ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年6号
特集
ロジスティクスの手引き 物流コスト削減はこれからが本番

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2004 14 「さあ、物流管理はこれからが本番だ」――。
筆者の率直な思いである。
こう言うと、物流を担当されている方々から「何だ って。
じゃあ、これまでわれわれがやってきたことは 何だったんだ」と苦言を呈されるかもしれない。
この 苦言に対して筆者は、「少なくとも物流管理という点 では、本来やるべきことをやってこなかった」と答え ざるを得ない。
もちろん、すべての企業がそうだと言 うわけではないが、多くの企業に当てはまることは間 違いない。
それでは、物流管理において本来やるべきこととは 何であろうか。
本稿では、この点を明らかにするため に、「物流部」のような部署で物流管理を担当されて いる方々に対して質問をしていく。
その答えを検討す る中で、やるべきこととは何かを探ってみたい。
あなたの会社では物流コストについての責任帰 属が明確化されていますか? 最初に掲げたこの質問に対して、「物流コストだか ら、それは物流部門の責任だろう」などと考えるよう では物流コスト削減への道は遠い。
なぜなら、物流部 門が責任を負える物流コストは限定的な範囲でしかな く、物流部門単独での物流コスト削減もまた限定され るからである。
本来的に物流コストは、生産や仕入、営業など物 流を発生させている部門が責任の多くを負うべきコス トである。
たとえば保管コストを考えてみよう。
この コストの責任はどこに帰属するであろうか。
保管は物 流活動の重要な要素だから物流部門の責任だなどと 考えたら、保管コストの削減などできはしない。
言うまでもなく、保管コストは保管単価と保管スペ ースの掛け算で決まる。
このうち保管単価は物流部門 が責任を負うべきものであるが、保管スペースについ ては物流部門では責任の負いようがない。
せいぜいで きても保管効率を上げる程度であり、この取り組みを 限界まで突き詰めてしまえば、後は保管スペースは在 庫の量によって変動するだけだ。
つまり、保管単価を一定とすれば、月々の保管コス トは在庫の量で決まってしまうのである。
さて、みな さんの会社では、在庫の量についてはどの部門でコン トロールすることが可能であろうか。
その部門が月々 の保管コストの「増減」にも責任を負っているという ことになる。
物流コストは、すべてこのような関係のなかで把握 すべきである。
単価については物流部門が責任を負う が、その増減については量をコントロールできる部門 が責任を負うという関係を明確にすべきなのである。
これができないようでは、本来の物流コスト削減もで きない。
これまで荷主企業の物流部門は、物流拠点を集約 したり、作業システムを導入したり、共同化を手掛け たり、安い倉庫やトラックを探したりと、さまざまな 活動をしてきた。
しかし、これらはすべて単価を下げ るための取り組みに過ぎない。
もちろん、単価を下げ る取り組みが重要なことは否定しないが、同時に「量」 を減らす取り組みをしなければ、物流コスト削減は中 途半端な段階に留まってしまう。
物流コストを徹底的に削減するためには、それを 「単価×量」の形で把握することが不可欠である。
そ うすることによって、「単価」は物流部門の責任、「量」 はそれを発生させている部門の責任という、責任の帰 属が明確にわかるようになるからである。
このような形で物流コストを把握することが本来、 物流コスト削減はこれからが本番 荷主企業の物流部門の多くは、これまで本来やるべき ことをできずにいた。
しかしITの急速な進展が、過去には 困難だった取り組みを一気に身近なものへと変えた。
物 流担当者は改めて自社の物流管理レベルをチェックし、必 要な施策を講じなければいけない。
湯浅和夫 湯浅コンサルティング社長 物流コンサル道場《特別編》第26回 ロジスティクスの手引き 特 集 15 JUNE 2004 物流部門のやるべきことであり、これを現実にやって いるかどうかをチェックするのがQ1の狙いである。
あなたの会社では物流サービスについて「採算」 という視点から分析を行っていますか? 物流サービスについて、表現が適切かどうかは別に して、一部にそれを?神聖視〞する風潮があるのは気 になるところである。
「物流部門として物流サービス のより一層の向上を目指す」などと言われると、「物 流サービスを向上させると何かいいことでもあるので すか?」と思わず聞き返したくなってしまう。
この点についての詳細はここではおくとしても、物 流サービスが物流部門にはコントロール不能であると いうことに異論はないであろう。
どの程度の物流サー ビスが必要なのかは物流部門ではなく、多くの場合、 営業部門の判断で決まる。
より実態に即して言えば、 顧客が要求してくるのだから、それに応えざるをえな いということであろう。
ここで物流部門は物流サービスについて是非を判断 する立場にはない。
たとえ五〇〇円の商品を一〇〇〇 円の運賃をかけて送れと言われても、その通りに送れ ばいい。
それがコントロール不能領域における正しい 対処法である。
ただし、そんな採算の合わないことをしていいのか という疑問は当然湧くはずだ。
もっともな疑問である。
ならば、この疑問を数字で営業部門に提示するという 取り組みがあって然るべきだ。
これこそが物流部門が 本来やるべきことの二つ目である。
いかがであろうか。
読者の所属されている組織では、 採算的にどうかという疑問を物流部門が数字で把握 し、かつ関係部門に提示しているであろうか。
物流サ ービスは顧客によって異なるのが普通である。
だから こそ顧客別に物流サービスのコストを把握して、顧客 別の売り上げや粗利と比較し、その採算性を営業部 門に対して提示する必要がある。
「物流は顧客の要求するサービスを提供すればいい」 という営業部門の主張は、本来、採算が採れているこ とが前提になっているはずだ。
ならば物流部門には、 その前提に適っているかどうかを数字で提示する役割 があると筆者は思うが、間違っているだろうか。
結果として採算が合っていなかった場合に、その顧 客への物流サービスをどうするかは営業部門が判断す ればいいことだ。
採算割れ覚悟で物流サービスを続け るというのなら、それはそれでいい。
ただし、そのサ ービスによって発生する物流コストは営業部門が責任 を負うべきものであることを明確にしなければいけな い。
逆に、採算が合わないため物流サービスを見直す というのであれば、それによって物流コストは下がる のだから素直に歓迎すべきことだ。
要するに、物流サービスに対して疑問を感じていな がら何もしないという状態が悪いのだ。
その疑問を数 字で示し、コストを発生させている部門に対して判断 を仰ぐべきなのである。
あなたの会社では物流と出荷動向との同期化を 図っていますか? 物流を出荷動向に合わせて行うのは、物流管理の 基本中の基本である。
当たり前の話だが、物流とは 「在庫を保管し、在庫を移動する活動」だ。
出荷動向 に合わせるとは、保管や輸送の対象となる在庫を市場 が必要とするものに絞り込むということである。
言い 換えれば、売れるかもしれないとか、欠品が出たら困 物流センター在庫、問屋在庫、小売 店頭在庫の補充発注システム 「1日当り平均出荷量」をベースに することで出荷動向との同期化が 図れる。
究極の在庫管理方式とい える ●何日分持つかという在庫日数を 決める ●「1日当り平均出荷量」で在庫量 を算出する ●発注点方式で補充する メーカー工場倉庫在庫の 補充システム 各物流センターでの「1日当り平均 出荷量」をベースに工場倉庫在庫 の「出荷対応日数」を算出し、生産 リードタイムに合わせて、補充要求 を出す 生産リードタイムの長さ、生産方式 の柔軟性が在庫圧縮のポイントに なる 図1 「在庫管理」の基本メカニズム JUNE 2004 16 るなどという思惑や都合で、売れるかどうかもわから ない在庫を動かすのをやめることを意味している。
輸送や保管、拠点内作業をいくら効率的に行った としても、それらの活動で動かす在庫が売れ残るよう なら、それらの活動の効率性などまったく意味を持た ないはずである。
改めて、考えてみてもらいたい。
工 場から物流センターに出荷する段階で、明らかに傷物 とわかる製品を「それでも輸送効率が上がるから」と いう理由でトラックに載せて送る物流担当者がいるだ ろうか。
もちろん、送らないはずだ。
その製品は顧客 に出荷されないことが明らかだからである。
ところが現実に企業の物流を見ると、工場から出荷 された製品のうち少なからぬ在庫が、各地の物流セン ターで売れずに留まってしまう。
傷物ではないが、結 果として売れ残ってしまうものを運んでいるわけだ。
これは明らかに無駄である。
こんな無駄をしている限 り、いくら輸送や保管、拠点内作業を効率化しても、 その効果は減じられてしまう。
そこで、売れないものは物流させない仕組みが必要 になる。
この仕組みづくりこそ、物流部門が本来やる べきことの三つ目である。
実際の管理においては「いま売れているものしか物 流しない」という考え方を採ればいい。
メカニズムは 簡単だ。
各地の物流センターへの在庫補充を、あらか じめ「何日分持つ」という在庫水準を決めておいて、 その範囲内で行えばいいだけである。
「何日分」に該 当するアイテム別の在庫量は、常時把握される「一日 あたり平均出荷量」によって計算できる。
メカニズム 的にはそれだけの話でしかない。
それなのに、このような在庫補充がこれまで現実に できなかったのは、各地の物流センターからの出荷動 向を日々把握し、「一日あたり平均出荷量」を算出し、 それをもとに補充量とタイミングを把握することが情 報技術上、困難だったことに起因していると言ってよ い。
ところが近年のITの急速な進展は、情報を簡単 に安く扱うことを可能にした。
いまこそ、この仕組み づくりに取り組むべきである。
さて、Q3への回答の評価は、以下のように判断し てもらいたい。
つまり、各地の物流センターにおいて 在庫アイテム別に「一日当たり平均出荷量」を毎日 とらえていれば答えは「はい」であり、そう回答した 会社では物流部門が本来やるべきことの三つ目をクリ アしていると言える。
しかし、「わからない」という回 答であれば、その企業では本来の在庫管理が不在とい うことになる。
売れるかどうかわからないものを動か しているわけで、無駄の多い物流が行われているのは 間違いない。
ところで、各地の物流センターへの補充はそれでい いとして、工場倉庫の在庫はどう管理するべきなので あろうか。
これもメカニズムは簡単である。
各地の物流センターから集まってくるアイテム別の 「一日当たり平均出荷量」というデータをもとに、工 場倉庫の各アイテムについて「あと何日分の補充に対 応できる(出荷対応日数)」という数値を把握し、生 産リードタイムに合わせて生産部門に補充要求を出せ ばよい。
この段階で、今後の売れ行きや、季節要因な どまで踏まえた「需要予測」を加味することになる。
これをもとに「どう作るか」は生産部門の仕事であり、 物流部門の関知するところではない。
もちろん、企業によっては、出荷動向に合わせて物 流と生産をマネジメントしようという考え方をとって いるところもある。
これが「ロジスティクス」である が、このマネジメントは物流センターからの出荷動向 に合わせて、工場倉庫から物流センターに在庫を補充 図2 「物流ABC」にできること 物流拠点内作業の 効率性の検証 アクティビティごとに どれだけの無駄があ るかが把握できる 効率性向上のために 「アクティビティごと に何をすればいいか」 がわかる 物流サービスに関する 顧客別採算の把握 売り方、物流サービス の提供の仕方が物流 コストに与える影響が 把握できる 収益性向上のために 「顧客別に何をすれば いいか」がわかる 物流コスト責任帰属の 明確化 どの部門のどのような 活動が物流コストを増 滅させているかを把握 できる 物流コスト低減のため に「どの部門が何をす ればいいか」がわかる 物流ABC 17 JUNE 2004 するという仕組みがベースになる。
これなくしてロジ スティクスなどできはしない。
あなたの会社では物流センター内で行われてい る活動が「効率的である」と証明できますか? 四つ目の質問は、物流部門が本来やるべきこととし ては番外編と言えるかもしれないが、あえて最後に入 れておきたい。
これまで多くの企業が物流センターづくりに注力し てきた。
それを活用した現状の自社の物流システムが 効率的だと自負している企業も少なくないと思われる が、それでは、そのシステムがどの程度効率的である かを証明することはできるだろうか。
効率化の場合、 その進捗度を明示できなければ、その成果を示すこと もできない。
そのための具体的な証明方法は簡単である。
物流セ ンター内の活動が必要なアクティビティだけで構成さ れていること、そのアクティビティが現状において最 少限の作業時間で運営されていることを示しさえすれ ばいい。
必要なアクティビティとは、当然、要求される物流 サービスに対応して考えなければいけない。
それが最 少の時間で行われていれば、その物流センターの効率 は高いと言える。
判断基準は単純なものがいい。
不可能が可能になった点がポイント 冒頭で「物流コスト削減はこれからが本番」と述べ たが、これまで各社が手を抜いてきたと言っているわ けではない。
本稿では「本来やるべきこと」として、 ?物流コスト責任帰属の明確化 ?物流サービスの採算性の明確化 ?市場への出荷動向との同期化 の三つを上げたが、これらは多くの企業にとって、過 去にはやりたくてもできなかったというのが実状であ ろう。
コストパフォーマンスを考えると現実的な選択 肢ではなかったのだから仕方のない話で、誰が悪かっ たわけでもない。
ただし現在では、技術的にこれらが 簡単にできるようになっている。
だからこそ物流部門 の担当者は、いまこそ物流管理における本来の業務に 取り組むべきだと言っているのである。
具体的な技法としては「物流ABC」と「在庫管 理」の二つで対応できる。
これは筆者が常々主張して いることだが、この二つは「本来の物流管理」を展開 するにあたっての二大技法といえる。
?物流コスト責任帰属の明確化と、?物流サービ スの採算性の明確化、それに番外編で述べた「物流セ ンターの効率性の証明」は物流ABC(Activity- Based Costing: 活動基準原価計算)で可能である。
そして、?市場への出荷動向との同期化は、在庫管理によって可能になる。
さて、本稿では荷主企業の物流担当者の方々にい くつかの質問をしたわけだが、回答はいかがだっただ ろうか。
すべてやっているという企業があったら、間 違いなく物流先進企業である。
そして、どれもやって いないという企業があったとしても、がっかりするに は及ばない。
いずれも多くの企業にとって、これから の課題だからである。
もうおわかりと思われるが、課題克服の決め手は 「数字で物流を管理すること」に尽きる。
その数字を 生み出す技法が物流ABCと在庫管理である。
これ らを武器に、ぜひ改めて物流を抜本的に見直していた だきたい。
これまで見えなかった物流コスト削減の余 地が、必ず見えてくるはずだ。
ロジスティクスの手引き 特 集 ゆあさ・かずお1971年早稲田大学大学 院修士課程修了。
同年、日通総合研究所入 社。
同社常務を経て、2004年4月に独立。
湯浅コンサルティングを設立し社長に就任。
著書に『手にとるようにIT物流がわかる 本』(かんき出版)、『Eビジネス時代のロジ スティクス戦略』(日刊工業新聞社)、『物流 マネジメント革命』(ビジネス社)ほか多数。
PROFILE ■■■ 2004年5月10日より業務をスタート 湯浅コンサルティング 事業内容 一般企業向けコンサルティング、物流管理者研修会、 物流事業者向けコンサルティング、物流管理ソフト 開発支援ほか 〒101-0021 東京都千代田区神田6-2-8 日誠ビル2F TEL:03-3837-7711 FAX:03-3837-7722 http://homepage3.nifty.com/yuasa-consulting/

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