ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年2号
特集
注目企業 トップが語る強さの秘訣 第4位 三菱商事ロジスティクス──商社系物流の新しい事業モデルに挑む 藤咲達也 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2012  18 三菱商事ロジスティクス ──商社系物流の新しい事業モデルに挑む  リーマンショック前に断行した採算管理強化が奏功し、 売上減少にも関わらず高い営業利益率を維持した。
物 量回復後、さらに収益性は向上している。
今後5年は「グ レーターアジア」およびロシアにターゲットを絞り、商 社系の強みを活かした新たなビジネスモデルの構築に挑む。
(聞き手・大矢昌浩、石鍋 圭) 物流業の枠組みを超える ──三菱商事の子会社で国際物流のエム・シー・ト ランスインターナショナルと国内物流の菱光ロジス ティクスの合併から六年が経とうとしています。
 「それそろ融合の段階は終わろうとしています。
これまでは国際物流事業と国内物流事業のシームレ ス化を推進してきましたが、次のフェーズに移る時 期に差し掛かっている。
当社が目指すのは単なる物 流専業でもコンサルでもありません。
3PLとも違う。
顧客の経営課題に対して物流面から解決策を提案し、 それを実行していくことが我々の目指すところです。
それを実現するには、既存の物流業の枠組みから脱 皮する必要がある」  「例えば、『国際』『国内』という事業分野の分け 方自体を止めたい。
『国内のこの倉庫でいくら売り 上げか立ったのか』、『中国への輸出でいくらの利益 が出たのか』といったオペレーション別の概念では なく、国際から国内までの一連のフローやソリューショ ン別に管理する体制に改める。
倉庫や輸送といった オペレーションは、その構成要素に過ぎません」  「日本の国内物流は今のままでは将来の夢が描け ません。
市場はシュリンクし続け、メーカーの生産 拠点も海外シフトがどんどん進んでいる。
物流業の 枠組みにとらわれずに、商社系としての強みをより 発揮できる事業モデルを組み立てていかないと今後 の成長は期待できません」 ──商社系の強みとは何でしょう。
 「物流は常に商流と併走しています。
その商流を 活用できる立場にあることが我々の強みです。
親会 社の三菱商事と一体になって、商流と物流が一体と なり、顧客に最適なソリューションを提供する。
他 の物流専業者には絶対にできない領域です」 ──ソリューションという言葉は今ひとつ掴みどこ ろがありません。
 「大きく三つあり、一つは『バリューチェーン・ビ ルトイン型』。
三菱商事はあらゆる産業で川上から 川下までのバリューチェーンを築こうとしています。
当然、バリューチェーンを構築するときには物流の 存在が重要になる。
当社は構想の初期段階からそこ に参画して、そのバリューチェーンを物流面からサポー トする」  「実際、例えば日本からタイに部品を持っていっ て生産し、日本や諸外国に輸送して売るという自動 車のバリューチェーンに対して、当社はそれに必要 な全ての物流機能をフルラインで所有し、提供して います。
自動車の他にも、アパレルや化学品などで 同様の実績を持っている」  「二つ目は『プロフィットシェア型』です。
三菱商 事が新規の顧客にアプローチするとき、当社の物流 機能を付加して提案する。
三菱商事が扱う商材に品 質の高い物流サービスが加われば、顧客にとってさ らに魅力的なソリューションになる。
この時のミソは、 従来のように商流は商流、物流は物流で儲けるので はなく、その顧客から上がった収益を三菱商事と当 社でシェアできる点です。
商流の中身も全て始めに 開示してもらい、互いの取り分をしっかりと決めて おく。
これも商社系物流子会社ならではだと思います」 ──親会社と利益の取り合いになりませんか。
 「一〇〇%子会社ですから、内輪で利益を奪い合 うことに意味はありません。
それよりも当社には三 菱商事と一緒に動くことでビジネスが広がるという メリットがあります。
一方で三菱商事にとっても自 分たちの一部のように動いてくれる当社の物流機能 藤咲達也 社長 注目企業 トップが語る強さの秘訣 第4 位 特 集 《平成 24年版》 19  FEBRUARY 2012 は必要です。
互いの機能やサービスを活用し合って、 一緒に顧客に攻め込んでいくことが可能なのです」 ──三つめのソリューションは?  「三菱商事はベンチャー企業やバリューチェーンを 支えるパートナー企業など様々な企業に投資をして います。
その投資を成功させるには、単に資本を投 下するだけでなく、投資先の企業価値を向上させる 必要がある。
そのために営業面や財務面などあらゆ る切り口から投資先をサポートするわけですが、そ のうちの物流面を当社が担当する。
『バリューアップ 型』と呼んでいます」  「通常の物流改善とはアプローチが違います。
当社 が三菱商事の投資先企業のサポートを行うときには、 単なるコスト削減ではなく『少しでも多く売れる物流』 の構築を志向します。
投資先企業の製品が一台でも、 一枚でも、一キロでも多く売れるための物流を目指す。
投資先を成長させることで当社の事業も拡大する」 営業利益率を堅持 ──そういったソリューションのターゲットは?  「やはり商流の向かう可能性の高い地域になります。
今後五年間は中国、インド、ASEAN諸国などの “グレーターアジア”およびロシアに的を絞り、経営 資源を投下していく。
現在当社は中国、香港、台湾、 タイ、シンガポールとアジアに五拠点を構えていま すが、近いうちにインドやベトナムへの進出を実現 したい。
必要に応じてM&Aなども視野に入れます」 ──アジア市場は魅力的ですが、返り討ちにあう物 流企業も多い。
とりわけ人件費の割高な商社系が現 地に人を派遣すれば採算がとれない。
 「販売物流など現地完結型の物流で黒字化を達成 するのは難しいでしょうね。
しかし、そこはコスト の安い地場の物流業者を使えばなんとかなる。
当社 が狙うのは現地と国際が絡む領域です。
そこではコ ントロールの利いた、きめ細かい物流が必要になる。
当然、物流サービスの付加価値も高くなるし、商社 系の強みも活かせる。
そういった領域に、ノウハウ を横展開していきます」 ──欧米に関してはどうですか。
 「今は考える時期です。
欧米拠点の社員には『日 本からは見えない現地の物流を見極めろ』と指示し ています。
日本からアジアを見ているように、西欧 は東欧を、米国はブラジルやメキシコを重要マーケッ トとして見ている。
物流分野でも色々な変化や潮流 が存在する。
それを見える化して情報を蓄積するこ とで、アジア以後のビジネスチャンスに繋げていく」 ──直近三年の業績についてですが、売り上げは大 きく落ち込んでいるものの、営業利益率は堅持して います。
 「当社の若松前社長時代の採算管理の強化が奏功 した格好です。
また売り上げが一〇年三月期に大き く落ちたのは会計方針を変更したためです。
もちろ んリーマンショックで物量は落ちましたが、商売自 体がそこまで縮小したわけではなかった。
さらにそ の後は、物量の回復を着実に収益に結びつけてきま した。
一部倉庫の売却や海外拠点の機能強化、また 先ほど説明した三つのソリューションの刈り取りが 始まったことも業績を下支えしています」  「また、この二年間は、親会社の協力を得ながら 内部統制の強化を図ってきました。
今はまだ業績に 直接プラスになるわけではありませんが、いずれコ ンプライアンスや財務の正確性などが顧客から当た り前のように求められる時代が来る。
今からそれに 備えています」 事業モデルに合わせて物流資産のリストラ進める  三菱商事の100%物流子会社。
エム・シー・インター ナショナルと菱光ロジスティクスが合併して06年4月に発 足した。
三菱商事関連以外の外販比率は2〜3割。
商社 系物流子会社としての強みを発揮できる顧客に積極的に サービスを提供していく方針。
 国内には賃貸を含めて11拠点を有するが、古い物件も 多い。
現在同社が志向しているソリューション提案型の新 業態に合致する拠点に今後改廃していく予定。
コアとな る倉庫アセットは基本的に自社で所有する方針だ。
海外 では9カ国で事業を展開。
今後の成長機会の所在をアジア と見定め、積極的に投資していく。
 12年3月期は前半の東日本大震災、後半のタイ洪水が 影響して厳しくなる見通し。
現在の自動車、アパレル、 工業財の3本柱に加えて、生活関連分野など4本目の柱を 早急に構築するなどしてリスクヘッジを図る。
本誌解説 07年 08年 09年 10年 11年 3月期 50000 45000 40000 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000 0 9.0 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 (百万円) (%) 業績推移 売上高(左軸) 当期利益率(右軸) 営業利益率(右軸)

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