ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年7号
中国鉄道コンテナ輸送
第1部 中国鉄道部をめぐる政策展開

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2013  58 長く鉄道部が存続してきた理由  二〇一三年三月一七日、中華人民共和国 よりも長い歴史を持つ「中華人民共和国鉄道 部(以下、鉄道部)」 【1】 が解体され、新たに 「中国鉄路総公司」の看板に付け替えられた。
鉄道部の解体およびその役割機能の分割が決 まり、長く中国の鉄道管理に君臨し、計画経 済の最後の砦ともささやかれた行政部門がそ の幕を閉じた。
 中国鉄道部は長年にわたり中国の行政機関 の中でも最も官僚的な組織とされ、それに関 する行政改革は一九八〇年代以降、絶え間な くささやかれ、また試みられながらも、実現 までには三〇年以上もの年月を費やすことに なった。
その理由は従来の鉄道部が、単なる 鉄道輸送の管理にとどまらない幅広い権限を 握っていたからである。
 中国鉄道部は、人民革命軍事委員会傘下 の鉄道部を前身として、一九四九年に中華人 民共和国の成立と同時に発足した。
それ以降、 鉄道部は鉄道に関連する全ての業務を集中管 理・運営してきた。
これは全国の鉄道路線の 整備および鉄道輸送、とりわけ軍事輸送およ び基礎資源貨物(国策物資) 【2】 を効率的に行 うためには、鉄道が統一的な指揮系統の下で 動く必要があると、政府が強く認識していた ためである。
 その後の改革開放路線により、鉄道輸送に おいても行政管理と企業運営の分離(政企分 調査の概要  中国物流の実務家や学識経験者で組織する 有志による研究団体「中国物流研究会(China Logistics Study Group)」は今年二月、訪中団 を組織して中国の鉄道コンテナ輸送の現状と今後 の展開を調査した。
 中国の鉄道コンテナ輸送は、中鉄集装箱運 輸( C R C T C : China Railway Container Transport Co.,Ltd.)という国営会社が全てを統 括管理している。
社名にある「集装箱」とはコン テナのことで、同社はコンテナや台車(シャーシ)、 機関車までを資産として所有し、傘下にたくさん のコンテナ関連会社を有している。
またコンテナ 輸送に関するデータも全てCRCTCが管理して いる。
 今回の調査では、同社をはじめ、その子会社で 全国一八カ所のコンテナセンター駅を運営する中 鉄連合国際集装箱(CUIRC)、交通運輸部や 旧鉄道部傘下の政府研究機関、中国物流購買連 合会(CLPF)、コスコ・ロジスティクス(中 遠物流、Cosco Logistics)等を訪問し、各社の 経営陣との面談を行った。
 また港やコンテナセンター駅、コンテナ取扱駅 の視察、日系物流会社現地駐在員からのヒアリ ング調査など、一週間の滞在ではあったが密度の 濃い情報収集を行うことができた。
とりわけ多く の政府関係者との面談が実現したのは、仲介の労 を取っていただいたコスコ・ロジスティクスの張 際慶社長のおかげである。
誌面を借りて改めてお 礼申し上げたい。
         (福山秀夫) 明治大学 町田一兵 商学部専任講師 中国鉄道部をめぐる政策展開 中国鉄道コンテナ輸送 第1 部  中国では現在、外資の沿海部から内陸部へのシフトが進み、鉄道貨物輸 送の利用拡大に注目が集まっている。
とりわけ、鉄道コンテナ輸送はイン フラ整備の進行によって新たな展開を見せており、複合一貫輸送やランド ブリッジ輸送の主要な手段として飛躍的な利用拡大が見込まれている。
し かし、日本で入手できる情報は限られており、調査研究もあまり進んで いない。
そこで今年2月、中国物流研究会は訪中団を組織し、本格的な現 地調査を実施した。
そこから明らかになった中国鉄道コンテナ輸送の現状 と新たな展開を報告する。
【1】1948年11月に滕代遠将軍が初代鉄道部長に就任、当時の名称は「中央軍委鉄道部」。
1949年9月27日 「中華人民共和国中央人民政府組織法」第18条に基づき、鉄道部を設置した。
新連載 59  JULY 2013 部に編入された。
今日「鉄道部××(二けた 数字)工程局(集団)」と名乗っているのは、 かつて鉄道兵として活動していた時代の名残 であり、師団の編成単位をそのまま鉄道部に 編入したものである。
 なお、上記の各工程局は、現在はほとんど が国有大手の「中国鉄路建築総公司」の傘 下に入り、鉄道部由来の鉄道インフラの整備 を行っている「中国鉄路工程総公司」と並び、 中国二大鉄道インフラ建設会社として活動し ている。
同社は二〇〇〇年まで鉄道部の管轄 下にあったが、それ以降独立し、現在は国有 企業として国務院が直轄している。
 こうした経緯から、鉄道部はほかの一般的 な行政部門と違って准軍事部門としての性格 が強かったために、安易に改革できなかった ものと推察される。
また鉄道部は一七六万人 【3】 という膨大な雇用人員を抱え、中央行政部 門に加え地方一八自治体にも鉄道局(集団・ 公司)を構え、それぞれ地域利権などの争い があった。
この組織体制も中央主導の改革が なかなか浸透しなかった理由の一つであろう。
改革開放後に鉄道部が実施した改革  とは言え、今日まで鉄道部の改革を目指し た動きは数多く行われ、うち大きな改革が少 なくとも三回あった。
 その一つ、一九八六年の「大包幹」(全面請 負制)は、鉄道部における最初の改革の試み だった。
それまで鉄道部が握っていた計画・ 離)による効率化の重要性は指摘されたが、鉄 道部は最後まで行政指導と企業運営を一身に 担う行政機構としての地位を手放さなかった。
 鉄道部が長く存続してきた理由の一つは、そ れが軍事輸送を担っているためだった。
一代 目から三代目の鉄道部長(日本の大臣に相当) が全て将軍級の軍人であったことからも分か るように、鉄道部はその誕生から軍事組織的 な側面を色濃く持っていた。
 中国政府は、旧ソビエト連邦の鉄道建設兵 が第二次世界大戦で大きな役割を果たしたこ とにかんがみ、国民党との内戦において東北 地方で鉄道縦隊を創立、それをきっかけに鉄道 兵という兵種を設置した。
その後の朝鮮戦争、 ベトナム戦争などでも、鉄道兵は統一管理の下 で国境を超えて軍事輸送を実施してきた。
 また鉄道兵は鉄道インフラの整備にも深く 参与してきた。
一九五四年の活動開始から 一九八三年に軍隊の編成から削除されるまで、 鉄道兵は、黎湛、鷹厦、包蘭、貴昆、成昆、 襄渝等の鉄道幹線五二本、距離にして一万二 三〇〇キロを敷設し、中国全体の鉄道路線整 備の三分の一を占めるほど、鉄道線路整備に おいても重要な役割を担った。
またサウジア ラビアの鉄道建設を手掛けるなど、海外にも 進出した。
 このように、鉄道兵は中国鉄道の近代化に 大きな役割を果たし、その兵力はピーク時に は四〇万人超にも達していた。
この膨大な組 織は一九八三年の軍事再編成時に、全て鉄道 財務・従業員・物資・人事などの裁量権を全 て各地の鉄道局に移管し、「全面請負制」を 導入した。
しかし、その結果、事故が多発し、 安全の課題が解決できなかったことから、最 終的には廃止となった。
 大包幹から十年後の一九九六年には、イギ リスが鉄道市場の活性化を念頭に置いて実施 した「上下分離」の導入が検討された。
複数 の大型旅客/貨物輸送会社を設立して、全国 鉄道ネットワークを展開する構図だった。
し かし、安定した運賃収入が見込まれないこと や鉄道路線会社へのレール使用料の支払基準 が定まらないことから、国務院の支持を得ら れなかった。
 その後、二〇〇三年には日本の国鉄民営化 をモデルに「地域分割」の導入も検討された。
各地に鉄道輸送集団公司および鉄道インフラ 建設投資公司を設置し、線路管理と運行を地 域ごとに行うモデルで民営化を進めようとす る案だったが、各事業者間の公平な競争環境 の担保に対する疑問および地域各社の独占の 解消に至らないことから、同じく国務院から の同意を得られなかった。
 こうして鉄道部の改革は不発に終わり、二 〇〇三年六月、当時の劉志軍部長は「鉄道に おける飛躍式発展検討会」を主催し、そこで 鉄道の運営体制に関する改革自体を棚上げし て、短期間で鉄道輸送能力を増強することに 鉄道部を集中させることが決定された。
 それ以降、鉄道部は全国高速鉄道ネットワ 【2】主に鉱石、石炭、石油の3種類の貨物を指す。
鉄道貨物輸送の7割強を占める(2011年)。
【3】2011年末、中国統計年鑑2012年 中国鉄道コンテナ輸送 ーク整備に向けて猛烈に走り出し、それに合 わせて鉄道インフラへの投資額も急速に膨張 した(図1)。
 その間にも二〇〇三年の「主補分離」、す なわち鉄道部に属する病院、学校、通信、研 究・設計部門の分離や、二〇〇五年の「分 局廃止」(鉄道分局を廃止し、従来の鉄道部 ⇒鉄道局⇒鉄道分局⇒駅の四段管理体制か ら、鉄道部⇒鉄道局⇒駅の三段管理体制に し、鉄道局の数も四一局から一八局に減らし た)など、小手先の改善は行ったものの、根 本的な改革には至らず、鉄道部の運営体制に 関する改革は完全に停滞した。
鉄道部の廃止と機能分割  ところが二〇一一年二月、鉄道部の劉志軍 部長が「重大な規律違反の疑い」によって解 任・逮捕されるという事件が起こった。
これ をきっかけに鉄道部上層部による汚職が明る みになっていった。
同年七月二三日には温州 市鉄道衝突脱線事故が発生。
中国政府の発表 によると死者数は四〇人に上り、その事故処 理に対しても国民から大きな批判が集まった。
 一連の不祥事によって、鉄道部はその内部 統制のずさんさを露呈させた。
その結果、鉄 道部が行政機関として事業を監督するだけで なく、自ら運営にも当たるそれまでの体制の 矛盾が改めて指摘されることとなった。
 二〇一三年三月一〇日、第十二回全国人 民代表大会(全人代)で国務院から「国務 審査 5.鉄道闊大品運送人資質の認可 6.鉄道関連工業製品の製造特別許可書の 発行 7.鉄道運輸管理情報システムの認定 8.鉄道コンピューター連動装置の製造許可 書の発行 9.鉄道貨物積載装載固定方案の審査 10 .鉄道コンピューター情報システム安全保 院機構改革および職能転換方案」が公表され、 鉄道部の廃止が正式に決定されて、その役割 が三つの組織に分割されることになった(図 2)。
 同方案によると、これまで鉄道部が担って きた鉄道発展計画および政策の策定などの中 期・長期的マスタープランの策定は、交通運 輸部に完全移行し、ほかの輸送モードと一緒 に交通運輸部で統一策定することになった。
 一方、旧鉄道部のそのほかの役割、とりわ け鉄道関連技術の基準設定や安全運行、輸 送サービス品質の維持および鉄道間関連工事 の品質管理や行政指導など、高い専門性を要 する行政管理・監督役割は、それを担う組織 として、新たに国家鉄道局を設置し、それを 交通運輸部の管理下に置いた。
 ただし、旧鉄道部に見られた内部汚職など の不祥事の再発を防ぐため、新設する国家鉄 道局の権限は大幅に制限された。
具体的には 従来は鉄道部の管理下にあった以下の一四の 権限を国家鉄道局の行政管理権限から除外し た 【4】 。
1.客貨物直通列車の開通、軍事運輸の手 配および特殊貨物輸送の審査 2.企業の自社用シャーシでの鉄道輸送に関 する審査 3.企業が所有する鉄道専用線と国鉄との接 続に関する審査 4.鉄道踏切の設置および幅の拡大に関する JULY 2013  60 (億元) 9000 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 95 年 96 年 97 年 98 年 99 年 00 年 01 年 02 年 03 年 04 年 05 年 06 年 07 年 08 年 09 年 10 年 11 年 図1 鉄道輸送業の投資額の推移 出所:暦年中国統計年鑑 【4】法制晩報2013年4月11日 元=約四〇兆円)および資産を全て受け継ぐ ことになった。
鉄道輸送の運営業務を中国鉄 道総公司が一元的に行うことで行政と企業の 役割を完全に分離した。
これによって長年の 懸案となってきた鉄道行政改革がようやく一 歩を踏み出したことになる。
長い歳月を要する大部制へのシフト  こうして鉄道部が交通運輸部に吸収される かたちで、鉄道行政改革はスタートを切った が、中国政府が目指している「大部制」、すな わち交通運輸部の元での鉄道の一元管理、い わば中国版の国土交通省へと向かう筋書きは まだ明確になっていない。
現状では交通運輸 部が期待されている機能を果たすようになる までには、まだ長い年月が掛かるとの見方が 一般的である。
その理由は、これまでの交通 運輸部のもたつきぶりにある。
 交通運輸部は二〇〇八年三月に、中国民 間航空総局(以下、民航局)と国家郵政局が 交通部と合併して誕生した。
しかし、それか ら五年余りが経過した今も民航局は形的には交 通運輸部の傘下に入ったものの、いまだに独 立した機関法人として活動し 【5】 、毎年の予算 報告会も民航局独自で開いている。
二〇一一 年にリビアで起きた中国国民の緊急撤収にお いても、民航局は国務院と直接話し合い、そ の結果を交通運輸部に通達しただけであった。
 民航局よりもはるかに所帯の大きい鉄道部 が交通運輸部の一部門としての役割を果たす ようになるには、より長い歳月を掛けなけれ ばならないと見るのは妥当であろう。
 とはいえ、ようやく一歩を踏み出した「大 部制」への統合に後戻りはない。
次の課題は まずいかに国家の補助金に頼らない効率的な 鉄道運行システムを作り上げることかと考えら れる。
その際、一〇年近く放置された鉄道の 「上下分離」策や「地域分割」策の合理性を検 討しながら、日本国鉄の民営化を行うように、 具体策を決める方法論を検討する段階になる。
 また、中国鉄道総公司が抱える膨大な債務 を考えると、今後の鉄道発展に民間資本の導 入は欠かせない。
これまでにも旧鉄道部は二 〇〇五年に「非公有制経済が鉄道建設経営へ の参加を奨励および誘導するための実施意見」 を公表し、鉄道輸送市場の開放および鉄道イ ンフラ整備、設備製造などの分野での民間資 本への開放を表明している。
二〇一二年には 「民間資本による鉄道投資を奨励および誘導す るための意見」を再度公表、「民間資本」を 名指しして鉄道事業への参入を呼び掛けた。
 しかし、硬直化した管理体制に加え、全 国一律運賃という規定が運用面では大きな課 題となる。
成功事例もほとんどないことから、 今のところ民間資本にとって鉄道事業への参 入は?絵に描いたもち?に近い。
 従って管理体制の再構築もさることながら、 鉄道運賃の制度改革がどこまで進展するかと いう点が、今後の中国における鉄道民営化を 測る試金石になるかもしれない。
護措置の審査 11 .鉄道工事および設備および設備廃棄の審 査 12 .鉄道鉄路の日常資産整理項目の審査 13 .鉄道旅客貨物輸送関連の領収書印刷の 審査 14 .鉄道基礎大型、中型工事の着工、監視 管理、資材購入の入札および審査  また、鉄道部が事業者としての役割を果た してきた部分は新たに「中国鉄道総公司」を 国有企業として発足させて、そこで旧鉄道部 の債務(二〇一二年九月時点で二・六六兆 61  JULY 2013 【5】斎魯晩報2013年4月5日 図2 鉄道部の分割イメージ 出所:「国務院機構改革及び職能転換方案」による整理 鉄道部 鉄道発展計画および政策の策定などの行政的役割 鉄道部の企業的役割を請け負う 「国家鉄道局」を設置 ●鉄道部が行ってきたほかの行政責任、鉄道関 連技術基準の設定 ●鉄道の安全運行、輸送サービス品質の維持およ び鉄道関連工事品質管理やの行政指導 「中国鉄道総公司」を設置 吸収合併管理下に置く 交通 運輸部

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