ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2003年7号
SCC報告
SCM導入奮戦記――中部電力

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

67 JULY 2003 今年四月、米ジョージア州アトランタで開 催されたサプライチェーンカウンシル(SC C)の年次総会。
その大会で日本企業として 初めて中部電力がユニークなSCM実践事例 を発表し話題となった。
中部電力のSCMプ ロジェクトの概要を、発足時よりキーマンと して関わっている垣見祐二中部電力資材部計 画・国際調達グループ長が報告する。
電力会社でSCM 現在、中部電力がコスト削減の切り札とし て、全力で推進しているのが「調達サプライ チェーン・マネジメント(SCM)」だ。
調 達SCMとは、部品メーカー、資機材メーカ ーおよび工事会社から中部電力の資材部門、 技術部門にいたる資機材の調達プロセス全体 を分析・再点検し、仕様・工法、発注方法、 製造工程、物流体制および在庫の見直し等に より、調達コストの削減を図るものだ。
電力会社のサプライチェーンというと、通 常、ガスや石炭を調達し、発電所で電気を生 産、さらに送電線や配電線などネットワーク を通して、お客様に電気を届けるプロセスを 指す。
しかし、当社の調達SCMが対象とし ているのは、実はこうした電力の供給プロセ スそのものではない。
電力会社は発電所や送電線、変電所や配 電線などの膨大な設備を持つ「設備産業」だ。
この設備の修理やメンテナンスを行うために、 機器や部品、材料等の物品、あるいは工事サ ービスを購入し、設備に取り付ける等の膨大 な仕事が日々発生している。
調達SCMとは、 こうした設備の修理やメンテナンスのための 仕事、言い換えると電力設備を維持するため の資機材や工事サービスの調達プロセスを対 象としたSCMである(図1)。
中部電力がこうした取り組みを行うことに SCM導入奮戦記――中部電力 垣見祐二 中部電力 資材部計画・国際調達グループ長 図1 電力会社のサプライチェーン 電力供給SC 設備形成SC 保守 (メンテナンス) SC 調達SCMの対象とする 工事会社 SC(サプライチェーン) メーカー サプライヤー 工事会社 メーカー サプライヤー 燃料調達 発電 送電 変電 配電 当社供給区域 発電所 お客様 JULY 2003 68 なった背景には、日本の電力会社を取り巻く 事業環境の変化がある。
一つは電力が本格的 な競争時代に突入しコスト削減が至上命題に なってきたこと。
二つ目は、これまでは発電 所や送電線等を新設することが事業の中心だ ったが、日本経済の成熟化に伴い電力需要が 伸び悩むなかで、事業の重点が新設から既存 設備の修理やメンテナンスに移行してきたこ とがあげられる。
これらの大きな変化に対応 すべく、調達プロセスの再構築によるコスト 削減が求められるようになり、それが調達S CMの導入へとつながった。
三〇〇人超のプロジェクトに発展 調達SCM活動は「パイロット・プログラ ム」の準備期間を含めれば、既に三年以上を 経過している。
現在は継続的に調達している 主要物品、工事を対象に「本格展開プログラ ム」を展開中である(図2)。
我々がSCMの導入準備を始めた頃の日本 では、SCMというのは物流効率化の手段、 あるいは在庫管理や需要予測等に関わるIT ソフトの導入というレベルの理解が多かった。
そのため「調達分野でSCMの導入を考えて いる」ことを専門家に相談しても、当時流行 の電子調達に関するツール導入の提案を受け るのがせいぜいだった。
一方、すでに経済の成熟化や産業分野での 規制緩和が進展していた米国では、一部先進 的な電力会社がSCMをプロセス改革手法と して理解し、とくに調達分野への適用で実績 を上げているという情報を 我々はつかんでいた。
このため当社のSCMプ ロジェクトは当初、二〜三 人による米国電力会社の事 例調査から始まった。
それ が現在では、資材部をはじ め、ほぼすべての技術部門、 主要関係会社との共同プロ ジェクトに発展した。
今や 関係者だけでも三〇〇人を 超える一大プロジェクトと なっている。
推進にあたっての 「三つの柱」 具体的にプロジェクトを 推進するにあたって、我々 は調達プロセスの特徴にあ わせて、柱上変圧器チーム、 変電・送電関係の点検・補 修工事チームといった具合 に、品目・工事ごとのチー ムを結成した。
チームには、 それぞれのプロセスに関係 する社内の各部門から選抜 されたメンバーのほか、外部のメーカーや工 事会社の担当者も加わっている。
このクロス ファンクショナルチーム(CFT)をプロジ ェクト活動の中心に置いた(図3)。
各CFTは基本的に向こう三年間にわたる プログラムに基づいて活動する。
最初の一年 間は「計画作り」の期間だ。
この期間には 「プロセス・マネジメント」と呼ばれる改革 手法を用いる。
まず、「プロセスを描き、分 析する」という作業から開始する。
CFTの 平成12年度 上期 下期 平成13年度 上期 下期 平成14年度 上期 下期 平成15年度 上期 下期 平成16年度 上期 下期 平成17年度 上期 下期 図2 スケジュール 〈柱上変圧器〉 (けい素) 〈計  器〉 (電力量計類) 〈外線工事〉 (机 上) 〈支店購買物品〉 〈点検・補修工事〉 (変電・送電) 〈点検・保修用品〉 〈点検・保修工事〉 〈水力保守土木〉 (物品・工事) 〈点検・保修用品〉 (注)〈 〉 準備 計画 実行・実現 パイロット 配電関係 工務関係 火力関係 土木建築関係 原子力関係 本 格 展 開 はチーム名 メンバーが現状のプロセスを描き、チーム内 でワイワイ、ガヤガヤやりながら問題点や課 題を追求する。
週一回ペースで集まり、数カ 月もの間この作業に没頭する。
この作業の際、サプライチェーン・カウン シル(SCC)の「サプライチェーン・オペ レーションズ・リファレンスモデル(SCO R)」を大いに活用した。
さらに工事サービ スの調達プロセスを記述・分析するためのツ ールを、必要に迫られ「工事SCOR」とし て独自に開発した。
このことが、今回のSC Cの年次総会での発表につながった。
こうした作業を共同で行うことにより、現 状のプロセスの理解や課題・問題点をチーム メンバーで共有化することが、その後の活動 にとって非常に重要なカギになる。
そうした共有化ができた頃から、改革・改 善案を策定する作業に移る。
さらに詳細な実 行計画までブレークダウンして、ようやく 69 JULY 2003 「計画段階」が完了する。
このようなプロセス・マネジメントを実際に行うには経験の豊富なガイド役が必要にな る。
CFTでは、メンバー間の摩擦や利害の 対立が表面化することもしばしばだった。
そ うした時、第三者的な調整役として外部コン サルタントが役に立った。
これらの役割を果 たすことのできる外部コンサルタントを加え ることで、プロジェクトの円滑な推進が可能 になった。
変革のための仕組み構築 さて、このように進めている調達SCMの 成果だが、開始してから三年近く経過したパ イロット・プログラムによって、既に二〇億円、コスト削減率一九%を実現した。
ほぼ当 初目標を達成できた。
また本格展開プログラムでは、「計画段階」 が終了し、コストダウン計画を策定し終えた ものが五チームある。
二〇〇四年九月までに 一五〇億円、二二%のコストダウンが可能に なると見込んでいる。
ちなみに「計画段階」を終了した五チーム は、「実施段階」に入ってわずか半年しか経 過していないが、すでに四七億円のコストダ ウンを実現。
まずまずの進捗状況となってい る。
このようにコスト削減という点からいえ ば、当社の調達SCMは、着実に成果を上げ つつある。
「二割のコストダウンは必ずできるし、それほど難しくはないですよ。
大切なのは、こ のプロジェクトを実行する中で、永続的に自 己変革できる仕組みを会社の中に作ることで す。
それがあなたの仕事ですよ」 本格展開プログラムを開始した時のキック オフ・ミーティングで講演していただいた講 師の方が、別れ際につぶやいた一言が耳に残 っている。
その講師は数多くの企業変革プロ ジェクトを指揮した実戦経験の豊富な方だ。
調達SCMを端緒として、中部電力の「コ ア・コンピタンス」を強化し、変化に対して 俊敏に自己改革できる「学習する組織」へと 変貌するに至ること。
この目標からすれば、 中部電力のSCMプロジェクトは、登山にた とえるならばまだ二合目あたりを登っている にすぎないと思っている(図4)。
図3 推進の「3つの柱」 組織・部門 横断体制 (CFT) 明確な手法 (SCOR) 外部 コンサルタント 調達プロセス改革 (リエンジニアリング改革) ユーザー エンジニアリング強化 (コア・コンピタンス強化) 意識・風土改革 (『学習する組織』構築) 図4 改革コンセプト 利益創出・拡大 (コストダウン) 継続的改革 の基盤形成 価値創造/ 戦略的差別化 調達SCM活動

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