ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年11号
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第80回 商船三井 ケープサイズ事業は今や「負け犬」シェア拡大と安定利益が復活のカギ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2012  58 わずか五年で「天国」から「地獄」へ  海運各社の事業環境は世界規模での需要減と 輸送船の供給過剰によって厳しさを増している。
各社とも継続的なコスト削減を実施しているが、 自助努力による利益の安定的な確保は非常に困 難な状況だ。
 世界有数の船隊規模を誇る商船三井も決して 例外ではない。
二〇〇八年三月期から一二年三 月期までの五年間を振り返ると、累計一七〇〇 億円強のコスト削減を達成したものの、円高の 影響で累計一〇〇〇億円、燃油高の影響で累計 九〇〇億円を消失しており、差し引きマイナス だ。
業績見通しとしては、前期を底として今後 は緩やかな回復が見込まれるものの、持続的成 長の実現に向けて、海運会社としての経営のあ り方を再考する局面にあるのではないかと当社 では考える。
 商船三井にとってこの五年間は、過去最高の 経常利益をあげた〇八年三月期に始まり、過 去最大の経常赤字となった一二年三月期に終わ るという、まさに天国から地獄への転落であっ た。
その利益額の乖離は約三三〇〇億円に及ぶ が、うち約二八〇〇億円が不定期専用船事業の 不振に起因する。
同事業部門内の利益構成の詳 細は非開示だが、売上高の約半分を占めるドラ イバルクの市況低迷による影響が大きいと思わ れる。
代表的なドライバルク船の一日あたり傭 船料は〇八年に最高値を記録しており、ケープ サイズで約二三万四〇〇〇ドル、パナマックス で約九万二〇〇〇ドルまで上昇した。
しかし一 二年九月の段階では、ケープサイズが約三〇〇 〇ドル、パナマックスは約六〇〇〇ドルと、見 る影もなく下落している。
 一二年三月期末時点での同社の船隊構成をみ ると、ドライバルク船三九二隻のうち、鉄鉱石 を主要貨物とするケープサイズが一〇七隻、石 炭や穀物を主要貨物とするパナマックスが四八 隻となっている。
ケープサイズのグローバル市場 における同社のシェアは約七%と推定され、日 本郵船に次ぐ世界第二位の規模を誇る。
 相対的な優位性を有するにもかかわらず、同 社が大幅減益に見舞われた背景には、海運業界 の構造的な問題があると思われる。
具体的には ?一社あたりの市場シェアが依然として低水準 に留まること、?供給過剰が進行していること の二点が挙げられよう。
 ケープサイズ市場についてはプレーヤーの集約 が進んでおらず、上位四社(日本郵船、商船三 井、川崎汽船、China COSCO)の市場シェア を合計しても全体の二七%に過ぎないと推計さ れる(隻数ベース)。
個別企業が市況に与えうる インパクトは非常に限定的だと考えられる。
 商船三井にとってのケープサイズ事業の位置 商船三井 ケープサイズ事業は今や「負け犬」 シェア拡大と安定利益が復活のカギ  ケープサイズ事業では世界第二位の市場シェア を誇るも、市況低迷で大幅な不振に。
立て直し には、中長期契約の確保による安定利益の積み 増しが必要だ。
業界再編によるシェアの拡大に も期待したい。
第80回 野口智史 クレディ・スイス証券 運輸担当アナリスト 59  NOVEMBER 2012 付けを「市場シェア」および「市場成長率」に 着目して分析すると、現状からの脱却が喫緊の 課題であることが明確になる。
 市場シェアと市場成長率の高低に基づいて、事 業の位置付けを「花形事業」「金のなる木」「問 題児」「負け犬」の四つのカテゴリーに分類した 場合、市場シェアが低く、市場全体としての成 長率も低い同社のケープサイズ事業は「負け犬」 と判断できよう(図表1)。
〇二年以降の中国 バブル期には、市場シェアが低くても市場全体 の成長率は高く、分類は「問題児」だった可能 性が高い。
しかしその後、各社による積極的な 投資と需要成長の鈍化が供給過剰をもたらした 結果、ケープサイズ事業は「花形事業」になる 機会を逸したと当社では分析する。
 同事業を「金のなる木」に育てていくために は、さらなるシェア確保が必要だろう。
同事業 のコモディティ化を考慮すると、そのためには 業界再編の必要性が非常に高いと当社では考え る。
LNG船や海洋事業に期待  もう一つの構造的問題である「供給過剰」は、 中国発の「コモディティバブル」に起因する。
〇 二年以降、中国の不動産バブルで鋼材需要が急 速に高まった。
鋼材需要は粗鋼生産量を牽引 し、海運業界も原材料輸入の増加によって多大 な恩恵に与った。
海運各社は市況の高騰を受け て、新造船の発注を次々と決定。
だが、発注か ら実際の竣工までのタイムラグの間に、需給バ ランスが大きく様変わりしてしまった。
これが 現在、「新造船の造り過ぎ」という問題をもた らしている。
 当面の間、「バブルの再来」は期待しづらい。
その現状に鑑みれば、中長期契約の確保による 安定利益の積み増しこそが同社にとっての成長の 源泉になるのではないかと当社では考える。
現 時点ではLNG船や海洋事業などの分野が期待 できそうだ。
 一方、ケープサイズやパナマックスの分野で は、リスクをとってアップサイドを狙うことを避 け、極力スポットエクスポージャーを低水準に抑 える(数量運送契約や緊急時対応用に必要な部 分を除き、ゼロにする)べきであろう。
 海運各社の利益水準は、二〇〇〇年代までは 比較的安定していた(図表2)。
歴史的な観点 からすれば、むしろ過去一〇年間が特殊な時期 だったとも理解できよう。
安定利益を積み増し、 利益重視の経営によって持続的成長を追求する ようになれば、同社の業績もふたたび安定して くるのではないだろうか。
ドライバルク、コン テナ船などの主力事業が構造不況に喘ぐ中、同 社がいかにして業績回復を実現するのか、今後 のプロセスに注目したい。
のぐち・ともふみ 二〇〇七年米国インディアナ大学卒 業後、JPモルガン証券投資銀行本 部を経て、〇八年八月にゴールドマ ン・サックス証券入社。
一〇年より 運輸セクターを担当。
一一年六月よ り現職。
図表1 海運事業の位置付け 市場成長率 高 低 高低 市場シェア 出所:クレディ・スイス 花形事業 Star 金のなる木 Cash cow 負け犬 Dog 問題児 Question mark 投資 供給過剰 図表2 海運3 社の経常利益の推移 出所:会社資料、クレディ・スイス証券 86 年3月 87 年3月 88 年3月 89 年3月 90 年3月 91 年3月 92 年3月 93 年3月 94 年3月 95 年3月 96 年3月 97 年3月 98 年3月 99 年3月 00 年3月 01 年3月 02 年3月 03 年3月 04 年3月 05 年3月 06 年3月 07 年3月 08 年3月 09 年3月 10 年 3 月 11 年3月 12 年3月 350 300 250 200 150 100 50 0 -50 -100 (十億円) 日本郵船 商船三井 川崎汽船

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