ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年4号
ケース
日立製作所――在庫削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2004 40 アナログからデジタルへ 日立製作所が「Lプロジェクト」と称する国 際物流の改革を進めている。
「L」とはロジ スティクスの頭文字。
同社の「ユビキタスプ ラットフォームグループ」が、海外向けデジ タル家電製品を対象に、世界規模で新たなロ ジスティクスの仕組みを構築するプロジェク トである。
日立は二〇〇二年四月に、五つの事業分野 で社内カンパニー制を導入した。
ユビキタス プラットフォームグループはこのとき発足し たカンパニーの一つで、ユビキタス情報社会 ――いつでもどこでもネットワークにつなが ることのできる社会――の到来をにらんだ製 品を扱っている。
テレビやパソコン、携帯電 話、PDA(携帯情報端末)など、ネットワ ークへの接続端末となりうる製品群が、ここ に一つの事業分野としてくくられている。
この組織改革を機に、日立はAV製品を?ア ナログからデジタルへ.転換する動きを一気 に加速させた。
ブラウン管テレビは、薄型の プラズマテレビや液晶プロジェクターなどへ。
VTRはDVDレコーダーへ。
こうしたシフ トを急速に進めた結果、現在ではこの分野の 在来型製品の九九%以上がデジタル製品に切 り替わっている。
ドラスティックな事業転換の成果はすでに 出ている。
成長を謳歌するデジタル家電の象 徴とも言うべきプラズマテレビの国内販売シ 海外顧客へ4日以内に工場直送 DHLと組んだ新物流が今春稼働 日立製作所は今年4月から、海外向けデジ タル家電の物流改革「Lプロジェクト」をヨ ーロッパ全域でスタートする。
大手国際宅 配業者のDHLと連携し、受注してから4日以 内に生産拠点から顧客へ製品を直送する。
現地に在庫を持たない仕組みの実現によっ て、連結ベースの在庫の7割削減を狙う。
米 国などでも順次、実施していく予定だ。
日立製作所 ――在庫削減 41 APRIL 2004 ェアで、日立は二〇〇一年度から三年続いて トップに立つ。
デジタル家電の売れ行きは海 外でも好調だ。
同社の場合、海外ではとりわ け液晶プロジェクターの販売額が伸びており、 世界市場でも二ケタのシェアを確保してトッ プグループに入っている。
国内よりも販売額 が大きく、日立では同製品の売り上げの八割 を海外で稼いでいる。
ユビキタスプラットフォームグループでは、 この?アナログからデジタルへ.の製品転換 に伴って、国内外の生産拠点の整理・統合を 進めた。
同時に日本を除く世界各地の販売体 制を見直し、ロジスティクスの再構築に乗り 出した。
それを主導してきたのが「Lプロジ ェクト」だった。
在庫管理を段階的に刷新 日立グループは海外で、現地法人の販社な ど五〇カ所の営業拠点を構えて家電製品を売 っている。
日本や中国、アジアなどの生産拠 点で作った製品を各国の販社が仕入れ、現地 に在庫を持って販売するという形態を長らく とってきた。
二〇〇〇年からは世界四極体制をスタート し、海外の物流オペレーションの地区割りを、 国別ではなく北米・ヨーロッパ・中国・アジ アオセアニアの四エリアにくくり直した。
こ れにともない在庫管理も四極ごとの集中管理 に切り替え、それまでは各国の販社倉庫に分 散していた在庫を、四極それぞれに設けた中 央倉庫に集約した。
ただし、世界四極体制に移行してからも、 現地の販社が在庫を持つという以前からの構 図は同じだった。
このため現地では、需要変 動などによる過剰在庫の発生に相変わらず悩 まされていた。
エリアごとに管理を集約した とはいえ、四拠点に分散している以上、拠点 によって在庫の偏在が発生することも避けら れなかった。
パソコンがそうであるように、最新技術を 駆使したデジタル家電は、アナログ家電に比 べて商品の陳腐化が著しく速い。
しかもデジ タル家電には高額商品が多いため、モデルチ ェンジによって旧モデルの価格が下落すると、 売り手側がこうむる評価損も大きくなる。
こうした事情から、ひとたび過剰在庫が発 生すると、その処分をめぐって連結企業間で 責任のなすりあいが始まるのが常だった。
直 接的に在庫リスクを負っている各地の販社に とっては、在庫処分による評価損で業績が悪 化するのを避けたいという思いが働くからだ。
だが連結経営の視点からみれば、過剰在庫は グループ全体の重荷にほかならなかった。
問題を解決するために「Lプロジェクト」 では、日立グループ全体として最も効率のい い在庫の持ち方を模索し、流通のしくみを再 構築しようとしてきた。
日立製作所は現在、各事業を高収益に転 換するための中期経営計画に取り組んでいる。
このなかでグループ全体にわたる経営施策と して、キャッシュフロー経営の強化を狙った 「Cプロジェクト?」を推進中だ。
「Lプロジ ェクト」はその一環であり、連結ベースのキ ャッシュフローを改善するためのロジスティ クス面からのアプローチという位置づけにな っている。
今年四月から「Lプロジェクト」の第一弾 が、ヨーロッパ向け主要製品を対象にスター トする。
新たなロジスティクスの仕組みを導 図1 ロジスティクス・プロセスの短縮 エンドユーザー 顧客の倉庫 エンドユーザー 顧客の倉庫 現地配送 現地法人の倉庫 海上・航空輸送 生産拠点 現 状 改善後 生産拠点 日立製作所・ユビキタス営業統 括本部グローバル営業本部欧州 営業部の中野洋樹部長代理 入することで、この分野の流通モデルは様変 わりする。
リードタイムを七〇日から四日へ 現状ではプラズマテレビや液晶プロジェク ターといった製品は、日本などの生産拠点で 製造した後、船便または航空便で国際輸送し て、世界四極に設けた中央倉庫に納めている。
その後、販売先のディーラーなどが指定する 倉庫を経て、エンドユーザーへと届ける。
日立は、生産拠点から出荷された製品が顧 客の倉庫に納められるまでのリードタイムを、 輸送期間や在庫期間を含めた?ロジスティク ス日数(トータル流通リードタイム).とし て管理している。
従来の流通経路ではヨーロ ッパの顧客への「ロジスティクス日数」は、 おおよそ七〇日かかっていた。
その内訳は次の通りだ。
船便でヨーロッパ まで製品を運ぶための輸送リードタイムが約 一カ月。
これに一カ月分から一カ月半分ある 販社の在庫日数を上乗せする。
さらに顧客の 倉庫まで最長で一週間程度かかる配送日数を 加えると、従来の「ロジスティクス日数」は おおよそ七〇日という計算になる(図2)。
域内の配送に最長一週間というのは説明を 要する部分だろう。
デジタル家電を扱う販社 を日立はヨーロッパでは六カ国に構えており、 前述したように以前は各国に倉庫を設けてい た。
これを四極体制に移行したときにオラン ダの中央倉庫一カ所に集約。
集約前には、倉 庫から顧客までの配送は四八時間以内だった。
それが集約後は、例えば中央倉庫から二〇〇 〇キロ離れているイタリア南部の都市などへ は、トラックの手配なども入れると約一週間 の配送日数がかかるようになっている。
一昔前のアナログ家電の商品寿命は一年と か二年をメドに考えられていた。
このため長 い輸送リードタイムや、一カ月分以上もの現 地在庫があってもビジネスは成り立ってきた。
しかし、技術革新の速いデジタル家電にとっ て、七〇日という「ロジスティクス日数」は 致命的な長さだった。
だからこそ「Lプロジェクト」では、従来 とはまったく異なる観点で、この物流を見直 す必要があった。
そして実際に、受注品を生 産拠点から直接、顧客の倉庫へ空輸すること によって、「ロジスティクス日数」を七〇日 から一気に九六時間以内(四日以内)に短縮 できる道を切りひらいた。
輸送モードを全面的に飛行機に変えただけ でなく、新たな仕組みでは現地の販社倉庫も 経由しない。
緊急対応分を除けば原則として 現地には在庫を持たず、その代わり生産拠点 に在庫を持って一元的に管理する。
ユビキタ ス営業統括本部グローバル営業本部欧州営業 部の中野洋樹部長代理は「グループ全体で最 もリスクの少ない在庫の持ち方をするという 考え方に立って、生産拠点で在庫を一元管理 することにした」と説明する。
「これは販社の在庫負担を軽くして、生産 側の負担を重くするということではない。
在 庫は雪だるまと同じ。
工場で持てば原価だが、 販社の在庫に移ればその間のコストが上乗せ され、在庫が過剰になった場合の処分にも、 それだけ余分なコストがかかるようになって しまう」 九六時間以内に顧客に届ける仕組みは、大 手国際宅配会社DHLの「BBX(ブレー ク・バルク・エクスプレス)サービス」を活 用することで実現した。
「BBX」では、税 関とのEDIで輸出入通関プロセスを簡略化 するなどの方法により、短いリードタイムで ドア・ツー・ドアの一貫輸送を提供している。
ヨーロッパ向けの貨物でも、七二時間.九六 時間あれば目的地に届く。
APRIL 2004 42 図2 “ロジスティクス日数”の削減目標 輸送期間 約1カ月 現地販社の在庫期間 約1カ月 受注〜  配送 約1週間 4日 現 状 (約70日) Lプロジェクト (4日以内) 43 APRIL 2004 このサービスを利用すれば、現地に在庫が なくても顧客に納期を確約することが可能だ。
このため、従来よりCS(顧客満足)の向上 につながると日立では見ている。
また、同サ ービスでは、航空運賃だけでなく通関手数料 や現地での配送料まで含めたタリフ設定にな っていることもあって、単に航空貨物を利用 するのに比べてもトータルコストは二割近く 安くなる見込みなのだという。
総在庫日数を三分の一に削減 日立の今回の取り組みで、何より大きいの は在庫へのインパクトだ。
まず生産拠点で在庫を一元的に管理するようになれば、地域ご との在庫の偏在リスクはほぼ完全に解消でき る。
また、顧客への直送化によって、サプライ チェーンにあるトータル在庫の大幅な削減も 実現する。
これまでの仕組みでは、在庫は海 上輸送中の一カ月分と、現地販社の倉庫に一 .一・五カ月分あった。
さらに顧客の倉庫に ある約〇・五カ月分の在庫も、モデルの切り 替え時に返品されて再び販社の在庫になる恐 れがあるため流通在庫としてカウントすると、 サプライチェーン上の総在庫日数は三カ月分 にも上っていた。
「Lプロジェクト」では具体的な数値目標 として、この三カ月分という総在庫を一カ月 分まで減らすことを狙っている。
現地の販社 倉庫には緊急対応分として〇・二カ月分だけ 在庫を持つ。
顧客の在庫を日立が管理するこ とはできないが、〇・三カ月で回転できるよ う支援していく。
これによって、まず流通側 の在庫を〇・五カ月分に抑え込む。
中野部長代理は、「我々は受注してから三 .四日で確実に顧客のもとへ届けるという仕 組みを実践していく。
このことによって受注 に対する信頼感が生まれれば、顧客の在庫も 健全化するはず。
結果的に顧客の在庫回転率 を上げることも、このプロジェクトの狙いの 一つだ」という。
新しい仕組みでは、販社在庫を減らす代わ りに、従来は基本的に無在庫だった製造側で、 新たに在庫を持つ必要がある。
それでも日立 は、この製造在庫を〇・五カ月に抑えること で、流通在庫とあわせた総在庫日数を一カ月 に短縮したいと考えている。
製造在庫につい ては現在、別のプロジェクトを通じて生産リ ードタイムや計画サイクルの短縮に取り組ん でいる。
BTO(Build to Order: 受注生 産)方式の導入が、この領域での在庫削減の 柱になる。
ポータルサイトで情報を共有 在庫を削減し、同時に欠品や販売機会ロス の発生率も抑制していくには、需要予測や生 産計画といった情報面での精度向上も欠かせ ない。
そしてそのためには、現地販社などの 販売サイドと、生産拠点をはじめとする製造 サイドとの正確な情報伝達が重要になる。
また、これまで生産拠点では、月次で作成 される生産・出荷計画に基づいて販社の倉庫 への在庫補充を行っていた。
これが販社倉庫 に在庫を持たない新しい仕組みでは、顧客か ら注文を受けて毎日出荷することになる。
新 たな仕組みを実現するには、受注から出荷・ 配送までを迅速に処理できる新たな情報シス テムも必要だった。
そこで「Lプロジェクト」 では、新たな仕組みをサポートするシステム を構築した。
サプライチェーンのなかでは、受注から配 送までの各プロセスを通じて、顧客、販社、 図3 総在庫日数の削減目標 輸送中の在庫 1カ月 現地販社の在庫 1.5カ月 流通在庫 0.5カ月 製造在庫 0.5カ月 0.2 0.3 現 状 Lプロジェクト APRIL 2004 44 製造拠点、物流会社などがそれぞれ固有のシ ステムで情報を処理している。
このため過去 には、サプライチェーン全体の効率化に欠か せない情報の伝達がスムーズにいかず、また 必ずしも正確に伝わらないという課題を抱え ていた。
具体的な情報伝達の仕組みはこうなってい た。
まず顧客からの注文は電話やファクスで 現地の販社に入る。
これらの受注状況や在庫 実績にもとづいて、販社は月に一度、「PS I(仕入れ・販売・在庫)計画」を作成。
メ ールで日本のユビキタスプラットフォームグ ループ本部に送る。
これを受けて本部では、生産および営業部門などの担当者が「仕込み 生産会議」を開き、現地の情報などをもとに 調整を行った上で生産拠点に生産指示を出す、 という手順だった。
このような役割分担だと、販社の受注状況 を本部が直接把握することができないため、 本部は販社からの情報を頼りに生産計画を決 めるしかない。
だが販社の計画には思惑が入 ることが避けられず、場合によっては、それ が過剰在庫を発生させる原因にもなっていた。
製品を出荷後の情報のフィードバックにも 問題があった。
「いつ商品が届くか?」 という顧客や販社からの問い合わせに対 し、これまで生産側はフォワーダー会社 に電話で確認していた。
だがフォワーダ ー会社でも、航空キャリアや通関業者、 配送業者などに情報を照会する必要が あるため、問い合わせに回答できるまで 二、三日かかることすらあった。
これらの問題を解決するため、「Lプ ロジェクト」ではインターネット上にポ ータルサイトを設けることにした。
プロ セスごとに孤立していたシステムをポー タルサイトに接続し、ここで受注状況や 生産計画、配送状況などの情報を共有 できる体制を構築。
これによって本部や 生産拠点では、世界各地の販社の受注 状況をいつでも見られるようになる。
D HLが独自に運用しているドア・ツー・ ドアの貨物追跡システムともリンクして、顧 客が直接インターネット上で配送状況を照会 できるようにする。
新たな「受発注支援システム」も開発した。
受注情報はポータルサイトを通じて迅速に処 理され、毎日、生産拠点に向けて自動的に出 荷指示を流す。
その際、同時にDHLの拠点 にも集荷指示を出す。
こうした情報の共有に よって、業務の効率化と、情報精度の向上が 進むことを「Lプロジェクト」では期待して いる。
プロジェクトではすでに昨年八月から、液 晶プロジェクターと監視カメラを対象にヨー ロッパ向けで一部、トライアルを実施してき た。
支援情報システムが本格稼動する今年四 月には、全域で本格的にスタートする。
その 後、米国や中国などの地域にも順次導入を進 め、二〇〇五年度までに全世界に展開してい く計画だ。
「海外でトップグループの位置にある今だか らこそ、他社よりも早く一歩先を行く仕組み をつくって、商品以外でも強固な競争力を維 持していきたい」と中野部長代理は意気込む。
パソコンのような商品ではすでに外資系の 直販メーカーなどが、工場直送モデルを確立 している。
しかし、販社を通じた現地密着型 の販売活動を展開する家電事業では、これは 初めてのモデルといえる。
それを日立が先駆 けようとしている。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 図4 新たに構築した販売支援ITシステムの概念図 顧客 海外販社 本社 製造拠点 物流会社 P/O 生産日程 船積み データ P/O P/O ダウンロード アップロード 在庫ステータス 受発注ステータス 配送ステータス ダウンロード アップロード 日立新ポータルサイト 販社が受注後、工場〜出荷までの業務プロセスを自動化・高速化する 売掛計上プロセスを自動化・合理化する 物流業者からの動能情報を各部署に自動的に伝える

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