ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年9号
値段
第52回 郵船航空サービス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2009  60 日本部門は赤字転落  航空フォワーダーの厳しい事業環境が続い ている。
二〇〇七年以降の原油価格高騰が招 いた燃油サーチャージの上昇が収束する一方 で、昨年後半には景気後退による物量減少に 見舞われた。
 郵船航空サービスの日本発輸出混載重量は 昨年七月に前年同月比マイナスに転じ、今年 二月には同六一%減まで減少率が拡大した。
トン数では五〇〇〇トン台後半にまで落ち込 み、八〇〇〇〜九〇〇〇トンと見られる損益 分岐点を大きく下回る水準にまで低下した。
その結果、〇九年三月期第4四半期(〇九 年一〜三月)決算では日本部門の収支が五・ 九億円の赤字に転落。
費用に占める変動費の 割合が高く、損益分岐点売り上げが低い航空 フォワーダーとしては異例の決算となった。
 その後、中国の景気対策の影響もあって、 日本発輸出混載重量は七月には同二一%減の 一万二トンまで回復した。
また通期で七億円 (日本のみ)を目標とするコスト削減の効果も 徐々に発現してきていると見られ、七月二七 日に発表された二〇一〇年三月期第1四半期 (〇九年四〜六月)決算では、日本部門の営 業損失が一億円まで縮小している。
 ただし、まだ先行きを楽観できる状況には ない。
昨秋以降、航空会社は減便、サービス 休止などによりスペースの供給量を抑制して きたが、貨物量の減少に追いつかず、最近の 需給はフォワーダーに有利な状況であった。
と ころが日本航空による運賃値上げ検討が報道 されるなど、今後は航空会社各社で低搭載率 をイールド(実質運賃単価)の向上で補う動 きが相次ぐ可能性が出てきている。
 航空会社の貨物搭載率の低下は深刻化して いる。
例えば、シンガポール航空の貨物子会 社の〇九年三月期通期業績は二・五億シンガ ポールドル(約一六六億円)の赤字となった が、六月時点も搭載率は六二・九%と、依然 として〇九年三月期の損益分岐搭載率六五・ 二%を下回る状況にある。
 また、燃油サーチャージも再び上昇してき ており、原油価格の値動きによっては、燃油 サーチャージの荷主からの未収受分をフォワ ーダーが自社で負担するという“悪夢”が再 現される可能性がある。
 航空運送コストの上昇は荷主の航空離れを 加速させ、貨物量の減少につながる。
それが 航空会社の搭載率低下に跳ね返り、さらなる 運賃値上げの素地を作る、といった負の連鎖 郵船航空サービス 海上・ロジスティクスの強化に期待 グループの経営資源が大きな武器に  業績が悪化し、中期経営計画の目標数値の 大幅な下方修正を余儀なくされた。
主な要因 は景気後退による物量の減少だが、日本発輸 出航空貨物が成長を牽引する時代は既に終わ っている。
成長の踊り場を超え、第二ステー ジに進むためには航空フォワーディングに依 存する事業構造の変革が必要だ。
西山雄二 クレディ・スイス証券 株式調査部 第52回 61  SEPTEMBER 2009 が起こる懸念は、あながち悲観的過ぎると言 い切れないのが現状であろう。
 今後の航空貨物需要については、短期的に は米自動車メーカーの経営安定化とスクラッ プ・インセンティブ(自動車買い替え補助制 度)導入などの需要喚起策が、生産にどの程 度の影響を与えるかが焦点となるとクレディ・ スイス証券では見ている。
 長期的にも、航空フォワーディング事業に高 い成長を期待するのは難しい。
IATA(国 際航空運送協会)やボーイング、エアバスが発 表した中長期的な世界の航空貨物市場の見通 しでは、いずれも五〜六%成長との結論が示 されている。
しかし路線別に見ると日本発着 路線の予想成長率は平均を下回っており、日 系フォワーダーが日本発輸出貨物の増加に依 存する状態が続けば、航空貨物市場全体の成 長の恩恵を享受できないこととなる。
 であれば、高成長が見込まれるアジア発着 路線においてシェア向上を追求すればよいと いうことになるが、一般的に、ある路線にお ける航空フォワーダーの優位性を決定づける要 因は、当該市場の顧客との関係の緊密さ、陸 送手配などネットワークの有無、そしてこれら に裏付けられた航空会社からの仕入れ条件の 優位性であり、当然の帰結として自国の事業 者が強みを保有することとなる。
例えば中国 〜米国間であれば、米系フォワーダーが有利 な立場にある。
 このことは近鉄エクスプレスが中国に一〇〇 以上の拠点を保有しながら、強化策を講じる 前のトランスパシフィック(太平洋間)の市場 シェアがわずかに二%にすぎなかったことを 見ても理解できよう。
成長が見込まれる路線 へのシフトは合理的な戦略にみえるが、実行 となると決して易しくはない。
航空貨物の比率を六五%に  日本発着貨物量の成長鈍化を見据え、航空 フォワーダー各社は総合物流戦略を推進して いる。
郵船航空サービスも例外ではない。
同社 の事業別営業収益構成は航空貨物七四%、海 上貨物二〇%、ロジスティクス七%となって いるが、近鉄エクスプレスの航空貨物四九%、 海上貨物二〇%、ロジスティクス一九%、そ の他十三%(いずれも〇九年三月期実績)と 比べ、ロジスティクス分野への展開は数字上 やや遅れている感がある。
 これを郵船航空サービスは海上貨物とロジ スティクスの強化により、一〇年三月期に航 空貨物六五%、海上貨物二五%、ロジステ ィクス一〇%とする構想を中期経営計画で掲 げている。
事業環境の悪化を背景として同 計画の営業収益、利益等の数値目標は変更 SEPTEMBER 2009  62 を加えたが、戦略の大きな方向性としては不 変と考えられる。
 ロジスティクスの強化に当たって期待される のが、日本郵船グループの構成員であること のメリットだ。
NYKロジスティクスの陸送ネ ットワークや倉庫配置は海上貨物用に最適化 されており、全てが航空貨物から派生するロ ジスティクス需要に適しているわけではない が、グループとして経営資源を持っていない 会社が一から取り組むのに比べれば、投資額 は少なくて済む。
 海上貨物については欧州の大手フォワー ダー、パナルピナとの提携効果が注目される。
提携の主眼は海外代理店ネットワークの強化 にあるが、海上フォワーディングに長けたパ ナルピナから学べる点は少なくない。
また、 M&Aによる海上強化も魅力的であり、特に 海上貨物に強い大手倉庫会社系フォワーダー は相互補完という観点からベストマッチと言 える。
ただ、これについては資本関係等解 決すべき問題が少なくなく、現時点では実現 性は低い。
?親子上場?で株主還元に課題  海上貨物、ロジスティクス強化の成功から 得られる果実は、日本発輸出航空貨物に代 わる新たな成長ドライバー獲得にとどまらな い。
物流の中でも、特に航空貨物は景気変 動の影響を受け易く、実際にアジア通貨危機、 ITバブル崩壊、そして今回の金融危機から 甚大な影響を被ってきた。
しかし現在の航空 偏重の事業構造から脱却することで、安定的 な収益体質を築くことが可能となる。
その結 果、将来的な姿としてはキューネ+ナーゲル、 パナルピナといった欧州系フォワーダーに近 くなるとクレディ・スイス証券では予想して いる。
 郵船航空サービスは当初一四〇億円を計 画していた一一年三月期営業利益を六〇億 円に引き下げるなど、中期経営計画の大幅 な下方修正を余儀なくされた。
主要因は昨 今の経済環境の悪化だが、それ以前に同社 を含めた航空フォワーダーの成長は日本発輸 出に支えられた第一ステージを終えたと言え る。
現在は海上、ロジスティクスが加わった 複合的な第二ステージへ進む踊り場にあると 言えるだろう。
前述の通り、同社は複合的な 成長を実現できるだけの経営資源を有してお り、株価バリュエーションに「成長企業」と してのプレミアムが復活する日も遠くないと 見ている。
 株式市場における今後の課題としては、株 主構成が挙げられる。
同社の発行済み株式の 約六〇%は日本郵船が保有しており、いわゆ る「親子上場」の状態にある。
その結果、自 社株買いは実質的に不可能であり、配当金も その大部分が親会社に流れるため、一般株主 に対する還元拡充は容易ではない。
  西山雄二(にしやま・ゆうじ)  1999年3月獨協大学外国語学部 英語学科卒業、同年4月新日本証 券入社。
米国株調査を経て、2007 年4月クレディ・スイス証券に入 社。
08年10月より運輸セクター を担当。
郵船航空サービスの過去5年間の株価推移 《出来高》

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