ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年6号
keyperson
中谷巌 多摩大学学長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

KEYPERSON もうアマチュアでは勝てない ――今年度から大学院に「CLOコ ース」を設立されましたね。
その狙 いは? 「二一世紀の日本企業は今までのア マチュアイズムを捨てなければならな い。
それぞれの分野で非常に深い知 識・見識を持っている?プロ〞がい て、その人たちがチームを組んで競 争力のあるマネジメントチームを形 成する。
そういう形に組織を変えて いかなければいけない。
それが我々の 基本的な考え方です。
CLOコース を設立したのも、その一貫です」 ――日本企業のアマチュアイズムと は? 「日本企業ではこれまで長い間にわ たって、能力のある人間は何をやら 1 JUNE 2004 って、日本は世界一の高コスト国に なり、そして成熟した先進経済国に なった。
同時に規制緩和などが行わ れて競争がグローバル化した。
グロ ーバルな市場でエクセレンスを証明 する必要が出てきたことで、アマチ ュアでも能力があれば経営できると いうような環境ではなくなってしまっ た」 ――しかし、これまでも競争はありま した。
「発展途上国の段階で、グローバル 化の進んでいない状況での競争は、い わば?町内会運動会〞的な競争でし た。
実際、日本は長い間、様々な分 野に競争規制を設けることで、その 庇護の下に護送船団方式なり、場合 によっては談合もやりと、業界内で 仲良くやってきた。
ところがビジネス がグローバル化してIT化したこと で、いきなりオリンピックに出場して 勝ちなさいという話になってしまっ た」 「町内会運動会のレベルであれば、 もともと運動能力の高い人は、どん な競技でもそれなりにこなせる。
万 能のスター選手がどこの町内会にも いるわけです。
ところがオリンピック となると、自分がどの種目に出るの かをはっきりさせて、それに向けて必 死になって技を磨く姿勢がないと出 場さえできない。
徹底したプロフェ ッショナルでないと勝ち残れない。
か なり比喩的になりますが、日本がこ の二〇年間で経験した変化とはそう いうものです」 ――ゼネラリストとしての日本的なエ リートは、もはや使い道がないのでし ょうか。
「いや。
CEOというのは、全体を見る必要があります。
CEOには一 つではなく、複数の分野でプロフェ ッショナルを極め、そこから得られる 知見を総合して全体を判断する能力 が求められます。
そしてCEOには 人の心の動きをコントロールする力 や物事を変える力などのリーダーシ ップが必要です。
過去にある分野を 極めたという経験のない、真剣勝負 の経験のない人に果たしてCEOが せてもできる、という考え方が支配 的でした。
そのためコアな人材を様々 な部門にローテーションさせて、会 社のことなら何でも分かっているゼ ネラリストとして養成してきた。
経 営者も、ある事業部門で成功して、そ れが見込まれて起用されるというの が常でした。
特定部門のプロフェッ ショナルがいなかったわけです」 「それでも二〇年ぐらい前までは、そ のやり方が日本企業にぴったり合っ ていました。
経済自体が欧米をキャ ッチアップする時期にあったので、欧 米先進企業のやっていることを真似 していれば良かった。
口悪く言えば、 アマチュア経営でもそれなりに食っ ていけた。
そういう時代が戦後ずっ と続きました」 「ところがプラザ合意後の円高によ 中谷 巌 多摩大学 学長 THEME 「 CLOに な る な ら こ れ を や れ ! 」 多摩大学大学院ルネッサンスセンターにこの春、日本初の「CLO: Chief Logistics Officer (最高ロジスティクス管理責任者)コース」が 設置された。
ロジスティクスのプロの育成を目的とした社会人向けMB Aコースだ。
これに連動して本誌では同コースの教授陣がリレー形式で 執筆する『ロジスティクス経営講義』を連載する。
その皮切りとして今 回は中谷巌学長に日本企業のロジスティクスの課題を尋ねた。
JUNE 2004 2 務まるかとなると疑問です。
つまり 二つ、できれば三つ以上のプロフェ ッショナルな領域を持っている。
し かも全人的な知的レベルが非常に高 い。
どんな分野の話でも議論できる。
そのための教養と志がある。
そんな ?スーパーゼネラリスト〞がCEO に求められているわけです」 「それに比べるとCLOに求められ る範囲はCEOよりは限定されます。
しかし、そのCLOにしてもコンピ ュータシステムの知識から、需要予 測、生産システム、さらにはマーケ ティングに至るまで全てがロジスティ クスに関係してくる以上、物流のオ ペレーションだけを分かっていればい いというものでは決してない。
経営 全般を見渡していないとCLOは務 まりません」 ――日本企業に、そうしたプロフェッ ショナルな人材を評価する仕組みが できているでしょうか。
「これまでは全くダメでした。
しか し今はできつつあります。
例えば一 昔前まで会社の中を国際派と国内派 で分けた場合に、主流を占めている のは国内派でした。
しかし最近は銀 行であろうとメーカーであろうと、海 外経験がないとトップになれない。
こ れはとても大きな変化です。
同じよ うにプロフェッショナルな技術を持 っている人間に対する評価も確実に 変わってきている」 「山一証券が倒産した時、大量の社 員がマーケットに放り出されました が、すぐに再就職が決まったのはプ ロフェッショナルなスキルを持ってい た専門職でした。
ゼネラリストのエ リートは最後まで買い手がつかなか った。
企業が求めているのは、明ら かにスペシャリストなんです」 ――そうなると社員教育のスタイルも 従来とは変わってくるはずですね。
「既に新卒を大量に採用してローテ ーションで様々な部署に回していく という発想はなくなってきました。
コ アとなる限られた人材だけを新卒で 採用して、周辺の様々なスペシャリ ストは中途採用やアウトソーシング を利用するなど雇用形態や組織の形 態自体が変わってきました」 「また中核となるマネジメントチー ムも、何でも知っているというゼネラ リストを集めるのではなく、CLO やCIOなど様々な分野のスペシャ リストたちがチームを組んでそれぞれ の専門知識を戦わせる。
そういう形 にだんだんなってきた。
そうしないと やっていけないという認識を誰もが 持ってきたのだと思います」 ――従来のOJT(オン・ザ・ジョ ブ・トレーニング)だけではスペシャ リストは養成できませんね。
「町内会運動会であれば、先輩の見 様見真似で何とかなったけれど、オ リンピックに出るとなったらそれでは 通用しません。
プロのコーチに付い て、最高の力を出せるように周到な 計画を立てて技を磨いていかないと 生き残れません」 ロジスティクス革命の意味 ――それにしても「CLO」というの は、日本ではまだ馴染みのない肩書 きです。
日本企業ではロジスティク ス管理自体、これまであまり重視さ れてきませんでした。
「アメリカでは、ロジスティクスが 極めて重視されています。
世界最大 の小売業、ウォルマートなどはその 典型です。
ウォルマートが何で儲け ているかといえば、ロジスティクスで す。
ロジスティクスを完璧なまでに作 り上げ運用する。
それがウォルマー トの比類無き競争力の最大の源泉に なっている」 「それに対して日本企業はロジステ ィクスといっても、これまで物流の延 長ぐらいにしか考えてこなかった。
輸 送コストを一円下げるのにどうすれ ばいいかという発想から大きく出て はいなかった。
しかしITがここまで 進化し、なおかつグローバル調達、グ ローバル販売が当たり前になって、ロジスティクスの対象地域は世界大に 拡がった。
これをきちんと管理して 戦略的に活用することが、今や時代 の要請になっている」 「そのため最近では日本企業にもロ ジスティクスを徹底的に極めないと 勝ち残れないという認識が芽生え始 めてきた。
しかし『CLO』という 名前や役割が認知されているかとい えば、そうではない。
そこで我々とし なかたに・いわお一橋大学経済学部卒 業。
ハーバード大学M.A.(経済学修士) ハーバード大Ph.D.(経済学博士)。
日産 自動車株式会社を経てハーバード大学経 済学部助手、講師および研究員、大阪大 学経済学部助教授、教授、一橋大学商学 部教授を経て、現在UFJ総合研究所理事 長、2 0 0 1 年9 月より多摩大学学長。
2003年よりソニー取締役会議長に就任。
●主要著作 『入門マクロ経済学(第4版)』日本評論 社、『日本経済:混沌からの出発』日本経 済新聞社、『日本経済の歴史的転換』東洋 経済新報社、『痛快!経済学』(文庫本) 集英社インターナショナル、『若きサムラ イたちへ』(田坂広志教授と共著)PHP 研究所など多数。
KEYPERSON 3 JUNE 2004 ては、ロジスティクスと『CLO』の 重要性を世間にアピールし、それに 相応しい人材を作り上げていきたい と考えています」 ――ロジスティクスの分野では日本は 後進国なのでしょうか。
「必ずしもそうとは言えません。
会 社によって違います。
トヨタの『かん ばん方式』などは、ロジスティクスそ のものです。
需要と供給をいかに効 率良く結びつけるか。
いかにタイミ ング良く、必要な時に必要なモノを 必要な形でそこに届けるかというこ とが企業の競争力を作るという考え 方ですから、ロジスティクスという言 葉は使っていなくても、考え方は全 く同じです。
実際、それがトヨタの 強みに完全になっている」 ――日本企業のロジスティクスとして は、トヨタの「かんばん方式」と並 んで、松下の「水道哲学」が有名で す。
蛇口をひねると水が出るように、 大量生産によって廉価な商品を遍く 供給するという発想でしたが、これ が今では通用しなくなっています。
「それは水道哲学があくまで供給者 の論理だからです。
これだけ生産し て、これだけ売って、これだけ利益 を上げたいという供給者側の論理が 先にあって、それを需要側に上から 下に押し流していく。
物不足の時代 であればそれで良かった。
しかし、現 在のようにモノとサービスが飽和し ている状態で重要になるのは、逆の 向きの流れです。
需要側の要求にす ぐに対応できること。
それがビジネス モデルのカギになってきている。
供給 側が見込み生産した商品を店に大量 に並べてお客さんに勧めるという流 れから、一人ひとりのお客が自分の 欲しいものを欲しい時に手に入れら れる仕組みへと変わってきた」 「自動車や家電だけでなくどんな産 業でもそうなってきました。
例えばコ ンピュータ産業でも始めはIBMな どが大型機を作って、それをユーザ ー企業に提供するという供給者主体 の流れだった。
それが今はユーザー企 業それぞれの業態やニーズにいかに ぴったりと合うコンピュータを提供 できるかという、需要側主体の流れ に変わってきている。
こうした顧客 中心の発想が様々な業界で必須にな ってきている。
それを満たす体制を 作るのがロジスティクスです」 ――ロジスティクスが一時期のブーム に終わる可能性はありませんか。
「それはないでしょう。
どんな産業 でも強い競争力をつけて高い利益成 長をあげているのは、ロジスティクス に本腰を入れている会社です。
すべ てがシンクロナイズド(同期化)さ れて、上手く循環しているというこ とが、経営効率においては決定的に重要です。
とりわけ多くの日本企業 にとっては、これまで本格的に手を 着けてこなかった分野であるだけに、 そこに宝の山が隠れている」 「インターネットの普及の影響など もあり、見込み生産、大量生産・大 量消費、在庫などは今や死語になり つつあります。
需要側が欲しいと思 った瞬間に、それが供給側から流れ て消費されていく。
この流れが途中 で滞る、川が澱んでしまう企業では、 川の水が新鮮ではない。
常に新鮮な 水を供給する仕組み。
それがロジス ティクス革命の意味するものだと思 います」 「そうであれば、それが一時的なブ ームに終わることなど考えられない。
経済活動を何のためにやっているか といえば、消費者のニーズを満足さ せるためです。
欲しい時に必要なモ ノを適正な価格で手に入れるという のは消費者の最大のニーズです。
そ して必要なモノをいかに過不足なく 提供するかというのがロジスティクス のテーマであるとすれば、それは経済 活動の根元的なものであって、単な る言葉の遊びや一時的なあだ花では ありえません」 中谷厳の 『プロになるならこれをやれ!』 日本経済新聞社 (1260円) 多摩大学大学院ルネッサンスセンター ロジスティクス経営(CLO)コース ロジスティクス経営コースは、最も 世界で成功しているビジネスモデルと されるデルやウォルマートのビジネス モデル等の比較優位性をロジスティク ス機軸の経営戦略に見出し、それぞれ の経営戦略の成功の条件についての論 理的な解明を目的にしている。
言い換えれば、本コースは、我が国 で初めてグローバル化への対応をIT の戦略的な活用によって追求するロジ スティクス経営の執行責任者であるC LO(Chief Logistics Officer )を本格的 に育成するために開設される大学院で あり、すでに将来的には博士課程を設 置することも計画されている。
昨今、特に期待が大きいSCM ( Supply Chain Managemen )を中心に して、eマーケティング、ロジスティ クス会計、資源ベースの経営戦略等へ の広がりをもった魅力的な講義が多数 用意されており、製造業、卸売業、小 売業、物流サービス業、IT産業に従 事する社会人が高度なロジスティクス の専門知識を獲得するにはたいへん効 果的なカリキュラムが用意されている。
詳しくは以下のURLまで。
http://tgs.tama.ac.jp/

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