ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年6号
FOCUS
転機を迎えたソニーのSCM

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

49 JUNE 2004 ソニーグループが約二年の期間と総 額二八〇億円を投じて開発した新たな サプライチェーン管理システム、「CL OVER(クローバー)」が五月七日に 稼働した。
グループの国内販売会社で あるソニーマーケティング(SMOJ) と、製造を統括するソニーイーエムシ ーエス(EMCS)、物流管理のソニー サプライチェーンソリューション(S SCS)、およびソニーの四社が、従来 は個別に持っていた情報システムを統 合。
販売から生産に至るサプライチェ ーン全体を一つの共通システムで管理 できる体制を整えた。
新システムでは、SMOJが小売業 者から入手する実売情報を、EMCS やSSCSがリアルタイムで共有する。
さらに従来は出荷実績から予測してい た市場動向を、小売店頭の実売データ に基づいて算出するように改めて予測 精度を高め、月次が中心だった計画の 策定も順次、週次へと変更していく。
市場の変化に即応できる体制を構築 することにより、二〇〇四年度中に四 社合計で年間約一四〇億円のコスト削 減と、国内在庫の三割圧縮を見込む。
日本市場を皮切りに、海外への導入も 進めていく方針だ。
今回のシステム構 築の経緯と背景は、本誌二〇〇二年九 月号のケーススタディで詳報した通り ( http://www.logi-biz.com 「無料立ち 読みコーナー」で閲覧可能)。
オペレーション強化の切り札 今回のソニーの取り組みは二つの点 から大きな意味を持っている。
一つは 日本の電機産業が完全復活するための カギが隠されている点。
もう一つは、こ の取り組みが、小売りとメーカーの覇 権争いに終止符を打つモデルケースに なるかもしれないという点である。
電機産業は、戦後日本の経済成長を 自動車産業とともに支えた立役者だ。
だが世界規模で存在感を高め続けるト ヨタやホンダと違って、日本の大手電 機メーカーの弱体化は目を覆うばかり だ。
依然として世界有数のブランド力 を持ちながら、ソニーや松下などの収 益力が低迷している最大の理由はオペ レーションの弱さにある。
この点を象徴的に示唆していたのが トヨタの「かんばん方式」と、松下の 「水道哲学」の違いだ。
徹底してプル型 のオペレーションを追求してきた「か んばん方式」に対し、「水道哲学」はプ ッシュ型の典型だった。
もちろん近年 電機メーカー各社もプル型への転換を 進めてはいたが、過去の成功体験を捨て去るのは容易ではない。
結局、現在 に至るまで自動車産業なみの強い企業 体質を獲得できずにきた。
もっとも自動車と電機製品の販売形 態の違いは考慮する必要がある。
自動 車が生産から販売に至るサプライチェ ーン全てを組み立てメーカーの影響下 で垂直統合できたのに対し、電機製品 はそうはいかなかった。
過去には系列 チェーンを使って販売まで管理するこ とも可能だったが、いまや量販チェー ンなどとの?分業〞は当たり前だ。
分業を前提とするサプライチェーン では、個別企業の競争力だけでなく、複 数企業によって構成されるサプライチ ェーン全体の競争力が問われる。
小売 業者との協働(コラボレーション)の 巧拙が企業競争力を大きく左右するの である。
この場合、米ウォルマートの ように圧倒的な力を持つ小売業者が効 率化を主導するケースと、メーカーが 主導権を握るケースがあるが、歴史的 にメーカーの力が強い日本の電機産業 は典型的な後者といえる。
にもかかわらず、従来の日本の電機 メーカーは、小売業者との協業を前提 とするオペレーションの仕組みを持っ てはいなかった。
その点、ソニーが稼 働したシステムは小売業者との協業を 明確に意図している。
しかも「ロジス ティクスを最上位概念に据えている」 (SSCSの中山忠久常務執行役員)と いう意味でも画期的なシステムだ。
今回の仕組みが思惑通りに機能すれ ば、原則としてソニーの中間流通にお ける在庫は工場にしかないという究極 のサプライチェーンが実現する。
長期 的にみてソニーが強い企業体質を獲得 できるかどうかはオペレーション能力 の強化がカギになる。
その意味で「C LOVER」の結果はソニーの命運す ら左右しかねない。
同時に、上手くい けば日本の電機メーカーが今後とるべ き道を示せるはずだ。
(岡山宏之) FOCUS 転機を迎えたソニーのSCM ソニーグループが二年前から開発を進めてきたサプライチェーン管理システ ムを五月に稼働させた。
家電量販チェーンが台頭するなかで、メーカー主導の 流通効率化は機能するのか。
ソニー復活のカギを握る取り組みを検証する。
記者会見に臨むソニー関係者。
左から中山 忠久SSCS常務執行役員、鈴木秀幸EMCS 取締役、宮下次衛SMOJ社長

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