ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年6号
ケース
サンワネッツ――現場改善

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

目指せ賞金一〇万円 ゴールデンウイーク初日の四月二六日。
静 岡県袋井市に本社を構える年商約五三億円の 中堅物流企業、サンワネッツ(サンワNET S)は「品質向上活動発表大会(第一八回S QC発表大会)」を開催した。
大会には本社 や全国の営業所から社員ら約一八〇人が参加。
昨年一〇月から今年三月までの二〇〇二年度 下期に各部門で取り組んできた改善事例や、 社員個人が提案した物流現場の改善アイデア などを紹介し合った。
毎回、この大会で出席者たちが楽しみにし ているのは「改善提案表彰」だ。
個人提出さ れた改善アイデアの中から優れた事例が選ば れ、最優秀賞一〇万円、優秀賞五万円、優良 賞三万円、良好賞一万円といった具合に賞金 が贈られるからだ。
賞金の使い途はもちろん 自由。
この臨時ボーナスを獲得しようと、サ ンワネッツの社員たちは日々、物流現場のム ダ探しに取り組んでいる。
今大会で最優秀賞に選ばれ、見事に一〇万 円を手にしたのは第 一倉庫本部堀越FF 物流に所属する鈴木 勉さんだった。
改善 テーマは?「ロケー ションチェック方法 の変更〜コピーから パソコンへ〜」、? JUNE 2003 58 やる気ゼロのQC活動にメス 賞金用意しサークルを活性化 調達物流を得意とする静岡の中堅物流業者。
QC活動に力を注いできたが、実は現場が動 いているのは発表会の直前だけだった。
物流 品質に対し顧客からクレームが殺到したのを 機に、QC活動の見直しに着手した。
現場主 導型からトップダウン型に改め、さらに懸賞 金を用意した。
その結果、部門、個人間で現 場改善の成果を競い合うようになった。
サンワネッツ ――現場改善 サンワネッツの 村山富士夫常務 「出荷作業時間の短縮〜手数えから電子個数 秤へ〜」、?「リワーク処理システムの手順 書作成」――の三つ。
提案はいずれも実にシ ンプルな内容だ。
例えば、?は従来、人手で行っていた作業を 機械での処理に置き換えただけ。
社歴の浅い 物流マンでも思いつきそうなアイデアだ。
し かし、実際にはこれまで誰も気がつかなかった。
もともと鈴木さんが所属する物流センター では荷物に同梱するリーフレットやカタログ の数を一枚ずつ手作業で数えていた。
一〇〇 〇枚のカウントに要していた作業時間は約一 〇分。
一カ月当たりの平均カウント数は六〇 万枚で、作業に約一〇〇時間を費やしてきた。
59 JUNE 2003 しかも出荷締め切りに間に合わない場合は、手数えを担当する派遣社員の増員などを余儀 なくされていたという。
単純作業に多くの人材や時間を投入するの は明らかに無駄だ。
しかも手作業はミスの発 生率も高い。
コストを掛けず、しかもスピー ディにミスなしで作業を済ませる方法はない だろうか――。
そこで鈴木さんが目を付けた のが電子秤(デジタル計量器)だった。
電子秤の導入によって一〇〇〇枚のカウン トに要する作業時間は一気に約三分にまで短 縮された。
六〇万枚だと約三〇時間で済む。
従来に比べ作業時間を約七〇時間削減できた わけだ。
派遣社員の時給を一〇〇〇円とする と、月に七万円のコストダウンになる。
電子 秤の購入に七万円掛かったが、この費用を差 し引いても、年間七七万円のコストダウンを 達成できる計算だ。
「鈴木さんの提案は三つ合わせて一カ月当 たりのコスト削減額が応募案件の中で一番大 きかった。
それが受賞の決め手となった」と 山下浩取締役営業本部長は説明する。
形骸化したQC活動 今でこそ盛り上がりを見せている発表大会 だが、かつては「お通夜のような雰囲気」が 漂っていた。
現場の社員たちがQCサークル の活動に取り掛かるのは発表会直前になって から。
何らかの改善アイデアを提出しなけれ ば、上司に叱られる。
そんな心配から嫌々な がら知恵を絞り、発表用資料をまとめていた というのが実情だった。
「やらされている」と いう受け身な姿勢の社員が目立った。
それでも経営サイドは意に介さなかった。
QC活動は上層部が指示して強制的に取り組 ませるのではなく、現場の社員たちが自主的 に進めていくことに意味がある。
活動を通じ てそうした職場風土が形成されるのを期待し ていたからだ。
社内には役員や部門長は現場 のQC活動に一切口出ししないという暗黙の ルールさえ存在していた。
しかし、結果としてQC活動の運営を現場 にすべて委ねたことは裏目に出た。
八九年に 開始して以来、QC活動の輪は年を追うごと に萎んでいき、九〇年代後半になると、毎回 決まったごく一握りの社員やサークルしか発 表会に参加しなくなってしまった。
「現場の自主性を尊重してきたとはいえ、役員 や部門長に面倒なことに関わりたくない、こ れ以上余計な仕事を増やしたくないという意 識が蔓延していたのも事実。
現場の社員、そ して管理する側の双方のモチベーションが下 がり、QC活動は徐々に形骸化していってし まった。
発表会は単なるパフォーマンスの場 と化していた」と村山富士夫常務は述懐する。
長らくQC活動を放置してきたツケはサー ビスの品質低下というかたちで現れてしまっ た。
二〇〇〇年に入り、「誤出荷があまりに も多過ぎる」(電子部品メーカー)、「現場作業 に改善が見られないようであれば、取引を打 4月末に開かれた発表大会。
写真下は最優秀賞に選ばれ、 表彰される鈴木勉さん る「トップダウン」体制に改めた。
つまり現場の社員を半ば強制的にQC活動に取り組ま せるようにしたわけだ。
QC活動の運営を現場社員に丸投げするこ とは一切認めなかった。
サークルの監督者に 役員や所属長を据えたのは、全社員がQC活 動に参加する環境を築き上げるためだ。
さら に、各サークルには少人数で短時間のミーテ ィングを頻繁に開くことによって、常にメン バー同士、そして上司と部下が情報を共有し ておくことも義務付けた。
「役員や所属長をQC活動に関与させるよ うにしたのはミスやクレームを隠さない職場 風土を確立するため。
上司が率先してQC活 動に取り組めば、部下たちはそれに追随せざ るを得なくなる。
そうやって会社全体にQC 活動を浸透させていく狙いがあった」と村山 常務は説明する。
単に上から押さえつけるのではなく、現場 社員のやる気を引き出すための工夫も凝らし た。
一般にQCサークルの活動は勤務時間外 に行われ、残業手当の対象にならないことが 多い。
コスト削減などの成果を上げて会社に 貢献しても、自分たちの懐が潤うことはほと んどない。
果たして自分の時間を犠牲にして までQC活動に取り組むことにメリットはあ るのか。
自発的な活動を期待する会社側と実 際に動く現場社員たちとではQC活動に対す る認識に大きな違いがあり、それが思うよう に活動が拡がっていかない要因の一つにもな ってきた。
こうした問題を解消するため、新たに改善 提案に対するインセンティブを用意した。
物 流品質の向上につながる改善アイデアを提出 した社員には提案一件につき五〇〇円を支給 する。
それによってQC活動への参加は決し て無駄ではないという意識を現場の社員たち に植え付けようとした。
ただし、「こう改善したほうがいいのではな いか」といった曖昧な提案は対象に含めなか った。
問題点を見つけ出し、具体的な対応策 を考案する。
そして、成果の大小はともかく、 対応策を実行に移した場合にのみ五〇〇円を 支給するというルールを設けた。
日々の努力にきちんと報酬が支払われ、さ JUNE 2003 60 ち切りたい」(元請け物流企業)など顧客企業 から日々の作業に関するクレームが相次いで 寄せられるようになったのだ。
とりわけ取引 量の大きい顧客企業からクレームが殺到した。
さらに厄介だったのは、そうしたクレーム が現場サイドで握り潰され、本社にはまった く報告されなかったことだった。
そのことが 顧客企業の怒りを増幅させた。
「中小企業で ありながら、大企業病に陥った。
一番の問題 は管理者が現場の作業にきちんと目を配って いなかったこと。
行き過ぎた現場任せがこう したトラブルを引き起こしてしまった」と村 山常務は反省する。
このまま手を打たずに放置すれば、顧客を 失いかねない。
取引中止に追い込まれれば、 あっという間に会社が傾いてしまう。
顧客か らの信頼を取り戻すためには再びQC活動を 活発化させ、サービスの品質を向上させなけ ればならない――。
物流現場の緩みきった空 気に危機感を抱いた経営陣は二〇〇一年一月、 QC活動を見直すためのプロジェクトチーム を新たに発足させた。
改善提案一件で五〇〇円 プロジェクトチームが最初に取り掛かった のはQC活動の運営方法を刷新することだっ た。
前述した通り、もともとサンワネッツで は現場社員にすべてを委ねる「ボトムアップ」 体制でQC活動を展開してきた。
しかし、こ れを役員や所属長が末端のサークルを管理す 提案1件500円という インセンティブを用意 した結果、QC活動は 再び活発になった らに半期に一度一〇万円を手にするチャンス もある。
この仕組みは現場社員たちに好評だ。
「QC活動に対する社員たちの意気込みが違 っている。
社員同士が改善アイデアを競い合 うようになった」(管理本部総務グループの 大村朋之リーダー)という。
実際、目の前に?ニンジン〞をぶら下げた ことによる効果は絶大だった。
現場社員から の改善提案は日増しに増えていった。
しかも 社員だけではなく、パートタイマーからもア イデアが寄せられるようになった。
その結果、 昨年十一月に開催した発表大会(対象は昨年 四月〜九月末)に提出された改善アイデアは 全社合計で二一八件にすぎなかったが、今大 会(対象は昨年十月〜今年三月末)では五一 八件に倍増させることができた。
「コスト削減などで会社に貢献してくれるわ けだから、浮いたコストの一部を社員に還元 するのは当然だ。
五〇〇円の報酬で現場の社 員たちがQC活動に奮起してくれるのではあ れば安いものだ。
これまで無償で改善提案を 要求するという会社側の姿勢が甘かったのか もしれない」と村山常務は分析する。
クレーム消え賞賛の声に プロジェクトの立ち上げから約二年が経過 し、サンワネッツの物流現場ではQC活動が 積極的に展開されるようになった。
場当たり 的にQC活動に取り組む社員は減り、自発的 に身体と頭を動かす社員が徐々に増えつつあ る。
以前に比べ改善提案の中身のレベルも上 がった。
現場のみにしわ寄せがいくのではな く、全社員参加型に改めることで不公平感を なくし、しかも社員個々の努力に対してきち んとインセンティブを与えるようにしたこと が奏功しているようだ。
具体的な成果も出始めている。
例えば、倉 庫本部ではかつて半期で六〇件程度にとどま っていた現場社員からの改善提案が一四〇件 までに増えた。
さらにサークルの小ミーティ ングは六〇回、全体ミーティングは三〇回程 度開かれた。
作業ミスが大幅に減り、品番違 いによる誤出荷件数は二三件から九件へと改 善が進んだという。
QC活動が現場に浸透し始めたこともさる ことながら、サンワネッツにとって何よりも喜 ばしいのは顧客企業の声がクレームから賞賛 へと変化したことだった。
電話や電子メール を通じて寄せられるクレームに日々、頭を悩 ませてきた村山常務は自慢げに一枚の紙を披 露くれた。
「お客様から頂いた評価の実例」と いうタイトルがついたその紙には、サンワネッ ツのサービスの品質を高く評価する顧客企業 のコメントがびっしりと書き綴られている。
「二〇〇二年度はミスがゼロ。
優良賞を授 与する」(電機メーカー)、「協力会社一六〇 社の中から五社に送る『ベストパートナー』 に選出させてもらう」(物流子会社)――。
お 詫び行脚に明け暮れていた二年前には想像も つかなかった見事な変貌ぶりだ。
「何故メーカーなどがQC活動に力を注い でいるのか。
その大切さがようやく分かって きた。
闇雲に営業活動を展開するよりも、サ ービスの品質を高めることのほうが業績拡大 につながる。
高い品質を維持できれば、顧客 が逃げていくことはない。
むしろ評判を聞い て顧客が自然と集まってくるようになるはず だ」と水谷欣志専務は期待する。
現在、物流業界ではQC活動を中止する企 業が相次いでいる。
その大半は「時間や手間 を掛けても思うような成果が上げられない」 ことを理由の一つに挙げている。
果たして本 当だろうか。
かつてのサンワネッツのように、 余計な仕事を増やしたくないといった管理者 サイドの消極的な態度が、QC活動の実働部 隊である現場社員たちのやる気を削いでしま っているケースも少なくないはずだ。
顧客企業からのクレームをきっかけに、全 社員参加型のQC活動への移行に成功したサ ンワネッツの取り組みは、QC活動の形骸化 が進行する物流企業にとって格好のモデルケ ースとなりそうだ。
(刈屋大輔) 61 JUNE 2003 サンワネッツの水谷欣志専務

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