ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年10号
特集
物流行政の新常識 航空──インテグレーターへの対策なし

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 18 金額ベースでは主要港湾を凌駕 港湾と共に国際物流をささえる航空貨物運送だが、 その事業環境はかなり異なる。
何よりも新しい産業の ため過去のしがらみがない。
行政による規制も、市場 競争を阻むような内容はほとんどない。
経団連などに よる規制緩和の要望でも、航空貨物分野のテーマが 俎上に載せられるケースは稀だ。
航空貨物が貿易分野で果たしている役割は大きい。
国際輸送の総重量に占める航空貨物の割合は〇・三% に過ぎないが、輸送製品の金額ベースで見るとその構 成比は約三〇%に跳ね上がる。
それだけ高付加価値 の製品を運んでいる。
日本最大の航空貨物拠点であ る成田空港の貿易額は、輸出入とも年間九兆円を超 え、東京港や横浜港のそれを凌ぐ。
航空貨物の輸送量はこれまで、空港や航空機など ハードのキャパシティによって常に制約されてきた。
一九七八年に開港した成田空港の用地買収問題がい まだに決着していないこともあって、とくに滑走路や 貨物施設といったインフラ面の制約が大きい。
これを 象徴していたのが、成田開港から二〇年近く続いた 「仕分け基準」という業界ぐるみの自主規制だった。
開港当初の成田は、空港内に十分な貨物施設を用 意する余地がなかった。
そのため苦肉の策で、首都圏 とのあいだに位置する原木(千葉県)にTACT(東 京エアカーゴ・シティ・ターミナル)と呼ぶ施設を設 置。
行政と物流業界が一丸になって、腐りやすい生鮮 品については成田空港内で通関するが、それ以外はT ACTで処理するという業界ルールを定めた。
生鮮品 以外の製品については事実上、東京税関がTACT での通関しか認めなかったため、フォワーダーにとっ ては他に選択肢がなかった格好だ。
九六年になると、ようやく「仕分け基準」は撤廃さ れた。
きっかけは行政改革委員会の後押しを受けた規 制緩和で、これによって東京税関が成田空港近隣の物 流施設に保税蔵置場の許可を出すようになった。
TA CTへの横持ちが発生しないぶんリードタイムを短縮 できるため、フォワーダー各社は大挙して空港外施設 を設置。
いわゆる?成田シフト〞が急進展した。
役割 を終えたTACTは経営が成り立たなくなり、二〇〇 三年一〇月末に会社をたたんだ。
この事例は、行政によるインフラ整備の最初のつま ずきが、航空貨物事業の発展を後々まで制約し続け たことを端的に示している。
現在でも、空港内で航空機への貨物の積み卸しな どを担っている上屋会社の施設の狭隘化問題は続い ている。
ここで十分なスペースを確保できないために 業務効率が悪化し、スムーズに物流を処理できなくな っている面が否めない。
空港内の貨物スペースをどう するかを決めたのも、言うまでもなく行政だ。
この分野における行政の役割はそれほど大きい。
ところが当 の行政当局にはそうした意識が薄い。
物流二法で変わったフォワーダー事業 日本では、キャリア(航空会社)とフォーワーダー の役割が明確に分けられている。
前者は「空港 to 空港」 の輸送を担い、後者は荷主の立場で「ドア to ドア」の 輸送管理を手掛けている。
管轄する行政組織も違う。
キャリアは国交省の航空局が、フォワーダーは国交省 総合政策局の複合貨物流通課が管轄している。
だが複 合貨物流通課にしても、あまたいる利用運送事業者の うちわずか一〇〇社余りの航空フォワーダーを管轄し ているに過ぎず、この分野での存在感は小さい。
航空フォワーディング事業に関する規制は、九〇年 航空──インテグレーターへの対策なし 航空貨物分野で問題視されている規制は少ない。
進歩を 阻むボトルネックは、常に空港をはじめとするインフラ問 題や、キャリアとフォワーダーの役割分担のあり方だ。
現 在のようにキャリアと旅客に偏重した行政の姿勢が続く限 り、強大な国際インテグレーターに対抗できる航空貨物事 業者は日本では育たない。
(岡山宏之) 第4部 19 OCTOBER 2005 に施行された物流二法と、二〇〇二年の物流二法の 改正によって緩和されてきた。
現状では「ビジネスを するうえで法律的に不便を感じることはほとんどない」 と近鉄エクスプレスの松田芳昭副社長は言う。
キャリアとして貨物専用機を飛ばす場合でも、法規 制そのものは障害にならない。
発着枠についても旅客 と貨物では一般的に運行時間帯が異なるため、たとえ ば二四時間化している羽田であれば夜間就航はほぼ問 題なく実現できる。
あとは着地側の空港周辺の騒音 問題などで地元と折り合いさえつけられればいい。
実際、全日本空輸は二〇〇三年から、ヤマト運輸 などの荷主の要請に応えて東京・札幌間と東京・佐 賀間で深夜の貨物便を飛ばしている。
現状では旅客 機のベリー(貨物室)だけを使っているが、需要増に 応じてフレーター(貨物専用機)への切り替えも検討 している。
来年六月には、佐川急便が自ら発足した航 空貨物会社が、羽田と北海道・九州を結ぶ路線にフ レーターを就航させる予定だ。
利益率こそ高いが小さな特殊市場とみなされがちだ った航空貨物事業への関心が、ようやく日本でも盛り 上がってきた。
だが前述したように、日本の航空行政 はこれまで圧倒的に旅客に軸足を置いて仕事をしてき た。
物流は添え物の扱いで、この分野における確固た る方針はない。
それでも最近の状況を受けて、行政も やっと重い腰を上げようとしている。
国交省航空局監理部の航空企画調査室で物流を担 当している高橋広治課長補佐はこう語る。
「我が国の 航空物流のビジョンを今後一、二年くらいで作りあげ る必要がある。
きちんと調査してみなければ何ともい えないが、個人的にはアジアにもインテグレーターが 一社あってもいいとは思っている」 もっとも日本の航空行政が、インテグレーターの育 成を無条件で後押しするとは考えにくい。
日本航空や 全日空と協力関係にある会社ならまだしも、まったく の新規参入を許せば日系キャリアの経営を脅かしかね ないからだ。
かといって、日系キャリアの航空貨物部 門がインテグレーターに脱皮できるかとなると、荷主 との接触をフォワーダーに任せてきたこういう会社に 物流ノウハウの蓄積があるとは思えない。
日系インテグレーターの育成が課題 日本の航空行政には、身内のような間柄にある日 系航空会社を守ろうとする意識が強い。
だからこそフ ォワーダー会社によるチャーター機の運行も、二国間 協定で定められている日米間以外はずっと認めてこな かった。
それが経済界の圧力もあって、今年二月に航 空局長名の通達を出し、条件付きながらフォワーダ ー・チャーターを許すように姿勢を改めた。
しかし「緊急事態により航空貨物需要が瞬間的に 増加した場合」に限るといった条件が邪魔をして、通達から約半年が経っても、日本通運がサハリン向けに 一機を運行しただけ。
もう一段の規制緩和を求める声 が高まるのは時間の問題だろう。
日系インテグレーターの有力候補として最大の注目 株は、民営化が確実になった日本郵政公社だ。
仮に 今後、郵便事業会社が国際物流分野でのM&Aを本 格化して、キャリアとフォワーダーの両者を傘下に収 めれば一気にインテグレーターの条件が整う。
もっとも郵便事業会社がアジアで本格展開する障 壁は高い。
日本の半国営企業が、資本力に任せて国 際物流業を本格展開することに近隣諸国は反発する はずだ。
外交交渉の結果次第で行く末は変わる。
いず れにせよ、近い将来、日本の航空貨物行政が新たな 局面を迎えるであろうことは間違いなさそうだ。
近鉄エクスプレスの 松田芳昭副社長

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