ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2011年12号
物流指標を読む
第36回 自転車とトラックの事故が増加する? 「交通事故統計年報」交通事故総合分析センター

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む DECEMBER 2011  70 自転車とトラックの事故が増加する? 第36 回 ●警察庁が自転車の車道走行徹底へ取締強化 ●自転車の無法運転で歩行者との共存は失敗 ●保険加入、罰則強化、交通安全教育の徹底を さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
自転車は車道へ  警察庁は一〇月二五日、「良好な自転車交通秩 序の実現のための総合対策の推進について」とい う文書を各管区警察局長および各都道府県警察の 長に通達した。
 その背景には、自転車利用者に交通ルールを順 守しなければならないという意識が十分に浸透し ておらず、そのルール・マナー違反に対する国民 の批判の声が跡を絶たないこと、自転車の通行環 境の整備が十分とは言えない状況にあること、二 〇一〇年中の自転車関連事故の発生件数が交通事 故全体の約二割を占めるとともに、自転車乗車中 に死傷した者の約三分の二に何らかの法令違反が 認められることなど、自転車に係る交通状況が予 断を許さないものとなっているという実態がある。
 第九次交通安全基本計画に掲げられた「平成 二七年までに二四時間死者数を三〇〇〇人以下と し、世界一安全な道路交通を実現する」という目 標を達成する上で、自転車に係る対策の推進が喫 緊の課題となっているのだ。
 本通達の基本的な考え方は、以下のとおりであ る。
・車道を通行する自転車の安全と歩道を通行する歩 行者の安全の双方を確保するため、自転車は「車 両」であるということを、自転車利用者のみなら ず、自動車等の運転者を始め交通社会を構成する 全ての者に徹底させる。
・自転車の通行環境の整備を推進し、自転車本来 の走行性能の発揮を求める自転車利用者には歩道 以外の場所を通行するよう促す。
・自転車利用者がやむを得ず歩道を通行する場合 には、歩行者優先というルールの遵守を徹底させ ることが必要である。
 言うまでもないことであるが、自転車は道路交 通法では「軽車両」に分類されており、車道通行 が原則である(注:歩道通行可を示す標識等があ る場合、自転車の運転者が児童・幼児・七〇歳以 上の者・身体障害者である場合、車道または交通 の状況に照らして自転車の通行の安全を確保する ため歩道を通行することがやむを得ないと認めら れる場合には歩道通行が認められている)。
 ところが現状では、自転車の歩道通行が野放し になっており、なかには歩道を無灯や猛スピード で通行したり、携帯電話を使用しながら通行する など、危険極まりない利用者も多い。
警察はよほ ど目に余るケースでもない限り、自転車の歩道通 行を黙認してきたようであるが、とうとう看過で きなくなり、ようやく重い腰をあげた格好だ。
 警察はなぜ、これまで違法行為を黙認してきた のであろうか。
あくまでも推測の域を出ないが、考 えられる理由をいくつか挙げると、ひとつは、こ れまで自動車優先(と言うより?偏重?と言った 方が正しい)の道路整備をしてきたため、自転車 の車道通行が危険となり、交通事故をなるべく減 らしたい警察が緊急避難的な措置として、自転車 に歩道を通行させたからではないか。
そして、そ の状況が数十年間も続き、いつのまにか自転車の 歩道通行が当たり前のようになってしまった。
警 察も、かつて自転車に対し「歩道を通行しなさい」 と指導した手前、今さら「車道に降りなさい」と は言えなくなったのであろう。
また、自転車の数 「交通事故統計年報」交通事故総合分析センター 71  DECEMBER 2011 母さんに「後ろに子供を乗せ、カゴに荷物を載せ るとふらつくこともあるので心配」なんて言わせ ていた。
スタジオ内のコメンテーターも、「自分は 自転車を乗るのだが、これでは乗れなくなる」と か、「その前にインフラの整備が必要」なんてコメ ントをしていた。
後者のコメンテーターなどは、そ の発言に誰も反応しなかったためか、再度同じコ メントを発したので、私は思わずテレビに向かって 「馬鹿かお前は!」と突っ込みを入れてしまった。
前述のように、車道のなかには自転車が安心して 通行できないところも少なくなく、それは行政の 怠慢によるものであることは事実である。
しかし、 そのようなことは小学生でも言えるコメントであ り、いくばくかの謝礼をもらっている者の言うべ きことではない。
なぜこのような事態になったの かについてコメントすべきではないのか。
そもそ も、このワイドショーでは何が言いたかったのか全 く不明だ。
自転車に車道通行させることを反対し たかったのだろうか。
 あまりにも一刀両断的すぎるという批判を恐れ ずに言えば、今回の件は自転車利用者側の自業自 得であり、全く同情はしない。
例えて言うならば、 他人の庭で好き放題勝手なことをしたため、「出て 行け」と言われたようなものである。
あくまでも、 「歩道を使わせてもらっている」という謙虚な心 があれば、歩行者と自転車は共存共栄できたので はなかろうか。
ドライバーはいっそうの安全運転を  上記のルールが徹底された場合、自転車と歩行 者の事故は減少する一方で、自動車と自転車の事 故は増加する可能性が高いのではないか。
 以前、本欄で取り上げたように、貨物車による 交通事故は年々減少している。
一〇年の交通事故 発生件数七二万五七七三件のうち、貨物車が第一 当事者となった事故は十二万七八六七件(注:全 件数に占める割合は一七・六%)で、前年より一 六八一件減少(一・三%減)した。
 また、貨物車と自転車の交通事故件数の推移を みると、貨物車が第一当時者(自転車が第二当事 者)の事故も、貨物車が第二当時者(自転車が第 一当事者)の事故もそれぞれ〇一年以降減少して いる。
前者は、一〇年が二万一一七四件で、〇〇 年(三万二八六二件)比で三三・七%減、また 後者については、一〇年が二〇四一件で、〇〇年 (四〇九二件)比五〇・一%減と半減している。
 しかし、当該ルールが徹底される来年には、貨 物車と自転車の事故は再び増加に転じる可能性が 高い。
トラックドライバーはよりいっそうの安全運 転を求められることになろう。
 ところで、自動車と自転車の事故が再び増加し た場合、警察はどのような対応をとるのだろうか。
また、自転車を歩道に上げるのか。
自転車免許制 度の導入は困難であろうが、保険加入の義務化、違 反に対する罰則の強化、交通安全教育の徹底など は是非実施してほしい。
聞くところによると、最 近の学校では、交通安全教育を実施していないと ころもあるそうだ。
そのため、自転車は道路の左 側を通行しなければならないことを知らない子供 たちが多いという。
因数分解ができなくても将来 困ることはないが、身近な生活のルールを知らな いのは非常に困りものである。
が多すぎて(注:自転車産業振興協会の統計によ ると、〇八年において六九一〇万台)、取締りが 困難ということもあろう。
あるいは、ひねくれた 見方をすれば、自転車の利用を減らしたくない業 界団体が、警察に対してきつい取締りをしないよ うにお願いしていたのではないか(警察から業界 団体へ天下っている者が当然いるはずだ)。
 某局の朝のワイドショーでは、さっそくこのニ ュースを取り上げていた。
私はてっきり、自転車 の無法ぶりをレポートするものと思っていたのだ が、意に反して、女性レポーターが車道を実際に 自転車で通行して、「怖い」だの「危ない」だの キャーキャー叫び、あるいは幼児を後ろに乗せたお 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 貨物車と自転車の事故件数(左軸) 歩行者と自転車の事故件数(右軸) (年度)99 年 00 年 02 年 04 年 06 年 08 年 10 年 01 年 03 年 05 年 07 年 09 年 注)貨物車と自転車の事故は貨物車が第1当事者で自転車が第2当事者の事故、 歩行者と自転車の事故は自転車が第1当事者で歩行者が第2当事者の事故 出所)交通事故総合分析センター「交通事故統計年報」より本誌作成 (件) (件)

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