ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2004年5号
値段
商船三井

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2004 42 最高益更新は確実 急激な成長を遂げている中国に関連するビジ ネスの恩恵を受けている産業は少なくない。
海 運業界もそのうちの一つだ。
今回は、鉄鉱石や 原油、LNG(液化天然ガス)など資源・エネ ルギー輸送の分野に強みを持ち、過去一年間で 株式市場からの評価を大きく上げ、時価総額で 海運セクターの首位に立った商船三井を取り上 げる。
世界的な海上輸送需要の拡大、船腹需給の 逼迫とそれに伴う海運市況の高騰を受けて、同 社は二〇〇四年三月期に過去最高益を更新し そうだ。
連結経常利益は二〇〇三年三月期の 二・六倍となる八一〇億円を見込んでいる。
同社の業績は「好調」の一言に尽きるが、こ こに至るまでの道のりは決して平坦なものでは なかった。
過去二〇年間、海運各社は試練の 連続であった。
中でも急激な円高に晒される要 因となった八五年のプラザ合意、そして八〇年 代後半から顕著になったアジア系海運企業の台 頭によって受けた影響は小さくなかった。
こうした状況下で発表された九〇年代半ばか らの中期経営計画(「MOCAR90's (九四―九六 年)」、「MORE21 (九六―九八年)」、「MOST21 (九九―二〇〇〇年)」)では、コスト削減を中心 とした国際競争力の強化に主眼が置かれた。
具 体的には、?外国人船員の積極活用をはじめと する人件費抑制、?ナビックスラインとの合併 効果を最大化するための経営資源の再分配、? 不経済船の入れ替えと船隊大型化による輸送 コストの削減――といったコスト構造の変革と 合理化が進められた。
成果は大きかった。
九〇〜九四年度の連結 経常利益は平均で二十三億円。
それが九五〜 九九年度には平均で一三八億円となった。
さら に二〇〇〇年度には五三〇億円に達するなど 利益水準は大幅に切り上がっていった。
「 MOST21 」に続く中期経営計画「MOL next (二〇〇一―二〇〇三年度)」は、財務体 質や収益力の強化に一定のメドが立ったのを受 けて、持続成長を意識した内容に見直された。
海運業の収益力強化を図りながら安定性を高 めていくという基本戦略は海運各社と共通して いるが、得意分野であるドライバルクやエネル ギー輸送の拡大を目指した点が特徴的だった。
各年度の連結経常利益の目標達成度合いは 海運市況の影響、とりわけコンテナ船部門の市 況の動向が色濃く反映される格好となった。
二 〇〇一年度、二〇〇二年度は目標数字を下回 る三七四億円、三三四億円にとどまった。
しかし、二〇〇三年度は目標の六六〇億円 をはるかに上回る八一〇億円が見込まれている。
大幅な上方修正は海運市況全般の高騰が主因 であるが、長年にわたる合理化施策の成果でも あると考えていいだろう。
今年三月に発表した、二〇〇四〜二〇〇六 年 度 までの新 中 期 経 営 計 画 「 MOL Step ( Mitsui O.S.K. Lines' Strategy towards Excellent and Powerful Group, )」は文字通り、 第2回 商 船 三 井 八五年のプラザ合意以降、業績低迷に苦しんできた海運業界が勢い を取り戻しつつある。
中国を中心とした世界的な海運需要の拡大や市 況の高騰などを背景にここ数年、日系海運各社の業績は堅調に推移し ている。
今回は株式市場での評価が急上昇中の商船三井の動向を、大 和総研の一柳創アナリストが解説する。
一柳創 大和総研 企業調査第一部アナリスト 43 MAY 2004 二〇〇三年度までの中期経営計画「MOL next 」 から始まる長期計画の?ホップ、ステップ、ジ ャンプ〞のステップの段階という位置付けにな る。
成長分野への積極投資、企業体力の増強、 競争力の強化を基本戦略に、特色のある世界 最大の総合海運企業を目指すという。
設備投資の積極化が可能に 期間中の船隊整備は得意の資源エネルギー 分野に重点を置く内容でドライやタンカーを中 心に新造船一一七隻を計画。
その大半は比較 的船価が安い時期に発注しており、これを成長 の源泉として、商圏の拡大と収益基盤の拡充を 図ることになるだろ う。
ちなみにその先 の二〇〇九年度まで に二四三隻、計一・ 二兆円に及ぶ野心的 な船隊整備投資を計 画している。
課題とされてきた 財務体質の改善にも 着手する。
期間損益 の蓄積で自己資本比 率を二〇%から三 〇%に引き上げる。
財務基盤は強固なも のになる見通しだ。
「 MOL Step 」の 注目点は目標とする 利益のステージが変 わることであろう。
連結経常利益は今後三年間の平均で一〇〇〇 億円を超える水準を目標としている。
これによ って資本蓄積を増強しながら、成長に向けた投 資を積極化することも可能になる。
利益の額だけでなく、利益の質が変化する点 も見逃せない。
同社の収益構造は、これまでコ ンテナ運賃を中心とする海運市況に大きく左右 されてきた。
しかし合理化効果で一定ラインの 採算を確保できる見通しとなったことと、長期 契約を主体とする資源エネルギー輸送部門の収 益貢献が拡大していることによって、利益全体 の安定感が高まってきた。
市況が軟化局面を迎 えた場合でも、それに対する抵抗力が強化され るため、長期的な見通しも着実なものになるだ ろう。
こうした利益水準の改善は、これまでの合理 化努力の成果だ。
特にこれまで赤字続きであっ たコンテナ事業の採算性改善は評価できるだろ う。
過去一〇年間で一〇〇〇億円に上るコスト 削減額を積み上げ、さらに今後三年間で二〇 〇億円の継続的なコストダウンを図る見通しで、 合理化の手綱に弛みは見られない。
将来の海運市況を占うのは難しいことだ。
た だし、?中国関連貨物の輸送需要の拡大、? 世界的な景気回復、?国際的な水平分業や適 地生産の流れ、?資源エネルギー分野での調達 ソースの遠隔化、?港での滞船――など海運会 社にとってプラス材料が多いということは確か なようだ。
日韓の主要造船所の船台が二〇〇六年頃ま で埋まっているといった供給サイドの問題も海 ひとつやなぎ・はじめ 九七年三月早稲田大学理 工学部土木工学科卒。
同 年四月大和総研入社、企 業調査部インフラチーム に配属。
九九年から物流 担当に。
著者プロフィール 商船三井の過去10年間の株価推移 運会社にとっては追い風だ。
船型によって差は あるものの、現状の需給タイト感が解消される までにはある程度の時間が必要になるだろう。
もっとも、懸念材料がないわけでもない。
そ のうちの一つはコンテナ市況である。
今後、コ ンテナ船の大型化が進む。
それに伴い、コンテ ナ市況は二〇〇五〜二〇〇六年にかけて軟化 局面を迎えるものと予想される。
ただし全体の 収益で見れば、新造船の竣工効果と合理化努 力で、コンテナのマイナスを吸収することも十 分可能であろう。
「 MOL Step 」への移行に際し、積極的な船 隊整備を経て、従来の「不定期船部門―コン テナ事業」という構図から、「不定期船事業の 拡大+コンテナ事業」へと変化することに対す る期待感が、株式市場でも高く評価されている。
資源エネルギー分野での長期契約拡充による収 益基盤強化がどこまで進むのか。
また、船台の 逼迫や船価上昇圧力の中で、競争力のある船 隊整備を継続できるかに引き続き注目が集まる。
「 MOL Step 」を着実にこなし、期待感を実績 に変えていくことが求められている。

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