ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年2号
ケース
サイゼリヤ コスト削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2010  44 コスト削減 サイゼリヤ 3年間で累計40億円のコストを削減 物流費比率を4.32%から3.38%に  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
垂直統合で低価格・高収益を実現  国内に八〇〇店舗余りを展開するイタリア ンレストランチェーンのサイゼリヤが、消費 不況をよそに業績を伸ばしている。
二〇〇九 年八月期決算の売上高は前年比四%増の八八 三億円で三七期連続の増収を達成した。
低価 格メニューを武器にしながら、一〇%を超え る高い利益率を誇っている。
 その理由を同社で生産物流本部長を務める 小島実取締役は、「われわれにとって最も基本 的なことは、食材の調達から加工・物流、店 舗での提供までの一連のプロセスを自ら手掛 けること。
『バーティカル・マーチャンダイジ ング(垂直統合型の商品・流通管理)』に磨 きをかけてきた結果、損益分岐点が他社より もずっと低いところにある」と説明する。
 創業者の正垣泰彦会長は、一九六七年に 第一号店を開店してチェーン展開を始めた当 初から、垂直統合型のサプライチェーンを目 指してきた。
現在では、福島県白河市にある 敷地面積一〇〇万坪の「サイゼリヤ農場」で 野菜を自製し、オーストラリアの自社工場で 牛肉やミルクを生産するまでになった。
生ハ ムやチーズ、オリーブオイルなどの食材はイタ リアから直輸入している。
 サイゼリヤのサプライチェーンの中核に位置 しているのが全国三カ所(吉川工場=埼玉県、 神奈川工場、兵庫工場)にある「カミッサリ ー(食品加工流通拠点)」だ。
店舗で使う食 材のほとんどをこのカミッサリー経由で供給 している。
東日本から北陸までは吉川工場と 神奈川工場の二カ所から、西日本へは兵庫工 場から出荷する。
札幌の一店舗を除けば、す べて協力物流業者によるルート配送だ。
 一般的な外食チェーンのセントラル・キッ チン(集中調理施設)と比較すると、同社の カミッサリーは、品質維持と店舗作業の軽減 のために、食材の加工や下処理を可能な限り 済ませてしまうところに特徴がある。
 たとえばサラダ用の野菜は、カミッサリー で洗浄やカット、数種類の野菜の混合から計 量までを済ませ、六人前ずつパックにして出 荷している。
店舗ではメニューに応じて皿に 盛りつけるだけだ。
ピザ生地の焼きや、パス タの下茹でもカミッサリーで済ませる。
半ば 調理済みの食材を送り込むことで、平日のラ ンチタイムでも二〜三人の調理担当者だけで 店舗を運営できるようしている。
 物流の高度化にもこだわっている。
福島の 自社農場で収穫する野菜は、鮮度を最も保て る四度に調整した冷蔵車に畑ですぐに積み込 み、そのままカミッサリーに運搬する。
外部 垂直統合型のサプライチェーンを駆使し高い利 益率を実現している。
2006年から開始した「生産物 流革新プロジェクト」で、現場の労務管理の見直し や配送改革、在庫管理の高度化などに取り組み、3 年間で累計40.5億円のコスト削減を実現した。
スタ ート前に4.32%だった売上高物流費比率は3.38%ま で低下している。
生産物流本部長を務める 小島実取締役 45  FEBRUARY 2010 から調達する野菜も、厳密な温度管理と下処 理を施した状態でカミッサリーに納入しても らっている。
卸売市場の商流機能はほとんど 使っておらず、独自に構築したコールドチェ ーンで野菜を運んでいる。
 外食産業にチェーンストア理論をいち早く 適用し、時間をかけて作業の標準化などを徹 底してきたことが、他社には真似のできない 強みになっている。
日雇い派遣の利用をゼロに  もっとも近年は、急成長による綻びも顕在 化していた。
カミッサリーの生産性にバラつ きが生じる、売上高が伸びているのに生産効 率が低下する、人件費がかさむ、といった異 変の兆候が現れていた。
この状況に対処する ため、〇六年から全社横断な規模で「生産物 流改革プロジェクト」に着手した。
 きっかけは、オーストラリア工場の責任者 を務めていた小島氏の元に、〇五年末に正垣 会長から入った一本の電話だった。
味の素出 身の小島氏は、延べ二〇年にわたり海外の工 場で過ごした生産管理とエンジニアリングのプ ロだ。
味の素を定年退職した〇三年にサイゼ リヤに入社すると、すぐにオーストラリアに赴 任し、現地の最高経営責任者として工場の生 産性向上などに辣腕をふるっていた。
その実 績を見たトップから国内の生産物流部門の診 断を依頼された。
 さっそく帰国して調査を始めた。
まず気に なったのは、新たな工場やカミッサリーの稼 働が業績にほとんど貢献していない点だった。
理由はすぐに察することができた。
作業ライ ンの頻繁な停止などで工場の設備が十分に能 力を発揮していない、人の使い方に問題があ る──生産管理のプロの眼から見ると、多く の改善の余地があった。
 〇六年三月に取締役生産物流本部長に就 任した小島氏は、数カ月かけて診断を実施し た。
「QCDES(品質、生産性、ロジステ ィクス、環境対策、安全)」の観点から評価 し、対処すべき課題と改善策を経営会議の場 でプレゼンテーションした。
その結果、発足 したのが生産物流改革プロジェクトだった。
 プロジェクトではまず、社内の部門長が横 断的に参加する「推進委員会」を設置した。
さらに、物流と生産の領域でそれぞれ中堅・ 若手を中心とする改革の実行部隊を組織した。
物流革新プロジェクトとして「配送管理」「仕 分け」「生産在庫管理」などのチームを立ち上 げる一方、工場の生産現場を対象とする生産 革新プロジェクトとしても「労務・教育」や 「プロセス」などのチームを設置した。
 そして工場長の異動を断行した。
神奈川工 場長を兵庫工場に異動し、兵庫工場長は吉川 工場に異動するといった具合に相互に入れ替 サイゼリヤの生産・物流体制の概要 吉川工場 (埼玉県吉川市) 神奈川工場 (神奈川県大和市) 兵庫工場 (兵庫県小野市) 船橋デポ (千葉県船橋市) 福島工場 (福島県白河市) オーストラリア工場 (ビクトリア州) 機能 (配送エリアほか) 主な生産品目 ソース・スープ類、 パスタ、ボイル野菜 パスタ、ピザ、野菜、 チーズ・ハム加工 パスタ、ピザ、野菜、 ソース、ハム加工など 精米・炊飯 ソース類、ミルク製品、 スープなど ― 製造&物流 (東日本) 製造&物流 (東日本) 製造&物流 (西日本) 物流 (保税倉庫など) 南港デポ (大阪市住之江区) 物流 ― (保税倉庫など) 製造 野菜集荷 製 造 物流拠点として 対応可能な店舗数 約290 約320 約325 約210 ― ― ― ※対応店舗数は物流部門による試算値 野菜の管理温度は常に4度前後 専用コンテナで入荷する野菜 加工ラインの野菜の温度も4 度 サラダ用に6 人前ずつパッキング 神奈川工場の野菜加工ライン FEBRUARY 2010  46 えたのである。
その狙いを小島取締役は「工 場長をローテーションすることで、前任者の 良いところと自分の良いところをマネジメン トしていくことを期待した」という。
 現場の労務管理にもメスを入れた。
「当時 の生産現場には、ピーク時で年間延べ一〇万 人もの日雇い派遣の労働者がいた。
若い人た ちがその日暮らしの収入で生活していること 自体が異常だったし、仕事を理解していない 日雇い作業者を使う立場のパートさんのスト レスにもつながっていた」と小島取締役。
 昨今のように日雇い派遣問題が社会的にク ローズアップされる以前の話だ。
しかし、日 雇い派遣に頼った運営が現場の生産性を低下 させているのは明らかだった。
根本的な問題 は、事前に策定する現場の要員計画の精度が 低く、結果として生じるブレを日雇い派遣で 調整していることにあった。
 そこで小島取締役は、日雇い派遣の活用を 八割減らすと宣言。
希望者を準社員やパート として登用していった。
その後は徐々に要員 を適切に配置できるようになり、日雇い派遣 の活用をゼロにすることができた。
 二期目(〇七年度)からはオーストラリア 工場を舞台とする「SAMITプロジェクト」 もスタートさせた。
同地で生産しているホワ イトソースなどの品質を改善するほか、生産 活動の国際シフトを進めた。
従来はオースト ラリアで生産する比重が高すぎ、為替レート の変動によるリスクが大きかった。
そこで複 数品目の生産を日本国内に移した。
 オーストラリアやイタリアから輸入する国際 物流についても、FOB(本船渡し条件)や C&F(運賃込み条件)など複数の支払い条 件を精査し、発注数量の適正化も図った。
そ の結果、運賃だけでなく、保税倉庫の保管料 の削減につなげることができた。
 物流分野のコスト削減策として最も効果的 だったのは、「配送管理チーム」による配送ル ートの見直しだ。
サイゼリヤは現在、全国の 輸送業務を七社の協力配送業者でカバーして いる。
カミッサリー三カ所と福島工場の計四 拠点を起点に配送ルートを設定し、その管理 はサイゼリヤの物流部門が手掛けている。
こ の業務にメスを入れることによって、以前は 売上高比で六、七%台だった食材の店舗配送 コストを約四%にまで改善した。
 以前は北海道以外の店舗には、すべて工場 発の四トン車で直接納入していた。
三温度帯 の一括配送で、荷室の温度は野菜に適したチ ルド帯に保ち、冷凍品についてはカゴ車サイ ズのシッパー(冷凍ボックス)を使う。
遠隔 地へも四トン車で配送していたため積載効率 中継拠点の設置で配送を効率化  生産・物流の仕組みを改革していくに当た り、小島取締役は「システムズアプローチ」に よる全体最適化に強くこだわった。
サイゼリ ヤの事業活動全体を、店舗で客にジャストイ ンタイムで食事を提供するためのシステムと して捉える。
そうすることでボトルネックに なっているプロセスや、やるべきことが自ず と明確になると考えた。
 初年度となる〇六年度(〇七年八月決算 期)には、基盤整備を中心にプロジェクトを進 めた。
具体的には「廃棄ロスの撲滅」や「原 料仕入れの適正化」、「プル生産の実現」など に取り組んだ。
 「プル生産の実現」では、需給調整の担い 手を見直した。
それまで調達する食材の数量 は購買部門が管理していた。
この役割を物流 管理部に移管。
過去の実績などから品目ごと に最長三カ月先までの調達数量を物流部門が 判断し、これを店舗のPOSデータの動きを 見ながら修正していくように改めた。
 新体制が上手くいけば在庫を半減できる可 能性もあると試算していた。
ただし「在庫 削減そのものを目的にしていたわけではない。
われわれの狙いは、あくまでも店舗で完全な 供給体制を確保すること。
これを達成するた めに、全てを一元的にコントロールすること による全体最適を追求している」と物流管理 部の市川英樹部長は説明する。
物流管理部の市川英樹部長 47  FEBRUARY 2010  その上で二年目からは、積載効率の向上や 帰り荷の確保などを行った。
新たに従来の半 分サイズのカゴ車を導入して効率よく荷物を 積めるようにした。
サイゼリヤの仕入れ先の 輸送ルートを詳しく調べ、店舗への配送ルー ト上や帰り道に位置する荷物があれば、協力 配送業者に回す工夫もした。
直接的にサイゼ リヤの利益につながる話ではなかったが、配 送業者の収益を改善できる。
 燃費走行の実践も進めた。
各社の実情を調 べているうちに、七社の協力配送業者の中で 遊佐運輸倉庫という山形県の会社の燃費だけ が突出して優れていることに気づいた。
同じ 四トン車を運行していて、他社の燃費は三キ ロメートル/リットル程度なのに、この会社 だけが約七キロを記録していた。
 実際に宮本担当部長が、この会社の配送車 両に同乗してみた。
すると基本に忠実な燃費 走行によって本当に七キロ走っていることを 確認できた。
さっそく他の協力配送業者に横 展開した。
各社は当初、「そんなの無理だ」と 渋っていたが、現在ではいずれも五キロ台後 半まで燃費が改善しているという。
 すでに開始から三年たったプロジェクトで、 サイゼリヤは大きな改善効果を手にしている。
「生産物流改革プロジェクト」と「SAMIT プロジェクト」の効果を合計すると、一年目 の〇六年度(〇七年八月期)の改善金額が一 〇・六億円、〇七年度が一七・一億円、〇 八年度が一二・八億円と、累計四〇・五億 円のコスト削減に成功した。
四年前に四・三 二%だった売上高物流費比率は、〇八年度 には三・三八%まで改善。
生産物流部門の人 時生産性は一・五倍に高まっている。
 プロジェクトは当初、六〇件余りの改善テ ーマを掲げてスタートした。
現在までにテー マ数の累計は一六〇件余りに増えているが、 このうち約七割の改善活動はすでに完了した。
今後も新たなテーマを増やしながら活動を継 続していく方針だ。
小島取締役は「このプロ ジェクトは専門性の高い職場改善活動のよう なもので、仕事に直結している。
その意味で 永遠に続くものだ」と考えている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) が上がらないという悩みがあった。
 そこでプロジェクトでは、新たに全国に三 カ所(長野、中京、岡山)の中継基地を設 置。
中継地までは一〇トン車で運び、ここで 四トン車に積み替えて各地の店舗に納入する ように改めた。
これによって積載効率が高ま り、従来は一日に一三五台を運行していた車 両数が一二五台で済むようになった。
 こうした配送ネットワークの再編には、ま ずは協力物流業者との信頼関係の再構築が必 要だった。
「プロジェクトを開始した頃は、毎 日のように配送業者から『この運賃のままで はもう運べません。
値段を上げてください』 と言われていた」と物流管理部DC配送部門 の宮本徳明担当部長は振り返る。
 そこで一年目は、原価構造にまで踏み込ん で配送業者に情報を開示してもらった。
その 代わり、「当社は買い叩いたりしない。
他社 が安いからといって乗り換えるようなことも しない。
利益が出ない原因をはっきりさせて 一緒に対策を考えましょうという姿勢で、率 直なコミュニケーションを交わせる信頼関係を 構築した」と宮本担当部長。
物流管理部の宮本徳明 DC配送部門担当部長 デジタルピッキングも活用 人時生産性の大幅向上を実現 冷凍品用のシッパーを改良中 半サイズのカゴ車を新規導入 神奈川工場の物流エリア

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