ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年1号
特集
第4部 主要プレーヤーの次の一手近鉄エクスプレス──独立を貫きアジアで戦う石崎哲 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2011  28 近鉄エクスプレス ──独立を貫きアジアで戦う  リーマンショックの痛手から回復し、2013年3月期に は過去最高業績を見込んでいる。
ライバルの日通や郵船 ロジが総合化と規模拡大を進めても、自主独立の方針を 変更するつもりはない。
フォワーダーの持つ自由度とい う利点を活かし、グローバル市場の巨人たちと戦う。
フォワーダーに大資本は不要 ──二〇〇八年秋以降、航空貨物の荷動きが大きく 落ち込み、特に日本発は〇九年前半にかけて輸出量 が半減するという事態に見舞われました。
 「日本では利益が出るかでないかという大きな瀬戸 際に立たされました。
急激な環境変化に対して、〇 八年一〇月から全社で徹底的にムダを省いてコストを 削減するプロジェクト『KIP(Kintetsu Innovation Project)』を進めました。
一方でアジアなど他地域は 日本のような極端な落ち込みがなかったこともあり、 〇九年三月期、一〇年三月期と連結・個別ともに利 益を出すことができました。
一一年三月期上期の航 空貨物の物量は、ほぼ〇九年三月期上期の水準にま で戻っています」 ──一方で航空会社からの仕入れ運賃の上昇が続い ています。
一一年三月期上期の運賃原価率はグルー プ全体で前年同期から十三・一ポイントも上昇し、七 一・〇%になりました。
 「この一、二年はクォーターごと、特にこの半年ほ どは毎月のように航空会社から値上げの要請がくると いってもいい状態でした。
ここにきてスペースを増や す動きもあり、航空会社は値上げの手を緩めています が、原価低減のための取り組みは進めていきます」 ──一一年三月期〜一三年三月期の中期経営計画で は売上目標を三〇〇〇億円に設定していますが、こ れは〇八年三月期の水準です。
グローバル市場で戦 うための規模として不足はないのでしょうか。
 「ある程度の取扱量と売上規模は必要です。
〇二年 に策定した長期経営戦略『二一世紀KWEグランド デザイン』では、一二年三月期の売上目標を五〇〇 〇億円としていました。
ところがリーマンショックで 業績が大きく落ち込んだため、グランドデザインの数 値を白紙に戻して策定したのが現中期経営計画です。
一一年三月期の売上高は当初目標だった二三五〇億 円を上回り、二六〇〇億円を見込んでいます。
マー ケットの状況によってはそれ以降の数値目標の上方 修正も検討する必要がある」 ──一時期の勢いはないとはいえ、グローバル市場で はインテグレーターの存在感が依然として大きく、売 上規模は数兆円のレベルです。
 「インテグレーターには自前で航空機を所有し、キ ャリアとしての機能を持つがゆえの制約もあります。
例えばキャリアは新たにフライトを飛ばすのにも撤退 するのにも時間がかかりますが、フォワーダーは違 う。
フォワーダーの経営の利点はキャリアと違って事 業を展開する上での制約が少なく、大きな資本も必 要ないということです」 ──それでも欧米の大手フォワーダーや日本通運、郵 船ロジスティクスには巨大な資本があるのに対して、 近鉄エクスプレスは親会社が鉄道会社ですから物流業 界内では独立した状態です。
今後も独立を維持する 考えですか。
 「どこかのグループに入るということは全く考えて いません。
あくまでも独自に、海外を中心に事業を 展開していく。
そのためにM&Aによってグループの 足は増やそうとしています。
確かに大手資本の傘下 に入れば、大きく成長する可能性が拓けるでしょう。
しかしそれが逆に足かせになる局面もある。
独立を 維持すれば成長のスピードは遅くとも自由度を保つこ とができるし、独自のプレゼンスを発揮することがで きます」  「世界の物流市場の中心はアジアです。
そこに欧米 の大手フォワーダーが相当食い込んできています。
ア 石崎哲 社長 第4部 主要プレーヤーの次の一手 特 集 国際物流企業への通知表「荷主満足度調査」 29  JANUARY 2011 ジアのフォワーダーとしては負けていられない。
アジ アに経営資源を集中し、彼らときちんと対等に戦え るだけの力は確保します」 アジアに経営資源を集中 ──近鉄エクスプレスは他の日系フォワーダーに比べ て欧米系の荷主が多い。
そこに欧米系のフォワーダー が割り込んできているということですか。
 「当社はグローバルな顧客を開拓するための専門部 署を置き、シンガポールに出先機関を設置しています。
欧米系のお客さまはアジア太平洋地域の物流のヘッド をシンガポールに置くことが多いためです。
そこでの 競争相手は日系ではなく欧米系の物流大手です」  「その中で当社は航空の分野ではまだまだがんばっ ている。
しかし海上貨物やロジスティクスを含めると、 欧米大手は圧倒的な規模を持っています。
海上貨物 やロジスティクスの荷主から航空貨物も受託すること も当然ある」  「当社でも航空貨物だけでなく海上フォワーディン グとロジスティクスの機能は持っています。
ただしま だまだ航空貨物の売上構成比が高い。
一一年三月期 上期の時点では航空貨物が売上高の五割を占め、海 上貨物とロジスティクスはそれぞれ二割ほどに過ぎま せん。
グローバルなロジスティクス・パートナーとし てもっと認めてもらうために、海上貨物とロジスティ クスを積極的に拡大し、売上構成比をできるだけ均 等化していきます」 ──そのために打つ手は。
 「海上貨物については、新興国へのネットワーク展 開が重要です。
新興国で生産されるのは軽工業品が 中心なので、輸送モードは海上輸送が中心です。
ま た、各海外法人で海上貨物の営業マンの増員やヘッ ドハンティングも行っています」  「昨年にはコントラクト・ロジスティクスを拡大する ために、組織再編を実施して『SCMソリューション 部』を設置しました。
これまで各海外法人の間では ロジスティクスへの取り組みにバラツキがありました が、同部を中心にノウハウの共有を図っています」 ──中国ではフォワーダーとしては他社に先行して国 内物流のアセットに投資してインフラを整えました。
今後も新興国で国内物流にまで取り組む方針ですか。
 「中国では国内のデリバリーから保管、在庫管理、 流通加工、フォワーディングへとニーズをとらえてい きました。
当社が進出した一九九〇年代当時は外資 メーカーの要望に対応できるサービスがなかったので しょう。
お客さまから国内のデリバリーが何とかなら ないかという相談があり、そこから中国での事業展 開を進めてものの動きを一貫して管理できるように なりました。
今ではローカルの物流業者のレベルも上 がっているとはいえ、まだまだサービスの優位性があ ると自負しています。
また中国と同様、インドでも これからは国内物流の要望に対応できるかが差別化 要因になってくると見ています」 ──新興国での国内物流は価格が低く抑えられがち で利益を出すのが難しいのでは。
 「荷主の数を集めて効率を高め、コストを下げてい くしかない。
特定の荷主のためのサービスではいけ ません。
当社は海外では中国に加えてインド、アセア ン諸国、バングラデシュなどを重点的なターゲットと し、例えばインドと他のアジア諸国を面でとらえ、イ ンドとタイ、タイとベトナムなどの間でのトラック輸 送サービスの開発をしています。
そうしたサービスに よって物量を拡大して採算をとっていこうと考えて います」 日本 倉庫数 38 倉庫面積 20 万1009 ? 欧州・中近東・アフリカ 倉庫数 21 倉庫面積 9 万5535 ? 中期経営計画では08 年3 月期の過去最高業績の更新を目指す 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 (単位:億円) 160 140 120 100 80 60 40 30 20 0 東アジア・オセアニア 倉庫数 66 倉庫面積 37 万7968 ? (2010 年9 月末時点) 合計 倉庫数 176 倉庫面積 87 万3,364? 東南アジア 倉庫数 18 倉庫面積 7 万8467 ? 米州 倉庫数 33 倉庫面積 12 万385? 08 年 3月期 09 年 3月期 10 年 3月期 11年 3月期 (予想) 12 年 3月期 (計画) 13 年 3月期 (計画) 売上高 2,923 91 138 90 74 108 120 150 34 45 76 70 88 2,603 2,118 2,600 2,700 3,000 純利益 営業利益

購読案内広告案内