ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年3号
現場改善
第86回 電機メーカーY社の庫内作業内製化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

63  MARCH 2010 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第86 回  電機メーカーY社は大幅な売上高の減少に対応するため、物 流の内製化による外払い費用の抑制に取り組んだ。
グループ物 流会社に委託していた庫内作業を自社化し、保管効率を向上さ せて外部の営業倉庫に預けていた在庫も取り込みたい。
しかし、 社内に物流のノウハウは乏しかった。
電機メーカーY社の庫内作業内製化  年商約六〇〇億円の電機メーカーY社は、大 手電機メーカーA社のグループ会社だ。
従来は 国内五カ所に生産拠点を構えていたが、昨今 の不況の影響で二カ所を閉鎖。
現在は主力の北 関東工場を中心に三つの工場を運営している。
 北関東工場は物流センターを併設している。
その現場運営はこれまで同じA社グループの 物流子会社に任せていたが、サービス料金が 割高で対応も満足のいくレベルではなかったこ とから、物流子会社の利用を輸配送の管理だ けにとどめ、庫内作業は内製化して支払い物 流費を抑制することにした。
 しかし、Y社の社内の人材やノウハウだけで 現場を運営するのは難しいと判断し、当社日 本ロジファクトリー(NLF)が、物流コンサ ルタントとしてサポートに入ることになった。
 当社に問い合わせをくれたY社側の担当者 で、今回のコンサルティングの窓口となったS 氏は、肩書き上は在庫や物流に関する社内調 整役であったが、実質的には北関東工場の物 流責任者だった。
現場の実務においてもS氏 が実権を握っていた。
 当初我々NLFはA社グループのブランド イメージから、物流現場においても生産技術 を活かした緻密な管理や改善活動を行ってい るものと推測していた。
 しかし、その期待はあっけなく裏切られた。
実際に現場を見学してみると、オペレーション の完成度は低く、気になった点を現場のリー ダーに質問しても的確な回答が返ってこない。
物流現場の管理レベルとブランドイメージに大 きなギャップがあると感じざるを得なかった。
 恐らく親会社のA社では、物流にもしっか りと取り組んでいるのだろう。
しかし、それ がグループ会社に横展開できていない。
これ はA社グループだけでなく、広汎なグループ企 業を展開する大企業に珍しいことではない。
 それでもS氏の形式張らない性格と、その コミュニケーション能力に、我々はずいぶんと 助けられた。
S氏は「現場リーダークラスはこ こ(自社)の現場しか知らない。
他の会社や 倉庫がどのように生産性や効率を上げている かなど全くわかっていない。
素人集団なんで す」と現状を率直に認め、今回のプロジェクト の目的として、?工場倉庫の保管効率を上げ て外部倉庫に委託している分を取り込むこと、 そして?改善を通して現場スタッフのスキルを 上げることの二つを明確に示してくれた。
 我々NLFはまず、現場視察による定性調 査を基に改善の仮説を図1のように抽出した。
次に各担当者へのヒアリングやデータ分析を行 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 第86 回 MARCH 2010  64 って、これらの仮説を検証。
その結果をもと に、改善項目の優先順位を決定し、改善活動 を実施していくというコンサルティングの進め 方をとることにした。
仮説を立てて検証する  「仮説?」の「品目別保管方法の見直し」は、 既存の保管棚およびラックサイズと保管してい るアイテムの特性が合っていないのではないか という仮説であった。
 重量ラックを使用することで?高さ?の確 保はできていた。
しかし、どうも隙間が目立 つ。
調べてみると、少量ロットの製品をロット のまとまる製品と区別せずに保管していたた め、いわゆる?ぎっしりと詰まった状態?の 積み付けができなくなっていた。
品目別、ロッ ト別に保管方法、形態を変える必要があった。
 「仮説?」の「出荷頻度ABC分析による ロケーションの見直し」は在庫型センターの定 番と言える改善方法だ。
案の定、Y社の場合 もロケーションの使い方、保管場所のルール決 めが明確になっていなかった。
 リフトマンが自分の判断で作業を行い易い場 所にパレットを?借り置き?してしまう。
そ れが連続して発生し、その一部が放置される ことで、保管スペースをまんべんなく利用す ることができていなかった。
 その結果、棚番地が振り当てられているの に、恒常的に?空き?状態になっているスペ ースが散見された。
これはロケーションに対す るメンテナンスができていない証である。
業 種、業態よって頻度は様々であるがY社の場 合、四半期に一度はメンテナンスを実施する必 要があった。
 「仮説?」の「通路幅の見直し」は、フォー クリフト作業の問題だ。
物流品質を重視する 物流子会社や荷主の現場では、安全性に配慮 して庫内の通路幅を広くとっている場合が多 い。
必要なことではあるが、広すぎるのは問 題だ。
 生産性と保管効率が収益の源となる一般の 営業倉庫では、安全性に配慮しながらもギリ ギリの通路幅を模索している。
またフォークリ フトの種類によっても必要な通路幅は変わっ てくる。
そこで最適なフォークリフト機種を選 定し直し、動線を見直すことで通路幅を二〇 センチ狭めることができた。
 「仮説?」の「出荷スペースの有効利用」に ついて、Y社の倉庫では他の会社や物流会社 が見ればうらやましがるほどの雨避けのヒサ シが、建ぺい率に加算されるにもかかわらず、 上手く活用されずに放置されていた。
 ヒサシ部分は方面別および物流会社別の出 荷スペースとなっていたが、その一・五倍程度 の使用可能スペースが残されていた。
そこで庫 内に保管されていた空きパレットをヒサシの下 に移すことで、有効保管スペースを拡大した。
 「仮説?」の「作業分析によるムダの見直 し」は、作業にムラが見られたことから実施 した。
主力の庫内作業スタッフが時間給であ ることもあって、入・出荷量が少ない閑散時 には作業スピードが低下する傾向が見られた。
調べてみると?作業の待ち時間?と?保管す る場所探し?の時間に大きなウェイトがかかっ ていた。
 「仮説?」の「適正在庫の見直し」は、デ ッドストックの廃棄等を含め、生産部門や営 業部門との調整が不可欠であった。
実施には 時間を要する施策だ。
大企業になるほど、い っそうその傾向は強まる。
 それでもY社の場合、S氏がもともと部門 間の調整役を担う部隊であったことも手伝っ て、在庫削減に向けた動きが着々と進んでい った。
当初二〇日分と定められていた在庫日 数を現在は一四日分に削減することで調整が 進んでいる。
 「仮説?」の「動線調査結果による改善策の 抽出」では、思わぬ材料が見つかった。
以前 にY社では、あるマテハンメーカーからフォー クリフトの動線調査サービスを受けていた。
と ころが、その結果が分析されることなく放置 されていた。
 そこで我々NLFが改めて資料を確認する ことにした。
すると、その資料には通路の活 図1 改善の仮説 仮説? 品目別保管方法の見直し 仮説? 出荷頻度ABC 分析による ロケーションの見直し 仮説? 通路幅の見直し 仮説? 出荷スペースの有効利用 仮説? 作業分析によるムダの見直し 仮説? 適正在庫の見直し 仮説? 動線調査結果による 改善策の抽出 仮説? 物流管理指標の設定と 運用方法の決定 65  MARCH 2010 用が平均化されておらず、特定のロケーション エリアにフォークリフトが集中して作業を行っ ているという実態が示されていた。
このこと は我々の打ち立てた一連の仮説をデータ的に裏 付けることになった。
現場の管理指標を整備する  さて、これらの一連の改善策を実施すれば、 生産性や保管効率の向上が期待できるものの、 それと引き替えに、作業品質や安全性の低下 を招くリスクがあった。
そのバランスをとるた めに「仮説?」の「物流管理指標の設定と運 用方法の決定」は欠かすことのできないテー マであった。
 ?生産性指標?と?品質指標?は現場管理 の両輪だ。
その二つをセットで管理すること で、はじめて最適な作業方法を作り上げるこ とができる。
そして、それを成熟させていく ことが、利益を産み出す現場への道である。
 我々NLFはY社に対して図2のような指 標のモデルを提供した。
このうち、どの指標 を採用すべきか、Y社はプロジェクトチームで 検討している最中だ。
各指標それぞれ一つで 十分だと我々はアドバイスしている。
あまり欲 張って多くの指標を導入してしまうと、結果 的に長く続かなくなってしまう。
指標の算出 には、かなりの手間がかかる。
その結果、い つしか指標の算出自体が目的化してしまうと いったケースを我々は数多く目にしてきた。
 こうしてプロジェクトの開始から三カ月を経 て、S氏が目的とした外部倉庫の吸収が実現 した。
しかし、もう一つの目的、現場スタッ フのスキルアップはスタートを切ったばかりで ある。
 需要予測が大きく乖離し、生産量と販売量 の相違から在庫量が大きく増えた場合にどの ように対処するかといったテクニックなどを 習得するのはこれからだ。
その方法を誤れば、 再び外部倉庫に製品を逃がさなければならな い事態にも陥ってしまう。
S氏が一息付ける のは、まだ先のことになるだろう。
図2 物流管理指標 物流品質指標の設定 全体的な物流精度 を評価する指標 品揃えの状況を 評価する指標 センターの出荷 精度を評価する 指標 受注精度を評価 する指標   配送精度を評価 する指標 実地棚卸とコンピュータ上の商品在庫数・ 金額との差異の割合 在庫として品揃えできている商品の割合 在庫品のうち出荷当日に在庫がなくなった 商品の割合 出荷当日に出荷できなかった商品の割合 出荷検品で品違い、数量相違、出荷漏れが 発見された商品の割合 顧客の注文を間違って出荷の手配を行った 商品の割合 納品先を間違えて配送した配送先件数の割 合 納品検品や顧客クレームにより品違い、数 量相違、出荷漏れが発見された商品の割合 約束の時間より一定の許容時間以上前後し て納品した配送先件数の割合 差異アイテム数(金額)/在庫 アイテム数(金額)×100 在庫商品のデータ行数/受注 データ行数×100 在庫品品切れ受注データ行数/ 在庫品受注データ数×100 当日出荷データ行数/当日出荷 受注データ行数×100 誤出庫データ行数/受注データ 行数×100 誤受注データ行数/受注データ 行数×100 誤配送発生納品先件数/全配送 納品先件数×100 遅納発生納品先件数/全配送納 品先件数×100 誤出荷データ行数/受注データ 行数×100 評価の対象指標項目内容指標の単位計算式 1.在庫差異率 2.?ヒット率 3.?誤出庫率 4.誤受注率 5.誤配送率 6.遅納率 ?品切れ率 (在庫品) ?誤出荷率 ?品切れ率 (全品) ?アイテム数 ?金額 データ行数 納品先件数 その他の指標 在庫およびイレギュラー業務の発生状況を追跡する判断材料として、以下の指標を設定する 商品別の在庫状 況を判断する指 標 イレギュラーの 発生状況や営業 力の強さを判断 する指標 商品別の直近3カ月間の平均在庫 日数(金額ではない) 3カ月間出荷実績がないアイテム数 の全在庫アイテム数に占める割合 受注締め時間後に受注があった納 品先数。
納品先と担当セールスを 付記 当日の納品先変更や引取り対応、 宅配便への変更依頼が発生した件 数 全納品数に占める返品が発生した 商品数量の割合。
納品先とセール スを返品理由と共に付記 平均在庫数量/1日当たり出荷 数量 滞留在庫アイテム数/全在庫ア イテム数×100 返品データ行数/納品データ行 数×100 評価の対象指標項目内容指標の単位計算式 商品別在庫日数 滞留在庫率 時間外受注件数 ?得意先別 ?担当セールス別 返品率 ?得意先別 ?担当セールス別 個 アイテム数 納品先件数 納品先件数 データ行数 物流作業効率指標の設定 要員の出荷効率 を判断する指標 エリア別の生産性 を判断する指標 ルート別の配送効 率を判断する指標 ピッキング担当者が一定時間内にピッキン グを行う伝票行数 エリアごとの1人当たりの出荷数量 ルート別の売上金額に占める支払運賃の比 率 出荷データ行数/ピッキング時 間 出荷データ行数/エリア別投下 人員 ルート別支払運賃/ルート別売 上金額×100 評価の対象指標項目内容指標の単位計算式 ピッキング効率データ行数 データ行数 金額 エリア別出荷効率 出荷当日納品方法変更件数 ?得意先別 ?担当セールス別 対売上運賃比率 ─ ─

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