ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年5号
SOLE
ロジスティクスの捉え方と海外展開──ジブチでの後方活動の事例研究

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics MAY 2012  76  「ロジスティクスの捉え方について 議論しよう」――ロジスティクスの捉 え方は業種業態により千差万別、時 には個人ごとに異なった意見を持つこ ともある。
それによっては現場での仕 事にも大きな差が生じる。
ロジスティ クスの根源を改めて考えることは、企 業活動に大いに役立つはずだ。
三月 のフォーラムでは、ロジスティクスに 対する捉え方について年来の持論を展 開した後、ジブチにおける自衛隊のロ ジスティクス(後方)活動の事例を紹 介した。
(SOLE日本支部会員 川上智) 戦争理論の研究が出発点  ロジスティクスLogistics(英語)の 語源は、ギリシャ語で「計算を基礎と した活動」を意味するLogistikos、あ るいはラテン語で「ローマ軍の監理部 管理官」を意味するLogistaであると いわれている 【1】 。
 また、最初にロジスティクスの意味 を定義したのは、ナポレオンの参謀 を勤めた経験を持つアントワーヌ・ア ンリ・ジョミニ(1779-1869)という のが定説だ。
ジョミニは著書「戦争 概論(Précis de l'art de la guerre)」 (1838)において、「戦争」は「ストラ テジ(戦略)」と「タクティク(戦術)」 と「ロジスティク(後方・兵站)」の 三要素からなることを明記した。
ジョ ミニは、このLogistiques(仏語)の 言葉をフランス軍の宿営や補給を担当 する職名「Major Général des Logis」 から引きだしたといわれている 【1】 【2】 。
 ロジスティクスの研究は、こうした 起源から戦争理論の研究として始め られたのである。
 ジョミニの戦争理論に強く影響を 受けて研究を展開したのが米国の有 名な戦略家アルフレッド・セイヤー・ マハン(1840-1914)である。
その著 書「海上権力史論」(1890)において 提唱するシーパワーには重要なロジス ティクス要素が含まれていることを説 いている。
マハンは米海軍大学校に おいて戦略の講義を行っており、後 に著した「海軍戦略」(1911)は強大 な海軍に裏打ちされた米国の国家戦 略の基礎となった 【2】 【3】 。
 そして海軍大学校はマハン以降、 現代に至るまで海軍戦略におけるロジ スティクス研究を牽引する中心的な役 割を担っている。
 米海軍のロジスティクスは海軍のみ ならず国防総省(ペンタゴン)にも影 響を与えている。
近代ではマクナマラ が実施した「ペンタゴンの革命」のな かで、一九六六年にSOLE(産官 学協同のロジスティクス学会)を設立、 一九七一年にはDAU(国防調達大 学)を設立しロジスティクス研究機関 の裾野を広げている。
ロジスティクスの本質  ジョミニは「戦略」と「戦術」及 び「後方・兵站」の区別を行ったが、 彼が興味を注いだのは「戦略」「戦術」 の部分であり、「後方・兵站」に対し ては「戦略地点」と「戦略線」の重 要性を戦争原理として説いているの みである 【2】 。
 しかしながらこの二つの重要性は、 今でもロジスティクスの原則としての 意味をもつ。
 ジョミニが定義した「戦略地点」に は地理上の位置による利点、地質上 埋蔵される資源があり、「戦略線」に は長・短の利点、地理上及び手段上 の通過難易などがある。
このジョミ ニの定義を海洋に展開したのがマハ ンのシーパワーであり、より現実的な 地理上のユーラシア大陸に展開したの がハルフォード・マッキンダー(1861- 1947)のランドパワーである。
 シーパワーとランドパワーの思想 は、後にルドルフ・チェレンが創始し た「地政学」へと引き継がれていく が、地理的な位置に焦点をあててい る「地政」は「ロジスティクス(後 方・兵站)」とは異なる。
 ロジスティクスの定義のイメージを 図1に表す。
「地政」との違いを説く のでイメージし易い目標としては国 家目標を考える。
理解を助けるため、 ロジスティクスの捉え方と海外展開 ──ジブチでの後方活動の事例研究 図1 ロジスティクスの定義イメージ 国家目標 国家政策 国家戦略 共有不能 共有可能 国家後方  【ロジスティクス】 地政 資材、人材、知財、資金 の創出法 移動可能、取引可能 位置、地形、気候、民族、習慣、 信仰、言語、組織、歴史‥‥ 移動不能、選択不可能 経済政策 防衛政策 農業政策 教育政策等 経済戦略 防衛戦略 農業戦略 教育戦略等 経済後方 防衛後方 農業後方 教育後方等 地球(地形)のでき方 国境の引き方 人類の生い立ち‥‥ 戦略 戦術作戦 77  MAY 2012 団体、企業はない。
現実は置かれた 状況、時点によって複雑に、そして 線引きもままならぬほど優柔に絡ん でいる。
 そこでもう少し整理して議論でき るように、ロジスティクスの発展段階 を組織化の程度や発展する場の違いに より整理してみたい。
ここでの呼び 方は筆者の発案するものであり、相 応しい呼称があればご指導、ご示唆 をお願いしたい。
 図2にロジスティクスの発展段階を 示す。
●部族後方  部族、氏族間争いで奪い合い、分 け合う生きるための後方。
後方と言 えるかどうかは別にして、地の利で 得られる水、塩、肥沃な土地など部 族が生きる糧の獲方である。
後方は 地政とほぼ同源であり、部族、氏族 の生き残る欲求を満たすものである。
●領族後方  王侯、貴族、領主間で奪い合い、 協定・同盟などで分け合う領民保護 の後方。
生活安定のための領内備蓄、 勇者の確保と個人装具が後方となる。
部族後方と同じく領内地政に左右は されるが、協定・同盟などにより得 られる戦略資材があり、そこには戦 略による領民の生活安定と物資交流 候、民族、習慣、信仰、言語、組織、 歴史、政治など容易には移動不能で あり、国家として自由な選択が不可 能な地球のでき方や国境のひき方、人 類の生い立ちなどに起因する世界を考 える。
 ロジスティクスでは、埋蔵状態か ら取り出した精製石油、ガス等の加 工資源、その取り出し方等の知的財 産、技能を持った人材、運用可能な 資金といった容易に移動可能、取引 可能なものから戦略実行に必要な価 値を生み出す世界を考える。
 国を成り立たせる国家目標、国家 政策、国家戦略を実現させるために はロジスティクスが必要不可欠であり、 逆にロジスティクスがなければ目標、 政策、戦略は絵に描いた餅となる。
 独立国家の場合、国家目標、国家 政策、国家戦略は共有不能だが、ロ ジスティクスは共有可能である。
多 国間協同体の場合は複数の国家政策 及び戦略の上にあるため目標が多少の 広がりを持つことになるが、ロジステ ィクスにおいては共同利用可能となる。
ロジスティクスの発展段階  このようにロジスティクス(後方) の定義を地政、戦略及び政策と区別 をしても、実際には地政、後方、戦 略、政策だけでなく目標でさえもが これほど整然と定義されている国家、 定義づけは区分けを意識 して進めるので特例等は 意識しないこととする。
 まず国家目標(企業目 標、協同体目標などに言 い換えてもよい)達成の ためには国家政策が必要 である。
その政策を支え るために国家戦略があり、 戦略の中に戦術、作戦を 含めて考えるとして、そ の戦略を支える国家後方 がある。
戦略に合わせて そろえる国家後方(図1 黒塗り部分)こそがここ で定義するロジスティク スである。
 ロジスティクスは資源 (天然資源、人、組織な ど)がなければ生まれな いが、その資源を地図上 に分布する状態で読み取 るのが「地政」であるの に対して、ロジスティク スでは資源を組み合わせて 加工し、戦略に合わせた 「戦略資材」として提供す る。
また、ロジスティク スでは資材の創出法も含 め考えるものと定義する。
 「地政」では、地理的 位置、地形、地質、気 呼 場 獲得手段後方の捉え方 呼 場 獲得手段後方の捉え方 1 2 3 4 5 6 7 8 部族後方領族後方天下統一後方国民軍後方総動員後方国際生存後方連合後方派遣後方 民族、氏族 間など 国連、 安全保障条約等 国連決議、軍事協調、 経済協調、○○協調等 奪い合い 分け合い 国家間調整輸送 現地調達 後方は 地の利 生きる糧 後方は 勇者確保 個人装具 領内備蓄 (生活安定) 後方は 財政 戦略計画 勇者・賢者確保 備蓄管理 商人請負 奴隷 後方は参加各国が分担 各国の国情に 合わせた提供 連合協定 連合後方計画 後方分担計画 連合輸送・保管 物資援助 経済援助 後方は派出元からの 持ち出しが基本 現地の地政に 合わせた調達 派遣先国との協定 派遣後方計画 輸送計画 派遣基地、中継基地、拠点 現地代理店 後方は 財政 生産計画 備蓄管理 軍人 軍備 後方は 全ての 国家財産 軍政 後方は 日ごろの政策と 戦略の組合せ 政治力 経済力 国防力 思想力 奪い合い 協定・同盟 略奪・協定・同盟 購入、覇権拡大 協定・同盟 調達・生産 外交戦略 経済戦略 軍事戦略… 外交政策・戦略 経済政策・戦略 国防政策・戦略… 王侯、貴族 領主間など 王国間国家間国家間 総力戦 国際関係間 図2 ロジスティクスの発展段階 MAY 2012  78 を取込み、自国を拡大していくので グローバル・ロジスティクスとは異質 と捉えて議論から外す。
 この三つの後方のうち天下統一後 方は大きく目的の異なるものである。
 連合後方や派遣後方は、その目的 が人道問題等の解決、国際的規模の 機能障害排除、安全保障バランスの 保持などとなっているのに対し、天下 統一後方は覇権の拡大及び協定・同 盟での有利な条件の引き出しとなる。
画、後方分担計画、連合輸送・保管、 物資援助、経済援助などが後方の要 素となる。
各国持ち寄りの後方を合 せて一つの連合戦略を組上げ、各国 の思惑をまとめて一つの連合目標とす る。
分担の抜けや連合からの脱退が ないように組上げることが要となる。
●派遣後方  国連決議、軍事協調、経済協調、 ○○協調、○○協定などにより遠隔 地に派遣する後方。
後方要素は自国 または他国からの輸送及び現地調達 となる。
ジョミニやマハンの言うとお り輸送(戦略線)と派出先(戦略地 点)の地政が重要である。
具体的に は派出先国との協定、派遣後方計画、 輸送計画、派遣基地、中継基地、拠 点、現地代理店などである。
派遣元 及び派遣先の地政に基づく後方要素 を組み合わせて、派遣目的を達成す る政策及び戦略に合わせた後方を準 備する。
グローバル・ロジの三類型  これらの発展段階のうちグローバ ル・ロジスティクス(日本では海外で の後方)に区分されるのは、天下統 一後方、連合後方、派遣後方の三つ である(図3)。
総動員後方も海外で の後方と考えることもできるが、自 国存亡の危機打開のため他国の領土 民軍後方の特異段階である。
国家目 標が戦勝の一点に絞られ、外交戦略、 経済戦略、軍事戦略など国家戦略で 決められた全ての国家財産が後方要 素となり、国家組織の構造によって は軍政が行われる。
ここに至っては 軍事戦略=国家戦略となり全ての政 策は軍事戦略判断のために行われる。
 国家間の協定・同盟争いを通して の「領族後方」に近いものとなり、地 政の囲い込みが行われ帝国主義的な 発想の基となる。
●国際生存後方  国際関係間での国の立ち位置の争 いにおける後方。
外交が主役であり、 経済政策・戦略、国防政策・戦略等 がこれを支える。
国家後方は日ごろ の政策と戦略の組合せによって決めら れ、国防力は政府の統率力、国家の 経済力、国民の思想力によって支え られる。
政策、戦略、後方、地政の 区分はあいまいになり、政策が地政 を変化させる可能性もある。
●連合後方  国際連合、安全保障条約締結国間 などの取り決めや決議に基づく国際行 動における後方。
必要な後方要素は 参加各国の話し合いにより分担。
各 国の国情に合わせた提供が基本とな る。
連合協定の組み方、連合後方計 等の目的が存在する。
●天下統一後方  王国間での略奪のため遠距離の派 兵を行い、覇権拡大によって新たな 地政を獲得するための後方。
貨幣経 済の発展により商人からの購入も戦 略資材獲得の手段となる。
戦略計画、 財政、備蓄管理、商人請負、奴隷使 用等が後方の要素である。
備蓄管理 や商人に準備させた宿営地配分から ロジスティクスという概念を持つよう になったのもこの段階である。
貨幣 経済という後方の購入手段が現れた ことによって地政からの後方の切り離 しが進むことになる。
●国民軍後方  国家間の関係の中で自国の利益を 守るための後方。
職業としての軍人、 施政者、生産者などの区分のなかで、 人民を中心とした施政、生産計画、 軍備などが新たな後方要素として加 わる。
既得の地政を基に足りない後 方を経済的に獲得し、国民の平和の ための国家目標を掲げ、政策、戦略 を実施していく。
後方の地政とのつ ながりは弱くなるが、逆に政策、戦 略とのつながりは強くなる。
●総動員後方  国家間の総力戦における後方。
国 図3 グローバル・ロジスティクスの区分 区分 目的 受入国恩恵 受入国課題 治国平天下問題解決、安全保障の確保、経済活性化、文化交流など 不平等条件地位問題、環境問題、雇用問題など 地形、気候等 歴史、政治等 資源、人材等 財産等 利点のみを活用 自治範囲の制約 略奪、購入など 略奪、納税など 連合内で選択可能 尊重し連合国内で選択 供出、援助、調達など 供出、借用など 現地の条件により制約 尊重遵守し、協定で特例 調達 賃借など 後方準備商人、間者の調査 携帯補給、追加補給 調達 協定・同盟国は中継 補給基地として活用 後方所要分析 後方分担/規格整合 連合輸送・保管 連合後方体制 先遣調査 後方所要分析 輸送計画、調達 後方支援体制 言語、信仰、 文化など 征服による押付 協定・同盟後の交流 言語は国際公用語(英語) 信仰、文化等は尊重 現地公用語、信仰、 文化を尊重 天下統一後方連合後方派遣後方 覇権拡大 決定・同盟 人道問題等の解決、国際的規模の機能障害排除、 安全保障バランスの保持など 79  MAY 2012 ておいたほうが良い。
ジブチでの後方活動事例  派遣後方の例として、昨年の七月 から一〇月にかけて海上自衛隊の後方 支援官としてジブチに派遣されたので、 その経験に基づく事例を紹介する。
 ジブチは、アフリカ大陸をインド洋 に向いた頭蓋骨に見立てると、ちょう ど目の前に突き出た角(アフリカの角) の付け根に位置する国である(図4)。
紅海とアデン湾に面したこの国は、ス エズ運河の建設当時より港を活用し た中継貿易国家として安定しており、 西側はアフリカ最古の独立国家である エチオピアに囲まれ、海を持たないエ チオピアの海上貿易を担っている。
南 北はそのエチオピアと戦争状態にある ソマリア、エリトリアと接している。
 紅海とアデン湾に面した港を持つ他 のアフリカ諸国に比べると政情が安定 しており、北東アフリカの安定化のた めには重要な経済・軍事拠点となっ ている。
 地形はアフリカ大陸で最低標高地 点を持つアファル三角地帯と呼ばれる 低地であり、海沿いにもかかわらず 熱がこもり易い。
従ってその気候は 熱帯乾燥気候であり、年間を通して 暑く、七、八月は四五℃を超える日 が続く。
六月〜九月の間は、「ハムシ ン」と呼ばれる砂塵をともなった熱風 れ、どの後方形態をとるかは事前に 調査されて実行される。
民間企業の 後方においても、こうした事前調査 に基づく後方の形態は明確になってい るものと考える。
 企業のシェア拡大は、当然ながら 覇権拡大であり、天下統一後方にな る。
しかしながら進出する国の利便 性が広がるのであれば、国の理解を 得て派遣後方とすることも可能であ る。
この場合、受入国との調整によ っては特例が設けられ関税免除などの 利益を得ることもあるであろう。
ま た、進出しようとする国に協力企業 があるのならば互いの良いところを出 し合っての連合後方を実現すること も可能である。
 グローバル・ロジスティクスではど の後方形態をとるかによって進出の 容易さが大きく異なることを理解し が吹き毎年ひどい干ばつに見舞われる。
 国土面積は約二万三二〇〇㎢で関 東地方平野部に相当し、首都のジブ チは銀座の広さに相当する。
 人口は約八六万四〇〇〇人、うち 約五七万人が首都ジブチ周辺に集ま っている。
 公用語はアラビア語とフランス語だ が、現地人は生活言語としてソマリ 語、アファル語( アフロ・アジア語 族)を使用している。
 旧フランス領で、独立したのは一九 七七年六月二七日。
一九九一年から 二〇〇一年にかけ、ソマリア系のア ファル族とエチオピア系イッサ族の間 で内戦が続き、二〇〇八年六月には エリトリアとの間で軍事衝突が起きて いる。
 政治は共和制、大統領制の立憲国 家であり、現イスマイル・オマル・ ゲレ大統領は二代目大統領で、その 任期は三期目に入っている。
民族は イッサ族とアファル族でほぼ半々の構 成となっており、民族の違いに隔てな く平等に利益を分け合うとの理念から 現大統領の人気は高い。
 イスラム教徒が九割以上を占めてい るイスラム文化圏である。
産業はほと んどなく、生産物は水、コカ・コー ラ、それに世界一塩分濃度の高い塩 湖から採れる塩である。
国の主要な 財源は中継貿易による港湾運営益と  また、三つの後方形態は受入国側 の対応が異なるため、後方準備の流 れや重点事項などが異なる。
 天下統一後方では物資の携行が基 本であり、その携行物資を減らすに は商人や間者による現地調達の可能 性を調査することが重要となる。
連 合後方では枢軸となる国の後方が中心 であり、参加各国との後方分担調整 による協力をどこまで引き出せるかが 重要な鍵となる。
派遣後方では物資 の調達及び輸送が基本であり、現地 または周辺での効率的な調達の可能 性を先遣調査することが重要である。
 自衛隊の派遣後方の場合、当然な がら目的は閣議決定等により定めら 国土の様子 水の生産 水の生産 コカコーラ 難民キャンプ 塩の採掘 ソマリア エチオピア 国境 生命線 ソマリア エリトリア 図4 派遣先地政の概要(ジブチ共和国) 国土面積 23,200 ? (関東地方に相当) 人口 86 万4000 人 公用語 アラ語、フラ語 1977.6.27 独立 2 北東アフリカ アファル族イッサ族 MAY 2012  80 する停電によって国内唯一の通信サー バーダウンが頻繁に起こる。
そのため 一〜二日程度通信不通の状態が続く ことが頻繁にある。
途上国における 電力・通信事情が悪いことは常に念 頭においておくべき事項である。
 現場での後方支援計画の変更や腹 案の即実行になくてはならないのが 携帯電話である。
日本の多機能携帯 電話のようにe-mailやネット検索はで きないが、ショートメールは可能であ る。
もちろん通話は移動中も可能で あり、電波の届く市内での仕事には 必需品といえる。
また、短期来訪者 に所持させておくと現在位置不明と なったときの捜索にも使え、極めて便 利な通信ツールとなる。
 それでもジブチで最も確実かつ重要 で、効果の高い通信手段は徒歩伝令 である。
 停電や通信不通が頻繁に起こり、 広さも銀座程であることを考えれば、 それを認識しておくことは非常に重 要になる。
また就業慣習でも述べた とおり、面識を大事にするジブチ人は 直接対面する機会の多い人の仕事を 優先する。
この性格を捉えて面識を 深めることにより後方支援の円滑化 を図ることができる。
 こうした手段を使って、この国の ロジスティクスを活用し艦艇部隊には 日本と変わりない後方支援を、航空 されているが、末端の道路は砂上の 轍(わだち)しかなく、しかも直線 的でない。
轍から外れて道に迷うと、 自動車では乗り越えられない岩場や砂 地にはまってしまう。
轍が降雨後の 状況や障害物の発生によりしばしば 曲がり方を変えてしまうのである。
こ うした支線道での補給線が安定して いないこともこの地の特徴であろう。
ジブチの情報収集・通信手段  ジブチの後方の条件を知る上で必要 なのが情報収集手段である。
 ところが、ジブチ国内の情報源と なる新聞は唯一の地元紙「La Nation」、 テレビは「RTR」のみであり、何 れも政府統制下にあることから報道 内容は政府の意向に制限される。
し たがって市内のデモ情報などは報道さ れず、現地雇用者の伝聞情報や市内 の人伝えによる情報に頼らざるを得 ない。
情報源確保のためには日頃よ り街の情報が集まる盛り場などと仲良 くなっておくことである。
 もう一つ、現場で後方支援をコン トロールする際に重要なのが通信手段 である。
 ジブチにはインターネットが通じて おり、e-mailの交換が可能である。
時 差のある本国及び他国との通信には 便利なツールであるが、最近の通信 量増加に加え、不安定な電源に起因 されず緊急に対処しなければならな い場合もある。
そうした事態に備え、 後方支援計画を展開するにあたって は現場における腹案を常に持たなけれ ばならず、また判断に遅れて影響を 広げないように複数の腹案を比較検 討しておき、状況に応じた対応をと っていかなければならない。
 人的要因だけではない。
気候も障 害になる。
熱帯乾燥地域特有のハム シンが吹くと艦艇の出港ができないば かりか外に立っていることさえままな らないのである。
 地形も同じく障害になる。
主要幹 線道はODAなどの支援により整備 他国軍駐留益、それにODA援助金 である。
ジブチ市内に事務所を構える 会社のほとんどは外資系であり、失 業率は七割を超える。
 さて、ここまでの地政の紹介でジ ブチ共和国の世界に入っていただけた だろうか。
 日本より約一万?離れたジブチ共 和国における派遣後方では、物資は 特殊な場合を除き直接輸送するより も現地で調達する方が効率が良い。
し たがって、海上自衛隊は日本の海外 取引会社を通してジブチの代理店よ り後方支援協力を得ている現状にあ る。
ジブチには日本の企業進出はな く、ほとんどの代理店が欧州系、ア ラブ系、インド系の会社で日本での就 業慣習は通用しない。
 例えばジブチでは、日中は酷暑のた め午後一時から四時までの長い昼休 み(シエスタ)をとる。
仕事のやり方 で言い合いになると、納得がいくま で仕事の手を止め議論する。
ラマダン 期間中は日中飲まず食わずのため体 力がない。
仕事の期限は関連性の薄 い要因で遅れる。
顔馴染みの仕事や チップを弾んだときの仕事を優先する。
などなど。
 このため、行動計画の二〜四時間 遅れは普通であり、半日、時には三 日の遅れを許容しなければならない 状況が生じる。
直前まで状況を知ら ラマダン中のシエスタ(キオスク前) ハムシン 支線道の道標(道外れの岩場) 81  MAY 2012 ジスティシャンの冥利に尽きるところ であろう。
参考文献 【1】 H. E. Eccles, Operation Naval Logistics, Washington DC. Government Printing Office. 1950 【2】 Edward Mead Earle, Makers of Modern Strategy, Princeton University Press, 1943 【3】 Alfred Thayer Mahan著、海軍軍令部 (尾崎主税)訳、外山三郎 解題「海軍戦略」 復刻版、原書房、1978 【4】 Philip Hall Coombs, Problems of economic mobilization, Industrial College of the Armed Forces,1947 治安を維持しており、アフリカの国々 の中ではかなり治安がよいと言われ ている。
 一〇年前まで内戦状態にあったジ ブチでは市民が争い事では何も解決し ないことを理解しており、市街地で 揉め事が発生した際には、周囲の人 のほとんどが仲裁に入ろうとするよ うである。
むしろ駐留軍人による事 件が多いようであり、軍人としての マナーを守りつつ駐留することが求め られる。
 海上自衛隊としては初となるアフリ カでの活動に反感を抱かれないよう市 民と接していく必要があり、そのた めに必要な言葉や信仰上の壁などを少 しずつ乗り越えていくことが大切であ ろう。
そして壁を乗り越えた市民とつ ながりを持つことによって、街の治安 情報などの収集が円滑になり後方活 動の推進にもつながるものと考える。
 自らの生活のためのロジスティクス はもちろんのこと、日本国内でしっ かり計画の立てられた派遣後方にお いても、現場では実に様々な課題が 生起しており、その課題にどの腹案 をもって当たるかは現地派遣者次第 である。
そして腹案の幅は自ら築い た現地代理店及び現地人との関係で 得られる情報次第である。
自ら情報 源や協力者を開拓し現場での課題を 解決していくこの任務は、まさにロ  そのため宿泊や食事等は自ら準備 する必要があり、市街地での生活情 報の収集にも余念がない。
このよう な情報獲得に必要なのが現地の公用 語である。
 英語の通じる外国人向けのホテルや レストランは衛生面の心配はなくとも 価格が割高である。
一方、現地人向 けの宿泊所や食堂では衛生面に注意 が必要であるが、価格は極めて安く 現地の食材が楽しめる。
衛生面に注 意しながら生活の選択肢を広げるに は、現地の言葉による意思疎通によ り生活情報を手に入れることが重要 となる。
 もう一つ、ジブチで重要なのは衛生 環境に合わせた水の確保である。
水 道は通ってはいるものの塩分などが含 まれており、飲めば日本人はたちど ころに腹を下す。
水道を浸透膜でろ 過している最高級ホテルのケンピンス キーホテル(一泊約四万円〜七万円) では生活用水の問題はないが、他の ホテルでは日本人が口を濯ぐだけで翌 日は下し腹となることもある。
毎年 のように干ばつのあるジブチでは、き れいな水は高級品なのだ。
 途上国で生活する上では、宿、 食事、衛生環境、水に加えて 治安への注意を忘れてはならな い。
ジブチ市街地と主要幹線道では 「GENDARMERIE」という軍警察が 部隊にはこの国の商習慣で摩擦を起 こさないように情報を提供するため調 整に奔走するのが後方支援官である。
 派遣先(戦略地点)で地政を捉え、 業務や輸送など後方の流れ(戦略線 あるいは補給線の流れ)をコントロー ルする後方支援官は派遣後方の効率 を高める要なのである。
 ここまで派遣後方の事例としてジブ チでの後方活動の一面を紹介したが、 後方の現場において少人数で対応す る後方支援官の重要性を認識いただ ければ幸いである。
現地派遣者のロジスティクス  最後に、派遣後方において、派遣 される後方支援官自身のロジスティ クスについて紹介する。
 後方支援官は、現地代理店との調 整や情報収集のために市街地で活動 する。
※ S O L E(The International Society of Logistics: 国際ロジスティクス学会) は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇〇 〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎月 「フォーラム」を開催し、講演、研究発表、現 場見学などを通じてロジスティクス・マネジメ ントに関する活発な意見交換、議論を行って いる。
次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは5月11日(金)、 アジアビジネス研究所の会川清司代表 による講演を予定している。
テーマは アジアを中心とする国際ビジネス展開。
このフォーラムは年間計画に基づいて 運用しているが、単月のみの参加も可 能。
一回の参加費は6,000円。
ご希 望の方は事務局( s-sogabe@mbb. nifty.ne.jp)までお問い合わせ下さい。
出港「帽振れ」に答える後方支援官

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