ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年1号
SCMの常識
グローバルロジスティクス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCMの常識 講 座 ▼講師 理論編 坂本欣昭 ベリングポイント シニアコンサルタント      実践編 杉山成正 ベリングポイント ディレクター JANUARY 2004 84 今回は、グローバルなロジスティクス・マネ ジメントシステム(以下「GLMS:Global Logistics Management System 」)を、どのよ うにして構築していくのかについて解説します。
前回はサプライチェーン・マネジメントの対 象範囲が一つの国にとどまらず、多国間にまた がる場合に発生する、いろいろな制約条件や 課題を中心に、「現状調査」の重要性について 解説しました。
しかしグローバル規模でのサプ ライチェーン構築を検討する場合、これらの制 約条件や課題だけが真の問題点なのでしょう か。
■■現行業務/システムの課題 日常あまり意識しませんが、企業は実に多 くの情報システムを保持しています。
調達、製 造、物流、販売など、業務ごとに情報システ ムを保持しているだけでなく、設計や需要予 測、顧客管理など、企業の業務対象範囲を網 羅するために、その機能や種類は多岐にわた っています。
例えば物流業務をフォーカスした場合、主 に次のようなシステムがあります。
?倉庫管理システム(WMS:Warehouse Management System ) 物流拠点やデポなどの入出庫、保管(ロケ ーション)、梱包や在庫など倉庫運営の管 理/支援 ?輸送管理システム 輸送計画、配車/ルートのシミュレーショ ンや選定、輸送車輌への積付や動態/運行 管理、追跡管理など ?貿易(輸出入)管理システム 輸出入書類(インボイス、パッキングリス トなど)の作成、通関状況や関税などの管 理/支援 ?その他 顧客や取引先からの受発注データ受渡し (EDI)、基幹システムへの出荷指図、バ ーコード検品、荷札作成、自動ラック制御 など このように、物流業務だけでも、様々なシ ステムがあります。
過去、多くの企業は各部門や機能ごとに情 報システムを構築してきました。
その結果、社 内の各部門レベルでの最適化が実現し、日常 業務の生産性や品質が改善されてきたことは 事実です。
その一方、各部門/機能の前後の プロセスとの連携や、会社全体としての統合 (一体化)ができていないため、経営者や管理 者が企業の経営状況を判断し、またそれに基 づいた意思決定や判断ができないことも珍しくはありませんでした。
とりわけ調達、生産、保管、販売を結ぶ役 割を果たす物流業務の場合、その対象範囲は 企業の活動範囲全域にわたります。
また物流 業務は顧客や取引先、委託先など、社外にも 関係先が多いため、他社との情報連携には大 変大きな手間や負荷が掛かります。
さらにグローバル展開した場合ともなると、 日常業務を運用することで精一杯となり、ロ ジスティクスの管理のみならず、経営レベル にとっても重要な情報でさえ、すぐには入手 できず、多くの人員や時間をかけなければ実 態の把握ができない、ということが往々にし ておこってきます。
■■GLMS構築の目的 グローバルロジスティクス? 理論編 〈第8回〉 85 JANUARY 2004 その企業の業種や取扱商品/サービスを問わ ず、経営戦略のなかで最も重要なことは、顧客 を獲得し、その取引を継続・拡大していくこと です。
そこでカギ を握るのが顧客満 足度(CS)です。
取引を継続するた めのCSの向上は、 企業にとって常に 大きな命題です。
それでは顧客満 足度を高めるため には、何が必要な のでしょうか。
そ れは企業のQCD ( Quality: 品質、 C o s t : 価 格 、 Delivery time: 配送時間)を高め ることです。
これ こそが同業他社と 差別化し、かつ取 引の継続、拡大に 繋がる王道です。
実際、顧客満足度 が高い企業はほぼ 例外なく、QCD を高めるため継続 的に取り組んでい ます。
GLMSを構築 する目的も、単に物流業務の履行だけではな く、物流が企業の各部門や業務機能のQCD を高めるための支援をすることにあります。
そ れをグローバル規模で管理する仕組みを構築 するのです。
それでは物流領域でQCDを高めるには具 体的にどのようにすれば良いのでしょうか。
大 きく二つの考え方があります。
ひとつは「物 流拠点のQCDを高める」ことであり、もう ひとつは「QCDレベルが最も高くなる物流 機能の構築」です。
前者の「物流拠点のQCDを高める」とは、 既存の物流拠点の機能を強化することで、Q CDレベルを向上させるというアプローチで す。
現在利用している物流センターやデポ、輸 送手段などをベンチマーキングし、あるべき 姿(To ―beモデル)を目標に、QCDレベ ル向上を目指します。
後者の「QCDレベルが最も高くなる物流 機能の構築」とは、あらゆる指標や切り口か らシミュレーションを行うことにより、最も QCDレベルが高い、物流機能(拠点、輸送 手段など)の構成を目指します。
シミュレー ションの分析に基づいて物流拠点の統廃合や 機能の強化を図っていくわけです。
■■GLMS導入におけるポイント 統合されたLMSの仕組みを、グローバル に展開していく具体的な方法は様々で、それ ぞれに留意点があります。
主なものを挙げる と、次のようになります。
?LMSをグローバルで構築する目的を明確 にする 一般に導入対象国のスタッフの多くは、改 革を一方的な(日本)本社からの指図と捉え がちです。
ネガティブに考える場合が多いよ うです。
そこでまずLMSをグローバルに構 築することの意義や目的を明確にし、相互に 共有するとともに、導入対象国が自主的に参 画できる環境整備が必要になります。
?権限があるスタッフがアサインされている 新たな業務プロセスや情報システムを海外 拠点に構築・導入する場合には、国内での推 物流統括組織(グローバル/地域/各国単位)の役割 グローバルなロジスティクス・マネジメントシステム(GLMS)構築の目的 QCDレベルの高い GLMSの構築 全物流拠点のQCD レベル向上 QCDレベルが 最も高くなる 拠点構成構築 各物流拠点の 改善活動の支援 最適な物流インフラの 企画/構築 グローバル規模で全物流拠点に対して、QCDレベ ルが向上するための改善活動を実施、支援する e.g. 物流のモニタリング/ベンチマーキング 最適なノード、モードの検討/設定による、社内リ ソース配分(負荷配分) e.g. 物流シミュレーション GLMS構築の目的 GLMS(Global Logistics Management System)導入におけるポイント LMSをグローバルで構 築する目的を明確にする 権限があるスタッフがア サインされている 必要最小限のコア機能導 入を目指す 投資対効果が明確である JANUARY 2004 86 進以上にいろいろな課題や調整、意思決定が 必要になります。
そのためLMSをグローバ ルに展開する時には、部門間の調整、検討結 果や意思決定に責任を持って判断できるメン バーの選定が重要になります。
?投資対効果が明確である 投資金額が多大な場合、その負担者や負担 割合が課題になります。
効果額や投資回収率、 期間などが重要なポイントです。
一般的には 受益者負担が原則になりますが、出資比率に よる親子関係や契約内容により、税法上の問 題や株主に対する責任なども配慮する必要が あるため、負担額の調整には時間のかかる場 合があります。
?必要最小限のコア機能導入を目指す 海外展開では、各国独自の業務プロセスや商慣習、法令などにより、特定のシステム機 能、あるいはTo ―beモデルそのものが使え ない場合も出てきます。
導入対象国のニーズ を十分に理解し、まずは必要最小限のコア機 能の導入を目指すのが賢明です。
■■物流情報の「見える化」 今回はGLMS導入の考え方についてその 概要を解説してきましたが、GLMSを大い に活用しているといえる企業は、現状では本 当にごくわずかです。
グローバル規模の物流 情報を数値化し、管理するためには、人員リ ソースや工数(時間)などの多大な手間とコ ストが発生します。
そのため多くの企業が投 資に二の足を踏んでいます。
しかしグローバル規模での競争が激化して いる昨今、あらゆる経済活動の情報を、タイ ムリーかつシームレスに伝達し、管理しなけ ればなりません。
特に多国間をまたがり、物 の動きを管理する物流領域では、人的リソー スや、商慣習、輸送手段やルートによる物理 的な制約などの影響が大きいため、その管理 が不可欠になります。
GLMSは物流情報の「見える化」です。
コスト管理やCRの実現だけではなく、企業 経営を支援する重要なツールなのです。
の説明に赴いたとしましょう。
メーカー 「今度、新しいサプライチェーン・ マネジメントを導入することになりました。
需 要予測に基づいて、生産計画・調達計画を毎 週見直していきます」 部品サプライヤー 「そうですか(早く入れろ だ、注文の取り消しだと毎日、日替わりで無 理難題を言ってくるくせに。
週次って本当に 意味があるのかな?)」 メーカー 「正式な発注を一週間前に、一週間 分ずつ行います。
その代わり、二週間分を内 示情報としてお伝えします」 部品サプライヤー 「分かりました(正式な発 注でも、受注でも、どうせまた都合が悪くな 〜信頼の連鎖〜 改革の現場から 実践編 社内の関係各部門の間で新しいサプライチ ェーン導入のコンセンサスが形成できれば、次 はサプライヤーあるいは販売チャネルという 社外のサプライチェーンメンバーとのコンセ ンサスの形成が課題になります。
しかし、社外であるだけに、コンセンサス を得るにも難しさがあります。
たとえば、あ なたがメーカーのSCM担当者として、部品 サプライヤーに新しいサプライチェーン導入 87 JANUARY 2004 講座SCMの常識 れば、無理やり変更するんじゃないの)」 これほど関係が悪化しているわけではなくて も、これに近い冷めた目で部品サプライヤーが あなたを見ていることは、よくあるはずです。
このような関係では、とても新しいサプライチ ェーンが成功するとは思えません。
サプライチェーンは、計画情報のつながりだ けでは上手くいきません。
互いの協力がなけれ ば、サプライチェーン全体の利益を最大化する ことも、それをみんなで分かち合うことも絵空 事になってしまいます。
信頼関係つまり信頼の 連鎖がなければなりません。
では、どのように信頼の連鎖を構築していけ ばよいのでしょうか。
そのポイントは、以下の ように考えられます。
?目的を共有すること ?達成手段を共有すること ?効果を共有できる共通の指標を設定するこ と ?サプライチェーンの状況(情報)を共有する こと ?決めたルールを遵守すること ?継続的な改善を行うこと ?効果を共通の指標で確認すること つまり、理想ではなく本気で「Win ― Win 」の 関係を構築するのだということを、行動で示 していかなければなりません。
そのためにはまず、サプライヤーにとって、新しいサプライチ ェーンがどのような利益をもたらすのか。
そ れを相手の立場にたって説明できなければな りません。
また、その利益を保証するために 誠心誠意、対応することも求められます。
つまり情報を共有するとともに、自ら決め た新しいサプライチェーンのルールを守るこ とが必要です。
冒頭の部品サプライヤーの独 り言は、これまでメーカーが取引における力 関係を背景に約束を結果的に守ってこなかっ たための負の資産と言えるでしょう。
メーカー 「週次で調達計画を見直すというこ とは、週に一回発注した内容は変更しません。
無理はお願いしません。
そのかわり、納期は 厳守してください。
そのために内示情報を活 用してください。
内示情報と発注との間の誤 差は、三〇%以内にします。
これもお約束し ます」 部品サプライヤー 「それは、買い取っていた だけるということですか?」 メーカー 「そのとおりです。
でもあなたがたの 生産管理能力を信用して、我々は余分な部品 をもちません。
ですから納期厳守に協力して ください」 部品サプライヤー 「わかりました。
納期を厳 守できるように、我々の生産体制を見直しま しょう」 そして、最後には継続的な改善を続け、そ の進捗状況をも共有しあうことが必要です。
全 てが一度に劇的に改善されるわけではありま せん。
少しずつ販売計画精度が向上し、生産 計画と実績の乖離も徐々に小さくなっていく ものです。
あきらめずに、サプライヤーや販 売店と共に、サプライチェーンを改善してい くことが必要であり、そのためには連帯感を 醸成することが不可欠なのです。
すぎやま・しげまさ機械電子メーカー、日系シ ンクタンクを経て、2002年にべリングポイント 入社。
SCM戦略の策定と推進、SCMシステムの 導入のコンサルティングに従事。
現在、同社ディ レクター。
著書に「図解サプライチェーンマネジ メント」(日本実業出版社・共著)、「ERP〜 SAP R/3〜によるSCMシステム構築技法」 (ソフトリサーチセンター・編著)、「図解でわか るビジネスモデル特許」(日本能率協会マネジメ ント・共著)。
中小企業診断士。
AGI認定TO Cコンサルタント“Jonah” PROFILE さかもと・よしあき大手物流会社にて国内物流 機能の企画、渉外活動に従事。
その後、海外にて 主に日系企業を中心に、現地ロジスティクス業務 の企画、業務設計、立上げに参画。
現在は、 ERP導入に伴う倉庫、輸送、梱包、貿易などの ロジスティクス業務設計を中心に、グローバル SCM構築のコンサルタントとして活躍。
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