年連続で 最優秀賞の受賞となった。
同サークルを監督 してきた山崎唯ブロック長は「現場で働く社 員たちが自主的に活動に取り組んでいるのが このサークルの特徴だ。
今回 はテーマ設定から訓練までの 五カ月間に計二八回ミーティ ングを開いたと聞いている。
地道に努力を続けている姿勢 が評価されたのだと思う」と 分析する。
大会ではこのほかに優秀賞、 アイデア賞、チャレンジ賞、 社長特別賞などが贈られた (下表参照)。
コスト削減効果 が大きく、しかも革新的な発 想で思わず唸ってしまいそう な事例が上位に食い込まない など、「予想とはだいぶ違っ た結果」(金子健一専務)で 驚かされた。
しかし、順位を 競わずに発表を楽しむ姿勢こ そがQC活動の活性化には欠 かせないとカンダでは見ている。
自由に活動させる カンダコーポレーションがQC活動の普及 に乗り出したのは今から約二〇年ほど前のこ とだ。
ちょうど従来の特別積み合わせ事業を 中心としたビジネスに、新たに物流センター 運営事業を加えた頃だった。
一般の物流企業 よりも比較的早い時期にQC活動をスタート させている。
もともと活動は社員を中心に進められてき 「ミスゼロ」化に挑 戦した女性ピッカー (上) 交通事故ゼロを達成 したドライバー(下) 第8回 ダッシュ21中央発表会の表彰結果 最優秀賞 優秀賞 アイデア賞 チャレンジ賞 社長特別賞 襲撃防止の対策 重要書類の整理 商品破損の防止 作業効率の向上 作業効率向上の スピードアップ 有明キャッシュ 総務課・車輌課 ロジテクノ 南東北 岩槻 油断大敵!! いざ鎌倉!! じぐそー・ぱずる KRS大宮総本部 スタートライン ナインピース テーマ 部署・事業所 サークル名 QC活動の輪が拡がり、それに伴いサービスレベルが向上している点は顧客企業からも 高く評価されている。
例えば冒頭で紹介した 黄色いエプロン集団。
前述した通り、今回彼 女たちは目標の「ミスゼロ」の達成は叶わな かった。
しかし、活動期間中のピッキングミ ス率が〇・〇〇六八%となり、取引先の食品 スーパーから特別に表彰を受けたという。
「顧客企業のコスト削減ニーズは年々高ま っている。
これに対応できなければ、物流企 業は生き残っていけない。
当社のQCサーク ルはその数が年を追うごとに増えている。
今 年は前年よりも約三〇チーム多くなった。
会 社としては喜ばしい現象だ。
サービスの品質 やコストの面で顧客に貢献していくためにも、 これからも現場からどんどん知恵を出しても らいたい」と吉林正和社長は期待を寄せてい る。
襲撃事件の発生パターンを分析 実際にカンダがQC活動を通じて具体的に どのような成果を上げているのか。
現金輸送 の安全対策で今大会の最優秀賞に選ばれた 「油断大敵 ! ! いざ鎌倉 ! ! 」サークルの活動 をもう少し細かく紹介しよう。
最初にサークル名の由来。
かつて鎌倉に幕 府があった時代、武士たちは何かが起これば 馳せ参じるという心構えを常に持っていた。
同じように警備輸送の担い手もいつ襲撃事件 に巻き込まれるか分からない。
サークル名に は鎌倉時代の武士たちの 心構えを見習おうという 意味が込められている。
現金輸送を担うカンダ のキャッシュ事業部は八 年前に開設された。
事業 としての歴史はまだ浅い。
そのため、実務を担当す るのはキャリア二〜三年 程度の社員が多く、警備 のノウハウが豊富だとは 言い難かった。
近年、現 金輸送車を襲撃する凶悪事件が多発しており、 そうしたノウハウの乏しさが重大事件に巻き 込まれる要因になり兼ねないとサークルでは 危惧していた。
そこでまず、これまでに国内で起きた現金 輸送車襲撃事件の発生パターンを細かく分析 する作業に取り掛かった。
その結果、?襲撃 はすべて待ち伏せして行われる、?凶器を持 って相手を威嚇して強奪する計画的犯行であ る、?襲撃は午前中に集中している、?とり わけ銀行が営業を開始する前の午前六時半か ら九時までの間に多発する、?襲撃場所は目 的地の直近路上と駐車場内が圧倒的に多い― ―という傾向が明らかになった。
これを受けて、サークルでは目的地に現金 輸送車を停車させるまでの作業フローを大幅 に見直することにした。
もともと現金輸送車のドライバーたちは極 JULY 2003 38 たが、次第に現場のパートタイマーたちにも 浸透した。
品質管理に対する意識が物流現場 の末端にまで行き届いたという意味で、カン ダのQCはひとまず成功を収めていた。
ただ し、かつては「発表会のための半ば強制的な 活動で、自主性を欠いていた。
各サークルの 活動期間は短く、ミーティングの回数も少な かった」(村林良三教育・安全推進室部長) というのが実情だった。
ところが、九五年に品質改善運動「ダッシ ュ 21 」をスタートさせたのを機に、QC活動 は徐々に活性化していった。
きっかけは強制 的ではなく、現場主導型でQC活動を展開す るよう呼び掛けたことだった。
その結果、サ ークルが場当たり的に編成されるのではなく、 常に同じメンバーで固定されるようになった。
さらに、そのサークルが毎年テーマを見直し ながら継続的にQC活動を展開するようにな ってきたという。
実際、今回の中央発表会に 出場したサークルの中には複数年にわたって 同じメンバーで活動を続けているケースも少 なくなかった。
「劇的な改善や大きなコスト削減効果を求 めるのではなく、自主的にかつ継続的に、そ して楽しみながら活動に取り組むよう訴えて きた。
まずはQCに対する意識改革を促した ことが奏功したようだ」と村林部長。
QC活 動の?自由度〞を高めたところ、逆に社員に やる気が芽生え、活動の密度が濃くなり、物 流品質も高まっていった。
5月末に開かれた中央発 表会には全国から約150 人が参加した 端な言い方をすれば、目的地に向かって真っ 直ぐに車両を走らせ、決められた駐車位置に 車両を停車させていた。
目的地周辺に不穏な 雰囲気が漂っていないか。
襲撃に対する警戒 の意識がやや希薄だった。
つまり犯行を狙わ れやすい状況を作ってきた。
そのため、サークルでは目的地到着までの 手順を改め、車両を停車させる前にいったん 目的地の周囲を一周走行するようにした。
目 的地周辺の不審者や不審車両を発見するため だ。
襲撃を狙う追尾車両はないか。
エンジン を掛けたままで停車している車両はないか。
二〜三人で同乗している車両はないか、など を走行中にきちんと確認するようにした。
少しでも危険を感じたら絶対に車両を停止 させない。
不審車両を見つけた場合は、荷主 にそのナンバーを照会してもらうなど安全を 確認してから目的地に入る、というルールを 徹底させた。
一見するとムダだと思われるこ のチェック走行こ そが襲撃事件の 防止策として非 常に効果的であ ると判断したのだ。
サークルでは早 速チェック走行 のマニュアルを作 成。
それを基に訓 練を繰り返した。
その結果、ドライ バーたちは常に危険の芽を摘むという意識の下で作業を進めるにようなったという。
今回の改善は顧客である銀行からも支持さ れている。
襲撃事件に遭遇した場合の対処策 を訓練する警備輸送会社は少なくないが、事 件を未然に防ぐための訓練を行っている会社 は珍しいからだ。
今ではライバルの警備輸送 会社も同サークルの行動を参考にするように なっている。
重要書類を簡単に検索 優秀賞に選ばれた本社総務課・車輌課「じ ぐそー・ぱずる」サークルの改善活動も中身 が濃かった。
同サークルのテーマは「契約書、 権利書の整理」。
本社で管理・保管している 膨大な量の契約書や権利書といった書類をど うやって効率的に管理するか。
物流企業に限 らず多くの企業が普段から頭を悩ましている この問題の解決にチャレンジした。
もともとカンダでは顧客企業や下請け業者 と交わしている契約書、物流センターの土 地・建物の権利書などの原本を種類別にファ イリングして書庫や倉庫などで管理してきた。
問題は分類されているにもかかわらず、すぐ に取り出すことができないため、必要な書類 を見つけ出すまでに時間が掛かるという点だ った。
社員からの依頼を受けた総務課の社員 たちは書庫から書類を探し出す作業に長時間 拘束されることを余儀なくされてきた。
「じぐそー・ぱずる」サークルが目を付けた のは電子キャビネットだった。
この電子キャ ビネットとはスキャナーで書類の原本の画像 を読み込み、そのデータをコンピュータで管 理するという仕組みだ。
パソコンとスキャナ ー、専用ソフトがあれば簡単にシステムを構 築できる。
投資額も少なくて済む。
まずサークルでは電子キャビネットで管理 する書類を分類する作業に取り掛かった。
続 いて画像の取り込み。
書類の数は業務委託契 約書だけで六〇〇にも上った。
これをサーク ルのメンバーたちが手分けして一つひとつデ ータ化する。
さらにキーワードや日付で書類 を検索できるようにデータを紐付けする作業 に着手した。
いずれも実に根気のいる作業だったが、シ ステムが完成したことで書類を探し出すまで の時間は従来に比べ大幅に短縮できた。
以前 のように書庫で分厚いファイルを次から次へ とひっくり返していく必要はない。
自分の席 のコンピュータから総務課の電子キャビネッ トのシステムにアクセスすれば、契約書の内 容を簡単に閲覧できる。
実はこれまでカンダ の社員たちは顧客企業との契約内容を確認す るため、わざわざ本社に出向かなければなら なかったという。
総務課では新システム導入を機に、新たに 契約書や権利書の貸し出し台帳を記入するよ うにした。
それによって大切な書類の紛失も 防げるようになったと満足している。
(刈屋大輔) 39 JULY 2003 有明CSセンターのサークルは襲撃事件防止のた めの作業マニュアルを作成した

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