ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年10号
特集
花王の「物流力」 在庫管理――見込み生産の限界を破る

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2004 16 未来は予測できるか 誰にも未来は予測できない。
それを前提にロジステ ィクスを構築すれば受注生産、あるいはかんばん方式 に行き着く。
しかし、これまで花王のような大量消費 財を製造するグローサリーメーカーにとっては、受注 生産はもちろん、かんばん方式でさえ現実的なモデル とは言えなかった。
「販売動向に合わせて生産する。
製販一体の考え方 自体はそれこそ三〇年近く前から日雑業界にも存在 した。
しかし、それを具体的に実行するための方法論 がなかった。
技術も未熟だった」と、花王のロジステ ィクス部門で需要予測を始めとしたSCMを担当して いる供給グループの関根史麿部長はいう。
関根部長は人口知能の研究開発やフロッピーディ スク工場のCIM(コンピュータ統合生産)の構築な どに携わってきたITのスペシャリストだ。
顧客から 要求された納期に間に合うように業務を設計するCI Mの構築はSCMそのものと言える。
その経験をかわ れて九七年にロジスティクス部門に招集された。
同じ 時期、関根部長の他にも数名のIT技術者が供給グ ループに集められている。
一方、需要を予測するには 最低過去二年、季節性を加味するには過去三年分の 実績データが必要だ。
九三年から試行錯誤しながら貯 め始めたデータがようやく活かせる段階になってきた。
基盤の整備と必要な陣容が揃ったことでロジスティク ス部門の情報活用にエンジンがかかった。
供給グループでは、まず全体の需給調整の仕組みを 工場の生産計画のための需要予測と、在庫型物流セ ンターに対する商品補充の二つの部分に分けた。
工場 と物流センターでは在庫政策の狙いが異なってくるか らだ(図1)。
工場の生産計画には整備や調達の制約上、一カ月 先までの予測が必要だ。
そしてムダな在庫を作らない ことが最大のテーマになる。
これに対して物流センタ ーの在庫管理は、調達面の制約が比較的小さく、何 より欠品を起こさないことが求められる。
そこから工 場の在庫管理の切り口を「予測型」、物流センターの それを「プル型」と位置付けた。
それまで工場では販売部門が月次で立てた販売計 画に基づいて生産計画を作成していた。
当時から製販 一体というコンセプトはあったものの、販売計画の精 度が低いために実態としては工場でも独自に見込み数 字を弾いていた。
同様に物流部門も独自の判断で各 センターの在庫レベルを決めていた。
各部門の動きが バラバラだった。
その同期化を図った。
「情報システム面から説明すると、かつての物流部 門は実行階層だけで仕事をしていた。
しかも人間系の 裏技が横行して部門最適に陥っていた。
全体を最適 化するにはその上部にある計画階層で同期をとる必要 があった。
さらにもう一つ、PDCAサイクルのCと D、結果のモニタリングと仕組みの見直しもロジステ ィクス部門の役割だととらえて、この二つの階層のシ ステムを構築した」と関根部長は説明する(十三頁図 1)。
システム開発の最大の課題は、精度が高く説得力 のある需要予測のロジックを作り上げることだった。
欧米系ソフトウェアベンダーが販売する需要予測ソフ トも吟味した。
あらかじめソフトに組み込まれた複数 のアルゴリズムから、その商品に最も適した手法を選 んでデータを入力すれば自動的に未来の需要が弾ける というパッケージだ。
しかし蓋を開けてみると、肝心のアルゴリズムがブ ラックボックスになっている。
なぜその予測結果にな 在庫管理――見込み生産の限界を破る 在庫を減らし、同時に欠品を抑える。
これまでの物流管理 の常識を覆すために、全く新しい需要予測と在庫補充のテク ニックを独自に開発した。
商品ライフサイクルに伴う売り上 げの変動や突発的な特売需要にも対応する日本市場型の需 給調整システムだ。
(大矢昌浩) 第2部 17 OCTOBER 2004 特集 るのか、ユーザーには全く分からない。
関根部長は 「実際の業務に使って他部門を動かすには、予測結果 が説明可能であることが極めて重要だ。
予測方法に透 明性と論理性を持たせる必要があった。
結局、自社 開発するしかないと判断した」という。
供給グループでは具体的なロジックを組み立てる前 に、需要予測の限界を明確にすることにした。
売り上 げの変動を季節変動、通常変動、イベントの三つに分 けた。
このうち季節変動と通常変動についてはロジス ティクス部門が予測数値に責任を持つ。
ただしイベン トは予測できない。
販路の拡大や特売による欠品は事 前に情報をもらえない限りロジスティクス部門では責 任を負えないというルールを決めた。
予測アルゴリズムの構築ではアイテム別の売り上げ のトレンドに注目した。
個別の店舗ベースで見ると、 日雑品の日々の売り上げ変動は極端に大きい。
しかし、 全国二一カ所の在庫拠点単位で見ると、季節波動は 毎年ほぼ同じ曲線を描き、通常変動も一定の幅に収 まっている。
在庫拠点の出荷実績を使えば精度の高い 予測が可能だった。
もちろん市場環境は毎年変化する。
しかし、それも 卸価格を予測に反映させることで、かなりのレベルま でクリアできる。
過去の実績から卸価格と販売数量の 相関関係を数値化することに成功したからだ。
販売部 門から卸価格の情報を入手すれば、価格変更に伴う 需要の変化を織り込むことができる。
アルゴリズムを独自開発 問題は新製品やモデルチェンジを迎えた製品の需要 予測だ。
これまで新製品の生産は先の売れ行きが読め ないため、発売前に多めに作り溜めしておくという措 置がとられていた。
しかし、実績データを分析すると 新製品の初期出荷にも一定のトレンドがあることが分 かった。
シミュレーションから一カ月先までの出荷量の予測 誤差は一〇%以内に収まることが確認できた。
新製 品であっても初期の出荷量を予測し、その後は実際の 売れ行きに合わせて計画を調整すれば作り溜めを減ら すことができる。
この方法を実行に移したことで同社 の新製品の在庫は以前と比べて約五分の一の水準に 激減した。
同様に生産終了を控えた製品の出荷トレンドにも 法則が見つかった。
工場では通常、モデルチェンジの 一カ月前に旧製品の生産を終了する。
そのため切り替 え時期には不良在庫が積み上がる一方、欠品も多発 するのが常だった。
新しいアルゴリズムを適用した結 果、欠品はほとんどなくなり、同時に売れ残りの在庫 が大幅に減った。
一方、物流センターの在庫水準は過去の実績から 安全在庫水準を設定し、在庫量が水準を割ったら自動的に補充するという仕組みだ。
ロジック自体は比較 的シンプルだが、拠点数二一×アイテム数約一〇〇 〇の在庫水準を常にウオッチしている必要がある。
そ のため結果を自動的にモニタリングして異常値が出た 時だけアラームを鳴らすシステムを構築した。
アラームの発生を受けてロジスティクス部門の担当 者が動く。
異常発生の原因を当該部門の担当者と検 討しながら、一つひとつ人間系で問題を潰していく。
このフィードバックによって全体の仕組みを日々ブラ ッシュアップしていく。
データベースを活用した新し いロジスティクス管理が着実に根付き始めた。
関根部 長は「データの活用はまた始まったばかり。
これから さらに展開を拡げていく。
アイデアはたくさんある」と 自信を深めている。
ロジスティクス部門 供給グループの 関根史麿部長 図2 花王のロジスティクス・ネットワーク 図1 工場と物流センターでは在庫管理の視点が異なる 原材料メーカー 工場(八工場) 物流拠点(二十一拠点) 消  費  者 小売店(九万) 小売店(十八万) 1億ケース/年 (15億本) 大型車 500台/日 24時間配送 小型車 1000台/日 代行店 2300店 チェーン 共配センター 250ブランド・1,000アイテム・年間1.2億ケース(17億個) 在庫制御 欠品制御 生産工場 物流センター 供給システム 予測型 (Prediction) プル型 (PULL) D=LT+RT 調達 補充 販売 ●未来予測 ●在庫の上下限 ●基準在庫 ●売れた分の補充

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