ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年11号
ケース
ダイトエレクトロン――現場改善

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

47 NOVEMBER 2004 需要拡大で処理能力が限界に ダイトエレクトロンは電子部品や半導体製 造装置などを販売する専門商社だ。
創業は一 九五二年。
九九年の店頭公開を経て、二〇〇 一年には東証・大証二部上場を果たした。
日 本国内の取引がメーンだが、近年は海外展開 にも積極的で、米国やドイツといった欧米諸 国をはじめ、マレーシアや韓国、中国などア ジア各国にも拠点を構えている。
デジタル家電市場の成長といった追い風を 受けて、ここ数年、同社の業績は堅調に推移 してきた。
当初、今期(二〇〇四年十二月 期)の連結売上高は前年同期比一五%増の 四六六億一二〇〇万円を見込んでいたが、八 月には上方修正を発表。
計画値よりも一八億 五五〇〇万円上乗せとなる四八四億六七〇 〇万円を達成できる見通しだ。
利益も大きく膨らむ。
経常利益は計画値に 比べ一七・六%増の一五億八三〇〇万円に。
さらに当期純利益は同五・四%増の六億九八 〇〇万円を計画する。
電子部品業界の活況は 今後もしばらく続くと見られており、さらな る業績の伸長が期待されている。
もっとも喜んでばかりはいられない。
電子 部品需要の急拡大が物流に多大な影響を及ぼ すようになってきたからだ。
同社は東京と大 阪にそれぞれ物流センターを用意。
需要家で ある組み立てメーカーの生産工場に製品を供 給してきたが、出荷量の急増に伴い、両拠点 「在庫が見える」新物流システムで 受注〜出荷リードタイムを大幅短縮 東証2部上場の電子部品商社。
今年5月、 新物流センター稼働に伴い、庫内オペレ ーションを刷新した。
情報技術を活用し た新物流システムの導入で納期短縮、出 荷ミス率の低減などに成功。
物流コスト 削減も進んでいる。
2年後には売上高物流 費比率2%の達成を目指している。
ダイトエレクトロン ――現場改善 NOVEMBER 2004 48 の処理能力は限界に近づいていたという。
ダイトエレクトロンでは物流センターのオ ペレーションをすべて手作業および紙ベース で行ってきた。
例えば、ピッキング作業は紙 ベースのリストを見ながらラックから対象製 品を抜き取る「リストピッキング」だった。
在庫管理もラックにぶら下げているリスト (棚札)にピッカーがピッキングした数を記 入していき、最後にリスト上の残数と製品の 実数を照合することで在庫数をチェックする 体制だった。
マンパワーに依存してきたため、出荷量が 増えるにしたがってピッキングや出荷の作業 でミスが目立つようになってきた。
作業終了 時間も遅れがちだった。
処理しきれない作業 の一部を外部の物流業者に委託するなど対策 を講じてきたものの、その分、支払い物流費 が増えてしまっていたという。
「現行のオペレーションのままでセンターの 一日当たりの処理件数を引き上げるのは困難。
お客さんや営業部隊に迷惑を掛けないように するためにも、将来の出荷量増をにらんだ抜 本的な物流改革が不可欠だった」と横山広男 執行役員商品仕入部長は説明する。
本社ビル内に新物流センター 今年五月、ダイトエレクトロンは大阪に新 物流センターを立ち上げた。
本社ビルの一階 から三階部分を利用した物流センターで、倉 庫面積は一七五〇平方メートル。
もともと同 社では西日本および中部地 区向けの出荷 を担当する大 阪の物流セン タ ー を 吹 田 市・江坂に構 えていたが、そ の機能をすべ て新センター に移管した。
新センター の特徴は、出 荷能力を高め るため、従来 のマンパワー中 心の庫内オペ レーションを、 マテハン機器 や情報システ ムを活用した オペレーション に切り替えた 点だ。
ただし、 自動倉庫や仕分け機のような重装備のマテハ ン機器や、大掛かりな情報システムを導入し たわけではない。
マテハン機器は垂直回転棚 やフォークリフト、情報システムはピッカー が携帯するバーコードリーダーといった程度 にすぎない。
投資額も総額で一億四〇〇〇万 円(建物の費用は除く)に抑えた。
「マテハンや情報システムへの投資はオペレ ーションの自動化が目的ではない。
センター で働く作業員をサポートして彼らの生産性を 高めるのが狙い。
部品商社が取り扱う製品は 時代によって変化していく。
必要最低限の投 パレットで平置きされた大物製品。
ケース 単位で動く製品はそのまま出荷スペースへ 納品先から指示される部品の組み合わせ方 法を作業机のパソコン画面で確認する ピッキングすべき部品が格納されている棚 が自動的に下りてくる仕組み 2階部分から搬送された製品と納品書を梱 包して出荷する 荷受け 作業机ピッキング 垂直回転棚ピッキング 荷合わせ・梱包 《新センターの作業フロー》 49 NOVEMBER 2004 資にとどめたのは、現行の取扱商品に合わせ てセンター内のシステムを組んでしまうと、 将来、その仕組みが陳腐化してしまう恐れが あるからだ」と総合企画部の川辺泰孝担当部 長は説明する。
新センターの内部を覗いてみよう。
製品を 荷受けしてから出荷するまでの作業フローは こうだ。
まず荷受けと格納。
メーカーから送られて くる製品をセンター一階部分に設けた入荷検 査場で検品する。
製品に不具合がなければ、 商品ラベル(現品票)を発行してカートンに 貼付。
その後、製品ごとに所定のラックに移 す。
一階部分のラックには大型部品やケース 単位で動く製品を、二階部分のラックには小 型部品やバラで動く製品を、そして同じく二 階部分にある垂直回転棚にはIC関連製品な どを格納する。
続いてピッキング作業。
大型品のうちパレ ット単位で動く製品はフォークリフトで、ケ ース単位で動く製品は人手によってピッキン グする。
二階部分の小型部品やバラで動く製 品は、?カートピッキングで処理。
ピッカーは指示されたロケーションに移動後、バーコ ードリーダーでラベルの二次元バーコードを スキャンしながら製品をラックから抜き取っ ていく。
ピッキングする順番はピッカーの動 線が最短になるように予め設定されている。
?「作業机ピッキング」は複雑で細かい作 業だ。
ピッカーはラックから複数の部品を取 り出し、作業机の上でそれらを一つにまとめ て(モジュール化)袋詰めする。
ピッカーは 納品先から指示される部品の組み合わせ方法 を作業机のパソコン画面で確認しながら作業 を進めていく。
?垂直回転棚からのピッキングは立体駐車 場の構造を思い浮かべればいい。
ピッカーが 指示された番号を入力すると、ピッキングす べき部品が格納されている棚が降りてくると いう仕組みだ。
ピッカーは降りてきた棚から 部品を必要数だけ取り出す。
?〜?でピッキングした部品は、同じ二階 部分にある荷合わせスペースへ運ばれる。
こ こで得意先別に製品を仕分けする作業などを 行い、最後に納品書を同封して一階部分の出 荷スペースに送る。
その後、梱包、検品など を済ませて出荷となる(写真参照)。
センター内で目をひくのは一階部分と二階 部分に設置されている大画面モニターだ。
ダ イトエレクトロンで「表示用アンドン」と呼 ばれている、このモニターはセンターで働く 社員たちに作業の進捗状況を伝えている。
そ の日の出荷予定数に対して、現段階で作業が どこまで終了しているのか。
どのエリアでの 作業が滞り気味なのか、といった情報が一目 で分かる仕組みになっている。
「アンドンに表示される情報は一分おきに 更新される。
その情報を見ながら作業を行い、 遅れているエリアには応援部隊を派遣するな ど柔軟な対応が可能になった。
作業終了の目 標時間に向かってセンターで働く作業員が協 力し合って行動できる」と横山部長は説明す る。
アンドンという言葉からも容易に想像でき るだろうが、新センターのオペレーションに はトヨタの「カイゼン」のノウハウが随所に 盛り込まれている。
実はセンターのレイアウ ト設計やマテハン機器の選定、システム構築 などは豊田自動織機が担当した。
ダイトエレ クトロンではセンター新設に際してコンペを 実施。
その結果、五社の中から豊田自動織機 がパートナーに選ばれた。
受注〜出荷を二日短縮 オペレーションの見直しでダイトエレクト ロンの出荷能力は飛躍的に向上した。
旧大阪 センターの取扱件数は二〇〇三年度、月間平 均で入庫が約一万五〇〇〇、出庫が約三万 四〇〇〇、在庫点数が五〇〇〇だった。
これ が新センターでは入庫が一万六〇〇〇、出庫 が四万一〇〇〇、在庫点数が五三〇〇にアッ プした。
将来の出荷増にも十分対応できる体 横山広男執行役員商品仕入部長 NOVEMBER 2004 50 制が整い、例えば出庫は七万件まで増えても カバーできるという。
出荷の精度も高まった。
紙ベースでの管理 を改め、バーコードを活用した作業に切り替 えたことで、ピッキングなどのミスが大幅に減った。
現在、出荷ミス率は従来の一〇分の 一に相当する〇・〇一%以下に抑えている。
物流コストの削減も進んでいる。
外部の物 流業者に委託していた倉庫業務を新センター に吸収したことで、支払い物流費が大幅に減 った。
新センター稼働後、月に約五〇〇万円 のペースでコストダウンに成功しており、年 間では計六〇〇〇万円を削減できる見通しだ。
今回の物流改善による最大の成果は受注か ら出荷までのリードタイムを大幅に短縮でき たことだろう。
従来、ダイトエレクトロンの 受注〜出荷のリードタイムは三日だった。
そ れがオペレーションの見直しで一日に、つま り二日の短縮に成功した。
受注の翌日には得 意先に製品を納品できる体制になった。
当日出荷分の受注締め切り時間は午後二 時。
ウェブ経由での発注なら午後四時まで。
かつては一日二回のバッチで受注情報を処理 していたが、これを一日当たり三〜六回の処 理に変更した。
それによってセンター内での 作業を平準化。
当日出荷を実現している。
一般に電子部品商社のリードタイムは三〜 四日かかる。
翌日納品に対応できているのは 全体の六割にも満たないと言われている。
そ れだけに競合他社に見劣りしないサービスレ ベルという意味で、翌日納品体制を確立でき たことは営業戦略上、大きなプラスとなるの は確実だ。
「リードタイムの短縮は得意先の部品在庫 削減につながる。
製品の価格面だけで他社と 勝負するのではなく、物流のサービスレベル という切り口で得意先との結びつきを深める ことができる」と横山部長は力説する。
なぜ本社ビル内なのか 当初、物流改善のプロジェクトチームでは 大阪の郊外に、広いスペースを有した平屋建 ての物流センターを用意する計画だった。
こ の構想に「待った」をかけて、本社ビル内に 物流センターを設置するという斬新なアイデ アを発案したのは同社の濱田博会長だ。
その 狙いは大きく分けて二つあるという。
一つは設備投資を抑えることだ。
新たに郊 外に土地を確保し、そこに物流センターを建 設すると、投資額は総額で数十億円を下らな い。
これに対して、本社ビル内にセンターを 設ければ、まず土地代が掛からない。
センタ ーとしての機能を持たせるため、ビルを高層 新センターにおける入出荷のタイムスケジュール 入 荷 オーダー 出 荷 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 入荷品仕分け 格  納 検品・梱包 出荷 現品票発行・貼付 入荷受付 得意先別にピッキング→仕分け センターで働く社員たちに作業の進捗状況 を伝える「表示用アンドン」。
作業の進み 具合を見ながら、応援部隊を手配できる 51 NOVEMBER 2004 化する必要はあるものの、建築費用は別途セ ンターを建設するよりも少なくて済むという 利点がある。
そして二つ目は営業マンに近い場所に製品 を置いておくことだ。
営業拠点と物流拠点が 離れた場所にあると、営業マンが製品を実際 に目にする機会がどうしても少なくなってし まう。
自身が販売している製品にはどのよう な特徴があるのか。
製品知識の豊富な営業マ ンを育成するためには営業と物流の拠点を一 体化させたほうがいいと判断した。
営業マンがデータ上だけではなく、自分の 目で製品の在庫状況をいつでも確認できる体 制にするのも目的の一つだ。
営業マンは実際 の在庫状況を常に把握しているため、得意先 から無理な注文を受けなくなる。
もともとダイトエレクトロンでは営業マン が自ら得意先に製品を届ける「商物一体」型のサービスを展開していた。
しかし会社の規 模が大きくなっていくにしたがって商物を分 離し、製品の配送を外部の物流業者に委託す るようになった。
ただし「本来は『商物一体』型を理想とし ている。
配達時に製品の特徴を説明できたり、 得意先の要望を直接うかがえるなど、きめ細 かいサービスが可能だからだ。
しかし現実に は取扱物量が多いため、営業と物流を分離せ ざるを得なかった。
商物分離でありながら商 物一体に近いサービスを展開するためにはど うしたらいいか。
その答えが本社ビル内に物 流センターを置いて、営業拠点と物流拠点の 距離を縮めることだった」と横山部長は解説 する。
新センター稼働から約半年が経過したが、 現在のところ大きなトラブルは発生していな い。
旧センターの作業員をそのまま引き継い だこともあり、庫内のオペレーションは安定 している。
新センターの当面の課題は作業の 処理スピードをさらに高めて、受注の締め切 り時間を延ばすことで、営業部隊に貢献する ことにある。
そして全社的には大阪で成功を収めた新物 流システムを東京のセンター、さらに海外拠 点に移植していくことが次のステップとなる。
ここ数年、ダイトエレクトロンの売上高物流 費比率は二・六〜二・八%で推移してきた。
濱田会長は物流改善のプロジェクトチームに これを二・〇%まで下げるよう求めている。
新物流システムの横展開に成功すれば、二年 後の二〇〇六年には目標値に到達できる公算 が大きいという。
(刈屋大輔)

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