ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年3号
特集
第2部 在庫の見える化 解説 グローバルSCMのロードマップ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2013  22 SCMセンターで世界一元管理  「グローバル在庫を管理したいという相談が二〇 〇九年頃から急に増えてきた」とキヤノンITソリ ューションズの淺田克暢コンサルティングプロフェ ッショナルは言う。
これまで海外の在庫はその国の 販社に任せてきた。
それを日本の本社で直接コン トロールしたいという相談だ。
 大企業ばかりではない。
同社のクライアントの年 商三〇〇億円規模の中堅精密機器メーカーでは本 社にSCMセンターを設置。
六人のスタッフで海外 販社の在庫を一元的にコントロールする仕組みを構 築した。
 同社の取り扱いアイテム数は約二万に上る。
とて も手作業では追い付かないためキヤノンITソリュ ーションズの需給予測ツール「FOREMAST」 を導入した。
集めたデータを見やすく纏め、複数 の予測モデルを使って分析することができる。
担 当者の負担が大きく軽減されて、従来は月一回だ った計画策定を週単位に短縮できた。
販社の補充 担当者など海外とも同じ画面を見ながら話ができ るため、コミュニケーションも向上した。
 「通常の会社だと海外拠点との製販会議は六カ月 か三カ月に一回、多くても月一回だ。
それでは対 応が遅れてしまうし、話し合いの内容も大まかで 品目単位の調整まで落とし込めない。
そんなやり 方ではもはや対応できなくなっていることに、多 くの会社が気付き始めた」と淺田氏は言う。
 リーマンショックや東日本大震災、タイの洪水 など、サプライチェーンの寸断が頻繁に起きている ことに加え、生産リードタイム自体も長期化して いることが、グローバルな在庫管理の見直しを迫 っている。
 家電業界の部 品調達のリード タイムは、以前 なら二カ月程度 だった。
それが 現在は部品によ っては四〜五カ月掛かる。
部品自体も高スペック 化したことに加え、生産コストを抑えるために国 境を超えてプロセスが分散したからだ。
日本で作る のはコア部分だけ。
それを人件費の安い東南アジ アに運んで汎用部品と組み合わせてモジュール化、 米国や欧州など消費地の工場で最終製品に組み立 てるケースが多くなっている。
 従って販売の五カ月前には生産量を確定しなけれ ばならない。
予測した通りに売れないと欠品や売 れ残りが発生してしまう。
しかし、テレビなどはそ の間に市場価格が半分近くに落ちることもある。
 日本アイ・ビー・エムでSCMコンサルティング を担当する寺門正人戦略コンサルティングオペレー ションズ&サプライチェーンアソシエイト・パートナ ー部長は「テレビは最も顕著な例だが、他の家電 や電子機器などでも、リードタイムの長期化によっ て在庫が増加する傾向にある」と指摘する。
 サムスン電子やアップルなど、海外の有力メーカ ーは世界各地で使用する業務プロセスやコード、情 報システムを標準化し、グローバルレベルの「見え る化」を徹底している。
 これに対して日本企業の多くはトータル在庫の把 握自体にも難儀しているのが現状だ。
ERPを導 入している企業でも把握しているのは財務データ だけで、在庫管理に必要な物流情報は現法や拠点  生産プロセスが国境を超えて分散したことでリードタイ ムは長期化し、グローバル在庫は増加傾向にある。
同時 に市場の変化はスピードを増し、売れ残りのリスクが高まっ ている。
一月遅れのデータをかき集めて手作業で計画を立 てているようでは、とても間に合わない。
  ( 渡邉一樹) キヤノンITソリューションズ 淺田克暢コンサルティング プロフェッショナル グローバルSCMのロードマップ 第2部 在庫の見える化 解説 23  MARCH 2013 ンを改革する。
取引先の在庫を可視化する  ここまで来ればグローバルな可視化システムはひ とまず完成する。
ただし、先進企業はさらに先を 行っている。
自社在庫の管理を超えて他社在庫の コントロールに乗り出している。
 他社在庫の管理には二つのベクトルがある。
一つ はバリューチェーンの下流、顧客が所有している在 庫の管理だ。
家電業界などでは販売店に納品した 製品が売れ残った場合、それを値下げして売り切 るためにメーカーが販売店にリベートを支払うとい う商慣習が根付いている。
在庫補償と呼ばれる。
 販売店に必要以上に在庫が積み上がれば、いず れメーカーには在庫補償費がコスト負担として降り かかってくる。
これを避けるために販売店の在庫 をメーカーが最適化しようとしている。
 もう一つのベクトルは調達先の在庫管理、それ も二次サプライヤーより上流の部品在庫を見える化 しようとする動きだ。
サプライチェーンの寸断をき っかけにBCP(事業継続計画)の観点から注目 されている。
自動車業界では五次サプライヤーまで 遡って在庫を把握しようという動きまで出ている という。
 「可視化については既に高度化のステップも、必 要なソリューションも揃っている。
ただし、これを 機能させるには組織の壁を越えて、トップダウン型 の強烈なガバナンスを効かせる必要がある。
事業部 別組織で現場力に基づいた改善を得意としてきた 日本企業には苦手な分野だが、グローバル市場に 出ていく以上は対応しないわけにはいかない」と 寺門部長は指摘する。
論在庫を弾き、現状とのギャップを埋めていく。
 さらには最適な在庫配置を検討する。
部品、仕 掛品、完成品の在庫をサプライチェーン上のどこに 持つか。
工場倉庫、保管倉庫、地域倉庫のどこに どれだけの在庫を配置した時に最適化されるのか。
サービスレベルとコストとのトレードオフを分析し て最適解を導き出し、それに向けてサプライチェー ごとに異なるシステムで管理していることが多い。
基幹システム自体がバラバラという企業も少なくな い。
そのままでは本社では在庫が見えない。
 図表は寺門部長が作成したグローバルな見える化 のロードマップだ。
 「実績」の可視化がその第一歩となる。
それには まず「良品」「不良品」「貯蔵品」「積送品」とい った言葉の定義を統一しなければならない。
同じ 呼び方でも国によってその意味が違う。
あるいは 同じものなのに違う呼び方をしていれば当然なが ら集計はできない。
 製品コードや部品コードも同様だ。
その標準化 は、どの部品をどこから購入したら最も安くなる のか、調達の最適化でも必要になるが、多くの会 社がここで足踏みしている。
コードの変更を強い られる拠点の反発を受け標準化が進まない。
 第二段階が「計画」や「予定」の可視化だ。
輸 送中の在庫がどれだけあって、いつ倉庫に入る予 定なのかを見えるようにする。
合わせて引き当て が済んでいる在庫を把握しなければならないため、 受注情報の可視化も必要だ。
海外とりわけ新興国 では営業管理が甘く、現地でも受注残を正確に把 握していないことがある。
その場合には営業担当 者に対する指導まで必要になる。
 こうして実績と計画を見える化することで、初 めて「理論値」に基づく在庫の最適化に取り組む ことができる。
納 入リードタイムや 納期順守率など のサービスレベル に、販売予測精 度を加味して理 日本アイ・ビー・エム 寺門正人部長 図表 グローバル在庫可視化のロードマップ 分類 実績Cognos Cognos G-Proc GI-View DIOS iLOG Inventory Analyst 第1段階 第2段階 第3段階 第4段階 在庫実績の可視化在庫定義のグローバル統一化 (良品、不良品、貯蔵品、積送品など) 締めのタイミング 部品コードの標準化・変換 在庫計画と引き当て情報の可視化積送中在庫の可視化 受注情報の可視化 (新興国だと受注残管理ができていない) あるべき在庫レベル(理論在庫)と の比較による可視化 End to Endのあるべき在庫配置 販売店も含めた在庫の可視化 N 次サプライヤーも含めた在庫の 可視化(BCP) 計画 理論値 他社在庫 可視化すべき在庫情報 内容 IBMの ソリューション 納入リードタイム、販売見込精度、ATP 順守率、サービスレベルなどの在庫発生 要因に基づきあるべき在庫レベルを算出 部材、工場完成品、統合倉庫完成品、 地域倉庫完成品の各々でどの程度の在 庫レベルを持つべきか 販売店の在庫レベルの可視化に伴う在 庫補償費用の可視化 N 次のサプライヤー在庫の可視化に伴 う供給断絶リスクの回避(BCP) 出所:日本アイ・ビー・エム 特集 物流の 見える化 最新版

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