ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年8号
特集
第5部 レイバーマネジメントで差別化する 職場への愛着が柔軟性を生む──鈴与

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2012  40 業務日報レベルアップ作戦  鈴与は内陸部の庫内作業を、一〇〇%子会社の 業務請負会社、鈴与カーゴサービスに任せている。
対象拠点は六〇カ所以上、作業スペースは約一六 万坪におよぶ。
そこに約一〇〇〇人の作業員が働 いている。
うち鈴与カーゴサービスグループの正社 員は二六〇人。
残りは直接雇用のパート・アルバイ トだ。
派遣スタッフは全体の一%に満たない。
 鈴与カーゴサービスの杉本光昭社長は「当社の設 立は一九九五年。
それ以前は鈴与の自社スタッフ と外部の請負業者を併用する形で現場運営を行っ ていたが、作業ノウハウの社内継承や蓄積を重視 して、グループ内への内製化を進めてきた」と説 明する。
 各拠点の繁忙期は荷主の業態によって異なる。
フ ァッション系ならクリスマス前、飲料なら夏場とい った具合で、その振れ幅もまちまちだ。
鈴与カー ゴサービスはそうした波動に対し、現場の作業員 を融通し合うことで対応している。
この仕組みを 「総合手配」と呼んでいる。
 各拠点の平均的な人員構成は、拠点責任者の下 に荷主単位でリーダーを置いている。
さらに各現場 の作業工程ごとに、「指揮者(サブリーダー)」がい る。
ここまでが正社員で、現場の作業員には主に 三〇〜四〇代の主婦を中心としたパート・アルバイ トを投入している。
 作業員の配置に ついて毎日、拠点 責任者と各リーダ ーが朝・昼・夕の ミーティングで話 し合う。
人員不 足が懸念され る場合は、拠点 内部での作業 組み替えや残 業での対処を 検討し、それで も人手が足り なくなってし まった場合は、 近隣拠点への 要請を行う。
 鈴与の拠点は地元・静岡のほか、東京・名古屋・ 浜松・富士の計五つのエリアに主に分布している。
これに対応して、鈴与カーゴサービスは、五つのエ リア別に地域子会社を置いている。
各エリアの地 域子会社本部が、先の「総合手配」の運用部隊と なる。
 そのキモになるのは、?その日に発生する作業 量を把握すること、?作業の生産性と必要人員を 把握すること、?特殊スキルを持つ作業員が必要 かを判断して用意すること、?予定を俯瞰して把 握・コントロールする人員を配置すること、の四つ だ。
 このうち生産性の把握に関しては、二〇〇八年 から作業員が毎日記入する「日報」のレベルアッ プ作戦を開始している。
それ以前の日報は拠点ご とに運用されており、全社的に見るとデータに一 貫性が欠けていた。
そこで、記載すべきデータや、 その記入方法について統一基準を作った。
 杉本社長自らほぼ全ての拠点を回り、その重要 性を作業員に直接説明した。
「日報改善の狙いは、 職場への愛着が柔軟性を生む ──鈴与  派遣スタッフの利用は作業員の1 % 以下に過ぎない。
1995年に子会社として設立した業務請負会社に波動対応 のノウハウを蓄積してきた。
現場間・拠点間で作業員を融 通する「総合手配」と呼ぶ調整機能を、パートの高い定着 率が支えている。
             (渡邉一樹) 鈴与の西山一実第 二DC事業部部長 鈴与の野村博ロジステ ィクス事業本部物流 企画室室長 鈴与カーゴサービスの 杉本光昭社長 5 レイバーマネジメントで差別化する 物流現場のコンプライアンス 特 集 日雇い派遣禁止 41  AUGUST 2012 単に記載データの統一を図ることだけでなく、現 場主導による業務改善を促すことにもある。
作業 員が無理をせず仕事をこなせるように効率化を進 めるためには、まず日報をしっかり書くことが重 要だと伝えた」という。
 以下の五つのステップを設定して、拠点ごとに 日報の改善を進めた。
?現場にコンセプトを浸透させる ?記入作業を定着させる ?現場ごとに最適なKPIを設定する ?KPIを使って生産性の良し悪しを判断す る ?集めた日報データを基に日々の波動対応や 人員の適正配置を行う  活動開始から四年あまりを経た現在、多くの拠 点がステップ?〜?まで到達しているという。
 日報のデータは当日の夜から翌日までにエクセル でまとめ、拠点の責任者とリーダーたちが毎日の ミーティングで問題点を洗い出す。
この作業を通し て「今日は車の入りが遅かった」「作業に慣れてい ない人が多かった」といった現場作業員の気づき が拠点全体で共有されるようになった。
現状把握 のレベルが上がったことで、多くの改善アイデアが 生まれるようになった。
 「多能工化」にも力をいれている。
そのために 作業員ごとに詳細な「カルテ」を作って、業務経 験を把握している。
「例えばフォークリフト業務で あれば、免許の有無だけでなく、Aという機種の フォークリフトは慣れているが、Bには慣れていな いといったレベルまで管理している」と鈴与の野 村博ロジスティクス事業本部物流企画室室長は説 明する。
 どの業務に精通していて、どの業務の経験が薄 いのかがわかれば、次に習得すべき業務も明らか になる。
全体として手薄な業務があれば、積極的 にリザーブ要員を育成するという判断もできる。
定着率を高める工夫  総合手配は女性パートも対象だ。
協力を得るため に様々な工夫をしている。
現場では構内の気温が 一定以上に上昇したら、水分補給を促したり、扇 風機を利用したり、休憩時間を調整するといった 細かな配慮を怠らない。
 パート同士でチームを組ませ、優秀なチームを表 彰して一体感を高めたり、他の作業員の規範となる よう、コアなパートメンバーにピンク色の帽子(写 真1)を着用させたりと、職場への愛着・やりが いを持ってもらえるよう努めている。
 静岡市内の自動車パーツを扱うセンターでは、鈴 与の社員から末端の現場作業員までを含めた“小 集団”を形成し、昼食時や作業終了後に話し合い の場を設けて、現場の意見を吸い上げている(写 真2・3)。
主体性を高めるため、この小集団のリ ーダーはあえてパートに任せている。
拠点によって は責任者自らが全ての作業チームと順次ランチミー ティングを実施しているケースもある。
 こうした一連のケアによって、パートの高い定着 率が維持されている。
鈴与の西山一実第二DC事 業部部長は「施設間移動にもネガティブな受け止 めは少なく、柔軟に対応してもらっている。
むし ろ『他の現場を見て、働き方の参考になった』『気 分転換になる』といった風に前向き・積極的に捉 える声を聞く」と現場のモラールに自信を持って いる。
写真1 コアなパートメンバーはピンクの帽子を着用 写真2 小集団のミーティング 写真3 小集団の活動発表風景

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