ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年7号
特集
パッケージングで勝つ パックメール・ジャパン――梱包ビジネス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2004 36 何でも送れる物流コンビニ 名古屋市中区に一風変わったコンビニエンスストア がある。
「パックメール名古屋店」――。
食品や日用 雑貨などを販売する一般的なコンビニとは異なり、物 流に関連した商品やサービスの提供に特化した?物流 コンビニ.だ。
コピーやビジネス書類の製本といった 事務サービスを請け負う「キンコーズ」などのビジネ スコンビニの物流版と考えればいい。
店舗を運営しているのはパックメール・ジャパン。
米国コロラド州に本社に置き、全米で約四〇〇店舗、 さらにメキシコ、ニュージーランド、ベネズエラ、カ ナダなどでも店舗展開するパックメール社の日本総代 理店だ。
直営の名古屋店は日本第一号店(アジア地 区初)で、九八年夏にオープンした。
現在、日本では 名古屋店のほかに、大阪と兵庫に店舗を構えている。
「パックメール」が提供しているサービスは大きく 分けて四つある。
一つは荷物の発送サービスだ。
一般 のコンビニと同様、店のカウンターで宅配便の発送を 受け付けている。
UPSやフェデックスなどの国際宅 配便も扱っているほか、自動車やバイクといった車両 の運搬、引越サービスなども提供している。
二つ目は私書箱のレンタル。
郵便物や宅配便を一 時保管するサービスだ。
料金は一ボックス当たり月額 一〇〇〇.四〇〇〇円。
法人や個人のビジネスサポ ート利用が中心だが、最近ではストーカー対策などプ ライバシー保護を目的とした活用も増えてきている。
三つ目は梱包資材の販売だ。
絵画用や自転車用な ど常時三〇種類以上の段ボールを取り揃えている。
荷 物の破損を防ぐための緩衝材の品数も豊富だ。
エアキ ャップ、クッション封筒、梱包用テープなども提供し ており、品揃えはホームセンターなどと比べても、ま ったく遜色がない。
そして四つ目は「パックメール」がもっとも力を入 れている梱包サービスだ。
どんな品物でも店舗に持ち 込めば、店員が綺麗に、しかも壊れないようにきちん と梱包して目的地に発送してくれる。
段ボールへの箱 詰めのみならず、大きいものや重いもの、壊れやすい ものについては木枠梱包も請け負っている。
「パックメール」の梱包サービスは「どんなものでも、 どこへでも」をモットーとしている。
実際、店舗では 法に触れない範囲であれば、どんなものでも梱包、発 送してきた。
これまでに研究用のメダカの卵、盆栽、手 作りチョコレート、仏壇、さらに食べかけの西瓜や、海 外のオークションに出展する総額四〇〇〇万円のシャ ガールとピカソの絵画などを扱った経験があるという。
料金はハンドリング手数料という名目で作業時間 一分につき八〇円で設定されている。
例えば、ガラス 食器の梱包に五分掛かるとしたら、料金は八〇円× 五分で四〇〇円となる。
商品ごとに目安となる作業 時間が予め提示されており、利用者は安心して梱包を 依頼できる。
作業時間のオーバーは店側の責任で、利 用者は追加料金を負担する必要はない。
破損や紛失 といった荷物事故も保険できちんと補償している。
梱包サービス自体は決して珍しいものではない。
メ ーカーなど企業を相手にした梱包サービスを生業とし ている物流会社は少なくない。
しかし、「パックメー ル」のように企業はもちろん、他の物流会社が敬遠し がちな一般消費者発の梱包までをターゲットにしてい るケースは稀だ。
「プロの手によってきちんと梱包してもらいたいとい うニーズは昔からあったはず。
しかし今まで日本には このようなサービスが存在しなかった。
そもそも日本 では梱包の料金体系が曖昧だった。
企業向けのサービ パックメール・ジャパン――梱包ビジネス 全米で約400店舗を展開する梱包専門業者「パックメ ール」の日本総代理店。
物流コンビニという看板を掲げ て、98年に日本上陸を果たした。
どんなモノでも梱包、発 送する米国仕込みのノウハウを武器に、日本での店舗網 拡大を目指している。
(刈屋大輔) 第4部ケーススタディ 特集2 パッケージングで勝つ 37 JULY 2004 スではメーカーなど梱包を依頼する側によって料金が 決められているケースも少なくなかった」とパックメ ール・ジャパンの澤田貞雄専務は説明する。
「郵便局を開きたかった」 米国生まれの「パックメール」を日本に輸入したの はサワタ産業だ。
同社は愛知県でゴルフ練習場の運営 や不動産ビジネスなどを手掛けている。
社名からも推 察できるだろうが、サワタ産業はパックメール・ジャ パンの澤田専務の実家にあたる。
「パックメール」は サワタ産業の一事業部という位置付けで、事業化に 踏み切ったのは澤田専務だった。
実は当初、澤田専務が興味を持っていたのは「パッ クメール」ではなく、郵便局だった。
ある日、澤田専 務は近所の郵便局に出向いた際、海外に郵送できる 荷物には大きさに制限があることを知った。
澤田専務 は料金を支払えば、郵便局ではどんなものでも運んで くれると認識していただけにとても驚いたという。
民間の物流業者を使えば規格外の荷物でも輸送し てもらえる。
ただし宅配便に比べ料金は割高だ。
し かも郵便局と同様、物流業者も規格外の荷物を受託 することには消極的。
トラックの積載効率が悪くな るなど、規格外の荷物には不都合な点が少なくない からだ。
しかし、澤田専務はこうした現実にビジネスチャン スの臭いを感じ取った。
規格外の荷物の輸送を引き受 けてくれない郵便局に不満を抱いているユーザーは少 なくないはずだ。
何でも送れる便利な郵便局があれば、 きっと喜ばれるに違いない。
現存しないのであれば、 新たに用意すればいいと考えるようになった。
簡易郵便局であれば、誰でも開設できる。
知人から そう聞いていた澤田専務は早速、東海郵政局に出向 いて主旨を説明した。
しかし、郵政局の担当者の対応 は冷ややかだった。
「既に愛知県内には郵便局が十分 あるから、あなたにやってもらう必要はない」。
申し 出は一蹴されてしまった。
しかし、諦めきれずにインターネットで色々と調べ ていると、自分がイメージしていた内容とほとんど変 わらないサービスを提供している企業を見つけた。
そ れが米国のパックメール社だった。
FC(フランチャ イズ)方式で全米各地に「パックメール」を展開。
ど んなモノでも梱包、発送できることをセールスポイン トに急成長を遂げている、と紹介されていた。
「パックメール」のサービスは日本でも絶対に受け 入れられる。
そう確信した澤田専務はすぐに米国に飛 んだ。
ロサンゼルスで開催されるフランチャイズ関連 の展示会にパックメール社が出展するという噂を聞き つけたからだ。
「パックメール」のビジネスモデルとは どういったものなのか。
渡米はそれを自分の目で確か めるのが目的だった。
帰国後、「パックメール」を日本で事業化したいと いう意向を米国本部に伝えた。
すぐにオーケーが出た。
米国本部と詳細を詰めて正式な契約に漕ぎ着けたの は渡米から二カ月後。
最終的に澤田専務は日本にお ける店舗展開をすべて任される総代理店のポジション を手に入れることができた。
とはいえ、すぐに店舗をオープンできるわけではな かった。
パックメール社は開店の前に店舗のオーナー や従業員に約三週間の研修に参加することを義務付 けている。
この研修をパスしなければ、「パックメー ル」の看板を掲げることはできないというルールだ。
澤田専務は再び渡米。
「パックメール」のノウハウを ゼロから学んだ。
研修のメニューはパックメール社の経営哲学を理解 「パックメール」の名古屋店(左) 店舗運営マニュアルの一部(右) JULY 2004 38 することから始まり、マーケティング、加盟店や従業 員とのコミュニケーションの取り方など多岐に渡って いる。
その中でもとくに時間が割かれているのは「パ ックメール」が最大の売りにしている梱包サービスに 関する技術指導だ。
梱包作業の手順は商品アイテム ごとに細かく体系化されており、研修ではそれを基に 梱包の基礎を徹底的に学ぶ。
徹底したマニュアル戦略 「パックメール」の店舗運営はそれほど難しいわけ ではない。
基本的に本部が用意したマニュアルに沿っ て進めていけばいい。
一般にFCではブランドやサー ビスレベルを維持するため、詳細なマニュアルを作成 する。
その中でもとりわけパックメール社が加盟店向 けに用意するマニュアルは中身が緻密だという。
同社のマニュアルは営業、予算の組み方など経理の 関係、さらに顧客からのクレームの処理方法など店舗 運営に関するあらゆる領域をカバーしている。
例えば 営業。
企業、もしくは一般消費者にどうやってアプロ ーチしたらいいのか。
拡販に向けたイベントをどのタ イミングで実施すればより効果的か。
どのような業態 をターゲットにすべきか、といった具合に営業活動の 進め方が細かく記されている。
さらに圧巻なのは梱包に関するマニュアルのボリュ ームだ。
英語版で分厚いファイル七冊分に上る。
日本 語版になると、これに二.三冊プラスされた量となる。
「ド素人でもそのファイルに目を通せば、正しく梱包 できるくらい作業の手順が細かく指示されている。
し かも商品カテゴリーごとに作業の手順がきちんと決め られている」(澤田専務)という。
例えば、ダイニングテーブルであれば、?まずAタ イプのエアキャップで全体を覆い、?Bタイプの緩衝 材を用意して、?それらをCタイプの段ボールの中に 一緒に入れて封をする。
?ここまでの工程を二分間で 済ませるように、とマニュアルで定められている。
万が一、マニュアルに掲載されていない品物が店舗 に持ち込まれても心配しなくてもいい。
「マニュアル に載っている梱包方法は数え切れないくらい。
そのう ちのどれかを応用すれば、梱包できないものはない」 (澤田専務)からだ。
膨大な量のマニュアルを提供することで店舗運営を 支援しているパックメール社は、その見返りとして各 店舗からロイヤリティーを徴収している。
その額は 「公表されていない」(澤田専務)が、関係者によると、 店舗が代理店に支払うロイヤリティーが売り上げの 八%に設定されているという。
八%という数字は一般的なFCと比べるとやや割 高だ。
ただし、パックメール社では売り上げ目標を突 破した場合、八%のうち二%を店舗側に戻す成果報 酬型のロイヤリティー制度を採用している。
そうする ことで、加盟店は下請けではなく、パートナーである という同社の経営哲学を実践している。
大型梱包にターゲット 「パックメール」の一店舗当たりの年商は平均で三 〇〇〇万.五〇〇〇万円。
米国のトップクラスの店 舗で一億円程度だ。
これに対して、九八年夏にオープ ンした名古屋店の年商は現在、約五〇〇〇万円。
七 年目を迎え、収支も安定してきた。
オープン当初、名古屋店は荷物の発送サービスや梱 包材の販売を中心にビジネスを展開していた。
発送サ ービスでは個人や企業から荷物を集め、それを提供す ることで宅配便会社に大口割引を適用してもらう。
そ の差額を店側の取り分としてきた。
ただし、収入とし 「パックメール」のモットーは「どんなも のでも、どこへでも」荷物を送ることだ (写真はアンティークの壺) パックメール・ジャパンの 澤田貞雄専務 39 JULY 2004 ての規模は大きくなかった。
梱包材の販売も利幅は小 さく、それほど旨味のある仕事ではなかった。
店の経営が軌道に乗ったのは、梱包サービスに軸足 を置き始めてからだ。
とりわけサイズの大きな品物の 開拓に力を注いだことが奏功した。
サイズの小さな品 物を対象にした梱包の仕事には競合相手が多い。
しか も利幅は薄い。
これに対して、サイズの大きな品物は 競合が少ないうえに、一件当たりの粗利が大きい。
「も ともと梱包の仕事ではスモールパッケージを集めるこ とで少しずつ儲けていこうという発想だった。
それを サイズの大きな品物に特化する戦略に改めた。
他の梱 包業者が手を出さないようなニッチな分野にターゲッ トを絞することにした」と澤田専務は説明する。
これを受けて、名古屋店はオフィス街のど真ん中だ った中区栄二丁目から、少し外れの栄五丁目に店舗 を移転した。
旧店舗はビジネス文書の荷受けなどカウ ンター業務が中心で、梱包作業を施すためのスペース が十分ではなかった。
これに対して、新店舗ではバッ クヤードを広めに確保した。
それによって家具など大 型品の木枠梱包も可能にした。
営業戦略を見直したことで顧客層は変化しつつある。
従来は企業が中心だったが、最近では個人ユーザーが 増えて、その比率は半々になったという。
個人ユーザ ーからは梱包と一緒に、配送も受注できる。
しかもボ リュームディスカウントが要求される企業向けの仕事 に比べ、一件当たりの梱包の作業単価が高い。
個人 客の拡大は店舗の収益に好影響を及ぼしている。
「これまで日本で提供されてきた梱包サービスは料 金の算出方法が曖昧だった。
しかし当社の場合は料 金体系がシンプルで分かりやすい。
そのことが個人ユ ーザーの支持を集める要因の一つになっているのでは ないか」と澤田専務は分析する。
パックメール・ジャパンにとって当面の課題は現在 三カ所にとどまっている店舗網を拡大することにある。
今後一〇年間で各都道府県に一カ所ずつ店舗を設置 していく計画で、現在、FC加盟店を募集している。
まずは早い時期に東京進出を果たすことを目標に掲げ ている。
大阪の店舗(江坂ストア)を運営するのは地場の運 送会社である明神運輸だ。
自社倉庫の一部を改装し て「パックメール」を展開している。
もともと同社は 国内の輸送業務をメーンとしていたが、「パックメー ル」開始後は海外向けの輸送も請け負えるようになっ た。
「パックメール」のノウハウが本業の業容拡大に 一役買っているという。
一方、兵庫の店舗(尼崎ストア)は梱包会社の丸 一興業によって運営されている。
同社は木枠梱包を専 門とする会社で長年、大手エンジンメーカーの下請け として機能してきた。
「パックメール」を始めたのは 将来のビジネスに不安を感じたため。
店舗オープン後はお家芸である梱包に加え、新たに発送の仕事も受託 できる体制となった。
このように名古屋店以外の二店舗はいずれも運営 母体は物流会社だ。
従来のビジネスに限界を感じ、新 たなビジネスチャンスを求めて「パックメール」に駆 け込んできた。
これまでのところ、二店とも開業以来、 業績を順調に伸ばしているという。
「最近は物流会社からの問い合わせが多い。
膨大な マニュアルからも分かるように、パックメールには物 流サービスに関するノウハウが豊富だ。
そのノウハウ を得るだけでも物流会社にとって大きなメリットにな るはず。
パックメールは業態転換を目指す物流会社 にはピッタリの事業だ」と澤田専務はアピールする。
特集2 パッケージングで勝つ 最近は大型梱包の受注に力を入れている

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