ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年8号
特集
第5部 レイバーマネジメントで差別化する 正社員作業員の機動性を武器に──日本梱包運輸倉庫

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2012  36 都道府県を超えて人員を融通  全国の自社倉庫について、ある場所で物量が増 えて人手不足に陥った場合、同じ品物を扱ってい る別の営業所のうち、余裕のあるところから人手 を割いて送り込み、梱包や仕分けなどの作業が滞 らないよう手伝う。
 それだけなら珍しくはないが、日本梱包運輸倉 庫の場合、近隣の倉庫間だけでなく、本社から人 を出したり、時には都道府県を超えた営業所間で 人員を融通したりすることがある。
九州から関東 といった長距離で支援に行かせたこともあったとい う。
パート社員では、とてもそうはいかない。
正 社員作業員を軸に現場を運営している同社特有の 波動対応策だ。
庫内作業に加えて、運送事業でも こうした相互支援を活用している。
 社員を移動させるとなれば、当然ながら交通費 や宿泊費といった負担が生じる。
それでも派遣を 利用するのに比べれば、トータルコストはむしろ安 く済むと算盤をはじいている。
 同社で人事などを担当している栗栖隆取締役常 務執行役員は「波動に応じて短期で人を雇うより、 商品特性や業務内容を熟知している正社員をその 都度現地に応援で出した方が、仕事の効率という 面でも良いと判断している」と社内相互支援の意 義を強調する。
 引っ越し事業が 繁忙期を迎える三 月には、本社の事務 員が応援で急きょ 助っ人の作業員と なることも多い。
総 合職は一年間の実地研修を通じて庫内などの現場 作業を肌で覚え、大半がフォークリフトの免許を取 得するなど、いざというときには担当外の現場業 務を支えることができるような体制の構築を図っ ている。
 同社の庫内作業に当たっている現業職を分類する と、今年六月末時点で正社員は約一〇〇〇人(一 部嘱託など含む)、パート・アルバイト約九〇〇人、 請負約一三〇〇人、派遣約三四〇人となっている。
請負や派遣も必要に応じて活用はしているが、正 社員の比率は決して低くない。
 どの職場であっても、現場には一定の割合で正 社員を投入するのを原則としている。
その理由を 栗栖取締役は 「仕事を進める上で必要な技術やノ ウハウがきちんと蓄積、継承されるようにしたい。
基本的に仕事を外部(の派遣や請負の人たち)に 丸投げすることはしない」と説明する。
 同社は運送用車両や倉庫などのアセットを自社 で保有する自前主義を特徴とし、それに裏付けら れたサービス品質を武器にしている。
庫内作業に おいてもその方針は変わらない。
なお、正社員に 関しては、従来から「変動労働時間制」を採用す ることで、繁忙期でも柔軟に対応可能な勤務態勢 を敷いている。
 荷主は自動車や家電などの大手メーカーが中心 だ。
川下のセンターと比較すれば、物量の波動は比 較的少ない。
それでも全体でならして見れば、総 労働時間ベースでピーク時は平均より十三%程度 増加するという。
しかも、その時期は多くがメー カーの決算期にあたる毎年三月と九月に集中する。
しかし、派遣の利用は最低限に抑えている。
 庫内作業以外にも、例えば自動車などの運送に 正社員作業員の機動性を武器に ──日本梱包運輸倉庫  正社員作業員の機動性を駆使して物量の波動に 対応している。
同社が特色とする「自前主義」が労 働力管理にも色濃く表れている。
倉庫の稼働データ を基に人員の適正配置に努めるといった地道な工夫 にも余念がない。
           (藤原秀行) 栗栖隆 取締役常務執行役員 5 レイバーマネジメントで差別化する 物流現場のコンプライアンス 特 集 日雇い派遣禁止 37  AUGUST 2012 ついても、物量の波動がピークになる際は、同業 他社と協力し合ったり、傭車や船舶の臨時活用と いった方策でカバーしているものの、「ドライバー 派遣」を活用することはないとしている。
「まず社内」が伝統  十月施行の改正労働者派遣法で、一部の例外を 除いて原則禁止となる日雇い派遣だが、同社では 現在、日雇いを利用するのは、引っ越し業務の繁 忙期に作業員として来てもらったり、保管用車庫 に抱えている出荷前の自動車の台数が膨らんで管 理要員を増やす必要が出てきたりした場合に限ら れている。
 今回の法改正に対しても、通常業務については 「ほとんど影響はない」と栗栖取締役。
日雇い派遣 に代わって物流現場などで需要が増えると予想さ れている「日々紹介」についても、現時点では積 極的に活用する考えがないという。
 日雇い派遣の活用に消極的な理由は、前述のよ うにもともと波動の変動幅が劇的に大きくないと いうことに加え、労働力管理に対する社内の基本 的な考え方が大きく影響しているようだ。
 栗栖取締役は「新たな短期派遣の人が来るたび に現場で一から仕事、技術を教える時間がもったい ない、という雰囲気がある。
この品物はこう注意 して扱う必要があるといったような、作業に不可欠 な経験やノウハウも、どうしても一カ月以内といっ た短期の派遣では、覚えてもらうのに時間がかか るし、覚えてもらってもそこで仕事が終わってしま うため、継承できない」との懸念を口にする。
 もともと、社内では以前から、短期間のスポッ ト派遣を波動対応に充てようという空気自体が希 薄だった。
物量の増加や人手不足に対しては、い きなり外部に任せるのではなく、まず冒頭に出て きた社内の相互支援体制をできるだけ利用して乗 り切ろう、という姿勢が伝統的に強いという。
 それに加えて、荷主との親密な関係を活かした 波動対策を講じている。
メーカーの生産や販売の 計画をできるだけ早い段階で把握し、波動がピー クを迎える時期の二カ月ぐらい前から、パートの採 用を準備している。
採用の期間は最低でも半年程 度のスパンで計画しており、周到に人員の計画を 立てることで、混乱を最小限にとどめるよう努め ている。
 さらに、同社は全国各地に存在する自社倉庫に ついて、情報システムを通じて一棟ごとの売上高か ら庫内の使用割合、光熱費、備品代、保険料、減 価償却費など収支のデータを月次で集計している。
その中には当然、人件費も含まれている。
そうし た細かい数値管理によって、稼働状況を「見える 化」し、各営業所の営業活動に反映させるだけで なく、各棟単位で割り振っている作業員の数を見 直すなど、人員配置の適正化にもつなげようと工 夫している。
 庫内作業の効率化にもパート主体の現場とは違う レベルで取り組んでいる。
例えば、自動車のタイヤ を扱っている宮崎県の都城営業所では、タイヤを 輸出用コンテナに積み込む作業の際、従来はフォー クリフトで運んできたタイヤを、コンテナまでは人 力で転がしていた。
しかし、数年前から、コンテ ナで積み込みをする作業員の近くまでタイヤを送る ことができるベルトコンベアーのような運搬機を導 入し、転がす作業を省略した結果、必要な人員を 四人から二人半程度まで減らすことに成功した。
 このほか、WMSの導入や在庫の配置見直しに よる作業の動線改善など、王道ともいえる方策に も取り組んでいる。
栗栖取締役は「日々の方策は 大々的に発表できるような珍しいことがあるわけ ではない。
今後も荷役の省力化など、地道に作業 を積み重ねていくしかない」と決意を語った。
日本梱包運輸倉庫の都城営業所で導入しているタイヤ 運搬機。
ベルトコンベアー状の部分にタイヤを乗せる。
都城営業所でのタイヤの積み込み作業の様子。
運搬機 を使ってコンテナ内にタイヤを送り込んでいる。

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