ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年7号
特集
Interview「新しいルールを作り合意を図る」流通経済研究所 加藤弘貴 専務理事

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

「新しいルールを作り合意を図る」 卸抜きの流通は考えられない ──今回の製配販連携は、卸の介在が前提になって います。
メーカーと小売りの大手同士が直接取引す る欧米型とはモデルが違う。
 「少なくとも短期的には、卸の介在しないサプライ チェーンなど日本では考えられません。
欧米の大手 小売りは卸機能を自分で持っています。
垂直統合し ている。
日本とは全く違います。
誰がやるにせよ中 間流通機能は必要であり、それを小売りが代替する ことは、日本の場合には難しい。
これまでも試みら れては来ましたが成功はしていません」 ──直接取引に比べて卸経由のサプライチェーンは 効率が悪いとする「卸不要論」は間違いですか?  「それは誤解から来ているのだと思います。
現在は もちろん過去の歴史においても、卸がいるから効率 が下がったということはなかったはずです。
むしろ豊 富な品揃えや、きめ細かなロジスティクスなど、日 本特有のサービスは卸がいたからこそできた」 ──日本市場でもカテゴリーによっては製造小売り (SPA)が台頭しています。
 「アパレルのように狭いところで完結する商品なら SPAも可能ですが、食品や日用雑貨品のような幅 広い商品を扱う分野、品目数やメーカー数がケタ違 いに多い分野では、卸がいた方が効率的ということ だと思います。
今の段階では卸は不可欠で、それを 前提に垂直連携を考えていく必要あります」 ──日本で製配販の連携、SCMの重要性が指摘さ れるようになって、既に一〇年以上が経過しています。
企業の枠を越える取り組みは進んだのでしょうか。
 「進んできた部分とそうでない部分があります。
販 売データなどのシステム的な情報共有は、ある程度 は進みました。
しかし、今回のWGでもいろいろ議 論しましたが、製配販それぞれが抱えている事情、 問題意識は共有できていなかったと思います。
卸は卸、 メーカーはメーカー、小売りは小売りの事情を抱え ていて、それをお互いが協力して解決しようという体 制にはなっていなかった」 ──このタイミングで製配販の協働が合意できた理 由をどう考えますか。
 「個人によって見方は違うでしょうが、個人的には 二〇〇〇年代後半から意識が変わってきたように感 じています。
不毛なサービス競争はやめましょう、流 通全体でコスト効率を高めましょうという意識に移っ てきた。
日本の人口がピークを打ち、国内マーケッ トが縮小に向かったことがやはり大きいと思います。
効率化できるところは協調してやっていこうとならざ るを得なくなった。
市場が拡大しているときにはその ような危機感はなかった」 ──多少古い話になりますが、日本のボストンコンサ ルティンググループ(BCG)が一九九七年に「E CRニッポン」を立ち上げています。
今回の協議会 と同じようなメンバーが集まり、各社ともかなりの活 動資金を投じて取り組んだものの、結局二年足らず で活動が頓挫してしまいました。
 「ECRニッポンと今回の協議会の最大の違いは、 小売りのコミットメントだと思います。
ECRニッポ ンにも大手小売りの名前は入っていましたが、それ ほど深くはコミットしていなかった。
今回は小売りの 意識が当時とはまったく違います」 ──確かに返品削減にしても、配送効率化にしても、 メーカーや卸に対して買う側の立場にいる小売りが それを認めなければ話が始まらない。
 「今回は日付の“三分の一ルール”にしても見直し JUNE 2011  26  取引制度改革は小売りのコミットメントがカギになる。
国 内市場が縮小トレンドに入ったことで、小売りの意識も以前 とは変化した。
メーカーや卸と合意のできる環境が整ってい る。
まずはサプライチェーンの実態を把握し、現状認識を共 有することが第一歩となる。
     (聞き手・大矢昌浩) 流通経済研究所 加藤弘貴 専務理事 27  JULY 2011 くさんある。
そのため出荷時には既に生産から日が 経っているといったことが分かってくれば、もっと合 理的な判断ができるようになる」 ──五月一九日のフォーラムでは、返品が業界全体 でどれだけ発生しているのかを推計した金額が発表 されました。
 「関係者が考えていた以上に返品の多いことが明ら かになりました。
そうした実態、事実に基づくこと で合意も進むと考えています。
そうした情報を開示 することに対する抵抗もなくなっています。
機は熟し てきました」 ──「配送最適化WG」は? これも返品のような実 態調査や新しいガイドラインを出していく?  「配送頻度やロット、リードタイムについては各社 によって事情が全く異なるため、一律的なルールを 作るのではなく、まずは行き過ぎたサービスはやめよ うという認識が共有できればいいと考えています。
サ プライヤーに物流サービスを高めてもらうことがベス トプラクティスではないということをわかってもらう。
実際、今や先進的な小売業はサービスレベルをあえ て下げることで効率化を進める傾向にある。
WGで も終売品の欠品を認めて返品を減らしたローソンさ んの取り組みが紹介されました。
こうした事例を広 く知らせて効果的な取り組みの進め方として共有し、 事例を増やしていく」 ──今回の協議会には経産省の予算が付いていませ ん。
中期的な活動計画はどうなりますか。
 「まずは三年ぐらいを目安に考えています。
その後、 組織をどうするかについては今後の検討課題になりま す。
経産省には引き続きバックアップを期待したい。
関係業界の意見調整や求心力の点で経産省の力はや はり大きい」 ていくことで小売りの参加メンバーとも合意できてい ます。
これまでのように、いい商品だけもってこいと いう態度から変わってきていると思います」 ──さすがに今回の震災では、三分の一ルールや日 付の逆順禁止がいったんなくなりましたが、一カ月 も経たないうちにまた元に戻ってしまいました。
 「やはり三分の一ルールに代わる新しいルールを作 らないと変わっていきません。
そのために協議会で新 しい基準を作る、あるいは考え方をまとめようとして いるわけです。
それも実務担当者レベルだけの合意 ではなく、WGの結果を社長会に報告し、各社のトッ プに承認してもうらう」 ──公正取引委員会や行政に協力を仰いで、取り決 めに法的な強制力を持たせることはできませんか。
 「それはむしろ制約条件です。
公取委から談合と指 摘されないように配慮する必要があります」 製配販のトータル在庫の把握が必要 ──流通経済研究所が事務局を務める「返品削減W G」と「配送最適化WG」の今年度の活動計画は?  「三分の一ルールに代わる新たなルールについては、 今年度中に何らかの報告を出したいと考えています。
ただし、現状ではまだ流通の各段階で在庫がどれく らいあるのかという実態さえ共有できていない。
各社 とも自分の在庫はわかっていても、メーカーに何日、 卸に何日、小売りに何日と、一気通貫でみているわ けではない」  「逆にそうした実態が共有できれば合意できるとこ ろも出てくると思います。
例えば小売りは三分の一 と言っているが、ほとんどの商品はもっと長くても問 題ないとか、あるいはメーカーにしても、売れない商 品は一年間に数回しか生産しないので実は在庫がた 施策内容 ▲新商品店案内 新製品の発注〆日を納品日 火曜日 前週の月曜日にする。
ベンダーは確定数量+追加 発注見込み(5%〜20%)で 初回在庫を用意する。
新規残返品が全て(全体の 40%)削減される効果が見 込める。
推奨取り消し商品(以後、 カット商品)は店案内1 週間 後以降はセンター在庫がなく なり次第、随時カットする(リ ニューアル除く)。
カット残返品が約半分(全体 の20%程度)削減される効 果が見込める。
月曜日 ▲新商品発注〆日 月曜日 ▲ 火曜日 納品日・ 新製品発売日 2 週間発注1週間 (D+8) 施策スケジュール ▲ 火曜日火曜日 ▲ 月曜日 推奨取り消し (カット日) 推奨取り消し 店案内日 計画終了期間 (最大4 週間) 1 週間 (保護期間) 発注〆前倒し計画終了 ローソンは2009 年から新製品導入時における発注〆前倒しと、終売時においてセンター在庫を 売り切るプロセスを導入することによって、返品削減などの効果を上げている 特集

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