ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年10号
物流指標を読む
第22回 未来のトラック物流はシルバー世代頼み!?警察庁「運転免許統計」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む OCTOBER 2010  76 未来のトラック物流はシルバー世代頼み!? 第22 回 ●若年層の大型免許保有者数が減少傾向に ●背景には免許制度改正、車離れ現象など さとう のぶひろ 1964年 ●若手大型トラックドライバー不足は不可避 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部研究 主査。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
大型免許保有者数が三万人減少  警察庁「運転免許統計」により、一九九七年以 降における大型免許(注:第一種大型免許、以下 同様)保有者数の推移をみると、〇七年まで一貫 して増加してきたが、〇八年に減少に転じ、〇九 年には四五三万二七八六人と、前年比で三万九八 〇人の減少となった。
 〇九年における大型免許保有者数を年齢階層別 にみると、六〇歳以上の層では前年比で九万六五 一一人増加しているのに対し、それ以外の層では 総じて減少となっている。
なかでも、一八〜二四 歳では一万三六五二人減、二五〜二九歳では一万 八八八二人減、三〇〜三四歳では三万六七一四人 減と、とくに若年層における減少が顕著だ。
 〇八年以降、大型免許保有者数が減少している 第一の要因として、〇七年六月二日に実施された 免許制度の改正の影響が挙げられる。
制度改正に 伴い、中型免許が新設されたほか、大型免許の受 験資格が従来の「二〇歳以上で免許期間(注:普 通免許および大特免許を受けていた期間)が二年 以上」から、「二一歳以上で免許期間が三年以上」 に変更された。
 免許期間の一年間の延長が大型免許保有者数の 減少に影響をもたらした分かりやすい例を挙げて みよう。
制度改正前の〇六年における一八〜二四 歳の層の保有者数は七万九二五一人であるが、こ れを五で割って、大型免許の取得が可能な二〇〜 二四歳の年齢階層における各年齢の平均値を算出 すると一万五八五〇人になる。
 そこで二〇歳の保有者数を一万五八五〇人と想 定すると、制度改正以降は、普通免許の経験年数 が三年以上となり、二〇歳では大型免許を取得で きなくなったため、制度改正前の〇六年と制度改 正後の〇八年を比較すると、〇八年における一八 〜二四歳の年齢階層における保有者数は、単純計 算で〇六年よりも一万五八五〇人前後減少するは ずである(注:実際には、二万二三五八人の減少 となった)。
 もちろん、免許期間の延長の影響はその他の年 齢階層にも及ぶ。
最近五年間における大型免許の 交付件数(注:併記免許証交付件数)の推移をみ ると、〇五年:十一万七〇〇六件、〇六年:十二 万七八五四件、〇七年:十一万二七四七件、〇八 年:三万九一三〇件、〇九年:四万一三七四件と なっている。
新制度に完全移行した〇八年に、前 年の約三分の一の水準まで落ち込んでいる。
 以上のように、免許期間の一年間の延長に伴い、 大型免許を取得しにくくなったことが保有者数の 減少をもたらした一因であることは明らかである。
 第二の要因として、制度改正を受けて、大型免 許の取得が可能な教習所が激減していることが挙 げられる。
すなわち、新制度への移行に伴い、大 型車教習に必要な車両が、かつての増トン車程度 の車両からフルサイズの大型車に変更されたことか ら、教習車両の代替やコースの改修などが必要にな ったが、それに対応できない教習所が多く、その 結果、大型車の指定教習所数は、改正前の一〇一 八カ所から改正後には約六割減の四四七か所(〇 八年十一月末現在)まで減少した。
そのため、大 型免許取得に対応できる教習所が一カ所しかない 県もあり、大型免許の取得希望者がいても実際に 警察庁「運転免許統計」 77  OCTOBER 2010  たとえば、年齢階層別の普通免許(注:第一種 普通免許)保有者数の推移をみると、二九歳以下 の保有者数は九七年において一六八六万人であっ たが、免許制度改正前の〇六年には一三七〇万人 と約二割も減少している。
さらに〇九年には一二 五八万人(注:便宜的に普通免許と中型免許の保 有者数の合計)まで落ち込んでいる。
 一般には、普通免許を取得しない限り大型免許 は取得できないため、上記の数値から、大型免許 の取得予備軍が急減していることが分かる。
危機感を強める全ト協  こうした現象は、近い将来、長距離の大型トラ ックドラーバーが不足する可能性が非常に高いこと を意味するものであり、全日本トラック協会(全 ト協)など業界団体は危機感を強めている。
 全ト協は昨年、大型免許保有者数の将来予測を まとめた。
それによると、大型免許保有者数は、全 体では緩やかに増加していくものの、とくに若年 層における人口の減少などを受けて、六〇歳未満 に限定した場合、今後大幅に減少していくことが 見込まれている。
すなわち、〇八年は三一六・九 万人であるが、十二年後の二〇年には〇八年と比 べて二四%少ない二四〇・一万人となり、さらに 二二年後の三〇年には同四四%減の一七七・二万 人に減少すると予測している。
 一方、六〇歳以上の大型免許保有者数は、九 七年に四七・一万人だったものが〇八年には一三 九・五万人へと九七年比で約三倍に増加している。
その後もこの傾向は継続していき、二〇年には二 六一・一万人、三〇年には三五五・七万人へと大 幅に増加していくものと見込まれている。
 すなわち、現役のトラックドライバーになりうる 六〇歳未満の層における保有者数が減少していく 一方で、退職した、あるいは退職間際の年齢層に おける保有者数は増加していくということである。
昔は、体力や動体視力などを勘案すると、四五歳 くらいが長距離トラックドライバーの定年などと言 われたものだ。
しかし、このままの状態が続くと、 六〇歳以上になってもまだまだ現役で頑張ってい ただかなくては、わが国の物流が止まってしまう なんて事態にならないとも限らない。
 なお、この予測は、人口予測等において一般的 に用いられている、コーホート法という各年齢階 層別の過去の行動をベースにした予測手法を用い て行っているため、直近の動向が強く反映される 形になっているという。
たとえば、〇八年の大型 免許交付件数については、前述のとおり、前年の 三分の一の水準まで急減しているが、この数値は 制度改正直後のものであり、イレギュラーな数値 である可能性も否定できない。
制度改正からまだ 短期間しか経過しておらず、制度改正の影響につ いて把握するには、もう数年の経過を待たなけれ ばならない。
したがって、一定の期間をおいた後 に、再度予測を行った場合、若干異なる結果が出 てくる可能性もある。
 しかし、少子高齢化が今後いっそう進展してい くことに加え、若年層のクルマ離れの傾向が大き く変化するとは考え難いことから、水準はともか く、方向としては若年層の大型免許保有者数の減 少、ひいては若年層の大型トラックドライバーが不 足するという事態は避けらそうにない。
は教習ができない という状況になっ ている。
 第三に、近年指 摘されているが、 若年層の「クルマ 離れ」現象が起き ていることが挙げ られる。
専門家 によると、その背 景には、経済的な 問題(雇用不安、 可処分所得の低 下、車両価格や維 持費が高額なこと など)、趣味の多 様化等に伴うクル マ以外の物への関 心の高まり、都 市部においてクル マを所有すること のメリットが必ず しも大きくないこ と、などの要因が あるらしいが、そ の結果、若年層に おいて、大型免許 はもとより普通免 許すら保有してい ない人が増加して いる。
第一種大型免許保有者数の推移 全体 3,976,495 4,058,879 4,139,088 4,193,262 4,249,848 4,313,009 4,365,560 4,422,859 4,470,402 4,534,554 4,584,566 4,563,766 4,532,786 18 歳─24 歳 134,644 124,571 110,889 100,608 92,408 85,859 79,904 79,651 78,146 79,251 75,215 56,893 43,241 25歳─29 歳 350,494 352,200 349,497 340,367 325,589 306,752 283,913 264,568 249,054 238,246 228,455 206,064 187,182 30歳─34 歳 403,611 415,390 423,189 424,870 450,430 448,265 448,697 448,730 442,256 431,454 413,956 378,962 342,248 35歳─39 歳 424,456 425,834 491,635 443,106 433,704 452,522 463,654 473,055 477,810 511,476 513,523 510,315 501,868 40歳─44 歳 459,495 431,849 448,247 446,679 447,444 452,031 452,100 458,127 471,666 464,379 486,761 495,989 500,567 45歳─49 歳 654,445 600,821 549,710 518,267 494,145 474,936 465,948 461,818 460,894 463,274 468,892 467,111 469,822 50歳─54 歳 589,446 631,021 681,487 694,285 703,152 655,099 601,213 550,415 519,422 497,088 477,409 467,519 461,040 55歳─59 歳 488,727 526,107 555,007 539,498 529,782 573,887 613,911 643,902 676,193 685,908 639,013 586,067 535,461 60歳以上 471,177 551,086 529,427 685,582 773,194 863,658 956,220 1,042,593 1,094,961 1,163,478 1,281,342 1,394,846 1,491,357 60 歳未満 3,505,318 3,507,793 3,609,661 3,507,680 3,476,654 3,449,351 3,409,340 3,380,266 3,375,441 3,371,076 3,303,224 3,168,920 3,041,429 年齢階級 1997 年 1998年 1999 年 2000 年 2001年 2002 年 2003 年 2004 年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009 年 大型免許保有者数(人)各年12 月末時点 出所:警察庁交通局運転免許課「運転免許統計(各年版)」、「運転免許統計補足資料(各年版)」

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