ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年7号
ケース
しまむら 国際調達 中国から国内の商品センターにコンテナ直送「直流」方式で調達物流コストを3割削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2013  46 段ボール一箱を五〇円で全国に輸送  衣料品チェーンのしまむらが、主力のしま むら事業で手掛けている「直流」の比率(金 額ベース)が二〇一二年度に初めて三〇%を 超えた。
これを五〇%まで引き上げることを 同社は当面の目標に置いている。
 「直流」とは「直接物流」の略で同社の造 語だ。
海外で生産される商品の値札付けや店 別アソートなどの流通加工、店舗配送に使う 配送ラベルの貼付などを生産地で済ませた上 で日本に輸入する取り組みを指す。
 中国で生産した商材を四〇フィートもしく は二〇フィートの海上コンテナでメーカーや 卸などのサプライヤーが輸入し、コンテナを 開梱せずに通関。
その状態のまま、しまむら が国内に構えている通過型の物流拠点である 「商品センター」に納品してもらう。
ここで初 めてデバンニングして、すぐに店別に仕分け て全国の店舗に送り込む。
 従来の仕入れ方法では、商品を輸入した サプライヤーが国内で流通加工を施してから、 しまむらの商品センターに納品していた。
国 内の流通加工コストは中国よりも割高で、サ プライヤーの拠点経由でしまむらのセンター に横持ちする輸送費も発生する。
これを「直 流」に変えればコストは下がる。
 「商品によってコスト削減の規模は異なるが、 物流経費だけ見ればトータルで三割ぐらい下 がる」と、しまむらで物流や貿易を統括して いる鈴木誠取締役は説明する。
こうした成果 をサプライヤーとシェアすることで、サプライ チェーンの競争力を強化している。
 この取り組みは、しまむらの中興の祖とし て知られ、同社の物流や情報システムの基礎 を築いた藤原秀次郎相談役が「生産から店頭 までの国境を越えたトータルな物流を合理化 する」という狙いで社長時代の二〇〇二年に スタートさせたものだ。
 そのためにはまず、中国で流通加工などを 任せられる物流パートナーを探す必要があっ た。
「物流加工だけでなくフォワーディング業 務まで全部できるところという条件で、いく つかの日系物流企業と組んでトライアルを実 施した。
結果が良好だったことから、その後 は一気に取り組みが進んだ」と鈴木取締役は 振り返る。
 以来、中国国内に置く「直流」のための作 業拠点は増え続け、現在では二〇カ所程度を 構えている。
そこから出荷した海上コンテナ を、しまむらが日本国内に九カ所構えている 商品センターのうち四カ所で受け入れる。
昨 年度はTEU(二〇フィートコンテナ)換算  中国で流通加工を済ませて日本に運んだコンテ ナをそのまま国内の物流拠点(通過型)に搬入す る「直接物流」を拡大させている。
SPAとは異な る“仕入れ型”のサプライチェーンを効率化する ため、新センターの建設をはじめ、物流インフラ の増強に積極的な投資を続ける。
国際調達 しまむら 中国から国内の商品センターにコンテナ直送 「直流」方式で調達物流コストを3割削減 しまむらで貿易部・物流部・ 商品管理部・店舗管理部を 統括する鈴木誠取締役 47  JULY 2013 で延べ約二万八〇〇〇本、週平均で約五五 〇本のコンテナを扱った。
 同社の商品センターは、既に一九九〇年代 にその基本コンセプトが完成していた。
全て 通過型で、少人数で効率的に運営できるよう に工夫を凝らしている。
店別配送ラベルまで 貼付した状態でサプライヤーが納品してくる 商品を、「プールライン」と呼ぶ独自の待機コ ンベヤに一時保管し、配送車両の準備が整う のを待って一気に出庫する(次ページ写真)。
 各センターのプールラインには、一〇〇メ ートル近いフローラック方式の無動力コンベヤ が数百本並ぶ。
こうした設備を駆使すること で、シンプルかつスピーディな仕分けを実現 している。
センターを新設するたびに微調整 は重ねているが、基本的な構造は開発当時の まま変わっておらず、同社の庫内オペレーシ ョンを支える強力な武器となっている。
 ただし「直流」の拡大には、既存の物流イ ンフラの増強が必須だった。
店舗の増加に対 応する必要もあって、〇七年に神奈川に「直 流」を強く意識した「秦野商品センター」を 新設。
一一年には「神戸商品センター」が稼 働した。
さらに「秦野」は一一年に施設を増 設し、能力を約一・五倍に引き上げている。
 国内での輸送については、地場の中小運送 事業者を中心に約五〇社の協力会社に実務を 委託している。
店舗配送の基本は、四トン車 で夜間に無人の店舗に商品を届けるというも の。
その帰り便で、店舗間を移動する商品の 引き取りや、段ボール箱やハンガーなどリサイ クルを要する資材の回収も行う。
 商品センターなど物流拠点間の横持ちでは 大型トレーラーをシャトル運行している。
一 連の工夫の結果、しまむらは国内で段ボール 箱一個を約五〇円で自在に配送できる物流ネ ットワークを実現している。
「混載直流」で中小取引先を巻き込む  しまむらのビジネスモデルは、サプライチェ ーンの全てを自社の管理下に置こうとする一 般的な製造小売業(SPA)とは大きく異な っている。
 しまむらはこれまで、製造には決して手を 出してこなかった。
製品を企画して生産する のはあくまでサプライヤーの役割であり、し まむらは販売に徹している。
同社の社内には デザイナーがいない。
最近注力しているPB についても、基本的にはサプライヤーと協業 で商品を企画している。
メーカーや卸といっ たサプライヤーの知恵をフル活用することにメ リットを見出している。
 このため「直流」の拡大も、しまむらの一 存では進められない。
商品センターまでの物 流費を負担するのはサプライヤーであり、そ の物流手段を選ぶのもサプライヤーだ。
こう それぞれの拠点間の商品などの移動ルート 札幌デポ 新潟デポ 富山デポ 広島デポ 東大阪デポ 川之江デポ 熊本デポ 盛岡商品センター 福島商品センター 犬山商品センター 北九州商品センター 岡山商品センター 桶川商品センター 秦野商品センター 神戸商品センター 関ヶ原商品センター 〈東日本〉 〈西日本〉 国内の物流ネットワークと各拠点の配送エリア 札幌デポ 新潟デポ 富山デポ 広島デポ 盛岡商品センター 福島商品センター 桶川商品センター 秦野商品センター 犬山商品センター 東大阪デポ 川之江デポ 熊本デポ北九州商品センター 岡山商品センター 神戸商品センター 関ヶ原商品センター 沖縄 基幹センター (4カ所) 地域センター (5カ所) デポ (7カ所) サプライヤーからの納品 先であり、管轄エリア への店舗配送と地域セ ンターへの商品供給を 担当。
「直流」コンテナ の受入拠点でもある。
基幹センターから供給を 受ける地域の物流拠 点。
店舗配送とデポへ の商品供給を担当。
右記センターから供給を 受けて店舗配送を実施 する配送中継地。
運営 はアウトソーシング。
した事情から、「直流」をスタートした当初は、 単独でコンテナを満載できる大手サプライヤー や、フォワーダーが主体的に手掛けるバイヤ ーズ・コンソリデーションなどの活用に長けた 取引先に参加企業は限られていた。
 しかし、しまむらのサプライヤーは約七〇 〇社を数える。
このうち常時取引がある仕入 ーンオペレーションこそが競争力の源泉と位 置付けているからだ。
 一般的なSPAは、商品企画力と大量生 産による製造原価の低減を強みにしている。
これに対してしまむらは、仕入れ型のメリッ トを享受しながら、チェーンオペレーションを れ先だけでも約四〇〇社に上る。
直流比率を 高めていくためには、中小サプライヤーをど う巻き込んでいくかが課題だった。
 そこで「混載直流」という新たな仕組みを 開発した。
複数のサプライヤーの商品を一つ のコンテナに混載し、一部の商品センター内 に設けた保税蔵置場に搬入してもらう。
こう することで混載でありながらコンテナヤード で開梱する必要がなくなり、デバンニング後 に発生する横持ちコストも節約できる。
 「混載直流」のアイデア自体は以前からあっ たのだが、コンテナの積載率がネックになっ てなかなか拡大しなかった。
しまむらがサプ ライヤーを集めて物量をまとめる調整を行い、 またフォワーディング会社をしまむらの推奨企 業に集約するなどして、時間を掛けて環境を 整えてきた。
 その結果、「混載直流でコンテナを利用する 立米単価が三分の一ぐらいに低下」し、中小 サプライヤーの多くが参加するようになった。
鈴木取締役としては、「当面の目標である直 流比率五〇%の実現は、従来型の直流で三〇 〜四〇%。
残り一〇%余りを混載直流で上乗 せするイメージで考えている」という。
商品センターは自社所有・自社運営  しまむらは国内九カ所の商品センターの土 地・建物を全て自社で保有し、現場運営も自 ら行っている。
これと並行して情報システム の高度化も熱心に進めてきた。
効率的なチェ JULY 2013  48 出荷エリアの荷捌き場は狭い プールライン長は75mと90m コンテナのデバンニング作業 プールライン搬出用のマテハン 計594本あるプールラインへ 中国から直流コンテナが着荷 基幹センターの1 カ所である「秦野商品センター」 請求・支払 発注・支払 中国 日本 貨物はサプライヤー を素通り 保管・出荷作業なし コンテナの中身 ABCサプライヤーの 荷物が混載 FCLで輸送 CYからしまむらの保税蔵置場(商品センター) までコンテナのまま保税輸送 しまむら・保税蔵置場 (商品センター)で輸入通関 即納品 コンテナのまま CYから搬出 A〜Cサプライヤー フォワーダー フォワーダー しまむら D/C 船会社 フォワーダー Aサプライヤーの 縫製工場 D商社のL/C Bサプライヤーの 縫製工場 E商社のL/C Cサプライヤーの 縫製工場 F商社のL/C 商品センターの保税蔵置場を利用する「混載直流」のフロー図 フォワーダーに 集約して輸出通関 流通加工は工場または D/Cで作業 替えることで積載率を高めている。
 「秦野商品センター」の雨宮義徳所長は、 「幹線便では常に九〇%から九五%の積載率 を確保している。
店舗配送についても平均八 〇%程度を維持しているが、これは九〇%ぐ らいまで高めていきたい」と説明する。
ウエ ブEDIを使ってサプライヤーから商品の個 数とサイズ(才数)を事前に報告してもらう ことでオペレーション効率を高めている。
 前述した通り、商品センターについては自 前主義に撤しているが、地域デポや中国の検 収センターではアウトソーシングを活用してい る。
そして現在のこうした管理手法は硬直的 なものではない。
鈴木取締役は「いずれは中 国国内にも自前のセンターを構えて、中国国 内における店舗配送と、日本向け『直流』作 業の両方を手掛ける可能性だってある。
よう は発展段階の問題」と言う。
 最近、しまむらはPB商品の取り扱いを積 極的に増やしている。
昨年度のしまむら事業 のPB比率は四一・八%に上った。
PBの伸 びは利益率向上に貢献すると同時に、物流の 効率化にも好影響を及ぼしている。
 「PBでは、サプライヤーさんと同じように 当社が中国の工場にオーダーして、できあが ったものを日本に運んでくる。
ここで原価構 造が分かるからこそ直流のコストメリットも 正確に把握できる。
実際の数字でサプライヤ ーさんに情報提供できるという意味で、説得 力は増していると思う」(鈴木取締役)  次の一手として、埼玉県の東松山に新しい 商品センターを稼働する予定で、既に土地の 取得手続きを進めている。
約五〇億円を投じ て、「桶川」の一・五倍程度の処理能力を持 つ施設を二〇一五年の夏をめどに稼働する計 画だ。
これに伴って、既存センターの役割分 担を見直すことも視野に入れている。
 既に「東松山」以降の構想も描いている。
「北九州あたりにもう一つ基幹センターをつく って、中四国と九州の配送をやることも想定 している」と、鈴木取締役は物流インフラ整 備のシナリオを練っている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 効率化することでコスト競争力を確保すると いう戦略を採っている。
そのために独自の物 流システムと情報システムを構築し、店舗運 営の標準化も徹底してきた。
 そして、アパレル業界では珍しい「完全買 取制」を実現している。
不良品を除いて返品 を一切しないことで仕入れ値の低減を図って いる。
高度な在庫管理システムと売れ残りを 出さない仕組みがそれを可能にしている。
 同社には「売り上げと粗利を管理するのは バイヤーで、在庫と値下げを管理するのがコ ントローラーの役割」(鈴木取締役)という業 務分担がある。
本社に所属する数十人のコン トローラーが在庫の動きを常にチェックしてお り、店舗間の商品在庫の遍在を解消するため の「移送」などを頻繁に実施。
これによって 売れ残りを防いでいる。
 一方、物流部門は小所帯で、本部スタッフ は鈴木取締役と物流部長の二人のみ。
ほかに 全国九カ所の商品センターで合計二〇〇人近 い従業員が現場業務に従事しているが、正社 員はごくわずかしかいない。
最大規模の「秦 野商品センター」でも、約三五人いる従業員 のうち正社員は所長を含めて三人だけだ。
 商品センター長は多くの役割を担っている。
まず、日々の物量に応じてプールラインにど う商品を割り振るかなどをコントロールして センターの運営を効率化している。
店舗配送 の無駄に目配りするのもセンター長の役目だ。
日々の物量に応じて配送ルートを柔軟に組み 49  JULY 2013 包装資材のリサイクルも必須 店別バラ仕分け用のソーター 一部のサイズ直しなども実施 都心型店舗の検収を肩代わり

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