ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年7号
特集
第4部 ケーススタディ 問題発生拠点をモデルセンターに変革──マルハニチロ物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2013  38 七年から同じく年に一 度行っている。
従業員 と直接触れる機会が多 いドライバーにも意見 を聞き、現場の問題点 をより明確にしようと いう狙いだ。
 電話応対や窓口受 付、現場対応などにつ いて五段階評価をして もらうとともに、細か な要望も拾っている。
一二年度には「フォークマ ンが元気に対応している」「以前より荷さばきが きれいになった」などの好印象と、事務処理に時 間が掛かるといった不満のそれぞれが届いている。
 こうして外部の関係者から集めた声は本社の業 務管理部が中心となり、社内に広く内容を周知。
同時に、各センターにも評価されている点、不満 が出ている点の双方を個別に伝え、改善に取り組 むよう指示している。
 また、各センターと事業所には四半期に一度、 寄せられたクレームの数とその内容をまとめ、業 務管理部に報告させている。
一二年度のクレーム 件数は前年より四割強減らすことができた。
全体 的にはクレームゼロのセンターの方が多い結果とな ったが、そうしたセンターでも所長が自発的に問 題点を見つけ、報告してきたケースもあるという。
 サービス品質改善を担当している松田公昭取締 役業務管理部長は、昨年度のクレームの傾向につ いて、「件数自体は減少傾向にあるものの、一一 年度と同じく入出庫の対応に関するものの占める 割合が大きかった」と解説する。
現在、同社の倉 定期的なアンケート調査を実施  マルハニチロホールディングスの一〇〇%子会社 で冷蔵倉庫や食品物流を手掛けているマルハニチ ロ物流は、二〇〇七年のマルハ、ニチロ経営統合 の後、両社の保管物流事業を集約する格好で〇八 年に誕生した。
本州と九州に計三七の拠点を展開 し、冷蔵倉庫の保管能力はトータルで五八万トン と業界有数の規模を誇る。
 小林孝取締役(営業本部副本部長兼営業第二 部長)は「保管だけでなく貨物を届けるところま でお願いしたいとのお客様の要望が増えており、 現在は売り上げの四分の一ぐらいが物流絡み。
中 核の保管事業に輸配送などを絡めて業績を拡大し ていくのが当社の方針だ」と説明する。
 全社で統一した効率的なオペレーションを実現 しようと、前身のマルハ物流ネット時代の〇六年 八月に取得したISO9001の管理手法に基づ き、顧客の要望やクレームを集めて物流品質改善 につなげようと腰を入れて取り組んできた。
 〇七年から、冷蔵倉庫の荷主に年一回アンケー トを実施。
業務への総合的な満足度のほか、各物 流センターや事業所の入出庫作業、電話応対など について気付いた点を記入してもらっている。
 一二年度は三〇〇社超が回答。
「電話対応が明 るく丁寧」「検品がスムーズ」「出庫時に商品がき れいに整頓されているのでチェックが容易」とい ったプラス評価から、入庫時の待機時間が長い、 木製パレットの木片が商品に混入することがある、 といった指摘までさまざまな声が寄せられた。
 荷主と併せて、センターや事業所を訪れる物流 業者のドライバーを対象としたアンケート調査も〇 問題発生拠点をモデルセンターに変革 ──マルハニチロ物流  荷主や協力運送会社を対象に定期的にアンケート調査を 実施し、入出庫作業や応対への感想・要望を吸い上げてい る。
クレームが多い拠点には本社から担当者を派遣、業務 改善をトップダウンでみっちりと指導する取り組みを今年 度からスタートした。
ミスが起きた拠点を毎年一つ選んで モデルセンターに変革する活動も進めている。
 (藤原秀行) 松田公昭取締役 小林孝取締役 ケーススタディ 39  JULY 2013 改善を図ることに主眼を置き、外部の経営コンサ ルタントやグループ企業と連携しながら、拠点の 各エリアの現場担当者がチームを組み、それぞれ 課題を絞り込んでテーマを設定し、自主的に物流 品質の向上や従業員の意識改革などを進めるよう サポートしている。
 初年度に対象となった西日本のあるセンターで は次のような改善が実施された。
庫内作業中の商 品破損事故を減らすとの目標を掲げたチームでは、 落下、リフト操作ミス、バンド食い込みと主要な 原因ごとに対策を打った。
商品を高く積み上げる ことを禁じたり、重量物は下に積んだりと作業手 順を見直し、事故を半分以下に抑えた。
 誤出荷の削減をテーマにしたチームは作業実態 調査から、商品の仮置き場が少なくパレット数を 減らそうと一つのパレットに荷物を無理に多く積 んだ結果、積み方が乱雑になって外部から商品名 や個数を確認しづらくなっていることに気付いた。
このため、一見して商品名などを把握できる整頓 された積み方を標準化し、出庫時の二重チェック も実施。
ミスの件数を大きく減らすことに成功した。
 別のチームでは荷主からの出入庫の受注業務の 簡素化に着手。
センター長レベルはセンター全体 のマネジメント改善に取り組んだ。
 一方、一二年度にモデル化の対象となった東日 本の物流センターでは、担当者が品物の種類やサ イズ、個数を間違えて準備し、出庫直前にそのこ とに気付く「未然事故」が多く発生していた。
 そのため、担当者が中心となって在庫品の保管 場所をより細かく区分けしてロケーション管理を 徹底するなどの対策を考案、実行に移し、未然事 故の発生率を従来より三分の一程度抑えることが 庫の多くがフル稼働状態となっていることが響き、 入出庫を待たされて時間が掛かるなどの声が出て いるという。
 このため、各センターで運送会社と事前にトラ ックの接車スケジュールを綿密に打ち合わせ、特 定の時間帯に入出庫作業が集中しないようにする などの対策を講じている。
松田取締役は「入出庫 のクレーム自体は減っており、徐々に成果は上が っている。
しかし完璧かと言われればまだまだ」 と改革に意欲を示す。
 小林取締役は「かつては食品原料の管理が中心 だったのが最近は加工品が増えるなど、より繊細 な取り扱いが求められており、今はオペレーショ ン変革の過渡期にある。
全体的な業務管理のやり 方を変えていくことが必要だ」と強調する。
クレーム多いセンターを集中指導  一一年度からは、寄せられているクレームの多 さなどを考慮して全国の物流センターの中から毎 年一カ所を選定し、効率的な業務運営でほかの拠 点の模範となる「モデル物流センター」に変革す る取り組みを開始した。
 作業ミス防止に限定せず、センター全体の運営 できた。
 全従業員が保税業務をできるようにして負荷の 平準化とミス防止を図るため、NACCS(輸出 入・港湾関連情報処理システム)処理の指導マニ ュアルを作成。
残業時間削減に向けた時差出勤導 入なども進めている。
両センターはいずれも現場 の担当者と本社の役員らを交えた改善事例の報告 会を定期的に開いている。
改善の取り組みは単年 度で終わらせず、継続させていく予定だ。
 今年四月には業務管理部の中に「品質指導課」 を新設した。
同部の「品質管理課」がアンケート 集計やクレーム実態管理などを担当しているが、「要 員が限られていることなどから、改善策を現場に 落とし込む部分が徹底できていなかった」(松田 取締役)という。
 庫内で保管している荷物の溶解事故などが起き たことへの反省もあり、各センターで自発的に取 り組むボトムアップの手法だけでなく、クレーム の多いセンターにトップダウンで改善を促す体制も 確立することが不可欠と判断した。
 品質指導課には担当部長と副部長の計三人が所 属。
今年度は十一のセンターに三人を順に派遣し、 現場のオペレーションを徹底的に確認して問題点 を抽出。
センターの担当者らと協議しながら対策 を詰め、指導していく。
やりっ放しにならないよう、 改善策を始めてから一定期間後にきちんと効果を 上げているかどうか検証する計画だ。
 さらに、重大事故につながりかねない「ヒヤリ ハット」の事例を全国のセンターや事業所から集め、 社内に周知することも本格的に始める。
クレーム と同じく四半期ごとに報告を求め、各センター間 で情報を共有させる予定だ。
モデル物流センターの業務改善例。
同じ伝票の商品はなるべく一つのパ レットに収め、数や商品名などを見 えやすくした結果、出荷時のチェッ ク時間を半分以下に短縮した 《改善前》 《改善後》 特集

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