ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年4号
特集
在庫管理 “勝者と敗者”解説 日本型SCMの2000年代を総括する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2011  10 特 集 その会社の管理レベルは一目で分かる  このたび本誌は株式を上場している全メーカーを 対象にして、二〇〇〇年代の一〇年間における在庫 回転期間(カ月)の推移を調査した(詳しくは六五 頁「調査の方法」参照)。
 一九九〇年代に日本の上場メーカーの在庫水準は 景気変動の影響を受けながらも、ほぼ横ばいで推移 した。
在庫削減の必要性は当時から指摘されていた。
改革プロジェクトに取り組むメーカーも決して少なく はなかった。
しかし、その成果を財務諸表で確認す ることはできなかった。
 二〇〇〇年代に入って以降、トレンドは大きく変 化した。
〇一年度に一・六六カ月だった全業種合計 の在庫回転期間が〇五年度には一・四〇カ月まで低 下。
その後、安定して推移するようになった。
SC Mの普及によって企業の需給調整能力が向上したこ とで、在庫循環が乗り越えられつつあると評価された。
 しかし、リーマンショックを機に在庫は再び急上 昇し、直近の〇九年度は一・六五カ月と、一〇年前 の水準に逆戻りしている(図1)。
この動きをどう 読むか。
在庫理論に詳しいTSCコンサルティング の勝呂隆男代表は次のようにコメントする。
 「過剰在庫がいったん数字に表れてからでないと フィードバックがかからないというのは、現在の 在庫管理システムの技術的限界と言える。
リーマン ショックで出荷が止まったのだから一時的に在庫が 増えるのは当然で、問題はその後だ。
在庫の動きを 業種別に見ると、輸送機械、電機、精密機械などはいっ たん増加した後、再度削減に向かっている。
しかし、 その他の業界は増加に転じたままだ。
これらの業界 の在庫削減が“力任せ”によるもので、仕組みの改 日本型SCMの2000年代を総括する 解 説  SCMは本当に成果を挙げたのか。
全体最適はどこま で実現したのか。
各業界でどの会社が優位に立ち、ど こが出遅れたのか。
その結果、格差はどれだけ開いたの か。
日本の全上場メーカーの財務諸表を分析し、2000 年代の10年間におけるSCMの取り組みを総括する。
11  APRIL 2011 革になっていなかったことを示している」  需要の急落、あるいは過剰在庫を直感した経営層 が社内に在庫削減の号令をかける。
ただし、そのや り方は現場任せ。
各アイテムの適正な在庫量が示さ れるわけではない。
そのため現場では取扱規模の大 きな主力商品の在庫を減らして数字の辻褄を合わせ る。
需要変動と乖離した在庫調整によって欠品が多 発すると同時に、回転率の低い商品の過剰在庫が放 置されることになってしまう。
 湯浅コンサルティングの湯浅和夫代表は「その会 社の在庫管理レベルは品目別の在庫日数を見ればす ぐに分かる。
管理のできている会社は各品目の在庫 日数が一定の幅に収まっている。
できていない会社は、 〇・五ヵ月の品目もあれば、五〜六カ月の品目もあ るという具合にバラバラだ」と指摘する。
 それでも一企業内の取り組みはかなりのレベルま で進んだと湯浅代表は見ている。
「各業界ともトッ プ企業ともなると、出荷動向に合わせて生産する仕 組み、つまりロジスティクスは既に当たり前のこと になっている。
ただし、取引先まで含めた最適化、 SCMとなるとまだほとんど実現していない。
SC Mは日本の伝統的な商慣行と真っ向から対立する。
それだけ難易度は高い」。
 自社の出荷動向ではなく、取引先の売り上げ、最 終需要に生産を同期化するには、取引制度や営業部 門の評価基準にまでメスを入れなければならない。
仕入額や数量に応じた奨励金を事後的に割り戻すリ ベート制度、返品の受け入れ、営業の押し込み販売 などを許している限り、在庫の動きは実需と一致し ない。
長年の商慣習だけに改革への抵抗は大きい。
 湯浅代表は「これを乗り越えるには、そのサプラ イチェーンで支配権を握っている企業が本気になっ て取引制度改革に乗り出すしかない。
そしてサプラ イチェーン上の在庫をトータルに管理する『在庫ア ナリスト』が機能するようになって、初めてSCM が機能するようになる」という。
グローバル化で在庫はどうなる  リーマンショック以降の在庫の上昇は、需要の急 減だけでなく、グローバル化も影響していると考え る識者もいる。
アビームコンサルティング経営戦略 研究センターの梶田ひかるマネージャーだ。
 食品をはじめとする内需型産業の売上高は、リー マンショック後も落ちてはいない。
しかし、在庫は 増えている。
これは需給の逼迫や価格高騰を見込ん で原材料や包装資材の在庫を積み増す傾向にあった ことに加えて、輸出や海外生産が急拡大したことが 一因になっているという見方だ。
 「今の段階ではまだ因果関係を明確にすることは できないが、グローバル化で先行したハイテク産業 を見る限り、海外売上高比率で五〇%前後が一つ の節目となっているようだ。
その会社の海外比率が 五〇%に達するまでは、海外比率に合わせて在庫も 増えていく。
しかし五〇%を超えてからは逆に減っ ていく傾向が見られる」と梶田マネジャー。
 日本やアジアで生産して消費地に輸出するという 単純な輸出型は、工場と消費地との距離が遠くなる ほど在庫が増えていく。
海外生産拠点の管理は甘く なりがちで、消費地に工場を置いた場合でも営業ス タイルが日本とは違うことから在庫水準は上振れし やすい。
しかし、海外比率が五〇%を超えてくると また違った風景が見えてくる。
グローバルな適地生 産・適地販売への転換が現実的な選択肢となってくる。
二〇二〇年に向けたSCMの新たなチャレンジだ。
湯浅コンサルティング 湯浅和夫代表 アビームコンサルティ ングの梶田ひかるマ ネージャー TSCコンサルティング の勝呂隆男代表 図1 上場メーカーの在庫回転期間の推移(全業種合計値・連結ベース) 売上高(兆円)・棚卸資産額(兆円) 棚卸資産回転期間(カ月) 1.7 1.65 1.6 1.55 1.5 1.45 1.4 1.35 1.3 1.25 00年 度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 07 年度 08 年度 09 年度 400 350 300 250 200 150 100 50 0 売上高 棚卸資産回転期間 1.65 棚卸資産額 1.64 1.66 1.53 1.44 1.40 1.40 1.42 1.43 1.58

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