ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年3号
特集
第4部 現場の見える化 解説 バーコードに人間が管理されている PEC産業教育センター 山田日登志 所長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2013  34 出荷場から会社の問題が見える  商売というのはトラックに製品を積み込んで出 荷して初めて売り上げが立ちます。
それなのに経 営者を始め多くの会社の本社では、「今日、何を、 どれだけ出荷するのか」をしっかり見ていません。
生産管理部長や営業部長、工場長に聞いても答え られない。
収支をリアルタイムで把握していないこ とになります。
コンピューターの数字を見て現場が 分かっていると錯覚している。
経営が現場から乖 離してしまっているんです。
 私はどんな現場でも最初に指導に行った際には必 ず出荷場から見ます。
出荷を見ることで、その会 社の現状が見えるからです。
一日の出荷量を見れ ばその会社のおおよその売り上げが分かるし、ト ラック一台当たり何品種を積んでいるのかを見れ ば工場の様子も分かってくる。
 さらに出荷されているモノがいつ生産ラインに投 入されたのかを確認すれば、出荷と生産のミスマッ チが見えてくる。
そうやって出荷から一つひとつ紐 解いていくことで、どこに在庫や仕掛品が停滞し、 生産ラインのどこを見直すべきか突き止められる。
 つまり、出荷を見ることで工場全体、会社全体の 問題を把握することができる。
その結果、カイゼン が進む。
在庫を減らし、お客様が本当に欲しいもの を、お客様が欲しいときに運ぶジャスト・イン・タ イム(JIT)を実現し、儲かるようになります。
 センターを立ち上げてから三五年間で約三〇〇 社、一〇〇〇カ所以上の現場を訪れ、トヨタ生産方 式(TPS)に基づく「ムダとり」を指導してき ましたが、そうやって多くの会社が生まれ変わりま した。
赤字の会社が黒字になり、一割以上の営業 利益率を上げら れる会社がたく さん出ています。
 今どきそれな りの企業の経営 者でトヨタ生産 方式(TPS)を知らないという人などまずいま せん。
そのくせ何もできていない。
「見える化」と は簡単に言えば、自分の目で見て、自分の頭で判 断できるようにすることです。
ところが「かんば ん方式を導入しました」という現場を見ると、か んばんに人間が管理されている例が実に多い。
 物流会社も同じです。
バーコードでモノを管理す るのではなく、バーコードに人間が管理されてい る。
指示通りにピッキングして箱詰めするだけで、 何も考えていない。
まるで“もぐら叩き”です。
 バーコードを一切使わずに作業をしたらどうなる か素朴に考えてみてください。
何をどこに保管す べきかを自分で考えるようになるはずです。
バー コードの数字を見るのと現場を見るのでは、人間 の意思の働く度合いが全く違います。
それが人の 活性化に繋がるんです。
自ら生産機器を安価に開発  私が入った現場には、納品先や出荷の時間、製 品の種類と個数などが一目で分かる「管理板」を 設置するように指示します。
それを実際の在庫と 見比べれば、問題があることは誰でも分かる。
生 産が早過ぎるために、余計な手間が増えている。
あるいは生産が遅すぎる。
ではなぜ早過ぎるのか、 なぜ遅れたのか。
そこから暗中模索が始まります。
そこをくぐり抜ければ、みんなが自分で判断して  多くのメーカーがトヨタ生産方式の導入を標榜している が、実際には人間が「かんばん」に管理されているケース が多い。
物流会社もバーコードでモノを管理するのではな く、逆に人間が管理されている。
現場を見て効率的な保 管などを自分の頭で考える「人の意思が入った機械化」 が重要だ。
それが人の活性化にも繋がり、儲けを生み出す。
PEC産業教育センター 山田日登志 所長 バーコードに人間が管理されている PEC産業教育センター 山田日登志 所長 第4部 現場の見える化 解説 35  MARCH 2013 動けるようになる。
現場が全く変わります。
 現場では自動倉庫を取り払うというのも、ムダ とりの一環としてよくやります。
自動倉庫を使う とモノがそこから出てくるのを待つようになる。
機 械に依存することで出荷の流れがかえって見えな くなり、逆に機械に使われるようになってしまう。
悪いと分かれば人間は直す。
ところが悪いと分か らない仕組みになっている。
 以前指導した、ある大手物流会社では庫内作業 の生産性が三倍も良くなりました。
それまで一人 一時間当たり五九個しかピッキングできなかったも のが一八九個になった。
他の現場では単純作業と なるベルトコンベアを撤去して従業員一人ひとりを 多能工化したら、半年で生産性が五割も上がった。
 もちろん、機械が全て悪いわけではありません。
機械にも人の意思を反映させる必要があるという ことです。
それを我々は「からくり」と呼んでい ます。
「からくり研究会」を組織して、自分たちが 使う生産機器を、既存の大型自動設備よりも機能 を必要なものだけに絞り込み、自分たちで設計し て安く開発しています。
 私が二〇年間指導したトステム(現LIXIL) では、「フォークリフト無し運動」を展開しました。
荷物の上げ下ろしだけなら、一台五〇〇万円もす るフォークリフトなど必要ない。
バッテリーカーに シリンダーなどの部品を自分たちで取り付ければ三 〇万円も掛からずに済みます。
どこでも行ける機 動性の高いフォークリフトと異なり、バッテリーカ ーでは取れない場所が生じるのであれば、今度は モノをいかに効率的に置くかを考える。
そうした 人の意思の入った機械化は全然違います。
本当に 儲かるようになるんです。
(談)  山田氏はトヨタ生産方式(TPS)の創始 者として知られる故・大野耐一氏(元トヨタ 自動車副社長) に師事してノウハウを学び、 一九七九年にPEC産業教育センターを設立し た。
同氏自ら依頼先の工場で作業員らに指導 し、TPSを踏まえた現場の「ムダとり」を 徹底させて業務効率化と在庫圧縮を実現。
余っ たスペースや人員の有効活用も後押しし、収益 の向上を手助けしている。
 現場を指導する際、まず出荷場を見ること から始めるのが基本だ。
出荷と生産のミスマッ チを掴み、作り過ぎや過剰在庫のムダを解消し てジャスト・イン・タイム(JIT)に繋げる 第一歩とする。
顧客との接点となる出荷場の 状況を作業員に把握させ、「お客のニーズ重視」 の意識を根付かせる狙いもある。
 工程間の材料受け渡しを円滑化して仕掛品 を最小限に留め、各工場の実情に合わせて設 備のレイアウト見直し、効率的な動作の標準化 などを実施。
「停滞・運搬・動作」のムダとり を強力に推し進める。
 全工程を一人で手掛ける「一人屋台生産方式」 や、少人数のチームで一つの製品を組み立てる 「セル生産方式」も導入してきた。
作業の見直 しに当たっては一人ひとりが創意工夫できる余 地を持たせ、生産性向上だけでなく従業員の やる気を引き出すことも心掛けている。
 これまでムダとりを指南したのはソニー、キ ヤノン、NEC、三洋電機、トステム(現L IXIL)、スタンレー電気、ヒロセ電機など 多岐にわたる。
ソニーでは一年間で工場内に約 一万平方メートルの空きスペースを創出するな ど、数々の成果を残している。
赤字に悩む中 小企業の経営を立て直した事例も多い。
「ムダとり」徹底で現場を変革 工場内で従業員にムダとりを細かく指導する山田氏(中央) 「管理板」の一例 出荷先 時間 A 社B 社C社D社 9:00 a 50 a 30 b 50 b 30 c 50 c 30 a 50 a 30 d 30 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ d 30 e 20 e 30 10:00 11:00 出荷先や製品の種類、個数を明示。
出荷が済めば印を付ける。
山田氏著作などを基に作成 特集 物流の 見える化 最新版

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