ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年9号
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第61回 日立物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

59  SEPTEMBER 2010 中期経営計画の達成は可能  日立物流は、企業の物流業務をトータルサポー トする「システム物流(3PL:企業物流の包 括的受託)」を事業ドメインに据えて、付加価値 のある物流サービスを提供し収益力を高めてき た。
二〇一〇年三月期はさすがにリーマン・シ ョックの影響等から七期振りの営業減益を余儀 なくされたが、みずほ証券では、連結対象子会 社であった東京モノレールの売却(〇二年三月 期)を起点に、経営資源の本業集中を通じた収 支改善基調そのものは堅持していると評価して いる(次頁図1)。
 みずほ証券では、日立物流は再度、「システ ム物流」を牽引役として収支改善を加速し得る とみている。
確かに、修正中期経営計画で一三 年三月期の目標値として掲げた売上高五〇〇〇 億円(一〇年三月期実績三三一九億円)、営業 利益二五〇億円(同一二七億円)、のハードル はなお高いと言わざるを得ない。
しかしながら、 M&A等の実績を着実に積み上げていることも あり、時間軸に若干目を瞑れば、目標値への到 達そのものの確度は高いと判断している。
 みずほ証券では本稿執筆の七月二六日時点 で、日立物流の目標株価を一六〇〇円としてい る。
これは一一年三月期業績のみずほ証券予想 を基にすると、PER(株価収益率)二二倍に 相当するが、?直近五年間の実績平均値(約二 一倍)、?実績値の中心レンジ(一六〜二六倍)、 ?同業他社の実績平均値(二一〜二五倍)、等 を勘案した上で、僅かに期待値を加味した水準 である。
一〇年三月期第4四半期を起点に増収 基調へ転換したのに加え、営業利益率の改善も 鮮明化するものと期待される。
また、期間損益 が底打ちすることから、財務構造の転換が待た れるところである。
 日立物流は一九五〇年、日立製作所の輸送業 務を請け負う物流子会社として創業した。
以来、 日立製作所の工場構内における作業、或いは国 内外における超重量物の輸送業務の一括受託等 を通じて、業容を拡大させてきた。
日立グルー プ系企業として物流関連の情報システム構築に 早期から取り組んだことが、企業の物流業務を 受託するサービスの充実に繋がったとみられる。
 同社がコアビジネスとしている「システム物 流」とは、輸送、保管、情報システム等を包括 した高品質な物流サービスの一つを指す。
約二 〇年前から成長ポテンシャルのある3PL事業 に本格的に参入し、以来実績を積み重ねてきた。
資材調達から生産、販売、リサイクルに至る工 程において、荷主の様々な物流業務を引き受け ることで、3PLのリーディングカンパニーとし て頭角を現わすに至っている。
「業界プラットフォーム」に期待  みずほ証券では、日立物流の3PL事業にお 日立物流 3PLを牽引役に収益拡大基調に戻る 海外企業のM&Aで国際物流にも本腰  運輸セクターの中では最も収益安定度の高い 企業の一社。
二〇一〇年三月期は七期ぶりの 減益に沈んだが、システム物流(3PL)事業 を牽引役に業績は拡大基調に転じている。
国 際物流事業の収益力で依然として課題が残る が、最近では海外現地企業のM&Aを活発化 させている。
國枝 哲 みずほ証券 エクイティ調査部 運輸セクター シニアアナリスト 第61回 SEPTEMBER 2010  60 ける競争力は、?物流提案力、?情報技術力、 ?現場作業力、の三点にあるとみている。
以上 に加え、昨今は?設備資金力、の優位性も見逃 せないとの認識である。
 当該競争力の源泉は、具体的には、?顧客企 業の業務全般を熟知した上で、最適物流体系構 築の具体的提案を行い得る能力、?高度化する 物流業務を、情報システム面からサポートするイ ンフラ基盤を構築する能力、?最適な物流業務 フローとそれを支えるシステムインフラが整った 上で、検品や返送品管理等を確実に実行に移す 能力、にある。
 みずほ証券では、3PL事業で相応の収益性 を確保するためには、?個別案件の入札価格を 合理的に見積る能力や経験を具備していること、 ?売上高拡大に伴う固定費負担の低減効果を発 現させる成長サイクルに入ること、等が必須とみ ている。
3PL事業は元来、?過去の経験を生 かした物流提案がなされることが多いこと、? 一件の成功事例が次の受注増につながり易いこ と、等に特徴があるといわれている。
日立物流 は斯様な好循環サイクルに乗じた企業の一つと して、一日の長があるといえるだろう。
 同社の3PL事業においては、近時では「業 界プラットフォーム事業」の推進が注目される。
各業界に適した情報システム、物流センター、輸 配送網等、標準インフラ(プラットフォーム)を 構築し、共同保管・共同配送等の共同物流を提 供して荷主の物流コスト削減、環境負荷低減を 目指す事業モデルである。
 同事業では既に、「化粧品」、「チルド食品」「オ フィス家具」、「シューズ」、「医薬品」およ び「トイレタリー」等の各業界において実 績を積み重ねつつある。
化粧品業界にお ける資生堂の物流子会社、チルド食品業 界におけるタカノフーズの物流子会社、オ フィス家具事業における内田洋行の物流 子会社、等の譲受によって具体的成果を 上げており、今後も拡大が期待される。
国内・国際事業間で収益格差  経営課題としては、まず国際物流事業 が挙げられる。
日立物流の事業セグメント 別の売上高営業利益率をみると、国内物 流事業では近年、八%程度を安定的に確 保しているのに対し、国際物流事業のそ れは二%程度にとどまっている。
背景に は国際物流事業の営業収益が国内物流事 業の三分の一程度であり、スケールメリッ トを享受し難い点もあるものと思われる。
 一方、主力の日系顧客は引き続きグロ ーバル展開を推進するものと思われ、生 産拠点や販売拠点の最適展開を模索する 中で、SCMの高度化、或いは「ワン・ ストップ・サービス」への要望が一段と強 まる見通しである。
 これらを受けて、同社は近時、海外現 地企業の買収も積極化させている。
欧州では〇 八年二月、中国では昨年四月、米国では同一〇 月に、現地企業の株式を各々譲受した。
そして アジアでは今年五月、インドの物流会社を傘下 に収めている。
 資本市場においては財務面の論点も残ってい る。
日立物流は同業他社との比較において、高 水準の自己資本比率(一〇年三月期末:六二・ 九%)を確保しており、これが資本効率につい ての論議を誘発している。
例えば、潤沢な手許 8.0 6.0 4.0 2.0 0 200 150 100 50 0 (億円) 出所:みずほ証券エクイティ調査部作成 (%) ‘91 /3期 ‘93 /3期 ‘95 /3期 ‘97 /3期 ‘99 /3期 ‘01 /3期 ‘03 /3期 ‘05 /3期 ‘07 /3期 ‘09 /3期 ‘11 /3期 ‘13 /3期 (予想) (予想) 注:7月23日時点の業績予想値 セイノーHD ヤマトHD センコー 日立物流 福山通運 日本通運 図1 陸運大手各社の営業利益率の推移(上段)と日立物流の営業利益額推移(下段) 日立物流は10年3月期は減益を余儀なくされたが、中長期的には収益の拡大が続いている 61  SEPTEMBER 2010 流動性(同:現預金七七億円、預け金二六七億 円)の存在はROE(自己資本利益率)等の低 下要因の一つとみなされている。
 ?PBR(株価純資産倍率)一・〇倍程度 の株価水準、?預け金勘定を含めた潤沢な手許 流動性、?低位なROE、を前提とすれば、自 社株買い等に期待したいところではある。
但し、 同社は日立製作所が株式の五三・二%(一〇年 三月期末)を保有する上場子会社であることか ら、機動的な財務戦略を採り難い状況にもある と推察される。
結果、機関投資家からは「市場 論理が通り難い資本構造」との評価を招来し易 い。
“少数株主”たる機関投資家からみれば、日 立製作所の子会社たる同社の“影”の部分とい えるだろう。
 最後に、国内貨物市場は引き続き、?製造業 の海外展開、?荷主企業の物流合理化、?公共 投資の削減、等を主因に減少基調を辿るものと 思われる。
これに対して国際貨物市場は、今後 も大きなうねりを伴いつつも、拡大していくも のと期待される。
内需の成熟化と経済のグロー バル化等を背景に、製造業や小売業は「事業の 選択と集中」の度合いを一段と強める可能性が ある。
このため、みずほ証券では3PL市場が 拡大する素地はなお大きいとみている。
 日立物流は、リストラを志向する企業が物流 業務(周辺業務)を外部委託する流れを享受し 得る立場にあるとみられる。
引き続き、物流セ クターの中では最も収支安定度の高い企業の一 つとして注目している。
日立物流の過去10年間の株価推移 《出来高》 くにえだ さとる 一九九〇年日本興業銀行(現みず ほコーポレート銀行)入行。
産業調 査部、市場投資調査部、株式投資 室でガラス・土石製品、運輸、自 動車産業などを担当し、ポートフォ リオマネジメント部で債券流動化を 推進。
二〇〇三年より現職。
一橋 大学商学部卒。

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