ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年11号
国際物流の基礎知識
海運会社のロジスティクス戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

75 NOVEMBER 2005 陸上輸送や倉庫管理などを含めたトータル ロジスティクスサービスを提供する海運会社 が増えています。
荷主企業の「ワンストップ ショッピング」ニーズに対応するためです。
今 回は日本および海外の海運会社のロジスティ クス戦略について解説します。
ロジスティクス事業に対する温度差 海運会社のロジスティクスへの取り組みは 大きく三つのグループに分類できます(注1)。
第一グループはロジスティクス事業のグロー バル展開を積極化しようという企業。
第二グ ループはロジスティクス事業を海運の周辺、 もしくは地域限定で展開しようという企業で す。
そしてもう一つが現段階ではロジスティ クス事業に興味を示していないグループとな ります。
第一グループとしては、マースクシーラン ド、APL(NOL)、OOCL、日本郵船、 商船三井のほか、マースクシーランドに買収 されることになった「P&ONCL」などが 挙げられます。
これに対して、第二グループ は川崎汽船、ハパッグ・ロイド、CMA ―C GM、ヤンミン、韓進海運、現代商船、UA SGなどで、海運会社の多くがこのグループ に含まれます。
COSCOやチャイナシッピ ングといった中国系の海運会社も第二グルー プに属します。
第三グループの代表格はエバーグリーンや ZIMです。
エバーグリーンは航空会社であ るエバーエアーをグループ傘下に収めていま すが、現状ではいわゆるロジスティクス事業 に進出する意向は持っていないようです。
一般に海運会社では子会社がロジスティクス事業を担うかたちになっています。
子会社 であれば、親会社以外のキャリアを選択しや すくなるからです。
ロジスティクス会社の役 目は荷主企業に対して最適な物流の仕組みを 提供することです。
つまりロジスティクス会 社は親会社の存在に縛られないニュートラル な立場を求められます。
第一グループのマースクシーランドはロジ スティクス事業を担う子会社として「マース クロジスティクス」を傘下に収めています。
この会社は、マースクの既存顧客を対象に香 港、韓国、シンガポールなどアジア地域での 混載サービスを提供するために一九七七年に 設立された「マーカンタイル」が前身となっ ています。
海運会社のロジスティクス事業は 混載サービスや複合一貫輸送など海上輸送の 補完的なサービスとして始められることが多 く、マーカンタイルも同じような背景から設 立されました。
マーカンタイルは八〇年代に入り、海運会 社の物流部門という位置づけからサプライチ ェーン全体を請け負うロジスティクス会社へ と脱皮しました。
古くからボルボ、サーブ・ スカニアといった自動車メーカー向けに部 品・半製品の調達物流やスペアパーツ配送な どのロジスティクスサービスを提供してきた ほか、ウォルマートなど流通分野でも数多く の顧客を抱えています。
九九年、マースクの親会社であるAPモラ ーがシーランドロジスティクスを含むシーラ ンドを買収した結果、マーカンタイルとシー ランドロジスティクスが一緒になってマース クロジスティクスが誕生しました。
シーラン ドロジスティクスは、その前身が一九七二年 に設立された「バイヤーズ・アンド・シッパ ーズ・エンタープライズ」で、マーカンタイ ルと同様に古くから積極的にロジスティクス 事業を展開してきました。
その二社が一緒になって発足したマースク ロジスティクスは海運系のロジスティクス企 業としては最大の規模を誇ります。
現在、約 七〇カ国に計二〇〇の事務所を置き、従業員 数は約四五〇〇人に達しています。
二〇〇五年にマースクシーランドはP&O NCLを買収しました。
今後、P&ONCL のロジスティクス部門である「P&O Ne dlloyd Value Added Ser vice」がマースクロジスティクスに吸収 されれば、巨大ロジスティクス企業が新たに 誕生することになります。
アジア系企業の台頭 現在はシンガポールのNOL傘下にあるA PLのロジスティクス部門である「APLロ ジスティクス」も成長を続けています。
二〇 海運会社のロジスティクス戦略 《第8回》 注・1)多くの海運会社が世界各地でコンテナターミナルを運営しています。
コンテナターミナルの運営も広い意味ではロジ スティクス事業になりますが、海運業における特殊な分野であるため、コンテナターミナル事業は除外しています。
NOVEMBER 2005 76 〇一年には米国の倉庫系3PLである「GA TXロジスティクス」、さらにドイツのフォワ ーダーである「MAREロジスティクス」を 買収しました。
ロジスティクス事業の売上高 は一〇〇〇億円を超えており、ロジスティク ス企業としての地位を確立しています。
OOCLが属する香港のOOILにはロジ スティクス部門として「OOCLロジスティ クス」と「OOCLチャイナ・ドメスティク ス」があります。
OOCLロジスティクスは 一九七九年に「カーゴシステム」として発足、 二〇〇三年に「OOCLロジスティクス」に 社名変更しました。
貨物の混載、複合一貫輸 送から倉庫・保管、配送までを含む3PL事 業を展開しています。
特に小売業に強く、日本でもホームセンタ ー三社(ホーマック、カーマ、ダイキ)と三 井物産が出資する共同仕入れ会社DCMの物 流業務を請け負っており、日本のホームセン ター業界向けではトップクラスの3PL業者 と言えるでしょう。
OOCLドメスティクス は中国におけるロジスティクス専門会社とし て活動しています。
第二グループに分類した海運会社のロジス ティクス部隊は、混載サービスや複合一貫輸 送など海上輸送サービスを補完する意味合い で設立されました。
まだ歴史が浅く、また資 金力の問題などからサービスの内容やサービ スを展開する地域が限定されているのが実情 です。
韓国や台湾、中国などアジアの海運会社の 多くがこのグループに属しています。
今後、 アジアのロジスティクス企業の中からグロー バルなプレーヤーに成長する企業が出現する ことが予想されます。
とくにCOSCOは現段階では投資や活動の中心を中国に置いてい ますが、将来はグローバルプレーヤーの仲間 入りを目指すと考えられます。
現在、ハパッグ・ロイドが属しているTU Iグループの傘下には、コンテナ輸送のハパ ッグ・ロイド・コンテナ・ライン、客船のハ ッパグ・ロイド・クルーズ、鉄道輸送中心の VTG ―Lehnkering、およびフォワー ディングのPRACHTとAlgecoがあり ます。
それぞれが独自に活動しており、ロジ スティクスへの取り組みという意味では限定 されているとの判断から、今回ハパッグ・ロ イドは第二グループに分類しました。
日系企業のスタンスの違い 日本の海運会社のロジスティクス戦略には 大きな違いがあります。
日本郵船は二〇〇五 〜二〇〇七年度の中期経営計画において「ロ ジスティクス・インテグレーターへの飛躍」 を掲げています。
その中で、「高品質な総合 物流サービスの提供、コンテナ・自動車・物 流・港湾各サービスの品質強化と一体化、 海・陸・空三面からのサプライチェーン効率 化」に貢献することをうたっています。
同社グループでロジスティクス戦略を担う のはNYKロジスティクスと郵船航空サービ スです。
今年八月に航空貨物会社のNCAを 子会社化したこともこうした戦略の一環だと 推測できます。
もう少しかみ砕いて言えば、 日本郵船はロジスティクスそのものを事業の 柱として育成していくスタンスのようです。
二〇〇七年度の物流事業部門の売上高を五 一五〇億円、全体に占める割合を二九%(連 77 NOVEMBER 2005 結ベース)と計画している点からも、そのこ とをうかがい知ることができます。
商船三井もロジスティクス事業を世界規模 で積極展開していますが、日本郵船とは考え 方が大きく異なります。
商船三井のスタンス は、海運業を核に重要顧客に対して海運業に 留まらないトータルロジスティクスサービス を提供するというのが基本姿勢です。
MOL ロジスティクスが商船三井のロジスティクス 事業の中核ですが、国内では宇徳運輸やジャ パンエクスプレスといった物流企業も存在し ます。
顧客に対してサービスを提供できるこ とが重要であり、自前で全てを賄うことには こだわっていません。
近鉄エクスプレスとの 業務提携はその表れでしょう。
同社の中国を 中心としたサービスネットワークを、自社の 顧客サービスに役立てようという意図がある ようです。
川崎汽船もロジスティクスは定期船ビジネ スを補完する事業と捉えています。
その事業 展開は今のところ、海運周辺業にとどまっています。
バイヤーズコンソリデーション 海運会社が積極的に取り組んでいるロジス ティクスサービスの一つにバイヤーズコンソ リデーションがあります。
バイヤーズコンソ リデーションは「買い付け物流」とも呼ばれ、 商品を買い付ける小売業者やアパレル業者な ど、主に欧米の単一荷受人が、中国や東南ア ジアなどの複数工場で生産された商品を買い 付ける際に、商品を船積地の拠点に集め、ま とめて荷受人に輸送するというものです。
小口貨物をまとめることで、個別に輸送す るよりも輸送コストを削減し、効率的な輸送 を提供できます。
買い手側がイニシアチブを とる場合の一般的な形態で、現在、ウォルマ ート、家具のイケア、玩具のトイザらラスや スポーツ用品のナイキなど流通業を中心とし た多くの企業が取り入れています。
バイヤーズコンソリデーションサービスを 提供するためには、積み地でのネットワーク、 揚げ地での顧客サービスおよび移送在庫の一 元管理などが必要となります。
定期船会社は これらの条件を満たしており、マースクロジ スティクス、APLロジスティクスをはじめ、 世界の海運会社が積極的に取り組んでいます。
日本の海運会社も、商船三井はオーシャン・ コンソリデーション・ビジネス(OCB)の 名称で、日本郵船はオーシャン・コンソリデ ーション・サービスとして積極的に事業拡大 を図っています。
荷主のロジスティクスに対する要求はます ます高度化・複雑化しています。
荷主にとっ て海上輸送はロジスティクスあるいはSCM の一部でしかありません。
荷主は、SCM全 体をにらんでロジスティクス・パートナーを 選択する傾向が強く、起用するロジスティク ス・パートナーを絞り込んでいます。
こうした荷主の要望に応えるために、海運 会社がロジスティクス事業を拡大することが 見込まれています。
ロジスティクス事業者間 の垣根がなくなり、競争が激しくなることが 予想されます。
ただし、エバーグリーンのようにコンテナ輸送に特化する企業も、少数で すが、存在しているのも事実です。
もり・たかゆき1975年大阪商船三 井船舶入社。
97年MOL Distribution GmbH社長、2001年丸和運輸機関海 外事業本部長、2004年1月より現職。
主な著書は「外航海運概論」(成山堂)、 「外航海運のABC」(成山堂)、「外航海 運とコンテナ輸送」(鳥影社)、「豪華客 船を愉しむ」(PHP新書)など。
日本海 運経済学会、日本物流学会、ILT(英) 等会員。
青山学院大学、長崎県立大学 等非常勤講師、東京海洋大学海洋工学 部講師

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