ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年9号
物流不動産市場レポート
特別編 二〇一〇年上半期三大都市圏物流施設マーケット動向分析シービー・リチャードエリス総合研究所 鈴木公二 シニアコンサルタント

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

物流不動産市場レポート SEPTEMBER 2010  92 首都圏 空室率は一五・三%で横ばい ■中大型物流施設市況  世界経済の拡大を背景に前期から輸出の回 復傾向は鮮明になっており、輸入も消費財を 中心に堅調な推移を見せている。
一方で、企 業業績は回復基調にあるものの、企業の設備 に対する過剰感は拭えず、設備投資には消極 的な姿勢がみられ、引き続き企業の動きは全 般的に鈍い。
 図1の通り、今期の首都圏の中大型規模の 募集賃料水準については、東京都で対前年比 マイナス一・四%、千葉県で同プラス三・六%、 埼玉県で同マイナス九・九%、神奈川県で同 マイナス六・八%という結果となった。
千葉 県の賃料がプラスに反転した ことで賃料調整が一巡した感 があるものの、他のエリアで は引き続き厳しい市況となっ ており、本格的な上昇局面に はしばらく時間を要すること が想定される。
 テナントの動きとしては、 食品会社等の荷主を中心に コスト削減を考えた統廃合の 動きが見られているため、そ れにより3PLや物流会社が 高スペック物件へ入居する動 きが散見され、新築物件の空 室消化は比較的順調に進ん でいる。
三大都市圏 物流施設マーケット動向分析 特別編 シービー・リチャードエリス総合研究所 鈴木公二 シニアコンサルタント 二〇一〇年上半期  シービー・リチャードエリスは七月三〇日、「インダストリアルマーケッ トレポート」(二〇一〇年上半期)を発表した。
国内主要都市における 三七六三棟の倉庫施設を対象に、市況動向を調査・分析したものだ。
ここ では物流主要エリアである首都圏、近畿圏、中部圏の需給動向を紹介する。
各エリアとも、本格的なマーケット活性化までは時間がかかりそうだ。
図 1   首 都 圏 の 中 大 型 物 流 施 設 の 平 均 募 集 賃 料 賃料水準変動率 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 3.0 2.0 1.0 0 -1.0 -2.0 -3.0 (円/坪) (%) 4,000 3,000 2,000 1,000 0 8.0 6.0 4.0 2.0 0 -2.0 -4.0 -6.0 -8.0 -10 (円/坪) (%) 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0 -2.0 -4.0 -6.0 -8.0 -10.0 -12.0 (円/坪) (%) 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 3.0 2.0 1.0 0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 -5.0 -6.0 -7.0 -8.0 (円/坪) (%) 4,000 3,000 2,000 1,000 0 05年06年07年08年09 年10 年 上期 05年06年07年08 年09 年10 年 上期 05年06年07年08年09 年10 年 上期 05年06年07年08 年09 年10 年 上期 東京都千葉県 埼玉県神奈川県 -2.3 7.7 2.7 -2.2 -5.4 -9.9 -4.2 0.7 1.9 -6.4 -6.8 2.7 -0.7 -0.4 -1.4 5.9 2.1 3.6 3.6 -8.8 5,660 5,530 5,640 5,620 5,540 3,560 3,770 3,850 3,990 3,640 3,770 5,680 3,760 4,050 4,160 4,070 3,850 3,470 4,790 4,590 4,620 4,710 4,410 4,110    93  SEPTEMBER 2010 は改善方向へ進んでいくことが期待される一 方、複数の既存物件で契約満了の大型テナン トが数社予定されていることもあり、今後の 再契約等の動向が注目される。
 また、二〇一〇年四月に実施した不動産投 資に関する調査結果では、首都圏湾岸部におけ る大型マルチテナント型物流施設のNOI利 回りは、六・〇五%〜六・八五%となり、対 前期比で下限値、上限値とも低下した(図4)。
近畿圏 空室消化がわずかに進む ■中大型物流施設市況  物流全体の動向としては、輸出入貨物の増 加やメーカーの緩やかな生産回復の動きを受け て、物流施設の稼働状況は徐々に回復に向か っている。
物流コスト削減を狙った動きは引 き続き多く見られ、物流業者の環境は厳しい 側面がある一方、3PL企業の先行投資的な 拠点新設の動きが出始めている。
 大阪府の今期の中大型物流施設の平均募 集賃料水準は、 対前年比マイ ナス三・〇%と なっており、前 年から下落幅 は縮小したも のの引き続き 下落基調とな っている( 図 5)。
空室の消 化においては 図5 大阪府の中大型物流施設の平均募集賃料 賃料水準変動率 4,000 3,000 2,000 1,000 0 4.0 2.0 0 -2.0 -4.0 -6.0 -8.0 (円/坪) (%) 05年06年07年08 年09 年10 年 上期 大阪府 1.3 3,920 3,970 4,060 3,990 3,700 3,590 2.3 -1.7 -7.3 -3.0 ■大型マルチテナント型物流施設市況  今期の大型マルチテナント型物流施設の平均 空室率は、前期から横ばいで一五・三%とな った(図2)。
今期は、新規供給が無かったこ とで、平均空室率の改善が期待されたものの、 テナントの動きは昨年後半と比較すると全般的 に鈍く、平均空室率は改善に至らず横ばいとい う結果になった。
館内増床や、コスト削減を求 めた周辺拠点の集約等による新規入居テナント が見られた一方で、事業縮小による撤退など が見られており、企業の事業環境は依然厳し いことが伺える。
 既存物件の空室率については、三・二ポイン ト上昇し十一・五%となった。
今期は、撤退、 館内縮小、既存物件から新築物件への移転等 が見られたことが影響して、前期に引き続き上 昇を示した。
 今後は、新規供給が限定的であるため、新 築物件の空室消化が進むことにより、空室率 図2 首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率 図3 首都圏の稼動床面積(指数)( 2004/03=100) 【空室率算出基準(調査棟数:50 棟)】 既存物件:2009 年6月以前に竣工した物流施設 地域:千葉県・東京都・埼玉県・神奈川県、 延床面積: 10,000 坪以上、 竣工:既竣工物件、 空室確認方法:ヒアリング による、 建物形態:原則として、開発当時において複数テナント 利用を前提として企画・設計された建物であること ※今期首都圏で調査対象となった50 棟については、上記算出基準 により抽出したものであり、必ずしも物流施設ストック全体の需給バ ランスを示したものではない (%) 04 年3月 04 年6月 10 年3月 10 年6月 04 年9月 04 年1 2月 05 年3月 05 年6月 05 年9月 05 年1 2月 06 年3月 06 年6月 06 年9月 06 年1 2月 07 年3月 07 年6月 08 年3月 08 年6月 08 年9月 08 年 12 月 09 年3月 09 年6月 09 年9月 09 年 12 月 07 年9月 07 年1 2月 8.8 6.8 8.3 25 20 15 10 5 0 15.3 15.3 19.9 14.2 11.5 平均空室率既存物件空室率 04 年3月 04 年6月 04 年9月 04 年1 2月 05 年3月 05 年6月 05 年9月 05 年1 2月 06 年3月 06 年6月 06 年9月 06 年1 2月 07 年3月 07 年6月 08 年3月 08 年6月 08 年9月 08 年 12 月 09 年3月 09 年6月 10 年3月 10 年6月 09 年9月 09 年 12 月 07 年9月 07 年1 2月 350 300 250 200 150 100 出所:シービー・リチャードエリス総合研究所 ※今各期における稼働床面積の合計を2004 年3月を100とし指数化 (%) 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2009年 1 月 2009 年 4 月 2009 年 7 月 2009 年 10 月 2010 年 1 月 2010 年 4 月 図4 首都圏湾岸部における大型マルチテナント型    物流施設のNOI 利回り レポート SEPTEMBER 2010  94 物流不動産市場優勝劣敗の構図は鮮明となってきているが、全 般的には需要はまだ停滞状況から抜けておらず、 集約を要因とした中型規模クラスの物件に空室 発生も見られる。
そのため、全般的には募集・ 成約賃料とも弱含みでの推移となっており、フ リーレントの設定等の契約条件の緩和もみられ ている。
■大型マルチテナント型物流施設市況  平均空室率は、一・六ポイント低下し一四・ 七%となった。
また、既存物件の空室率につい ても、一・六ポイント低下し一四・七%となっ ている(図6)。
新規供給が一年以上行われて おらず、新築物件がなくなったため、平均、既 存物件空室率とも同水準での推移となってい る。
全般的にテナントの動きが少ない中で、徐々 にではあるが空室消化は進んでいる。
 今後しばらく新規供給予定はないため需給の 改善が期待されるが、全般的に企業の動きは慎 重であるため空室消化スピードは遅くなってい る。
また、物件によって稼働率に大きな格差が 見られており、空室が長期化する物件も見られ ている。
中部圏 賃料動向は下落基調 ■中大型物流施設市況  景気の本格回復へ徐々に兆しは見えつつある が、地域経済の回復スピードは遅く、なお企業 の厳しい事業環境は続き、コスト削減を背景と した拠点見直しによる縮小集約などが見受けら れる。
一方で、食品・医薬・日用品など内需型 企業の一部では、前向きな移転の動きが散見さ れている。
 今期の中部圏の中大型施設の賃料動向を見 ると、対前年 比でマイナス 六・二%とな っている(図 7)。
前年から 下落幅は大き く縮小を示し たものの、全 般的に入居テ ナントが要求 する水準は厳 しく、募集・ 成約賃料水準とも下落傾向にあり、当面は同水 準で推移する可能性が高い。
大型築浅物件と老 朽化物件の賃料には格差が生じ、二極化。
稼働 状況についても市場競争力に劣る施設について は空室が長期化する傾向が続いている。
 二〇〇〇年以降、不動産開発会社によ る「高スペック物流施設」の供給が盛ん に行われてきた。
立地や基本スペック等 において、「従来型物流施設」と差別化 することにより、高い稼働率を実現して きた。
 リーマンショック以降、高スペック物流 施設の供給は激減したものの、足下では 少しずつ動きが見られている。
来年以降、 埼玉の川越や川島町、千葉の市川等で巨 大マルチテナント型物流施設の竣工が予 定されている。
今後も高スペック物流施 設が市場で果たす役割は大きくなってい くだろう。
 昨今では、「高スペック物流施設」の中 での差別化も始まっている。
立地や基本 的な施設仕様といった物件の善し悪しに 加えて、施設内で働く従業員の快適性や 安全性、地域環境への配慮などが新たな 差別化要因として浮上してきている。
施 設を提供する不動産開発会社は、免震構 造、太陽光発電、CASBEE認証とい った付加価値を武器に、テナント企業に アピールしているようだ。
高機能施設にも 新たな競争条件が 図7 愛知県の中大型物流施設の平均募集賃料 賃料水準変動率 4,000 3,000 2,000 1,000 0 20.0 15.0 10.0 5.0 0 -5.0 -10.0 -15.0 -20.0 (円/坪) (%) 05年06年07年08 年09 年10 年 上期 愛知県 15.5 3,090 3,570 3,250 3,370 2,890 2,710 -9.0 3.7 -14.2 -6.2 35 30 25 20 15 10 5 0 図6 近畿圏の大型マルチテナント型物流施設の平均空室率 (%) 06 年9月 06 年1 2月 07 年3月 07 年6月 08 年3月 08 年6月 08 年9月 08 年 12 月 09 年3月 09 年6月 10 年3月 10 年6月 09 年9月 09 年 12 月 07 年9月 07 年1 2月 平均空室率 既存物件空室率 17.6 18.4 16.3 14.7 16.3 14.7 13.1 14.0 【空室率算出基準(調査棟数:12 棟)】 既存物件:2009 年6月以前に竣工した物流施設 地域:大阪府・兵庫県、 延床面積:10,000 坪以上、 竣工:既竣工物件、 空室確認方法:ヒアリングによる、 空室率:集計時点で空室であるものを対 象とする、建物形態:原則として、開発当時において複数テナント利用を前提 として企画・設計された建物であること ※今期関西圏で調査対象となった12 棟については、上記算出基準により抽出した ものであり、必ずしも物流施設ストック全体の需給バランスを示したものではない

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