ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年12号
特集
第4部 現場スタッフ直接雇用化の進め方

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2009  28 現場スタッフ直接雇用化の進め方  物流会社が直接雇用化に舵を切り出した。
しかし、 スポット派遣機能の完全自社化まで漕ぎ着けている 例は少ない。
安易に手を出せば失敗に終わる可能性 が高い。
直接雇用化に必要なステップやノウハウを 紹介する。
ボトルネックは波動対応 ●直接雇用化の成否の分かれ目  物流会社の多くは直接雇用化を進めたいと考えてい る。
ロジラテジーが開催した「物流現場人材セミナー」 の参加者アンケート(約四〇社)では、「直接雇用化 を進めたい」が約七割、「業務請負化を進めたい」が約 一割、「未定である」が約二割という結果であった。
 この一年半、どこの物流現場もヒトあまり状態。
当面、採用面の不安がないという理由から、安易に 「直接雇用化を進めたい」と考えている物流会社が多 いことに驚いた。
 しかし、直接雇用化成功の第一歩は、「直接雇用化 を選択した理由」を明確に説明できるかという点に ある。
「直接雇用化」、「業務請負化」のいずれを選択 する場合でも、選択要件定義【図1】をもとに、慎 重に方向性を決める必要がある。
●スポット派遣機能を自社内に持つ  既に直接雇用化に舵を切った物流会社に目を向け ると、多くの場合、レギュラー労働力(常用労働者) については、直接雇用化への移行をスムーズに進め ている。
レギュラー労働力の管理は容易であり、か つ採用面の不安も少ない。
 しかし、業務波動対応については未だにスポット派 遣に依存している物流会社が大半で、いわゆる“完 全直接雇用化”までには至っていない。
 直接雇用化とは「業務波動に応じた労働力の需給 調整機能を自社内に構築すること」といっても過言 ではない。
物流会社の経営層は、レギュラー労働力 が徐々に「直接雇用化」されている表面上の数字だ けを単純にみて、「山の七合目まできており、頂上ま ではあと少しだ」と考えている。
しかし実際は頂上 までの道のりは険しい。
何故ならば、“スポット派遣 機能の自社化”という最大の壁がそびえ立っている からである。
この壁を乗り越えられずに、途中で挫 折してしまう物流会社も続出しはじめている。
 スポット派遣機能の自社化( =シフト労働力管理) を実現するには、採用規定・就業規則・雇用契約・ 給与支払いフローの見直しなど、従来の常用労働者 を前提とした労務管理フローだけでなく、シフト労働 者を業務量に応じて柔軟に活用できる新たな労務管 理フローを再構築する必要がある。
本部主導で取り 組まなければ完全直接雇用化の成功はありえない。
●直接雇用化の条件と失敗事例  最近、直接雇用化の具体的な進め方についての相 談が増えてきている。
そういった場合、まず、具体 的な作業の洗い出しを進めるようアドバイスをしてい る。
「直接雇用化チェックリスト」【図2】は、直接雇 用化実現に必要な重要項目をピックアップしている。
チェック項目がすべて○なら、完全直接雇用化へむ けた準備は万全であるといえる。
一方、×がつく項 目は、取り組むべき課題だ。
継続的に×を○に改善 する努力をする必要がある。
実際には、各重要項目 について、さらに細分化された作業タスクの洗い出 しと具体的な要件定義が必要である。
 チェックリストを活用することで、「全社的な状況」、 「各現場の状況」を把握し、課題解決に結びつけるこ とができる。
同時に、現場管理者の作業意識や目的 意識の醸成にも繋がる。
月例会議でチェックを行うな ど継続的な運用をすれば、その効果は目に見えて向 上する。
 ある大手物流会社では、昨夏より自社内に専門部 署を設置し、完全直接雇用化に向けて取り組んでい る。
しかし、未だにスポット派遣に頼らざるをえない 栃本浩昭 ベアーハンド 代表 (ロジラテジー アドバイザー) 1968年生まれ。
早稲田大学教育学部 卒業。
損害保険会社・人材派遣会社勤 務を経て、2008年独立。
物流業界に特 化した人材マネジメントコンサルティン グ会社「ベアーハンド」代表に就任。
物流 現場の労働者プロフェッショナルとして 「ロジラテジー」アドバイザーを兼任。
物 流会社の「直接雇用化」「業務請負化」 の支援を手掛ける。
http://bear-hand. co.jp/、http://logirategy.co.jp/ 第 4 部 29  DECEMBER 2009 状況にあり、とても成功しているとは言い難い。
 最大の理由は、後述する「スタッフマネジメント」 というソフト環境の整備を蔑ろにしている点にある。
「シフト労働力管理」という仕組みを構築してはいる が、機能していない。
もはや、派遣を使っていた時 のような“上から目線”は通用しない。
成功のハードルは高い ●直接雇用化のステップ  直接雇用を進めるにあたり、具体的にどのような ステップを踏んでいくかをまとめた【図3】。
?社内プロジェクト化  本部が主導となり、「直接雇用化プロジェクト」を 創設する。
プロジェクト化により、責任と権限が明確 になる。
全社的に本気で取り組む姿勢を社内外にコ ミットすることにより、重要なプロジェクトであると の位置づけにする。
当初は、総務・人事部署で対応 するも、最終的には独立した専門部署を設けること も視野に入れる。
?労務管理手法の再構築  業務繁閑に応じた労働力の需給調整機能をスポッ ト派遣にかわり、自社で行う仕組みを構築する。
従 来の常用雇用前提の労務管理フローから、シフト労 働力も管理できるあらたな労務管理フローへ切り替 える。
なお、あらたな労務管理フローの構築には以 下のような手順が必要となる。
●募集、採用(登録)、シフト管理、勤怠管理、給与 計算、給与支払いフロー見直しなどの業務設計 ●就業規則、採用規定、雇用契約書、労働条件通知 書、給与規定、就業ルールなどの制度変更 ?労務管理システムの導入  スポット派遣会社の労務管理フローを自社で行うた め、専門の労務管理システムを導入する。
労務管理 の効率化だけでなく、業務の標準化、コンプライアン スを実現できる。
ただし、「導入したが失敗した」と いう事例も多く、導入にあたっては専門家のアドバイ スを聞くことが望ましい。
?現場の意識改革  全社的に徹底して、「雇用責任の重さ」と「働く人 たちを大切にする」ことに対し、意識変革を行う。
経 営層・人事総務責任者、現場管理者、労務管理担当 者、現場リーダー、現場労働者など、それぞれの職 責に応じた階層別の社内勉強会・研修などを繰り返 し行い、労務知識と労務管理方法を習得する。
?スタッフマネジメント力の強化  現場への帰属意識(ロイヤリティ)を高めることに より、スタッフの定着化と現場生産性の向上を図る。
個々のスタッフの能力を最大限に引き出すために、社 員と同等以上の処遇・教育を施す。
なお、スタッフ マネジメントにあたって以下のような取り組みが必要 となる。
●人事制度、キャリアパス制度、評価制度の導入、ク レーム対応窓口設置など ●現場教育(QC活動・現場勉強会)、集合研修、個 別面談、スタッフ教育・育成 ●社内レクリエーションの定期開催、会員制福利厚生 サービスの活用、福利厚生の充実  これらの取り組みを本気で行うかどうかで、直接 雇用化の成功・失敗が決まる。
これまで、労働力の 需給調整を人材派遣会社に任せきりにしてきた物流 会社にとっては、かなり高いハードルであるが、そ れだけに、各現場の取り組みの差が顕著となる。
今 後は、「現場力」の差が生じ、「エクセレント現場」と 「ブラック現場」の二極化が進むだろう。
図1 直接雇用化 or 業務請負化見極めのポイント ※すべてロジラテジー資料 図3 直接雇用化のステップ 1 センター規模 2 センター立地 3 業務波動 4 得意業務 5 収益性 規模が大きいほど、直接雇用化による費用対効果大 中小規模は、業務請負化により管理コスト軽減 充分な教育・研修をほどこした労務知識豊富な実 務担当者をすべての現場に配置できている 労働条件通知書、雇用契約書の締結、就業規則 の備え付けなど法令にもとづく労務管理ができている 法令にもとづき社会保険の適正加入を行い、有給 休暇の取得を積極的に呼びかけている 専門的な雇用管理システムを活用し、業務の標準 化・適正な管理が図れている 現場単位にて、QC活動や勉強会などの現場改善活 動を定期的に行っている 現場管理者・リーダー層・ベテランスタッフ・新人 スタッフなど、階層別研修を定期的に行っている 将来の自分をイメージできる、社員登用制度や人事 制度などをアルバイトに理解させている 個々のアルバイトに対して、直接的に話を聞く機会 を定期的にもうけている 定期的なレクリエーション活動や、従業員向け福利 厚生サービスなどを活用している 一年間を通じて、業務波動に応じた労働力の需給 調整をすべて自社で行っている 人材を確保しやすい立地か?( 通勤しやすい立地か?) 隣接センターとの人員調整が可能か? 季節や曜日による業務波動の大小はどうか? 事前にあらかじめ余裕をもった人員計画が出せるか? 自社が得意とする業務、アイテムか? 不得意業務ならば、直接雇用化すべきか? 現場収益は見合っているのか? 業務請負により現場収益が改善する可能性もあり 着 眼 点ポ イ ン ト 社内プロジェクト化 ? 労務管理手法の再構築 ? 労務管理システムの導入 ? 現場の意識改革 ? スタッフマネジメント強化 ? 完全直接雇用化 図2 直接雇用化チェックリスト チェック項目× 労務知識 労務管理 社保・有休 システム活用 現場活動 階層別研修 キャリアパス 個別面談 福利厚生 業務波動 コンプライアンスアルバイトフォロー教育・ 研修 【備考】 ◆ 事業所 (          ) ◆ チェック者 (          ) ◆ チェック日 平成   年   月   日 ◆ 確認者 (             ) 特集 新しい物流労務管理

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