ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2011年6号
物流指標を読む
第30回 製造業の部品調達難は秋まで続く「東日本大震災後の産業実態緊急調査」経済産業省

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む JUNE 2011  66 製造業の部品調達難は秋まで続く 第30 回 ●十分な調達ができている製造業者は1割未満 ●加工型・素材型ともに円滑化は10月以降の見通し ●中小零細サプライヤーの存在価値が浮き彫りに さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
景気回復のシナリオがご破算に  筆者は、昨年十二月頃から東日本大震災が発生 するまで、日本経済の現況および見通しに対して 強気のスタンスをとっていた。
「日本の景気は巷間 で言われているほど悪くはない。
一一年度の実質 経済成長率は二%前後となり、日経平均株価は最 低でも一万二〇〇〇円を超える」と講演等でぶち 上げ、聴衆を多いに喜ばせた(と思っている)。
 四月下旬に、日通総研は「企業物流短期動向調 査(日通総研短観)」(一一年三月調査)の結果を 発表したが、それをみると、筆者の見解が正しか ったことをあらためて確認できる。
同調査は、震 災が発生した三月十一日時点で、すでに大半の回 答の回収が済んでおり、したがって震災の影響はほ とんどカウントされていない。
言い換えれば、「仮 に震災が発生しなかったとしたらそうなったであ ろう」という調査結果になっている。
あくまでも 参考値という位置づけになるが、調査結果を簡単 に紹介してみよう。
 国内向け出荷量『荷動き指数』の推移をみると、 前回調査(一〇年十二月調査)における一一年一 〜三月見通しではマイナス八と水面下に落ち込む見 込みであったが、今回調査における一〜三月実績 (見込み)ではプラス三とプラス水準にとどまった。
すなわち、実績(見込み)が見通しより十一ポイ ントも上ぶれしており、荷動き(ひいては国内景 気)はかなり底堅かったということである。
 また、一〜三月実績(見込み)の業種別『荷動 き指数』をみると、プラスの業種は一五業種中過 半数の八業種となっており、業種によりバラツキは あるものの、それなりに堅調な動きとなっていた。
 注目すべきは、一〇〜十二月実績(見込み)で マイナス二と小幅ながらマイナス水準に下降してい た輸送用機械が、一〜三月実績(見込み)ではプ ラス一五と再び盛り返していたことである。
言う までもなく、裾野の広い輸送用機械の出荷の盛り 返しは、他産業における生産・出荷にも大きな追 い風となっていたはずだ。
 輸送用機械の生産・出荷の盛り返しに加え、世 界経済の回復に伴う輸出の盛り上がりを受けて、一 一年度の日本経済は、年度後半から徐々に拡大に 向かうはずであった。
しかし、東日本大震災の発 生に伴い、すべてがご破算になってしまった。
 日通総研の予測によると、東日本大震災は実質 GDPを一・〇〜一・五ポイント押し下げ、その 結果、一一年度の実質経済成長率は〇・二〜〇・ 七%と、かろうじてマイナス成長は免れるものの 低成長にとどまることになりそうだ。
 実質GDPを押し下げる要因のひとつに、サプ ライチェーンの混乱があげられる。
すなわち、被災 地域は自動車や電気機械などの部品・半製品の供 給基地として重要な役割を担っており、被災地域 からの部品・半製品の供給が減少することに伴い、 他地域における生産が減少することを指す。
三月 二三日に内閣府が発表した「東北地方太平洋沖地 震のマクロ経済的影響の分析」では、こうしたサ プライチェーンを通じた影響により、一一年度前 半において二五〇〇億円程度の生産減になるもの と推計しているが、感覚的には、影響の大きさは その程度では済まないような気がする。
 震災が発生した三月の鉱工業生産指数(速報値) 「東日本大震災後の産業実態緊急調査」経済産業省 67  JUNE 2011  徐々に生産体制が立ち直りつつあることから、四 月以降、生産の落ち込み幅は縮小していくであろ うが、サプライチェーンが完全に回復するにはまだ 時間を要しそうだ。
 トヨタ自動車の豊田章男社長は、五月十一日の 決算発表の席上で、国内外の生産回復ペースが四 月二二日に公表した想定よりも一〜二カ月早まる との見通しを示した。
一方で、全車種、全ライン での完全な生産正常化については、四月公表時点 と同様、「十一〜十二月ごろになる」との見通しを 変えなかった。
トヨタ自動車は四月中旬から国内 の全工場で生産活動を再開したものの、国内外工 場の操業レベルは通常の五割程度にとどまってい る。
依然として調達困難な部品があるためだ。
調 達困難な部品は、三月中旬の時点では五〇〇品目 あったが、四月時点で一五〇品目となり、現時点 では三〇品目に絞られてきているという。
把握できるのは二次下請けまで  経済ジャーナリストの松崎隆司氏によると、自動 車の部品や素材は、技術力のある少数の企業が生 産する?特注品?がほとんどで、?汎用品?では ないため、他社が短期間で生産するのは困難。
し かも、自動車は安全性が大事なので、何度もテス トする必要があるため、被災した部品工場の正常 化を待つ方が早いそうだ。
また、自動車産業は裾 野が広く、自動車メーカーが把握できるのはせい ぜい二次下請けまでで、三次以下の下請けの被災 状況までは把握できないため、サプライチェーンの 全体像がなかなかつかみ切れなかったという。
 ところで、経済産業省は四月二六日に、「東日 本大震災後の産業実態緊急調査」の結果を発表 した。
本調査は、四月八日〜四月一五日の期間に、 八〇社(製造業五五社、小売・サービス業二五社) を対象に実施したものであり、そのなかでは、製 造業を対象とした、サプライチェーンへの影響につ いても調査している。
 まず、原材料、部品・部材の調達が滞っている 原因についてみると、「調達先企業が被災」(素材 業種の八八%、加工業種の八二%)や「調達先企 業の調達先が被災」(素材業種の四二%、加工業 種の九一%)が主因となっている。
 次に、原材料、部品・部材の代替調達先の有無 については、素材業種の六五%、加工業種の七六% が「代替調達先を確保しつつある」一方、素材業 種の十二%、加工業種の四八%が「代替調達先を 確保しつつある」という企業もかなり多い(素材 業種の十二%、加工業種の四八%)。
 また、原材料、部品・部材の十分な調達量が確 保できる時期(見込み)についてみると、素材業 種では、「調達済み」が八%、「七月までに」を合 わせると五四%、「一〇月までに」を合わせると八 五%となっている。
一方、加工業種では、「調達 済み」が六%、「七月までに」を合わせると二九%、 「一〇月までに」を合わせると七一%と、素材業 種に比べて調達不足が完全に解消されるまで若干 多くの時間を要する見通しである。
一般に素材業 種よりも加工業種の方が裾野が広いことから、そ うした差が生じるのは当然であろう。
 我々は、この震災によって、中小零細の下請け 業者のありがたさをあらためて認識することとな った。
は、季調値で前月比マイナス一五・三%と過去最 大の落ち込みになった。
とくに輸送機械工業(前 月比マイナス四六・四%)、一般機械工業(同マイ ナス一四・四%)、化学工業(除・医薬品)(同マ イナス十一・四%)などの落ち込みが大きい。
また、 日本自動車工業会の発表によると、三月の四輪車 生産台数は四〇万四〇三九台で、前年同月(九四 万五二二〇台)と比較して、五四万一一八一台の 減少(マイナス五七・三%)となっている。
言う までもなく、生産台数が急減したのは、部品・半 製品等の供給がストップしたからに他ならない。
調達済み 5月 6月 7月 8月 9月 来年以降 わからない 10 月 11 月 12 月 10 月までに 7月までに 8%6%8%6%8% 31% 54% 15% 18% 18% 85% 71% 8% 8% 15% 29% 15% 6% 29% 12% 6% 原材料、部品・部材の十分な調達量が確保できる時期(見込み) 素材加工(13) 加工業種(17) ※部品によって見込みが異なるとして複数回答した企業があるため、合計は100%にならない

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