ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年7号
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「設計部門はロジスティクスを知らない」 エルディーシー研究所 酒井路朗 所長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2012  4 でいるところは世界的に見ても進んで いる。
ところが、そうした先進企業以 外は包装改善に手を付けていない。
大 企業であってもそうです。
管理レベル が二極化しているんです」 ──なぜ、管理しないのでしょうか。
 「単に気付いていないからでしょう。
実は包装改善はロジスティクスの課題 の中では、もっとも実現が容易なんで す。
それこそ在庫を削減しようとすれ ば相当な力業を覚悟しなければなりま せんが、それに比べて包装改善は、あ っけないほど簡単に実施できて、しか も驚くほど大きな効果のあるネタがた くさん転がっている。
コスト効果は改 善を実施した直後から現れて、その後 もずっと持続する。
良いことずくめな のに、見過ごされ続けている」  「包装改善の手法が確立されていな いことも大きいと思います。
実際、私 は精密機械メーカーの物流部門に所属 していた時代に、包装改善に取り組む ために片っ端から関連資料を当たりま したが、実務に使えそうなものは一つ もなかった。
包装効率を示す数式もな ければ、指標もどこにも見当たりませ んでした」 ──とはいえ、特別な指標なしに地道 な包装改善に取り組んでいる物流部門 もあります。
 「確かにトラックの荷台やコンテナの 管理レベルは二極化している ──過剰梱包が放置されたままでいる のはなぜでしょう。
 「通常、包装の設計はメーカーの生 産管理部門や開発部門が担当していま す。
包装技術者がそこに所属している わけですが、問題は彼等が包装資材や 緩衝材については専門家でも、ロジス ティクスを知らないことです。
包装設 計がロジスティクスに与えている影響 など意識していない」  「流通の現場で荷物がどう扱われてい るのかということも案外分かっていな い。
そのために疑心暗鬼になっている ところがあります。
包装技術者はとに かく中身が壊れてしまうのが怖い。
包 装のせいにされるのを恐れて、必要以 上に強度を上げてしまう。
そして、い ったん包装の設計が決まると二度と見 直されることがない」  「一方の物流部門は荷物の中身を知 らない。
工場から出てきた商品を内規 に従って外装梱包して出荷しているだ けで、それだけの外装が本当に必要な のか、内規が果たして妥当なのか疑っ たりはしない。
中身の製品がどれだけ の強度を持っているのかということな ど考えたこともない。
過剰包装にスト ップをかける機能が社内のどこにもな いんです」 ──そもそも包装の強度に基準はない のですか。
 「国内貨物ならJIS(日本工業規 格)、海外でも各国や地域で包装試験 の規格を定めています。
ところが包装 設計者は規格の上限値を超える高さか ら落下試験を行ったりする。
どう扱わ れるか分からないと心配するためです。
確かに流通過程における商品の破損や 故障は常に起こり得る。
しかし、具体 的に原因を調べてみると、誤ってフォ ークリフトの爪を製品に突き刺してし まったとか、どんなに包装を厚くして も避けられない、つまり事故の場合が かなりあります。
ところが、そうした 実態が理解されていない」 ──日本企業の特徴ですか。
 「そうとも言えません。
例えば、同じ サイズの液晶テレビの箱を、日本のメ ーカーと韓国メーカーで比べると、日 本メーカーのほうが小さい。
韓国メー カーの製品だとコンテナに一〇〇台し か入らないところに、日本製品は何十 台も多く入ったりする。
日本でもグロ ーバルにビジネスを展開している家電 メーカーや自動車メーカーは包装の重 要性を理解してきちんと対策を打って いる」  「内需型産業のメーカーでも、進ん エルディーシー研究所 酒井路朗 所長 「設計部門はロジスティクスを知らない」  包装改善は物流コスト削減に決定的なインパクトをもたらす。
大 きな投資は不要で、改善の実施も比較的容易だ。
ところが多くの企 業がそのことに気付かず、過剰包装を放置したままでいる。
包装設 計部門はロジスティクスを知らず、物流部門は荷物の中身を理解し ようとしない。
              (聞き手・大矢昌浩) 5  JULY 2012 大きさに合わせて、包装サイズを可能 な範囲で微調整するという例はよくあ ります。
これは包装サイズを輸送機材 に適合させるということですが、大き な成果をあげている」  「しかし、製品の保護を理由に使用 されている、荷物の中のムダな空間を 排除することのほうが実は先決なんで す。
そうすれば荷物の体積自体を大幅 に圧縮できる。
改めて包装を見直すこ とでもともと外箱は不要だったことが 分かったり、体積が半減することも珍 しくはありません。
その結果、支払い 運賃は当然ながら激減する。
目先の運 賃だけではありません。
包装の資材が 減り、保管スペースが減り、廃棄物が 減る。
しかも、その効果がグローバル なサプライチェーンの全域にわたって 利いてくる」  「包装は、調達から生産、物流、販 売、さらには回収・リサイクルに至る ロジスティクスの全ての領域に関わっ ています。
製品のライフサイクルコス トという視点から包装を管理する必要 があります。
実際、先進企業では設計 の仕様を最終決定する前に、デザイン レビューを行い、そこにはロジスティ クス部門も参加して、物流オペレーシ ョンの観点から設計の妥当性を評価す るというプロセスを踏んでいます」 ──取り組みの遅れた企業はどうキャ 変わります。
自分から進んで旗を振る ようになる。
そして包装改善で実績を 上げることが、ライフ・サイクル・コ スティング(原材料の調達から製品を 廃棄するまでのトータルコストを管理 すること)に本格的に歩を進めるトリ ガーになる」 ──ただし、デンシティというKPI は、まだ一般化しているわけではあり ません。
それを社内に持ち込んで、経 営層を始め関係者に理解させるのはハ ードルが高そうです。
 「そうは思いません。
デンシティの考 え方は極めてシンプルです。
誰でも容 易に理解できて、改善の金額効果を簡 単に試算できる。
実際、コンサルタン トとして包装改善を指導すると、その 会社にはすぐにデンシティという言葉 と考え方が浸透します。
そしてコンサ ルティングを終了した後もKPIとし て定着しずっと使われている。
?案ず るより産むが易し?です」 ッチアップすべきですか。
 「本社の物流管理部門が主導すべき です。
先ほど申し上げた通り、包装 設計部門はロジスティクスを知らない し、物流の現場は荷物の中身を知らな い。
そもそも協力物流企業には包装改 善のモチベーションが希薄です。
改善 が実現すれば、運賃が減り、保管料が 減るわけですから、自分で自分の首を 絞めることになってしまう。
結局、サ プライチェーンを全部見られているの は本社の物流管理部門しかない。
ある いは物流子会社がその役割を担っても いい」 過剰包装の撲滅法 ──包装改善の具体的なやり方として、 酒井さんは「デンシティ=Density」と 呼ぶ指標を開発し、その活用を提唱さ れていますね。
 「物流部門のスタッフとして目の前 の過剰包装を撲滅したいと考えたのが、 そもそもの出発点です。
荷物を持って みたら妙に軽い。
これは過剰包装では ないかと誰でも考えますよね。
ところ が、それを証明したくても、先ほども お話した通り、包装効率を示す管理指 標が世の中には存在しない。
その荷物 が過剰包装かどうか感覚的には分かっ ても、数値でその度合いを示せないと、 管理のしようがありません。
定性的な 表現では会社組織は動かない」  「そこで目を付けたのが航空貨物の運 賃計算に使う『体積重量』でした。
航 空貨物は、その荷物の実重量と『体積 重量』を比較して重いほうを基準に運 賃が計算されます。
体積と重量の比較 には現在、六〇〇〇㎤=一?という基 準が用いられています。
それより貨物 密度の低い荷物、つまり大きさに比べ て軽い荷物は、重量ではなく体積に対 して運賃を支払っているわけです」  「過剰包装というのは、ムダな空間 のある荷物ですから、空気を運ぶのに 運賃を払っていることになります。
そ の空間を埋めるために緩衝材を使って いるのであれば、緩衝材を運ぶために 運賃を払っていることになる。
これは 誰が考えてもバカらしい。
そこで体積 重量をベースにして過剰包装のレベル を表すことを思いついたんです。
私の 勤めていた会社の物流は、航空貨物に よる輸出がメインでしたから、包装の ムダをそのまま支払い運賃の金額とし て表すこともできる。
改善の突破口が 開けると考えました」 ──確かに包装は地味なテーマだけに、 コスト効果を数字で示すことができれ ば大きな推進力になりそうです。
 「その通りです。
目の前に具体的な 金額を突き付けられると、それまで無 関心だった他部門や経営層も目の色が  1971年上智大学卒、オリン パス入社。
海外勤務を経て、帰 国後、物流推進部にて国内外の ロジスティクス改革関連業務に 従事。
2002年オリンパスロジ テックス出向、取締役東京セン ター長に就任。
08年4月、コ ンサルティング会社のエルディー シー研究所を設立し、所長に 就任。
現在に至る。
msakaildc@ memoad.jp

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