ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年4号
CLO
米国流の導入で在庫を六割減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2003 60 庫増の原因などという冗談みたいな話 で終わっていた。
これがロジスティクスに関する調整 機能を私の所属する部署に統合してか らは、そうはいかなくなった。
すべて の判断をこのセクションでやるわけだ から、結果に対する責任も全面的に担 わなければならない。
それだけに、私 も一緒にやっていた担当者も必死だっ た。
そりゃあ、真剣にもなる。
在庫が 減らなければ、「なぜ正しい判断を下 さなかったのか」と全社的に責められ てしまうのだから。
AGFでは毎月、業務のレビュー会 議を開催している。
ここで在庫の削減 状況についても報告するのだが、結果 に対する責任はすべてロジスティクス 部門が負っている。
標通りに在庫が減らなくても、責任が 誰にあるのかをハッキリさせるのは容 易ではなかった。
例えば、ある販売部門で在庫が多く なってしまった原因を追求するとしよ う。
まず最初に製造部門に「作り過ぎ たんじゃないの?」と聞くと、製造担 当者は「違うよ、生産管理から作れと 指示された」という。
そこで生産管理 の担当者に確認すると、「営業がこれ ぐらい売れると言っていた」という。
仕方なく営業に尋ねると、「このタイ ミングで広告を打つ予定だったのだけ ど、製品への反応がいま一つだったた め中止した」とにべもない。
ようするに堂々巡りだった。
結局、 社内では誰も悪くないことになってし まい、挙げ句の果てには天候不順が在 味の素ゼネラルフーヅ(AGF)は 八〇年代後半に、米国流のロジスティ クスを全面導入した。
最初は半信半疑 のスタートだったが効果は抜群。
八七 年と九二年を比較すると、五年間で六 割以上も在庫が激減した。
AGFがロ ジスティクスの導入に成功した最大の 理由は、トップの強い意志にあった。
機能統合で明確になった責任 前号でも書いたように、AGFは一 九八五年にクラフト流のロジスティク スの全面導入に踏み切った。
三段階か らなる導入ステップのうち、二番目の 「需給調整機能の統合」では、社内の 十数部門に分散していたロジスティク スに関する機能と人材を当該セクショ ンに集めた。
これは三段階のなかで最 も困難な作業だった。
当初は、私が部長を務めていた情報 物流部に機能だけを集めてくることも 考えた。
しかし、すべてを私と一部の 担当者だけで管理するのは現実的では ない。
そこで業務を担当していた人材 ごと集めるという発想に切り替えた。
とは言え既存の担当者をそのまま寄せ 集めるだけでは、こちらもやりにくく て仕方がない。
部門によっては担当者 を変えたケースもあった。
こうして需給調整に関する機能の統 合が進んでくると、AGFのロジステ ィクスは徐々にそれらしくなってきた。
従来と比較して何よりも変わったのは、 責任の所在が明確になったことだ。
機 能が各部門に分散していたときは、目 味の素ゼネラルフーヅ 常勤監査役 川島孝夫 米国流の導入で在庫を六割減 《第5回》 61 APRIL 2003 米国流のロジスティクスを導入する にあたって、当初、我々は五年間で在 庫を五〇%削減するという目標を掲げ た。
もともとの在庫水準が一・二カ月 分と多かったこともあり、クラフトも 「AGFのレベルであれば毎年一〇% ずつ在庫を減らせる」と言ってきた。
実際、ロジスティクスの導入効果はて きめんだった。
機能統合にメドが立ちつつあった八 七年からの五年間で、AGFの在庫は 従来の五・一週間分(三五・七日分) から二・二週間分(一五・四日分)へ と激減した。
掲げていた在庫五〇%減 という目標をクリアしたばかりか、六 割近くも在庫を減らすことができた。
この間にAGFの売上高が伸びていた ことを考えると、在庫削減の絶対額は 事前に想定していた目標を大きく上回 るものだった。
在庫削減に成功した結果、物流コス トも大幅に減った。
従来、対売上高比 率で五・五%だった物流費は三・四% に改善した。
全国に二五カ所あった物 流拠点も八カ所まで削減。
現在これを 四カ所に減らす取り組みを進めており、 将来的には二カ所まで減らしたいと考 えている。
在庫水準に大きな影響を与えるアイ テム数の削減も進めた。
売上高を伸ば しながら、業務用を除く通常品のSK Uを三割減らすことができた。
また、 全国五三カ所の支店・営業所に分散し ていた受注機能を一カ所に集約したこ とも、大幅な管理コストの低減につな がった。
最初は半信半疑で取り組んだロジス ティクスの導入だったが、クラフトの 言っていたことはやはり正しかったの である。
EDIの整備も不可欠の条件 大きな成果を手にしたAGFだが、 実はこれ以降、在庫水準はほとんど変 わっていない。
さらに先に進むために は、調達先や販売先まで巻き込んだ企 業間の取り組みが欠かせない。
換言す ればサプライチェーン・マネジメント(SCM)まで踏み込まなければ、成 果の上積みは難しい状況にある。
もっとも、この点はAGFも最初か ら充分に承知していた。
これは前号で 紹介したクラフトのSCMの進め方に 再度、立ち返ってもらうと理解できる はずだ。
クラフトはSCMの実現には、 まず第一ステップとしてロジスティク スとEDI(電子データ交換)に同時 に取り組まなければならないとしてい る。
この二つを完成させた上で初めて、 ECRなどによるサプライチェーン全 体の高度化へと進む。
AGFもこの方針を踏襲して、当初 からロジスティクスの導入と並行して EDIの構築に取り組んできた。
ED Iへの理解を深めることは、明日のC LO(ロジスティクス最高責任者)を 目指す皆さんにとっても必須条件と言 える。
ここでAGFのEDIの取り組 みについて概略を説明しておく必要が あるだろう。
八三年に日本チェーンストアー協会 は、JCA手順(現J手順)によるE DIを流通業界の標準として取引先各 社に提案した。
これを契機に流通シス テム開発センター内に「酒類・加工食 品企業間標準システム研究会」(通称: F研、AGFが一九年間座長を務め、 現在は約八〇社の酒類・加工食品メー カーが加盟)が発足。
同研究会に所属 するメーカー各社と日本加工食品卸協 会が共同でJCA手順に準拠した酒 類・加工食品業界のEDIを策定した。
AGFは、この標準形をいち早く導 入・活用してきた実績を持つ。
AGFがEDIの構築に着手したとき、まず取り組んだのが日常業務の標 準化だった。
一例を挙げると、受注締 め時間の問題があった。
一昔前であれ 在庫削減  ・在庫水準が5.1週間分→2.2週間分へ改善 ・在庫の一元的統合管理の実現 物流費削減  ・対売上高物流費比率が5.5%→3.4%へ改善 ・DC(在庫拠点)を25カ所→8カ所へ削減 SKUの削減 ・業務用を除く製品のSKUを30%削減 受注センターの統合 ・営業事務担当者を70%削減 図1 ロジスティクスの導入によるAGFの成果 (87年と92年の5年間を比較) 1 2 3 4 APRIL 2003 62 ば夜中まで受注できるようにするのは 企業の競争力などと言われていたが、 こうした行為は関係者すべてにムダな 業務を強いる。
そこでメーカー側の受 注は午前十一時で締めて、翌日に着荷 させるという業界標準が作られた。
A GFもこのルールに従った。
また、データのヒモ付けに使うとい う意味で最も重要な「照合キー」に関 するルールも整備した。
照合キーに 「発注番号」を使うことを定め、これ を出荷案内や請求の際にも一貫して使 う。
そのうえで照合業務そのものは日 常業務から極力、排除した。
取引先ご とにバラバラだった帳票類も一定のフ ォーマットに統一し、処理後にプリン トアウトした伝票を郵送で送っていた 習慣は廃止した。
実際のデータ交換は専門のVAN会 社を介して行うようにした。
情報の送 受信をメーカーが卸売業者や小売業者 と直接やると、どうしても融通を利か せるケースが出てくる。
こうした個別 対応を許し始めると、せっかく業務を 標準化した意味は大幅に薄れてしまう。
VANを中間に入れることで、このよ うな事態を防ぐことができる。
VANには送信されたデータを一定 期間、保有するという役割もある。
あ る卸がメーカーに発注を出すと、いっ たんVANがデータを預かる。
これを メーカーが決められた時間にチェック するまで保有し、一回閲覧すると自動 的に消えてしまうようになっている。
関係者以外に情報を漏らさないように という配慮である。
複数の加工食品メーカーが共同で出 資・運営している「FINET」とい うVANには、現在、日本国内の主要 な加工食品・酒類メーカーがすべて加 盟している。
一部の例外を除けば、加 食業界のオンライン業務の大半がここ で処理されている。
日常的に五種類の オンラインシステムが稼働しており、 ?受発注、?出荷案内、?販売実績、 ?商品案内、?在庫報告――のやりと りが可能になっている。
ロジスティクスの導入と同様に、A GFがEDIの構築によって得たメリ ットも大きかった。
手作業と紙伝票で 業務を処理していたときには、情報の 伝達ミスや誤出荷などの発生がどうし ても避けられなかった。
しかも従来は 複数の発注を処理するなかで一件の誤 出荷が発生すると、すべての出荷内容 を再確認しなければならなかった。
多 くのムダが発生していた。
情報のやりとりをEDI化したこと で、こうしたミスは激減した。
結果と して担当者は、在庫管理の精度の向上 や業務プロセスの高度化といった本来 やるべき業務に時間を割けるようにな った。
さらに間接業務や間接要員を大 幅に減らせたため、多額のコスト削減 にもつながった。
今後、EDIを本格的に導入しよう という企業は、まず第一に作業のコス 図2 EDIの目的と効果 1 2 3 4 企業間関係の改善 日常業務の標準化 ・日常的な受発注業務と出荷業務の標準化――11時締め、翌日着荷 ・データ照合キーの標準化――――― 発注番号(Turnaround方式) 間接業務と間接要員の削減 ・照合作業および要員――――――請求、買掛管理業務のEDI化 ・郵送業務および要員――――――請求、出荷案内郵送のEDI化 ・帳票、伝票、アウトプット類――業界標準の設定 日常業務の質的向上 ・欠品、誤出荷、誤配送の改善―― EDI受発注、情報の共有化 ・在庫管理の改善 ・経費削減 図3 EDI推進のポイント 1 2 3 4 どこから始めるか? ・日常業務の標準化 なぜEDIを推進するのか? ・トータルコストの削減(とくに間接業務コスト削減) ・欠品、誤出荷、誤配送のゼロ化 ・日常業務の質的向上 ・企業間関係の改善 具体的なポイントは? ・取引先と自社の双方が計量化できる業務から着手 問題が起こるのは? ・現行業務とEDI化後の業務の対比・確認の不足、  およびそのルール化の不備 63 APRIL 2003 トを定量的に把握しておく必要がある。
現状で郵便代が何円、電話代が何円、 担当者人件費は何円という具合にコス トを把握し、これを取引先とシェアし ておけばEDIによるメリットを正確 に評価できる。
また、EDI化で業務 手順がどう変わるかをマニュアル化し ておくことも、トラブルを未然に防ぐ 大切なポイントといえる。
最大の成功要因はトップの意志 ロジスティクスとEDIの整備にメ ドをつけたことで、AGFの業務は大 幅に効率化された。
もっとも私がロジ スティクスとは何なのか、どうすれば 導入できるのかを本当に理解できたの は、八五年の導入開始から三年ほど経 てからだった。
関連機能の統合を完了 したのとほぼ同時期の話だ。
実際、その後の一年間でAGFは在 庫を十数%減らし、私は改めてロジス ティクスの威力を思い知らされた。
メ ーカーにとって在庫を減らすというの は、言い換えれば?作らない〞ことに 尽きる。
売り上げに大きな影響を与え ないように配慮しつつ、?作らない〞 という判断を思い切って下す必要があ る。
これさえ実現できれば在庫は確実 に削減できるし、物流コストも間違い なく減る。
しかし、実はこの判断を下すのが極 めて難しい。
仮にロジスティクス部門 に生産計画を作る権限が与えられてい たとしても、販売計画などを調整する 権限まで持っていなければ責任のある 判断は下せない。
現業部門に多くの権限を委譲してい る一般的な日本のメーカーにとっては、 生産ラインを止めるという決断はとく に難しいはずだ。
たいていの企業は、 かつてのAGFがそうであったように、 できない原因を自分たち以外の要因に 求めてしまうのが関の山だろう。
AGFがロジスティクスの導入に成 功した理由は大きく三つある。
その一 つで最大の要因でもあったのが、トッ プの強い意志だ。
ロジスティクスの導 入ステップのなかで最難関の「需給調 整機能の統合」では、社内に新しい組 織を作り、そこに大胆に権限を委譲す ることが欠かせない。
こうした組織改 革は、トップの明確な意志なくして実 現できるものではない。
二つ目は、KPI(経営管理指標) を中心とする、日常的なレビュー体制 の構築だ。
ロジスティクスはいったん 導入すれば終わりというものではない。
継続的に全社員が取り組まなければ成 果にはつながらない。
戦略を担う部署だけが躍起になるのではなく、実務を 担う現場が機能する運営体制を組む必 要がある。
そのためには、きちんと目 標を設定し、管理していくことが重要 なポイントになる。
そして三つ目の成功要因として私は、 こうした運営体制をバックアップする ために、人事考課の目標管理の一つと してロジスティクスに関する項目を入 れてしまうことを薦める。
次号では、ロジスティクス導入後の こうした運用体制について詳しく説明 する。
(かわしま・たかお) 66年大阪外語大学ペルシャ語 学科卒業・米ゼネラルフーヅ(GF)に入社し人事部 配属、73年GF日本法人に味の素が50%を出資し合弁 会社「味の素ゼネラルフーヅ(AGF)」が発足、76 年AGF人事課長、78年情報システム部課長、86年情 報物流部長、88年情報流通部長、90年インフォメー ション・ロジスティクス部長、95年理事、2002年常 勤監査役に就任し、現在に至る。
日本ロジスティク スシステム協会(JILS)が主催する資格講座の講師 なども多数こなし、業界の論客として定評がある。

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