ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年6号
ケース
ハウス食品――コスト削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

典型的な日本企業の物流管理 ハウス食品は創業一〇〇年を越える老舗の 加工食品メーカーだ。
家庭用即席カレーの分 野では二位以下を大きく引き離すトップ企業 でもある。
八〇年近く前に即席カレーの生産 をスタートし、一九六三年に「バーモントカ レー」を爆発的にヒットさせたことで家庭用 カレーの分野で圧倒的な地位を築いた。
ハウスの物流管理は、日本の加食メーカー の典型ともいうべき道を歩んできた。
社歴の 長い企業らしく、販売先は原則として卸売業 者のみ。
小売業者との直接取引には応じてい ない。
一部では小売りの一括物流センターに 製品を直送しているが、あくまでも商流上は 卸を通すことを基本としている。
一九七〇年には地場の運送業者に資本参 加してハウス配送(現ハウス物流サービス) という物流子会社を創業した。
当初は業務領 域や担当エリアを限定していたものの、全国 展開できる地力がついた二年ほど前からは、 唯一の元請け企業として機能させている。
多くのメーカーが そうであるように、 ハウスの物流管理に 対する認識は最近一 〇年間で大きく変わ った。
九〇年代を通 じてハウスの物流改 善を主導してきた早 JUNE 2003 50 改善重ね物流コストを20億円削減 SCMソフトの導入に向け体制整備 90年代を通じて物流改善プロジェクトを繰 り返してきた。
当初は受注センターの集約や、 拠点の統廃合などでめざましい成果を上げた が、機能の見直しによる改善のネタはほどな く尽きた。
来春をメドにSCMソフトを稼働 させるのを契機に、組織変更も含めて物流管 理のあり方を根底から見直そうとしている。
ハウス食品 ――コスト削減 マーケティング本部の 早川哲志物流部長 川哲志物流部長は、「物流の範囲がどんどん 広がってきた。
昔はサプライチェーンなどと いう感覚はなかったし、ましてやトレーサビ リティや環境問題など考えてもみなかった。
だが、こうした問題と物流の関連は非常に強 い。
時代の変化に応じて我々も変わらざるを 得ない」と述懐する。
顧客である卸売業者が全国に分散していた 一昔前には、きめ細かい営業体制を確保する ためにハウスは全国の営業所に受注窓口を設 けていた。
同様に配送拠点も全国五〇カ所以 上に設置。
ここから顧客に製品を届けてきた。
この全国に細分化された輸配送ネットワーク を、取引先の規模拡大などに応じてどんどん 統合・集約してきたのが同社の物流効率化の 大きな流れだ。
すでに現在では、ハウスの輸配送ネットワ 51 JUNE 2003 ークはかなり整理されている。
製造拠点は委託先工場も含めると全国に六カ所。
各工場は それぞれに特定の製品を作っている。
工場の 隣接地には一時保管のための物流拠点があり、 ここから全国十一カ所の配送センターに製品 を補充していく。
各配送センターにはフルラ インの在庫があり、ここで顧客の注文に応じ たピッキングをしてから全国約五五〇〇カ所 の配送先に届けている(図参照)。
物流効率化に精出した九〇年代 ハウスは九三年から現在に至るまで、三次 にわたる物流改善プロジェクトを繰り返して きた。
まず最初の五カ年計画では物流管理の 土台作りともいうべき作業に取り組んだ。
九 〇年代はじめの同社は「プロダクト・マネジ メント制度」と呼ぶ組織になっており、製品 の開発から販売までを同一部門が一元的に管 理していた。
当然、物流もこの体制のなかに 組み込まれていた。
当時の採算管理は支店単位を基本としてい たため、その頃のハウスの物流担当者にとっ て最大の関心事は、支店の経費をいかに下げ るかだった。
かつて早川部長が支店の物流課 長として取り組んだ物流効率化の初仕事も、 営業所に分散していた受注窓口を支店の物流 課に統合するという施策だった。
ただし、この物流効率化は、あくまでも支 店の個別最適に過ぎなかった。
後に本社に異 動になると早川部長の物流に対する認識はが らりと変わった。
「全体を考えなければいけ ない立場になったら、やはり物流に問題があ ると思うようになった。
物流部門をもっと確 固たる部署にしていかなければいけない。
そ のためには中期計画のようなものが必要だ」 と考えるようになったのである。
そこで九三年に策定したのが、ハウスにと って第一次の物流改善プロジェクトとなる五 カ年計画だった。
計画の骨子は、配送拠点の 集約、在庫削減、サービスレベルの統一など だ。
前述した通り当時のハウスの配送拠点は 全国に約五〇カ所もあったうえ、施設規模が まちまちだった。
これをそれぞれ四五〇〇平 方メートル程度に統一したうえで統廃合し、 五年間で一四カ所まで減らした。
さらに在庫 水準の引き下げや、拠点間のムダな横持ち業 務の解消などといった施策を進めた。
パレットの統一など物流管理の?ルール整 備〞に本格的に取り組んだのもこの時期だっ た。
それまでハウスの物流は販売業務を補佐 する意味合いが強かったため、受注の締め時 間などが社内で統一されていなかった。
これ を「物流制度要領」としてルール化し、標準 化を図った。
九七年までの五カ年の取り組みによってハ ウスは、年間物流コストを約八億円減らすこ とに成功した。
そしてこの五年間を通じて同 社の物流管理は、明確に全体最適を目指す方 向へと変わった。
「当初は協力業者に値引き 要請などをするだけでコストを減らせた。
し ハウス食品の主な物流フロー 工 場 工場隣接物流拠点6カ所 全国6カ所 関 東 静 岡 東大阪 奈 良 福 岡 委託工場 配送センター 卸売事業者 取引先 店 舗 小売りの一括物流センター ※業務用は除く 全国11カ所 札 幌 仙 台 栃 木 首都圏×4 日岡 佐倉 TRC 瀬谷 小 牧 大 阪 岡 山 福 岡 二〇億円相当の物流コストを削減第二次プロジェクトの途上だった二〇〇〇 年七月に、ハウスは受注窓口を全国二カ所ま で減らして東西二拠点による受注体制を確立 した。
分散していた受注拠点の集約という意 味では一定のゴールに到達することができた。
この三カ年を通じて同社は物流コスト削減を 上積みし、一次と二次の累計で年間物流コス トを二〇億円減らすことに成功した。
絶対額として九〇年代初頭に年間一一〇 億円程度あったハウスの物流コストは、約一 〇〇億円まで減った。
残り一〇億円の削減分 は、従来の物流管理体制のままであれば増え ていたであろう金額を抑制した?みなし効 果〞だ。
その後も同社はコスト削減を続け、 「今年度は物流費が一〇〇億円を切ることが できた」(早川部長)という。
一〇年越しの物流改善を進めるなかで、従 来は存在しなかった問題も顕在化してきた。
一つは商品アイテムの多様化だ。
即席カレー を主力としている点は以前と同じだが、ハウ スの取扱アイテムは近年どんどん増えてきた。
二リットルのペットボトル入りのミネラルウ ォーターのような重量物から、スナックなど の嵩モノまで物流特性はさまざまだ。
過去にはさほど注力してこなかった「業務 用」に本腰を入れたことも物流部門にとって は大きな変化だった。
もともとハウスの製品 は一般小売店向けに強く、業務用の占める売 上構成は現状でも一割程度で しかない。
にもかかわらず業務 用のアイテム数は四七〇品目 と、全九二〇品目の半分を越 えている。
しかも業務用のアイ テム数は、最近五年間で一〇 〇品目以上も増えた。
業務用と一般向け製品の内 容そのものは、ほとんど同じだ。
だが、その物流特性はかなり異 なる。
卸取引を原則としている こともあってロットのまとまり やすい一般向けに比べると、業 務用は圧倒的に多品種少量に なる。
「業務用の外箱は無地の ものが多いため、ピッキングを するときには商品コードを頼り にやらざるを得ない。
なかなか作業効率が上 がらない」(ハウス物流サービスの錦戸富雄 東京営業所長)という悩みもある。
さらに「業務用はコストを抑えるために包 装を簡素化してある。
カレーのルーなどは真 空パックのまま段ボールケースに入れてあり、 内箱に入っていない分、段ボール箱を積み重 ねたときの強度が弱い」(ハウスの関根正次 物流部物流企画課長)という特徴がある。
こうした違いに対応するために物流センタ ーでは、業務用と一般を保管スペースも作業 も別々に管理する必要がある。
つまり業務用 のアイテム増は、その売上高の伸びからは考 JUNE 2003 52 かし、スタートから三年ほどするとそういう ネタは尽きてしまった。
製品の積み方を工夫 したり、仕組みを見直す必要がでてきた」(早 川部長)という理由が大きかった。
第二次となる九八年からの物流改善プロジ ェクトには、第一次の五カ年計画が長すぎた という反省に基づいて三カ年に期間を短縮し て臨んだ。
そして輸配送ネットワークの集約 などをさらに押し進め、一四カ所あった配送 センターを十二カ所まで集約した。
工場倉庫から配送センターへの商品補充の 仕組みも全面的に改めた。
従来、センターへ の補充は、支店からの発注と、販促計画など に絡んだ?割り当て〞に基づいて決めていた。
これを情報システムによる管理に変更。
配送 センターの在庫量が一定の水準以下になると 自動補充するようにした。
配送センターへの在庫補充を自動化した理 由はいくつかあった。
同社は九〇年代に入っ てから受注センターの集約を進めていたため、 補充の事務作業をこなす人員が物理的に不足 してきたという事情が一つあった。
また、支 店レベルで行っていた在庫に関する管理業務 を、本社レベルでコントロールするように変 えるという狙いもあった。
実際、この時期にハウスは、それまで支店 レベルに分散していた物流部門を本社組織に 改めている。
全社的な視点で物流管理に取り 組む姿勢を、組織面でも明確にしたといえる だろう。
「東京流通センター」内のハウスの配送センター、かなり自動化を推進 している工場倉庫と違いフォークリフトとラックだけのシンプルな庫内 えられないほど大きなインパクトをハウスの 物流部門に与えているのである。
このことが 同社が進めてきた輸配送ネットワークの見直 しにも多大な影響を与えている。
現在、ハウスは第三次改善プロジェクトと して二〇〇一年からの四カ年計画に取り組ん でいる。
配送センターの集約作業はすでに大 詰めを迎えており、首都圏の四つの配送拠点 の統廃合を進めようとしている。
昨年、大阪 に二カ所あった拠点を一つにまとめたことで、 同一エリア内に複数のセンターがあるのは首 都圏以外にない。
ここでの拠点集約にメドを つければ、ネットワークの見直しはおおむね 完成することになる。
だが集約後に首都圏の配送センターをどの ように配置するかは、業務用の製品管理を今 後どうするかによって変わってくる。
多品種 少量を扱う業務用では、在庫管理の効率を高 めるために一般向けとは異なる管理方法をと る可能性があるためだ。
理屈のうえでは配送 エリアを一般向けとはまったく別に設定した 方が全体の効率は高まる可能性がある。
実際、首都圏の四つの拠点のうちの一つで ある東京流通センター(TRC)では、すで に現状でも業務用については関東・甲信越を 一手にカバーする体制になっている。
これは 地方の配送センターが、一般向けと業務用の 配送エリアを同一に設定しているのに対して 異例だ。
今後、業務用のビジネスをどこまで 拡大していくのか、その時期はいつになるの か――。
その戦略次第で配送センターに求められる要件が大きく変わってくるのである。
こうした事情があるため首都圏の四センタ ーの集約は、物量と配送距離に応じて単純に 規模を適正化すればいいというものではない。
そこで同社は現在、TRCを業務用の専用拠 点として残し、それ以外に一般向けを集約し たセンターを一つ残すという案を検討してい る。
この方針が最終的に選択されるかどうか はまだ流動的だが、近い将来、ハウスの物流 部門が最終方針を定めて、これに基づいてハ ウス物流サービスが具体的な物件探しを進め るという手順は間違いない。
物流管理からロジスティクスへ いま取り組んでいる四カ年計画では、これ まで協力物流事業者ごとにバラバラだった運 賃体系の見直しも進めている。
従来のハウス は、各地の支店ごとに物流業者と契約を交わ していた。
だが二年前にハウス物流サービス を全体の元請け企業としたことで、全国レベ ルで運賃体系を統一できる状況が生まれた。
現在、同社は「まず我々の側がハウス流の 運賃体系を作り、これを元に個建てや車建て など条件がまちまちだった運賃体系をシンプ ルにしようとしている」(早川部長)。
すでに 福岡地区ではトン・キロ制を柱とする新しい 運賃体系を試している。
今後は福岡での様子 を見ながら、新体系を全国に展開していく方 針だという。
各地の配送センターで個別に活用していた 情報システムの標準化も進めている。
従来は 熟練した作業者にしかできなかった業務を、 パート作業員にもこなせるようにするという 狙いがある。
サプライチェーン・マネジメン ト(SCM)にも本腰を入れる。
来春をメド に稼働予定のマニュジスティックス社のSC Mソフトは、ハウスの物流管理のあり方を大 きく変える可能性を秘めている。
過去に同社が取り組んできた物流改善プロ ジェクトは、輸配送ネットワークや運賃体系 の見直しなど個別の物流機能を対象とするも のが大半だった。
しかし、すでに進行中のS CMプロジェクトでカバーしている業務範囲 は、ハウスの物流部がこれまでに担ってきた 領域とは比較にならないほど広い。
「以前から製販調整の支援のようなことは してきた。
しかし、今後は我々が主体になら なければいけないと考えている。
場合によっ て組織変更を含めて検討していく必要がある かもしれない」と早川部長も従来との違いを 示唆する。
SCMに取り組むことで、ハウスは現状で は約二五日分ある在庫を三割ほど圧縮したい 考えだ。
これを具体化するために、二〇〇五 年までの四カ年計画で取り組み中の物流改善 プロジェクトを途中で見直すことも視野に入 れている。
ハウスの物流管理は現在、ロジス ティクスの段階へとステップアップしようと しているといえるだろう。
(岡山宏之) 53 JUNE 2003

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