ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年3号
ケース
日本トランスシティ――3PL

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

崩壊した倉庫業のビジネスモデル 「他社がどう考えているかは知らないが、当 社にとって倉庫業は土地の値段が下がらない ことが前提だった。
これが年率六、七%も下 落している現状では、とてもやっていけない。
もし土地まで時価会計で処理することを強制 されれば、毎年、大きな損失を出す格好にな ってしまう。
もはや従来型の倉庫業のビジネ スモデルは成り立たなくなった」 日本トランスシティ(トランシィ)で事業 戦略を統括する川合一明常務は、同社をとり まく厳しい経営環境をこう説明する。
一八九五年に創業した老舗物流業者のトラ ンシィは、四日市港での倉庫業務からビジネ スをスタートした。
その後、港湾運送業や陸 運へと業務領域を広げて総合物流業者への道 を歩んできたが、倉庫業への依存度は依然と して高い。
二〇〇三年三月期の連結売上高六 九八億円のうち、倉庫業の収入が二四五億円 (構成比三五・一%)を占めている。
従来のトランシィにとって倉庫業は、ある 意味で不動産ビジネスとしての側面を持って いた。
安い土地を購入して倉庫を建設し、周 辺の開発が進んでくるとその土地を売却して 差益を得る。
この資金を元手に再び物流に適 した土地を購入して、新しい倉庫を建てる。
こうした土地売買を繰り返しながら倉庫事業 そのものを拡大してきた。
トランシィが荷主から収受する保管料は、基 MARCH 2003 32 従来型の倉庫業から業態変革を模索 70億を投じたイオン向け案件が転機 中部地区を地盤とする大手倉庫業者、日本 トランスシティが業態変革を模索している。
イオンの3PLプロバイダーとして、東海地区の 大型物流センターの運営を請け負ったことを 転機と位置づけている。
昨年11月には「SC M営業部」を新設。
イオン向け事業で培った ノウハウをベースに、新たな営業展開を図る。
日本トランスシティ ――3PL 33 MARCH 2003 さを増す一方だ。
荷主企業の間で?在庫は悪〞とみなす風潮 が定着し、倉庫での保管ニーズそのものが減 っている。
にもかかわらず製造業の海外移転 が相次いだことで、国内における保管スペー スの供給余地は拡大し続けている。
さらに昨 年四月に実施された倉庫業法の一部改正は、 異業種からの参入を以前にも増して容易にし た。
従来型の倉庫業を営む事業者にとっては、 かつてない逆風が吹いている時代といっても 過言ではない。
イオン向け案件に七〇億円を投資 現在のトランシィの主要荷主である石油化 学産業は、すでにかなりの成熟化が進んでい る。
過去五年間の石化製品の生産統計を見る と、物量ベースでも、生産額ベースでも漸減 傾向にあることが分かる。
近年、取り扱いを 伸ばしてきた自動車産業についても、バブル 期をピークに国内生産は頭打ちの状態が続い ている。
トランシィにとっては、次世代の物 流事業の柱になる産業を掴まえることが急務 になっている。
そうは言っても、具体的にどのような業界 で、どんなサービスを提供していけばいいの か。
ちょうど同社が次世代に向けた営業戦略 を模索していた九八年に、イオンから声が掛 かった。
トランシィと同じく四日市で生まれ、 すでに日本有数の小売り業者に成長していた イオンの、物流改革を支える3PLプロバイ 本的に地価が維持されることを前提に設定さ れている。
保管料収入で土地への投資を回収 するという意識は低く、同社にとって倉庫業 というビジネス自体は決して利益率の高いも のではなかった。
それでも地価が上昇し続けて いた時代には有効なビジネスモデルだった。
これまで同社が追求してきたのは、いかに して成長産業を顧客として掴まえるかだった。
実際、創業から一〇〇年以上の歴史を持つト ランシィの主要取り扱い貨物は、およそ三〇 年周期で変わっている。
最初は四日市港とい う地の利を活かして穀物を中心に扱った。
次 は羊毛などの繊維原料を手掛けた。
高度成長 期には石油化学産業の取り扱い物量を伸ばし、 その後は自動車産業にも手を拡げて現在に至 っている。
「我々の先輩は、その時代、時代に脚光を 浴びた産業に上手く乗っかってくれた。
そう やって築き上げられた財産があったからこそ 長く商売を続けることができた」(川合常務)。
しかし、昨今の倉庫業を取り巻く状況は、地 価下落という要因を脇に置いたとしても厳し ダーとして参加しないかという主旨だった。
同郷ということもあってトランシィとイオ ンの付き合いは深い。
大阪の子会社を通じて、 トランシィは約二〇年前からイオンに物流サ ービスを提供してきた。
さらに九六年からは、 現在、イオンが進めている「戦略物流構想」 の実験版ともいえるプロジェクトを物流業者 として支えた経験もある(本誌二〇〇一年七 月号参照)。
物流コンペの結果、トランシィは日立物流、 福山通運、センコーとともに常温分野の3P Lパートナーの一翼を担うことになった。
具 体的には「イオン中部RDC」と「イオン静 岡XD」の二カ所を担当することが決定。
す でに両施設は昨年十一月に稼働している。
このうち「イオン中部RDC」は、イオン が構築中の全国一九カ所三九拠点の物流セン ターのなかでも、大阪、関東に次いで三番目 の規模を誇る大型拠点だ。
五万八六五四平方 メートルの敷地に、延べ床面積三万五七四〇 平方メートルの四層式の建物が立っている。
施設内にはシュート八一本を備える自動仕分 け機も導入した。
中部RDCは将来的に「通過貨物の量が年 間二〇〇〇億円以上」(トランシィの鍋田雅 久社長)になることを予定している。
愛知・ 静岡・三重・岐阜にあるイオングループの各 店舗に商品を供給するだけでなく、中部地区 にあるイオンの調達先から商品を集荷して、 これを全国に送り出す機能も備えている。
「イオンさん向けの業務を業態変 革のトリガーにしたい」とトラ ンシィの川合一明常務 MARCH 2003 34 ンに扱ってきた。
これがイオン向けの案件では一転、消費財を大規模に扱うことになる。
消費財分野で事業を拡大していくためには、 生産財の扱いを前提に整備してきた既存のイ ンフラを変えていかなければならない。
その うえで、従来は倉庫、港湾、陸運と機能ごと にバラバラに提供していたサービスを、トー タルに提供できる体制を整える必要がある。
そのための専門部署として、トランシィは昨 年十一月に「SCM営業部」を新設した。
SCM営業部を設立した狙いについて川合 常務は、「あくまでもサプライチェーンを管理 するのは荷主さんで、これをロジスティクス の面から支援するのが当社の役割。
本音を言 えばSCL(サプライチェーン・ロジスティ クス)営業部としたかったのだが、それでは 一般的ではない。
このためSCMという言葉 を使っている」と説明する。
もっともSCM営業部のクライアントは、 まだ現状ではイオン一社に過ぎない。
同部の 責任者である森善良取締役は、「イオン中部 RDC」の運営会社であるトランスシティロ ジスティクス中部の社長も兼務しており、現 時点ではイオン向けの専門セクションという のが実態だ。
トランシィとしてはイオン向け の案件を軌道に乗せることで、ノウハウを蓄 積し、まずは消費財分野で横展開を図ろうと いう狙いがある。
「イオン中部RDC」の運営を、トランシ ィ本体ではなく関連会社が手掛ける体制にし た理由の一つは、作業者の労 務管理における柔軟性の確保 だった。
トランシィ本体の勤務 形態は原則として九時から一 七時までの一直制となっている。
ここからはみ出す業務について は、基本的に残業扱いで処理 する必要がある。
一方、イオンのセンターは三 六五日稼働のうえ一日三直制 の二四時間稼働だ。
こうした勤 務形態をトランシィ本体で実現 しようとすれば、労使の調整など超えなけれ ばいけないハードルが少なくなかった。
しか もイオンの業務はスタート時期が明確に定め られており、労使が条件面で妥結できないか らといって遅延することは許されない。
「流通分野でビジネスを展開しようとすれば、 当社の労働条件が合わないことは分かってい た。
しかし、長い歴史を持つトランシィ本体 のやり方は簡単には変えられない。
どうして も時間がかかる。
今回、これを別会社化した ことで多くの実験的な試みが可能になった。
ここでの取り組みを我々の業態変革のトリガ ーにしたい」と川合常務の意気込みは大きい。
すでにトランシィは、昨年十一月に稼働し た「イオン中部RDC」での経験を通じて多 くのことを学んでいる。
小売りの大規模セン ターの運営、一般の倉庫業とは比較にならな いほど複雑な3PL契約の折衝、数百人にの トランシィはこの施設のために約七〇億円 を投資した。
主な内訳は四日市ハイテク工業 団地の敷地内に購入した土地代が約二八億円。
建物とマテハン設備に約三〇数億円。
さらに 昨年一月には、中部RDCを運営するための 専門組織として「トランスシティロジスティ クス中部」という会社を資本金四・五億円で 設立している。
中部RDCへの投資は、「当社の歴史のな かでも最大規模の案件。
長期的に累計投資額 が一〇〇億円を超える案件は他にもあるが、 今回のように単一の案件で、しかも短期間に 七〇億円もの投資をしたのは初めて」(川合 常務)というほど、同社にとっては大型の案 件だった。
「業態変革の引き金にする」 リスクをいとわずにトランシィがイオン向 け3PL事業に参画した狙いは明確だ。
次世 代の事業の柱を模索中の同社にとって、流通 分野の3PL事業は今後の成長が見込める数 少ない有望分野。
小売業者のなかで最先端を 走っているイオンと組むことは、トランシィ 自身がこの分野でライバルに一歩先んじるこ とにつながる。
現在、トランシィは二〇〇二年度からスタ ートした三カ年の中期経営計画に取り組んで いる。
なかでも重点施策の一つとして「消費 財物流」の強化を掲げた。
前掲のように過去 の同社は、素材をはじめとする生産財をメー年 間 の 商 品 通 過 金 額 2000億円以上を予定し ているイオン中部RDC ぼるパートやアルバイトの労務管理――。
こ れまでの同社にはなかったノウハウを着実に 蓄積しつつある。
生産性向上が目下の課題 同社がイオン向け業務の庫内作業の難しさ に本当に気づいたのは、中部RDCより三カ 月早く稼働した「イオン兵庫RDC」を見学 したときだった。
大量のパートやアルバイト が働く姿を目の当たりにして、自分たちがや ろうとしている仕事の大変さを改めて実感し たという。
危機感を持ったトランシィは、従 来は経験のなかったやり方で人材教育に乗り 出した。
まず兵庫RDCを運営する日立物流に依頼 して、庫内作業の様子をビデオなどで徹底的 に撮影した。
こうした情報をもとに、パソコ ン教室などを運営している業者とともに庫内 での作業手順を教えるための教材を作成。
実 際に就労予定のパート社員に対して大がかり な事前教育を実施した。
「約四〇〇人を対象に一人延べ十二時間の 研修を行った。
半日の座学に続いて、その後 は何百個という段ボール箱を使って実地訓練 をした。
パートさんの中にはハンディターミ ナルにさわるのが初めてという人もいる。
こ うした人たちを何人かごとの班に編成して、 各班で作業スピードを競ってもらうといった 工夫をしながら進めた。
パートさんに支払う 時給や教材を作ったりするだけで数百万円か かった」と川合常務。
現場での実地教育(O JT)を基本としてきた従来では考えられな いやり方だった。
準備の甲斐あって、中部RDCの立ち上げ は極めてスムーズに行うことができた。
稼働 から二カ月後に訪れた年末繁忙期にも、事務 処理こそトランシィ本体から多くの社員が応 援に駆けつける必要があったが、現場作業は ほとんど混乱しなかった。
同社にとっては、 こうした大型案件をこなす際の「大きな成功 体験」を得ることができた。
中部RDCではIT活用にも独自の工夫を 凝らしている。
庫内作業自体はイオンが指定 した日立製作所製のWMS「HITLUS TER」に基づいて予め標準化されている。
しかし店舗配送やベンダーへの集荷のための 配車管理については、トランシィにオペレー ションの方法が委ねられている。
つまり、こ の部分の業務の生産性がトランシィの収益に 直結することになる。
同社は中部RDCの稼働に合わせて、独自 の配車管理システムを開発した。
担当した情 報システム部の安藤仁物流企画グループリー ダーは、「WMSには商品をカートラックに 積み付けるまでの情報はすべて入っている。
しかし、そこから車両に積み込む作業を管理 するシステムがなかった」と事情を説明する。
新たに開発した配車管理システムには、W MSで作られる作業進捗のデータを大型ディ スプレー上に一覧表示するという特徴がある。
ここに配送先の店舗別に作業の進捗状況を表 示すると同時に、店舗への到着予定時間から 逆算して作業時間の余裕を色別に示すという 機能を持たせた。
緊急を要する場合は「赤」、 残り時間が少なければ「黄色」、まだ余裕が あるのであれば「青」という具合だ。
このディスプレーをにらみながら配車マン がトラックの手配を行う。
さらに同システム にはデータベースに蓄積した作業結果を統計 的に処理して、自動的に作業の生産性を高め ていく機能も作り込んであるという。
この他 にも、携帯電話を使ってベンダーへの集荷車 両を動態管理する仕組みもオリジナルの工夫 として導入した。
トランシィにとって当面は「中部RDCで の作業を完全に軌道に乗せるのが最大の課 題」(川合常務)になる。
しかし中部RDC で蓄積したノウハウは、いずれSCM営業部 の拡販ツールとして活用できる。
受け身にな りがちだった従来型倉庫業からの脱皮を図る トランシィの業態改革は着々と進んでいる。
(岡山宏之) 35 MARCH 2003 情報システム部の安藤仁物流企 画グループリーダーは「現場の ニーズをシステム化するのが 我々の役割」という

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