ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年12号
特集
Case study 外食チェーン サイゼリヤ──「製造直販」で品質向上とコスト削減を両立

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2012  40 ピザ生地まで内製化  割安ながら味にこだわったメニューを前面に打ち 出したイタリアンレストランチェーンを展開してい るサイゼリヤ。
重視している方針の一つが、「バー ティカル・マーチャンダイジング」(製造直販)と 呼ぶ手法だ。
素材の調達から加工、物流、店舗で 提供するまでを、その名の通り、垂直統合型で一 貫して自ら管理する。
 背景には、創業者の正垣泰彦会長が繰り返し唱 えてきた「安くて値打ちある品を提供したい」と の思いがある。
他の人の手を介さず、自社でそれ ぞれのプロセスに深くタッチすることで、コスト削 減だけでなく、顧客の反応を踏まえて素早くサー ビスや品質の改善につなげることを目指している。
 同社のレストランで提供される野菜に、その成果 が象徴的に表れている。
以前は、卸業者の手を借 りて調達していたが、店舗に届くまでに収穫から 数日が経過しており、理想の鮮度とは言えなかっ た。
どうしてもリードタイムが長くなりがちな市場 流通への依存を見直し、農家から直接調達する方 向へ徐々に舵を切っていった。
 二〇〇〇年、福島県白河市に約二八〇ヘクター ルの自社農園を開設した。
バーティカル・マーチャ ンダイジングのモデル的存在と位置付け、種や苗は 自社で開発し、現地の農家に生育を委託するとい うシステムを構築。
レタスなどの収穫を始め、同社 の主力調達先に成長した。
 現在は各地の契約農家から仕入れる野菜で、全 国約九〇〇店舗のほぼ一〇〇%を賄っている。
契 約に基づき、各農家にはサイゼリヤが求める基準に 沿って栽培、収穫してもらうことで、安全性の担 保にも目配りしている。
併せて、契約農家の協力 も得て、自社の研究開発部門でレタスやトマトなど の品種改良に日々注力している。
 鮮度を維持するための工夫も徹底している。
物流 事業者と連携し、水分が最も逃げにくく、鮮度を 一番保つことができる四度をキープした冷蔵車に、 収穫した野菜を畑でそのまま積み込み、カミッサリ ーと呼ばれる食品加工・物流工場へ運んでいる。
 カミッサリーでは、届いた野菜を加工するライン も四度でカット作業を進めているほか、店舗には ウォークインタイプの冷蔵庫が設置され、配送した 車からそのまま納められるよう配慮。
他の大手外 食チェーンでは見られない、産地〜工場〜店舗を 繋ぐ独自のコールドチェーンを構築した。
 さらに、仙台市若林区で新たにトマト農場を整 備、収穫している。
同社が自ら品種改良してきた トマトを栽培し、将来は新種の実験や社員研修など に用いる基幹のトマト農場に育て上げたい考えだ。
安全性が高い商品を提供するとともに、東日本大 震災で大きな打撃を受けた同区の復興支援の意味 合いも込めている。
 バーティカル・マーチャンダイジングに不可欠な カミッサリーは吉川(埼玉県)、神奈川、兵庫の国 内三カ所で運営している(図)。
各地から集められ た食材は、このカミッサリーで加工や下処理を済ま せ、パック詰めにして、各店舗に送っている。
 店舗では、スタッフがソースを絡めてオーブンで 温めるなど、最後の一手間をかけて客に提供して いる。
カミッサリー中心の仕組みを構築したのは、 キッチンの作業をシステム化することで店舗の人員 を減らすとともに、調理において個人の技能に頼 る部分を極力少なくして、常に料理の品質を一定 サイゼリヤ ──「製造直販」で品質向上とコスト削減を両立  外食業界では異色の垂直統合型サプライチェーンを構築 し、食材の品質向上とコスト削減を同時に進めている。
野 菜はほぼ100%を契約農家から仕入れて、独自のコールド チェーンで店舗まで運ぶ。
海外の産地にも自社施設を置い て調達をコントロールしている。
       (藤原秀行) Case study 外食チェーン 41  DECEMBER 2012 水準に保つとの狙いからだ。
 〇二年にはオーストラリア・ビクトリア州で海外 初となる工場の稼働を開始した。
メニューの中核を 占めるハンバーグのパテやミラノ風ドリアの加工を 担当している。
新鮮な牛肉や、ドリアに必要な良 質のミルクを安定して調達できる点などを重視し、 同国に加工の拠点を置く決断をした。
国内の加工 体制に何らかのトラブルが発生した場合に備え、オ ーストラリアの工場は、野菜加工なども可能な体制 を整えている。
 一方、ワインは一九九三年にイタリアからの直輸 入をスタート。
現在はワインのほか、生ハム、チー ズ、オリーブオイルといった食材を現地のメーカー などと共同で開発したものを、店舗で提供してい る。
品質にこだわる分、自社で直輸入することで リーズナブルな価格に抑え、利用客が気軽に楽しめ るよう考慮している。
 今後は、ピザ生地の内製化も始める予定だ。
神 奈川工場の敷地内に、ピザ生地の製造ラインを新 設。
同社では初めて、小麦粉の段階から作り始め ることを想定している。
現在は国内外のメーカー から生地を購入しているが、自社で製造から調理 までフルにカバーすることで、利用客の反応を見な がら味を改良、店舗メニューの目玉にしたいとの 思惑だ。
 当初は関東圏の店舗への提供からスタートし、軌 道に乗れば神奈川工場のライン増設や、西日本を 担当している兵庫工場でのライン新設に踏み切る 可能性もあるという。
ここにも、経費抑制と品質 向上の両立というバーティカル・マーチャンダイジ ングの考え方が生かされている。
 一三年一月には、新たに千葉市で国内四カ所目 となるカミッサリーが稼働する予定。
建設費約五 〇億円を投じ、自動倉庫などの先進機能を持たせ る計画だ。
ハンバーグソースなどの加工を担当する 予定で、同社社長室広報の内村さやか課長は「従 来以上に食材加工の生産性を上げることができる」 と利点を強調する。
同工場の新設と併せて、国内 の既存のカミッサリーでライン改修を順次進め、生 産品目の分担なども見直し、一段と効率化を推し 進める予定だ。
 ただ、すべての食材をバーティカル・マーチャン ダイジングで賄うのはコスト面などから、相当ハー ドルが高いのも事実。
内村課長は「自社での取り 組みと併せて、メーカーや食品卸業者、物流事業 者などの方々とも協力して、コスト削減や品質維 持に取り組んでいく基本姿勢は変わらない」と強 調している。
三年間で四〇億円のコストを削減  物流面でも大なたを振るった。
〇六年に物流事 業者や取引先企業と連携し、全社を挙げて「生産 物流改革プロジェクト」をスタートした。
食材の配 送や仕分け、在庫管理、現場の労務管理など、幅 広いテーマごとにチームを設置し、細かく問題点を 洗い出すとともに、順次改革に取り組んでいった。
 最も成果を上げた改革の一つが、配送ルートの見 直しだ。
従来はカミッサリーと各店舗の間を四トン 車で運んでいたが、長野など全国三カ所に新設した 中継基地までは一〇トン車で送り、そこで四トン車 に積み替えて各地へ運搬する方式に変更。
これによ り、トラックの積載効率がアップし、運行に必要な 車両も一日当たり一〇台程度減らすことができた。
 このほか、店舗へ食材を届けた帰りのトラックに 別の荷物を積むなどの取り組みも実施。
オーストラ リア工場の生産体制効率化のプロジェクトと合わせ ると、コスト削減効果は〇六年度から三年間で累 計約四〇億円に上った。
 ただ、都心部での店舗数の拡大に伴い、最近で は新たな課題が浮上している。
例えば、東京都心 の店舗に食材を届ける際、通行禁止の時間帯が設 定された場所を回避したコースを取らざるを得な いため、効率的な配送ができないケースがあると いう。
内村課長は「まだ今後の検討課題ではある が、社内では、各店舗への配送ルートを一日一便 から複数便に増やすことで対応する、といったア イデアも出ている」と明かす。
国内外の生産体制 オーストラリア工場 (ビクトリア州メルトン市) 兵庫工場 (小野市) 福島工場 (白河市) 神奈川工場 (大和市) 吉川工場・本社 (埼玉県吉川市) 千葉工場 (千葉市) 13 年稼働予定 ※福島工場は精米・炊飯 出所:サイゼリヤ資料より 勝つのは誰だ 食品SCM 特集

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