ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年6号
特集
事例研究 生産性の上がった現場を訪ねる 品揃えの強化と在庫金額の削減を両立──落合住宅機器

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2012  22 在庫アイテム数を一・五倍に  東京・渋谷で三代続く落合住宅機器は、水道配 管材料や空調機器、衛生設備機器などを取り扱う卸 業者だ。
売上高約五億円、従業員数は一四人。
約 六〇社の仕入れ先からパイプや継ぎ手、バルブ、ト イレの便器、給湯器、エアコンといった商材を調達 し、それを本社事務所に併設されている三〇坪ほど の倉庫に在庫している。
 同社の顧客となるのは主に設備工事会社で、現在 一〇〇社を超えている。
設備工事会社からの注文に 応じ、関東を中心とする各地の建設現場や工事現場 に商材を納品している。
 現場への配送は、三人の専属ドライバーが一・五 トンの自社トラックで行っている。
出荷体制は午前 と午後にそれぞれ一便ずつ。
ドライバーは配送業務 だけでなく、トラックに積み込む商材の庫内ピッキ ングも自ら行っている。
物流作業に従事するのはこ の三人のドライバーの他、同社が「倉庫番」と呼ぶ 入庫作業と仕入先への発注業務を兼務する担当者が 一人いる。
 現在、約六三〇〇アイテムを倉庫に在庫している。
在庫のカウント方法にもよるが、同社の事業規模を 考えれば、かなり多い。
この一〇年で一・五倍以上 に増えた。
同社の営業社員が「現場のニーズに対応 できなくて困った」と言う商材があれば、必ず一つ は倉庫に在庫して おくようにしてい る。
その理由を同 社の落合智貴社長 は次のように説明 する。
 「二〇〇〇年頃から毎年、意図的に在庫アイテム 数を増やしてきた。
水道周りの世界では、『水道管 が破裂してしまっているので、すぐ同じタイプのパ イプが欲しい』『この継ぎ手が今すぐに必要』といっ た緊急性の高い要請が非常に多い。
その時に、『倉 庫に在庫が無いので納品は明日以降になります』と いう対応をしていては注文が他社に流れてしまう。
よく売れる定番だけでなく、他社が持っていないよ うな商材も倉庫に揃えておくことが当社の強みにな ると考えた」  これが功を奏し、設備工事会社からは品揃えの 豊富さと対応の迅速性で高い評価を得る存在となっ ていった。
急な要望にも対応できるという信頼感か ら、緊急時以外の通常取引も増加するというプラス 効果も生まれた。
 しかし、リスクの高い戦略だった。
多くのアイテ ムを揃えるとなれば当然、在庫投資がかさむ。
保管 スペースも必要だ。
社員の抵抗にも遭った。
それま で在庫は人が帳票ベースで管理をしていた。
アイテ ム数が劇的に増えれば、その管理業務の煩雑さが増 してしまう。
 同社が扱う設備機器には、水道管や住宅用のマス などの長尺ものやゲテモノが多く、ハンドリングも やっかいだ。
扱いアイテムを増やそうとするたびに、 社員から「管理しきれない」「置くスペースが無い」 という反発の声が上がった。
 これらの問題を解消するため、落合社長は在庫管 理に主眼を置いた物流改革に乗り出すことを決断し た。
「当社は卸業者といいながらも、実際には物流 に関連する業務が多くを占めている。
物流に関する テコ入れは必要だと以前から感じていた。
単に配送 や倉庫内を効率化するだけでなく、在庫管理の高度 品揃えの強化と在庫金額の削減を両立 ──落合住宅機器  顧客ニーズに即応するには、在庫アイテムを増やす 必要がある。
しかし、在庫投資は増やせない。
保管 スペースの制約もある。
社長自ら在庫管理の高度化 に乗り出した。
システムを導入し、アイテムごとに適 正在庫数を設定。
発注ルールの明確化や倉庫内の合 理化にも取り組んだ。
          (石鍋 圭) 落合智貴社長 センター概要 延べ床面積 約30 坪 在庫アイテム数 約6300 物流作業員 4 人 自社保有車両台数 3 台 1 人1 時間当たり平均処理行数 9.4 行(10 年比50.0%増) 管理手法 現場スタッフ報奨制度、ロケーションメンテナン      スなど  事 例 研 究 生産性の上がった現場を訪ねる 特集 23  JUNE 2012 くらい売れるというのが見えてくる。
それに伴い、 在庫をしておけば良い数量も段々と見えてくるよう になった」と語る。
 発注する数量には、落合社長が試行錯誤の結果導 き出した『適正在庫×一・五−一』という計算式を 適用している。
例えば適正在庫数が一〇個のアイテ ムの場合には、常に一四個になるように発注をかけ ている(適正在庫(一〇個)×一・五−一)。
適正 在庫数よりも多めに発注するのは、緊急出荷などが 発生した場合に対するバッファを持たせるためだ。
 適正在庫の概念を持ち込んだことで、取り扱うア イテム数は増加し、反対に在庫金額は減り続けた。
在庫管理を開始した当初と比べると、現在の在庫金 額は当時の六〇%を切る水準にまで下がっている。
不良在庫が減り、売れる商品が増えた証左と言え る。
また、アイテムごとに仕入先を定めたことによ り、交渉力も上がった。
粗利率はこの一〇年で五ポ イント上昇している。
 在庫スペースに関しても、不良在庫が減った場所 に新たなアイテムを置くことで、既存の倉庫で対応 することができている。
アイテム別の売上などを考 慮して在庫しておく場所や庫内レイアウトを変更す ることも可能になり、作業の効率性は一貫して上が っている。
 さらに、在庫管理体制を確立してからは、以前 はベテラン社員が務めていた倉庫番を新入社員に任 せるようにした。
「属人的な業務を排除しことによ り可能になった。
新人は倉庫番を最初に経験するこ とで、全てのアイテムを一年くらいで覚えることが できる。
発注も担当するので、営業社員から頼りに される存在になって、仕事に対するやり甲斐も生ま れる」と落合社長は言う。
化を絡めて当社のビジネスそのものを革新したかっ た」と当時を振り返る。
 まず従来の人の手による在庫管理手法を捨て、シ ステム化を目指した。
いくつかのシステムベンダー の提案を受けた結果、既に経理や給与計算システム で付き合いのあった大塚商会の在庫管理システムを 導入した。
後々、同社の仕様にカスタマイズしやす いシンプルな設計と導入コストの低さが決め手とな った。
 システムの導入と同時に、倉庫の合理化にも乗り 出した。
以前の倉庫内はモノが散乱しており、何が、 どこに、いくつ在庫してあるかも正確にはわからな い状態だった。
木枠の棚や引き出しを用意して在庫 を整理し、アイテムの名前と管理コードを明記して 正確な保管・管理を徹底した。
システム上の数量と 実際の倉庫の数量が一致することで、初めて在庫管 理のスタートラインに立つことができた。
発注を倉庫番に一元化  落合社長が在庫管理改革の本丸に据えたのが、在 庫の適正化だ。
豊富な商材ラインナップを実現する ためには、一つ一つのアイテムの在庫数を、過不足 の無い量に絞る必要がある。
しかし、以前の同社は 発注のルールが明確化されておらず、倉庫番や営業 社員が個々の“感覚”を頼りに、都度バラバラに仕 入先に発注をかけていた。
仕入先も統一されておら ず、同じアイテムでも営業社員や倉庫番がそれぞれ 仲の良いメーカーから調達しているというケースも 少なくなかった。
 発注単位も決まっていなかった。
「いま一〇個足 りないから、とりあえず二〇個発注しておけばいい だろう」という場当たり的なものだった。
しかも、 先述したように倉庫は散乱した状態だったので、後 になって「発注しなくても在庫は別の場所に十分あ った」というような自体も発生してしまっていた。
無駄な発注を繰り返した結果、売れない商材の在庫 が増え、必要な商材は足りないという悪循環に陥っ ていた。
 これを改めるため、発注の窓口を倉庫番に一本化 した。
さらに、全てのアイテムに適正在庫数を設定 し、在庫がその数値を割り込んだ時にだけ発注をす るという仕組みを整えた。
落合社長は「在庫を単品 管理するようになると、そのアイテムが年間でどれ アイテムごとに適正在庫数を設定 棚や引き出しを利用して単品管理を徹底多種多様な商品ラインナップ 発注業務は新人の登竜門に

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