ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年10号
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「本当の中国市場を日本人は知らない」丸協運輸貿易 神並 充 総経理

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2011  4  「この貨運市場に出入りするトラッ クの大部分が?一人親方?(個人ドラ イバー) です。
そして中国の混載輸 送サービスは、どんな大手もこのネッ トワークを使っている。
中国全土を 一社で網羅できている会社は今のと ころ存在しません。
そのために混載 輸送は品質が悪い。
貨運市場の積み 替えで荷物が壊れたり紛失したりし てしまうんです」 ──丸協運輸の混載便も貨運市場を 使っているのでしょう?  「そうです。
我々も当初は他の日系 と同様に日本からマニュアルや作業 標準などを持ち込んで、日本流にや ろうとしました。
自社車両も投入し ました。
しかし、中国の物流の実情 を知るほどに、それが有効ではない ことが分かってきた。
そもそも、こ の広大な国土を自社のリソースでカ バーしようとすれば、大変な投資と 時間がかかってしまう」  「そこで発想を切り替えました。
現 地のリソースをどう使ったら日系荷 主の求める品質を確保できるのかと 考えていったんです。
混載輸送に関 しては、問題の多くは積み替えで発 生している。
つまり混載輸送の品質 は貨運市場における荷扱いの勝負な んです。
そのため我々は貨運市場の 内部に深く入り込んで、荷役作業を 低価格・高品質の秘密 ──足元の業績は?  「売上高は年率二〇%近くのペース で伸びています。
二〇一〇年の売上 高が八億円弱。
今年は一〇億円弱を 見込んでいます。
売り上げの約半分 は国内のトラック運送事業で、その うち九割近くが混載輸送です。
物量 にして昨年は月平均一三〇〇トンの 混載貨物を取り扱いました。
混載便 の伸びが当社の成長を支えています」 ──混載便が伸びている理由は?  「中国のトラック運送で最も運賃が 高いのは日系物流会社のチャーター便 です。
次が現地系のチャーター。
一 番安いのが現地の混載です。
ただし、 現地の混載は品質が悪くて日系荷主 は使えない。
これに対して当社の混 載は、現地の混載よりは運賃は高い けれど、現地のチャーターと比べれば 二、三割は安い。
それでいて品質は 現地のチャーターと変わらない。
従っ て、これまで日系荷主がチャーターで しか運べなかった荷物に当社の混載 便を使っていただければ品質を維持 したままコストを下げられる」 ──現地系でもチャーター便であれば 混載便より品質は上なのでは?  「そんなことはありません。
現地の チャーター便というのは、実態とし ては貸切ではなく、積み替えが発生 していることが多い。
それであれば 当社の混載のほうが品質はいい。
リ ードタイムが一日長くなるだけです。
実際、当社の他に元請け運送会社の ある荷物でも、壊れ物や扱いの難し い荷物はウチに回ってくる」  「トラックの混載輸送の品質では、 当社は中国で一番だと自負していま す。
エリア的にもラサ(チベット自治 区) を除いて中国全土を網羅してい ます。
当社はかねてから混載輸送の 全国ネットを作ることを目指してき たのですが、〇九年にその夢を叶え ることができました」 ──なぜ混載輸送で品質を確保でき るのですか。
 「その質問に答えるには、中国の混 載市場の構造から説明する必要があ ります。
中国の各都市には『貨運市場』 と呼ばれるトラックの帰り荷を斡旋 する市場があります。
そして各主要 都市の市場間は二〇トンから四〇ト ンの大型車両による幹線輸送で結ば れています。
各地の主要都市と、そ の地域の中小都市間ではこれが一〇 トンクラスになり、地域配送や集荷 には、さらに小さな車両が使われる という構造です」 丸協運輸貿易 神並 充 総経理 「本当の中国市場を日本人は知らない」  中国には二つのトラック運送市場がある。
一つは外資系荷 主と外資系物流会社で構成される。
サービスレベルは先進国 並みだが運賃も高い。
もう一つは国内限定市場だ。
安かろう 悪かろうで、外資系からは敬遠されてきた。
しかし、大阪に 本社を置く中堅運送会社の丸協運輸は、そこに深く切り込ん で突破口を開いた。
         (聞き手・大矢昌浩) 5  OCTOBER 2011 取り仕切るキーマンたちに直接、?義 理?を通していきました」 ──貨運市場内の荷役作業は、特定 集団が独占していると聞きます。
か なりダーティな印象がある。
 「なかには危ない人たちもいるで しょうが、そうでない人たちもい る。
そこはどの国であっても同じです。
もっとも、外国人で、しかも総経理 の私が現場に挨拶にいっても、まと もに相手にしてもらえないので、当 社が新しいルートを敷く時には、当 社の中国人社員が着地に出向いて現 地の作業実態や各社の評判を調べ、 信頼の置ける会社を選んで、そこに 挨拶にいく」 ──そうした荷役会社は正式な会社 組織なのですか。
 「今は法人化していることが多いよ うです。
ただし規模としては一〇人 から二〇人ぐらい。
そうした零細の 荷役会社が一つの貨運市場にいくつ もある。
そのうち比較的評判のいい ところ、リーダーがしっかりしてい るところを選んで代理店契約を結ぶ わけですが、それでも荷物を投げたり、 荷物の天地を無視したりは当たり前 なので、契約時点でトラブル発生時 のペナルティなどを契約書に明記し、 かつ教育していくんです」  「最初は少しの荷物から始めて実績 をさらに下げていく」  「品質も上げていきます。
簡便な装 置を使って、中国のどこであっても 貨物を追跡できる機能を開発しまし た。
中国の商取引では必ず『発票』 (日本の領収証に相当)が発生します。
運送取引も同じで、荷物と発票は常 にセットで動き、納品後には発票だ けが戻ってくる。
そこに着目しました」  「発票用のクリップにG P Sのチ ップを付けたんです。
追跡が必要な 貨物にこれを付けることで混載の 積み替え後もステータスを把握でき る。
納品後は発票と共にチップも戻 ってくるので、回収コストもかから ない。
チップの初期投資だけで、ど んな荷物であっても貨物追跡ができ ます。
既に日本と中国で実用新案を 取得しました。
中国はもちろん他の 東南アジアでも有効なツールになると 期待しています」 を見ながら徐々に取引を拡大してい きます。
また保険のために運送一回 分の支払いは買い掛けのまま残して おく。
破損や紛失、荷主からのクレ ームがあった場合には改めて当社の スタッフが現地に行って原因を調べ て課題を潰す。
そうした地道な活動 をこれまで一〇年にわたって中国各 地で積み重ねてきました」 ──混載輸送を中国事業のメーンに 据えた理由は?  「チャーター便では他社と差別化で きない、大手に太刀打ちできないと 考えたからです。
当社には大手のよ うなブランド力もなければ、メーカー の物流子会社のようにベースカーゴが あるわけでもない。
そのため他の日 系物流会社が扱いたがらない細かい 荷物から入っていくしかなかった」  「具体的には我々が当初、ターゲッ トにしたのは展示会でした。
中国で は連日のように各地で産業展示会が 開催されています。
もちろん日系企 業もたくさん出展している。
しかし、 展示会の荷物というのはディスプレイ やパネルなど、壊れやすいものが多い。
そのため、どこもチャーター便を使う わけですが積載率が悪くコストがか かっていた。
それを当社が請け負う ようにしたんです。
そのため当社の 場合は荷主の顔触れが日本と中国で、 まったく違う」 日本流は通用しない ──日本流は中国では通用しませんか。
 「日本のやり方が優れているのは事 実です。
しかし、日本と中国では環 境がまったく違います。
市内の中心 部は規制でトラックが使えない。
G PS機能が付いている車両も、ここ ではまだ一%以下。
物流に使う道具 も違えば、道路や法規制などインフ ラもすべて違う」  「労務管理にしてもそうです。
『や る気』や『協調性』、『創造性』とい った日本の人事考課の尺度は曖昧す ぎて、こっちの人間にはピンと来な い。
『新しい法令を理解しているか』、 『トラックをきれいにしているか』、『遅 刻はないか』といった具体的な基準 でないと響きません」 ──今後の展開は?  「当面は中国全土に倉庫施設の設 置を進めていきます。
既に沿岸地区 や内陸部も主要都市には拠点を置い ていますが、今年はさらに十カ所以 上に一気に倉庫を開設します。
とい っても各地の代理店に場所を用意し てもらって、それを借りるかたちな ので初期投資はそれほどかからない。
そこに一時保管やターミナル機能を持 たせ、ロットをまとめることでコスト 丸協運輸貿易  大阪に本社を構える中堅運送会社の丸協 運輸が一〇〇%出資で一九九四年に張家港 保税区丸協運輸貿易(丸協運輸貿易)とし て設立。
二〇一〇年十二月期の売上高は約 八億円。
その内訳は、国内運送事業が約五 割、倉庫事業が約三割、残り約二割が国際 物流および海外引越など。
チベット自治区 を除き中国全土を網羅する小口混載ネットー ワークを運用している。
社員数は約二〇〇 人。
現地関連会社に上海丸協運輸がある。
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