ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年3号
SCMの常識
SCMインフラの構築?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCMの常識 講 座 ▼講師 杉山成正 ベリングポイント ディレクター MARCH 2004 66 今回は、「SCMインフラの構築」の第二回 として、情報システムの構築についてご紹介し ます。
情報システム構築のプロセスは、「?グ ランドデザイン」、「?実現化」、「?本番移行」 の三つのフェーズに分けることができます。
こ のうち本講座では、「?グランドデザイン」の フェーズを中心に、SCMシステム構築のポイ ントを解説していきます。
また近年は、SCMシステムをユーザー企業 が自社開発するのではなく、市販のアプリケー ションを活用するケースが多くなっています。
そこで本講座でもERP(E n t e r p r i s e Resource Planning: 統合業務パッケージ)お よびSCP(Supply Chain Planning: サプラ イチェーン計画ソフト)の活用を前提して説明 することにします。
■■グランドデザイン 一般にSCMシステムと言うと、需要を予 測するための、いわゆるSCPばかりがクロ ーズアップされる傾向があるようです。
しか し、SCMシステムには、SCPを核とした 計画系の機能だけでなく、ERPを核とした 実行系機能が不可欠です。
計画系と実行系の二つの機能をバランスよ くシステム化できてこそ、Plan ― Do ― Check ― Action というSCMのマネジメントサイクル を回すことが可能になります。
そのためグラ ンドデザインにおけるポイントも、計画系シ ステムと実行系システムをあわせたシステム の全体構想を明確にすることにあります。
(1)システム概要設計 図1 にあるように、グランドデザインのフ ェーズでは、「業務改革のコンセプト定義」、そ して「To ―Beプロセス概要設計」の結果を 受けて、システムの概要設計における「シス テム・ランドスケープ(システム全体構成: 図2 参照)」を作成します。
システム・ランド スケープを作成する際の注意点は以下のとお りです。
?計画系システムと実行系システムの機能分 担、管理レベルの切り分け 計画系システムと実行系システムの機能分 担を決めることは、一見すると簡単なように 思えても、実はかなりやっかいです。
市販の SCMインフラの構築? 理論編 〈第 10 回〉 業務改革 コンセプト 定義 To-Beプロセス 概要設計 システム 概要設計 デモ プロトタイプ フィットギャップ 分析 詳細設計 カスタマイズ および Add-On開発 単体テスト 運用設計 統合テスト ユーザー教育 マスター および データ移行 試運転稼動 本番稼動 Add-On および I/F分析 導入計画 立案 グランドデザインフェーズ(標準:4〜6カ月) 実現化フェーズ(標準:4〜6カ月) 本番移行フェーズ(標準:2〜4カ月) 図1 SCMシステム構築の進め方 67 MARCH 2004 アプリケーションを使用する場合、計 画系システムと実行系システムで同様 の機能を重複して持っていることが少 なくありません。
たとえば「受注引当機能」などがこれに相当します。
受注時に広範囲の在庫を対象に引き 当てを行うことが重要になる場合には、 計画系システムの受注引当機能を優先 する必要があります。
一方、日々大量 の受注が発生し、それを瞬時に処理し なければならない場合や、物流上の制 約から限定された範囲内で在庫引当を 行う場合には、実行系システムで受注 引当機能を実現する方が適当と考えら れます。
?商品マスター/コードの統一 SCMシステムにおいては、サプライ チェーンの構成メンバーであるサプライ ヤー、メーカー、流通チャネルといった 複数の組織間での情報共有が求められ ます。
また自社内でも計画系システム と実行系システムの間で調達、生産、販 売情報を共有する必要があります。
こ の情報共有をスムーズに行うには、統 一された商品マスターの体系、コード 体系を持つことが望ましいことは言う までもありません。
しかし実際に商品マスター/コード の全てを統一しようとすると、思わぬ 壁にぶつかることがよくあります。
最近 はEDIの普及などによって、サプラ イチェーンメンバー内のコードの統一が進み つつあると言われていますが、現実には自社 内であっても過去に目的別に開発されたシス テム間でコード体系が異なっているというケ ースが珍しくありません。
そこで特定のプレーヤーが使っているコー ドに、他のプレーヤー全員が合わせようとし ますが、それぞれの都合もあり調整は難航す るのが常です。
こうした場合には、SCMシ ステムの構築をきっかけとして、商品マスタ ー/コードの統一まで視野に入れたシステム 全体の見直しも検討する必要が出てきます。
?組織構造の整合性 実行系システムとしてのERPと計画系シ ステムであるSCPの組織構造は、必ずしも 一致しません。
たとえば、ERPでは、財務会計、管理会計の観点から在庫評価単位を意 識して在庫管理構造を決めますが、SCPで は、サプライチェーンモデル(第九回参照) における生産・販売・在庫の計画を立案する ポイントとして在庫管理構造を決めます。
こ の二つのシステム間において、組織構造が不 整合であれば、やはりスムーズな情報共有は 望めません。
組織構造の整合性のチェックは極めて重要 なプロセスですが、それを実施する担当者に は両方のアプリケーションについての十分な 知識が必要となります。
また、システム・ラ ンドスケープを作成する際にも、概要レベル でアプリケーションの適合性の判断が求めら れます。
従ってグランドデザインのフェーズ 販売計画 拡販計画 納入 計画提示 発 注 納期回答 出 荷 原材料/部品 調達計画 生産計画 在庫計画 供給計画 シミュレーション 納入 受入検査 生 産 出荷検査 出 荷 入 庫 納 入 出 荷 引 当 受 注 納期調整 生販調整 出荷計画 出荷需要 予測 調 整 販売実績 指 図 日程計画 仕入先 資材調達 需要計画 営業、マーケティング 品質管理 物流 販社 得意先 SCP:計画系 ERP:実行系 図2 SCMシステムのランドスケープ 納入指示 MARCH 2004 68 においては、該当アプリケーションの導入経 験の豊富なコンサルタントを活用するのが有 効です。
(2)プロトタイプ開発 →フィットギャップ分析 →Add―OnおよびI/F分析 システム概要設計が決まると、次はプロト タイプの開発とその評価のプロセスに移りま す。
アプリケーションを活用する際には、プ ロトタイプによって実際に業務プロセスを確 認しておくのが賢明です。
その結果を受けて、 アプリケーションの標準機能でカバーできる 領域とできない領域を区別するのです。
これ を「フィットギャップ分析」と呼びます。
フィットギャップ分析の結果、どうしても アプリケーションの標準機能でカバーできな いと分かった機能については、「Add ―On (追加機能)開発」を行うことになります。
(3)導入計画立案 Add ―On開発の内容も決まれば、具体的 なSCMシステム導入計画を立案することに なります。
スケジュール立案において注意す べき点は、以下のとおりです。
?業務改革のスケジュールとの同期 (組織改革、業務改革内容の展開、担当者 の育成スケジュールとの整合性) ?在庫拠点統合などとのスケジュールの整合 性 ?マスター/コード統一の準備期間の確保 つまり、SCP、ERPの導入だけに目を 奪われることなく、それを支える人的インフ ラ、物流インフラの構築との同期に十分配慮 する必要があるわけです。
■■実現化/本番移行 こうしてグランドデザインが完了すれば、い よいよシステムの詳細設計と開発に入ります。
SCMシステムには多岐にわたる周辺システ ムが存在します。
工場のスケジューラー、物 流システム、顧客管理システム、店舗管理シ ステム、インターネット受注システム、コー ルセンターシステムなどです。
新しいSCM システムを構築する場合には、これらの周辺 システムにも改修が必要になることが多く、そ のスケジュール管理が重要になってきます。
またマスターデータ、トランザクションデ ータの移行に加え、計画系のデータをいつか ら調達、生産につなげるかという計画情報の 移行の進め方も考慮しなければなりません。
本 番移行においては、システムと業務の両面か ら十分に計画を練り上げる必要があるのです。
なお筆者がよく受ける質問の一つに、計画 系システムと実行系システム、つまりERP とSCPは同時稼動(BigBang )させるべき か、それとも段階導入すべきか、というもの があります。
一概にどちらかが良いとは言い きれません。
その会社の状況によって選択は 異なってきます。
同時稼動の場合は、投資効果を早く享受で きることを期待できますが、それだけリスク も大きくなります。
このリスクの大きさを判 断するには、その企業の現在のシステム化の レベルとマネジメント・レベル、それに対す る新システムのレベルと新しいマネジメント・ レベルのギャップを評価するとともに、プロ ジェクト体制の充実度などを検討する必要が あります。
いずれにせよ確かなのは、同時稼動であっ ても段階導入であっても、グランドデザイン においては、計画系システムと実行系システムを分けることなく、同時に設計対象として 検討を進めるべきだということです。
講座SCMの常識 すぎやま・しげまさ機械電子メーカー、日系シ ンクタンクを経て、2002年にべリングポイント 入社。
SCM戦略の策定と推進、SCMシステムの 導入のコンサルティングに従事。
現在、同社ディ レクター。
著書に「図解サプライチェーンマネジ メント」(日本実業出版社・共著)、「ERP〜 SAP R/3〜によるSCMシステム構築技法」 (ソフトリサーチセンター・編著)、「図解でわか るビジネスモデル特許」(日本能率協会マネジメ ント・共著)。
中小企業診断士。
AGI認定TO Cコンサルタント“Jonah” PROFILE

購読案内広告案内